第二百十二話 Sideジャック 人生相談
宿のエントランスに設置された休憩用の椅子。そこに東堂がもうずっと座っている。何をしているのかと尋ねても「別に」とだけ答えて教えない。まあなんとなくは分かってる。自分もちょっと心配していた。
《意外と六条君ってバカだよね》
《人間関係雑魚なのは間違いないな》
俺から見てもかなりの美少女3人。そいつらが留守中の自分の行動を六条はきちんと説明していた。その結果どうなったかといえば、東堂とエヴィーは許し、桐山は完全に怒った。そしていますぐにでも出て行くと言い出した。
俺はそんな修羅場に参加していなかったので、詳細を知らない。シャルティーに聞いたら教えてくれたのだ。少しだけバツが悪そうだった。年下の少女3人を相手に大人の女3人で、大人げない。そんな気分だったのだろう。
《だが誠意を見せようという青臭さは嫌いじゃない》
《まあ確かに。あと決着ついたみたいだよ。大方の予想通り、六条君の寄り切り勝ちって感じ。桐山君はそのまま幸せの国って感じさ》
《土岐。バカなこと言うなよ。男と女が勝ち負けで決まるかよ》
《ふふ、それは言えてる。このパーティー。面白いパーティーだね。常に変化があって僕は嫌いじゃないな》
俺もそう思った。だからこそおっさんのことを思い出す。何をそんなに思い詰めたのか。あんなにクソ真面目なおっさんが、俺たちを裏切った。それは仕方がない。人間だ。そんな時もある。だがその行動は許されない。
だから俺がこの手で殺してやる。そう決めていた。猫寝様は殺せないだろうし、土岐も無理だろう。六条にやらせるのは筋違いだ。まあ俺が一番適任だ。そんなことを考えながら、どうやらエヴィー辺りから、
『もう大丈夫だ』
と連絡が来たのだろう。東堂は自分の行動を誰にも悟られていないか、気にしながら、何杯目かになる甘めのコーヒーを飲み干して部屋へと戻っていった。東堂は桐山が『どうしても出て行く』と言ったらどうするつもりだったんだ。
俺もさすがに今出て行ってどういう目に遭うのかだけは教えてやろうと思った。ダンジョンの中で悲惨な目に遭うやつら。そういうのを見逃して後悔したくはなかった。
「優しくなったもんだ」
久しぶりにマジックバッグからタバコを取り出してふかした。俺がガキだった頃はこれが不良の証だった。今ではそうでもないらしい。そもそも探索者だと耐性がついて、体に悪くもなんともない。
携帯用の灰皿に灰を落としながら、自分も女を抱きたい気分になった。
「これが終わったら連絡するか」
紫煙が空気中に漂う。それを見つめる。大八洲国には喫煙室などというものもない。どこでもタバコはふかしていいし、それで文句を言うやつもいない。本当、自由の国だ。強ければよかろうの国。いずれ日本……いや地球もそうなるのか。
俺は昔、罪を犯し、しばらく臭い飯を食べていた。六条のような人間にはあまり想像できない生活だ。少年院。あそこに入ると本当に自分が堕ちたと感じる。
人生の先が見えなくなり、社会に出て出世の見込みなどなくなり、故郷ではどこに行っても俺が犯罪者だってことをいつまでも口にする。いつのまにか人殺しをしたって噂まで立ってる始末だ。
「大丈夫。あなたはきっと立ち直れる」
俺が人生最悪の日々を過ごしている頃、そんなことを言って毎月のように面会に来る女教師がいた。親も兄弟も俺が裏でコソコソやってたことを知った瞬間に俺を見放した。見下げ果てた人間だと、誰も近づきたがらなくなった。
そんな中で女教師だけはずっと臭い飯を食っている俺を心配して面会に来た。ひょっとしてこの女は俺に惚れてるのか? 女の経験もない俺はそんなバカな勘違いをして、その頃の俺は女教師に疑似恋愛をしていた。
「なあ、面会予約とかってきてる?」
「そんなものはない。色々辛いだろうが頑張れ。社会に出ればこれが現実だ」
でも女教師はある時から俺の面会に来なくなった。理由なんて分からなかったし教官に聞いても、社会の現実を教えてくれるだけで、女教師のことは教えてくれなかった。結局俺には味方がいないのだとそれだけは分かった。
俺は少年だった。罪を犯しても、それほどかからずに少年院からは出れた。だが外に出てまず親から縁を切られる。仕方がない。父も母ももう俺が理解できないのだと言った。きっとそういう少年は多いのだろう。
少年たちが路頭に迷ってまた犯罪に及ばないようにと、就職先は紹介された。だが、巷はダンジョンで賑わっており、犯罪を犯した少年たちは真面目な就職先よりも、こぞってダンジョンの中に入る。
まだまだダンジョンの中が知られていない時。ほとんどのものは死んだ。俺はちょっとだけ他のやつよりも賢かった。何よりも男友達だけは結構いた。乱暴のやつらが多かったが、その分ダンジョンの中での経験値は高かった。
そいつらからダンジョンの中はどうやらかなり危険な場所らしい。ゲームで言えば死にゲーだ。リセットボタンのない死にゲー。
そんな噂を聞いて情報収集をしてからダンジョンの中に入った。
「こりゃマジで死ねるな」
「いったん出ようぜ。これやべえわ。あのゴブカスども本気で刃物を振り回してきやがる」
「だな」
俺は田中に憧れていた。平凡な名前なのにあの圧倒的な強さ。強大な生物を一刀両断にするサラリーマン。俺もあんな風になれたらと思った。何よりも俺には探索者ってやつの才能があったようだ。
仲間たちのおかげもあり、順調にレベル100までいった。ここまで意外と簡単に強くなれた。それでも俺の利口なところは、調子には乗らなかったことだ。あの女教師の言葉は俺の頭の中でずっと健在だった。
だから大八洲国に入ると俺はかねてからやりたかったこと。
殺人依頼請負人を始めた。
仲間はそんな俺に呆れてそっちにはついてきてくれなかった。だが探索者に困らされている民間人は多かった。俺は正義の味方に憧れていたんだ。そいつが払えるだけ、金がないならタダでもいい。そんな俺のところには結構依頼が来た。
理由に納得すればどんな探索者でも殺した。まあレベルは自分のレベルまでだ。それ以上になると俺が死ぬから仕方がない。
そんな俺に不信感を抱いて、高校生の頃から付き合い、俺が年少に入って一度疎遠になり、探索者になってまた復縁した彼女とは別れた。
「人殺しは人殺しじゃない! 怖いから近づかないで!」
そう言われたら言い返しようがなかった。正直かなり凹んだ。その頃から自分の生き方が正しいのかと考えるようになった。誰かに相談したかったが、俺の生き方に仲間も納得せず、その件に関しては、
『やめろ』
と言われたら終わりなのが分かっていた。俺はただ、俺のしていることを褒めてくれるやつが欲しかった。
「朝霧先生か……」
ふと少年院に面会に来てくれていた女教師のことを思い出す。朝霧先生。綺麗な苗字だ。顔も綺麗だった。胸もなかなか豊かで学校では人気者の先生。そんな先生は何ヶ月かだけでも俺を見に来てくれた。
だからほんの少しの間、俺はあの先生に恋をしていた。分かってる。学校から言われてかなんかだろう。嫌々ながら面会に来ていただけなんだろう。だがあの後どうなったのか。学校のことも何もかも知らないままだった。
朝霧先生ならば、褒めてくれるかもしれない。そんな気持ちで俺はもう一度会いたい気持ちが高まった。正直に言えばあの時とは違う。探索者となって強くなった自分を見せたかった。
下心が0だったかといえば嘘になる。今の俺を見たら朝霧先生と少年院で何度も夢見たような関係になれるかもしれない。単純で馬鹿な男だって言いたいんだろう。それなら笑ってくれていい。
「まだここに居るかだよな」
中退してからまだそんなに経ってない。昔の知り合いにあって騒がれるのが嫌だった。だから放課後の学校。部活のやつらも全員帰った頃に校舎の中に入った。世間的に徐々に探索者が怖がられるようになってきた頃。
よく考えたら逆に怖がられるかもしれない。そんなことを心配してしまう。繊細で傷つきやすい俺は、大体、だからどうしたって話になったらバツが悪い。今さら人生相談などと、バカか。帰ろうかと迷いながら歩いていた。
職員室の明かりがついていた。まだ残って働いてる。頑張ってる教師たちがいるようだ。しかし妙な音が聞こえて俺は息を潜めた。瞬間的なことだ。
何人もの人を殺してきたから、やばい空気というのを理解できるようになっていた。【自然化】までは唱えられないが、結構なレベルで気配を消せるようになっていた。職員室のドアはちゃんとしまっておらず空いていた。
「お前たち教師は!」
「「「「「「「「「光輝様の奴隷です!」」」」」」」」」
「お前たちの喜びは!」
「「「「「「「「「光輝様の喜びです!」」」」」」」」」
「お前たちがすべきことは!」
「「「「「「「「「光輝様の喜ばせることです!」」」」」」」」」
「ぷっ」
思わず笑ってしまった。教師全員が床に座らされて、ラリってるのかというような内容を叫ばされている。なかなかにシュールな光景だ。悪い探索者を何人も殺してきた。だからこういうバカな場面に出会う時は何度かあった。
その中でもこれはなかなか秀逸だ。俺の気配に気づかないのだろう誰もこちらを見ない。おそらくダンジョンに入った男子生徒だろう。制服をきちっときたちょっとぽっちゃり気味の男だった。学校では散々馬鹿にされてきた。
そんな雰囲気が漂うトロそうなやつだった。鬱憤が溜まっていたのだろう。少年は俺以上に随分とやらかしてしまったようだ。ダンジョンに入っても見た目が良くなるやつと良くならないやつがいる。
良くなるやつが印象的すぎて、ほとんど良くなると思われがちだが、意外と容姿レベルが変わらないやつは多い。少年は全く体が動くことに向いていないような体型だ。それでも探索者というのは成立する。
まあそりゃそうである。探索者の力というのは人外もいいところだ。そんなものがそもそも見た目の筋肉量などで決まるわけがない。俺には少年が探索者であることは一目で分かった。
探索者というのは魔力やら生命力といったものが体外に漏れやすい。レベルが上がれば上がるほど探索者というのは隠す気がなければすぐに分かる。そしてこいつはダダ漏れだ。ついでに自分の頭の中でだけ考えればよかった汚物。
そんなものまでダダ漏れだ。
妄想という名の汚物。
そういうのは隠すもんだぜ少年。
見せたらとっても醜いものになっちまう。
「よし、今日もとっても気分がいいぞ」
「あの、光輝様」
「なんだ?」
「明日の訪問クラスは何組になさいますか?」
光輝という男子生徒は下着姿にした女教師を椅子にして、尻を揉んでいた。教師たちはもう諦めきったような顔をしている。この状況がもう長く許されてるようだ。見たところレベル100にかなり近いように見える。
だがおそらく大八洲国には入れずにいるな。おそらく大鬼に躓いたのだろう。あの鬼の迫力に向かって行けるやつは少ない。あそこで躓いてこんなところで王様気取りか。
「こんなアホが人様に迷惑をかける。全くもって俺と同じさ」
探索者に一般人は逆らいにくい。漏れ出る気配が怖いのだ。そして一度逆らい損ねると、そこからずるずるこんなふうに支配される。
「こういうアホを殺すのが俺の仕事だ」
そう口にした。それでも気づかない。光輝君はもうダンジョンに入らなくなってどれぐらい経つんだろうか。常時発動型のスキルすら発動させずにいるようだ。
「わかってると思うけどみんなこのことは外で言っちゃいけないよ。口を割ったやつから殺すから。家族も全部殺すから。朝霧先生の家族みたいにはなりたくないよね?」
「は、はい。もちろんです」
「まあ逆らわなかったら、そんなに悪いことにはならないから安心してよ。じゃあ今日の授業を始めよう」
この状況を長く続けようと思ったら、かなり気をつけないと無理だ。さすがにここまで来ると、粛清する探索者が現れる。きっと光輝君もこんなもの長続きしないと分かっているだろうに、何をそんなにいきってるのか。
よく見ると椅子にされているのは朝霧先生だった。
「ふう」
俺は気配を消すのをやめた。さっと光輝君がこっちを見てきた。
「お前……」
こちらをしっかり見ている。腐ってもレベル100近くまで上げた探索者だ。俺を見た瞬間色々理解しただろう。遊びは終わりだよ。
「そっか終わりか」
「お利口だ。泣き叫ぶ面倒なやつよりは評価してやる」
「だ、誰? 他の生徒はもう帰ってるはずよ。出て行きなさい!」
朝霧先生は自分の現状を見られるのが嫌だったのか、それとも生徒を守ろうとしたのか、口にした。
「光輝君。楽しかったか?」
気配を全開にしている。他の人間に影響を与えないように光輝君だけに向けている。そうすると光輝君は狂気じみて笑った。
「ふふ、僕は結構楽しんだよ。もう忘れるぐらい長くこんなことができた。クソみたいな人生だったけど最後は結構楽しかったな!」
「そうか。まあ死んどけ」
俺は光輝君の体を風の刃で胴切りにした。光輝君の体がずれ落ちていく。朝霧先生は一般人の女だから血がかかるのは嫌だろうと思ってどけてやった。そうすると全員がざわつきだす。
叫び出すものもいたけど不思議と逃げ出すものはいなかった。
「よう朝霧先生。俺だよ俺、覚えてるか?」
下着姿のまま四つん這いの朝霧先生に不良座りをして尋ねた。乳に目が行かないようにするのに苦労した。
「えっと、あの……」
どけてやったとはいえ血まみれだった。もうちょっと殺し方はスマートにするべきだったかと思う。少年院で朝霧先生が来なくなって寂しかった。それが光輝君のせいだったのかと思うと俺も知らずにムカついていたみたいだ。
殺す時は私情を入れないようにと気をつけているのだが、どうにもまだ甘いな。
「年少に入ってたやつだ。覚えてるだろ?」
「ああ、あなた!」
そんなやつはこの学校でも数少ない。別に底辺学校でもなんでもない普通の公立高校だ。すぐに思い当たったようである。ただ名前を口にしようとして口を人差し指で押さえた。
「ちっ、ちっ、今はジャックって名乗ってるんだよ。親にも縁を切られたことだし、昔の名前は捨てた。今更呼ばれたくないからジャックって呼んでくれ」
昔の名前は名乗らなくなった。俺を捨てたやつらが今更頼ってくる。そんな状況が鬱陶しかった。だから昔の名前は完璧に捨てた。そう思ったら本当に俺のステータスからも、俺の本来の名前は消えた。
「は、はい。ジャックさん?」
朝霧先生にさん付けされるのは奇妙な感じだった。いつも名前に君付けだったな。
「……殺人依頼請負人」
教師のうちの誰かが口にした。ジャックの名前がそこそこ有名になってきてるようだ。
「光輝君を誰かが『殺してくれ』って依頼したの?」
「いいや。先生に人生相談しに来たんだ。乗ってくれるか?」
「え? 私に……この生徒のことは関係ないの?」
「こいつ探索者だろ。見れば分かった。まあお世話になったよしみだ。無料でこいつは殺しておいてやったよ。追加で困りごとがあれば言えばいい。どんなやつでも良心価格で引き受けるぜ。それとも嫌だったか?」
朝霧先生はゆっくり首を振った。まあそうだろう。この状況でそんなことを言う人がいたら、そいつは病院に行った方がいい。
「あの、ありがとう。ジャックさん」
「いいってことよ。だが、死体処理をしないとな。校長いるか? おい、学校だし警察が来るのはまずいか?」
まだ正座したままの教師たちを見つめた。かなり年が行った教師もいるようで疲れ果てた顔をしていた。「気楽にしていいぞ」と言うと、おっかなびっくりではあるが、徐々に教師が立ち上がりだして、校長が前に出てくる。
俺がいた時とは違う校長だ。事情を聞けば前任者は光輝君に殺されたのだそうだ。そして、「できれば警察は勘弁してほしい。何よりも来ても無意味だ」と言ってきたから、マジックバッグに死体を入れて、ダンジョンに捨てることにした。
「じゃあこいつはダンジョンで死んだってことでOK?」
「OKです。みんなそれでいいな!」
今の時代はこれでOKなのだ。光輝君はここで死んだんじゃない。ダンジョンで死んだのだ。教師たち全員がその口裏合わせに乗った。この頃の警察は混乱しきっていた。探索者が暴れてると聞いて、現場に向かえば逆に殺される。
そんなことが繰り返されて、拳銃でも殺せない探索者にどうすればいいのかとお手上げ状態だ。そもそも電話をしても来てくれるかどうかも分からなかった。
俺はここで朝霧先生に人生相談をしようかと考えたが、さすがに空気じゃないと思ってやめた。何よりも今それを言えば朝霧先生の弱みにつけ込むようで嫌だった。だから相談しないままだ。
その後、校長からは報酬ありきで、何度か、探索者になった生徒が行き過ぎた場合殺してくれと依頼があった。そして俺は世の中なめ腐った男も女もぶっ殺してたら悪評の方が大きくなっていた。
校長にはもう一度学校に通い直さないかと言われたが、さすがに頭の性能が上がりすぎて、今さら学校の勉強という感じでもなかった。
「結局これで正しかったのかなんなのかよく分かんねえな」
そんなことを呟きながらもついに俺もレベル200に到達した。仲間もぼちぼち喋るようになっていた。結局俺がいないとうまくいかなかったらしくて、何度か助けてやったりもした。それでも俺の頭はもやもやしたままだ。
腐れ縁だった彼女と縁が切れてから、寄ってくる女はいたが近づけてなかった。どうにも気分が乗らない。そんなことを考えながらもマンションへと帰ってきた。もうちょっといいところに引っ越せばと言われたが、引っ越しが面倒だ。
「こんにちは」
朝霧先生が俺のマンションの部屋の前で待っていた。
「どうした? 朝霧先生の学校にいる面倒なやつは全部殺したけど」
そんなことを平気で口にする俺もずいぶんラリっている。薬でもやってんのかって感じだ。
「私、学校やめたわ。あの後すぐよ」
「そうなのか」
会えないかと思いながら通っていたのにそもそもいなかったのか。
「私が一番あの学校の教師の中で美人だったからね。光輝君といろいろありすぎたのよ。同情的にいろいろ言われたし、首にされたわけでもないけど、いてられないわ。また教師をやる気も起きなくてね。つい最近まで引きこもってたの。死んでやろうかとも思ったけど、それも負けたみたいで悔しいし」
「入るか?」
マンションの部屋を開けて促す。日本人形みたいな髪型をした先生。顔は確かに綺麗だった。その後どうなったかなんて分かりきってる。向こうもその気だった。俺もその気だった。そうなればやることは一つだ。
全部終わって久しぶりに頭のモヤが全部取れた。先生が風呂から出てきて、料理を買い出しに行って作ってくれた。久しぶりに飯がうまいと思った。それから毎日朝霞先生が通ってくることになった。
光輝君が死んでから、部屋の中に引きこもって、朝霧先生は俺が人生相談とやらをしにいつ訪ねてきてくれるのかと待ってたらしい。
「私は少年院まで面会に行ったのに、ジャックさんはずいぶん薄情ね」
と嫌味を言われた。朝霧先生は嫉妬深くて面倒なところもあった。それでも困っている同僚などを見ると放っておけなくて、俺を紹介する。紹介するとなぜか俺は女教師に惚れられる。
「きっとよ。女子校に一人だけいる男教師みたいな感覚なんじゃないか」
「そうなのか?」
六条から出発前に相談されて話していた。どうにも女性陣の統率を取る自信がないそうだ。俺もないから安心しろ。とだけ教えてやれた。六条の美女組と美少女組の垣根は深い。あんなもの触りたくもない。
「女にとって男の探索者ってのは大事でな。普通の男はまず同レベル帯の女を嫌う。何せ男は自分達がどれだけのことができる存在か分かってる。相手の女もそれができるってことはちょっと怖い。おまけに野郎は大抵浮気をしたい。何せレベル200にもなるとモテまくる。誘われまくる。手を出さない。それは朝に便所に行かないぐらい難しい。だが同レベル帯の女は浮気を結構嫌がる。で、女の探索者は自然と付き合う男に困る。結果お前みたいなのが余計にモテる」
「そっか……。やっぱり俺はモテてるのか」
「顔が良すぎる。おまけに出世頭だ」
「……そうなのかな」
実感が湧かないように六条が言う。でも顔が笑ってしまっている。こういうところがこいつは緩い。
「ともかく女の嫉妬。それだけはもうどうにもならねえ。俺も朝霧先生に何度泣かれたことか。そのたびにもう二度と他の女には手を出さないと反省するんだ」
「もちろん俺もそのつもりだ。これは絶対だ。俺はもう二度と誰も裏切らない」
「はっ」
本気で口にしている様子に思わず吹き出した。きっとこいつは俺以上だ。俺なんて可愛いもんだ。その癖、もう絶対に他の女には手を出さないと誓いを立てている。
「できるといいな!」
ケツをバンと痕ができるぐらい叩いておいた。だんだんと人が集まってくる。女性陣は六条の横に来たそうだが、俺がいるので遠慮している。何よりもここからは浮かれた話をしている場合じゃなかった。
六条と米崎は今回で五郎左衆を根絶やしにしてしまうつもりのようだ。惚れた腫れたの話は終わりだ。いけないことをしたやつらを全員、皆殺しにしてしまおう。





