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第二百十一話 Side伊万里 ドワーフ島

 ドワーフ工房で聞いた槌の音があちこちから響いていた。和風建築があちこちに見えたけど、どの建物も屋根の反り返りが強い。普通の家よりも柱も太い。天気がとても良くて、空が抜けるように青くて澄み切っていた。


 アマテラス様に科学技術の発展を許されたという場所。だからもっと未来的な建物がたくさん建っているのかと思ったけど、そこは違った。山に囲まれた盆地で、ドワーフ工房を6階層で見た時と同じような景色が広がる。


 山肌に棚田。水車が回り、綺麗な清水が流れる小川。小人にも見えるドワーフが鍬を担いで歩いてる。どこか牧歌的な雰囲気が保たれたままである。発展が許された場所なのに発展を拒んでいるようにも見えた。


「少なくとも未来都市じゃないね」

「ここで間違いないんですよね?」


 今までパーティーの中でもほとんどしゃべってこなかった。だけどちょっとそういう大人げないことをするのもやめようかと思ってる。少しだけ気を許してしまった。少なくともこの2人は私から祐太を取り上げようとはしてない。


 逆に私が心を開くまで辛抱強く待ってくれた。私も祐太の時ほど子供じゃない。だから許そうかと思ったのだ。まあ許すも何も私が敵視しているだけなのだけど。


「そうね。スマホとリンクしてくれるみたい。地図が出てきたわ」


 エヴィーさんがスマホを確かめ続けていた。私も取り出して探索者用のスマホを眺めた。


【禁止地区・ドワーフ島】


 そう表示されていた。


「これって、どういう意味?」


 当然知っていそうなのは黒桜しかいないので聞いた。


「基本的に禁止ってついている内容は、かなり権限が上の者でないと外で勝手に扱うことができないにゃ。許可されていないものや、権限の低いものに見せようとしても見えないから無駄ってことになるにゃね。ただルビー級以上だと自己判断で教えることができたりするにゃ」

「じゃあこの地図は外で見せても誰も見えないの?」


 珍しいことだけど私が黒桜と喋って2人は黙ってた。


「パーティーメンバーはOKにゃよ。でも他の人間は無理にゃね。見せようとしても見えないし言おうとしても言えなくなってるにゃ」


 ひょいっと黒桜が同じく出してもらっていたラーイの背中に飛び乗った。


「ご苦労様。お前がいてくれると主たちが助かる」

「助かるー」


 リーンもラーイの背中で寝転がっていて、黒桜を自堕落にラーイの背中に寝た。ラーイは5mの大きさのままで、エヴィーさんが乗らないみたいだから私が乗ってリーンを久しぶりに抱きしめた。


 ちょっと迷惑そうだ。いいじゃん、喜んでよと思った。


「地図を見る限り、この島にはまだ外のエリアがあるんだね」


 美鈴さんがエヴィーさんのスマホ地図を覗き込みながら言う。


「ええ、ここが武具町。他にも人工知能町、からくり町、化学町、薬町、社会工学町、ダンジョン町、宇宙工学町、人造町、魔法スキル町の10地区に分かれてるみたいね。全部回ってみたいけどここ以外、私たちは立ち入り禁止みたいよ」


 その全てがここと同じぐらいの広さがあるようだが、それぞれの町に入るのには許可が必要で、それがないものはどこにも入れない。私たちは海底から来たから知らないけど、海上からもこの島の存在は隠されているそうだ。


 地図でも北海の上に存在はしていない。許可なしで入ろうとして生きていたものは未だいないという。そんな説明がスマホ画面にきっちりと流れてきた。だから“間違っても馬鹿な気を起こすな”という注意文でもあるのだろう。


「いきなり乗り込んじゃったけど、普通はまず入れないのね」

「あそこでここに入れてもらえてなかったら私たち死んでたかもしれませんね」

「全くだわ」


 エヴィーさん外国人ぽく手を上げて肩を揺らした。


「伊万里ちゃん、エヴィー。お茶屋さんがあるよ」


 こういうのを見かけると美鈴さんはまず立ち寄りたがる。エヴィーさんと顔を見合わせると頷いたから、私たちも古典的な番傘をさし、赤い布をかけただけの長椅子に3人で並んで座る。ラーイが大きいままで寝転がり、何気にクーモも小さくなって頭の上にいた。


「えっと、名物が3色団子だって」

「お客さん来るのかしら」

「それなりにいるんですよ」


 からくり族の女の人が注文を取りながら話してくれた。なんでも貴族はここでの制限がゆるいらしく、度々来るらしい。そして発明されたものを買い取る許可もある。そういえばちらほらとドワーフ以外の人がいた。


「あのおっちゃん貴族なのかな?」

「そうですよ。お客さん指さすと怒られますよ」

「ほいほい」


 3人で緑茶と3色団子を頼んだ。美鈴さんがこれにしようと誘ってくるから、まあいいかと思ってしまった。ここまでお世話になったエヴィーさんの召喚獣たちも当然口々に好きなものを頼んでる。女同士でこういうのもいいかもしれない。


 そんなふうに感じた。祐太のことさえ許せる気になったら、この2人は友達としては最良かもしれない。話す言葉が楽しいなと思いながら、小腹が満たされた。


「行きましょうか?」


 なんだか自然と自分からも声をかけるようになった。


「ええ」

「了解」


 2人も私が話しかけても、もう特別な反応はしなかった。美鈴さんが後ろから抱きついてくる。そしてそのまま歩く。どうやらこの人は、人とくっつくのが好きみたいだ。


「歩きにくいんですけど」

「いいじゃん。ね?」


 横を向くと間近に美鈴さんの顔があった。そのままキスしてくる。この人はあっちも好きなんだ。襲われないように気をつけないと。抵抗しようかとも考えたが、ステータスは私が一番高い。


 美鈴さんにくっつかれたぐらいだと歩くのになんの支障もなかった。だからまあいいかと思ってしまった。美鈴さんが私をおもちゃにしてる間も、エヴィーさんはスマホを確かめながら、道案内をしてくれる。


 ドワーフ工房・行慶は探索者用のスマホに確かに示されていた。


「こっちに曲がって……ここを左ね」


 エヴィーさんは歩いているけどかなり速い。普通に歩いても探索者だと、かなり意識しないと時速100kmぐらい出てしまうのである。そうするとさすがに美鈴さんが邪魔だ。私がひょいと美鈴さんを持ち上げる。


「いい加減にしていきますよ」

「はーい」


 ポイッと投げ捨てると見事に着地した。そして3人でさっさと走り出すと確かにダンジョンのストーンエリア6階層で見た建物が見えてきた。似たような建物の中でひときわ大きい。私たちはその中に足を踏み入れる。


 またちょっと緊張しながら玄関から声をかける。


「ごめんくださーい!」


 私が声をかけるとあの日見た利休さんが出てきた。


「おお、これはこれは、連絡は来てたけど本当に来たんですね!」

「お久しぶり。元気にしてた?」


 エヴィーさんが口にした。利休さんは相変わらず結構立派な髭を蓄えてがっちりした体をしている。土岐さんは人間の子供に見えるけど、この人は本当にドワーフって感じだ。これでもかなりの若手らしい。


「相変わらず親方にどやされる毎日ですよ。それにしても男の人がいないじゃないですか。女3人でここまでたどり着くなんてすごいなー」


 笑顔で出迎えてくれる。


「かなり苦労したけどね」

「そりゃそうでしょう。あれからそんなに経っていないのにたどり着けただけでも驚きですよ。正直再度ここに来るのはまだ何年か先だと思ってました。ずいぶん無理をしたでしょう。綺麗な3人が若い身空で死ななくて本当に良かった。で、誰が僕に会いに来てくれたんですか? 僕はできれば胸が大きい方が好きです!」

「親方には会えるかしら?」


 利休さんが軽薄なところも相変わらずのようだ。視線が私の胸に向かっている。エヴィーさんが取り合わず目的を口にした。


「今日はどんな御用で?」

「ちょっと悪いのだけどあなたには言いにくいわ」


 白蓮様のことをどこまで喋るのか。少なくともまず親方に確認してからの方がいいと思った。


「それなら会わせてあげられませんね」


 そんなことを言ってくる。まあ彼の理屈も当然だ。ここに入る許可を簡単に与えられたことから、親方はかなり上の人なのだろう。理由も言わずに合わせろは虫が良すぎるかもしれない。エヴィーさんがちらっと私を見てくる。


 私は頷いて自分で口を開いた。以前のように、奥から誰かが出てくる様子はなくて、言わなきゃ始まらないのは確かだ。


「利休さん」

「はい」

「私は……」


 口にしようとしてやはり悩む。もし私のことを知って邪魔だと言われたら……。でも親方・行慶さんの顔を思い出す。あのドワーフは不人情ではなかったと思う。


「勇者です。称号に勇者と現れました。その結果ダンジョンから命を狙われています。白蓮様に会えば、何か生き延びられる方法を見つけられるのではないかと教えてもらい、探しています。聞けばドワーフはかなり白蓮様のことを慕っていると聞きました。それで……」


 私は次の言葉を何と言うべきか悩んで口を閉じた。そうすると利休さんが口を開いた。


「そうか……その気配は当時からあったが……皆まで言わせて申し訳なかった」


 利休さんのおちゃらけた雰囲気がなくなった。頭をきちんと下げて、


「よくぞここまで生きてたどり着かれました。まさか白蓮様と同じ勇者であられましたか。これは本当に失礼をいたしました。すぐに親方を呼んでまいります」


 すっと利休さんが奥へ引っ込んだ。二人と顔を見合わせる。どうやらここでの白蓮様は、かなりの効果を発揮するらしい。玄関先でそのまま待っていたら奥から親方が出てくる。白髪でヒゲの濃い人。


 日本ではまず見かけることのない髭もじゃな人。最初の時はいまいちこの人のことが、よく理解できなかった。でも今だと分かる。きっとこの人もルビー級だ。見上げることしかできない。局長に感じた圧迫感。ちょっと怖い。


 小学校低学年の頃、中学生とか高校生とかましてや大学生とか、本当にそんな時が来るのかと思えるぐらい見上げていたことを思い出す。それぐらい強くなっても強くなっても、まだまだ私たちには上の人がいた。


 赤ちゃんが親じゃない大人を見て泣く理由がわかる。実際問題として怖いのだ。


「利休に対応させて悪かったな。事情は聞いた。正直、小僧が来ていないと聞いた時点で入れてはやったが、会わんつもりでいた。だが白蓮様と聞けばそういうわけにもいかん。勇者か」


 親方が私の瞳をまっすぐ見てきた。気後れを感じる。私の中の中まで見てるような感覚。


「嘘はないか……いいだろう。さすがにここじゃなんだ。まあ入れ」


 通されて、前と同じ客間に座った。親方はそのまま私の前に座敷机を挟んで座った。私を見てくる。いつもならこういう時はエヴィーさんがしゃべるけど、今回は私のことだった。だから私がちゃんと喋らなきゃいけない。


「レベルは?」


 まずそう聞かれた。


「160です。何体かモンスターをここに来るまでに倒しましたけど結局上がりませんでした」

「まあブロンズエリアでモンスターを倒してレベルアップは修羅の道だ。戦い続けて1つレベルを上げるのに1年かかったってやつもいる。しかし160か。それでよくこの島まで来て生きてたな」


 髭もじゃの顔で驚いてこちらを見てきた。


「なんとかみんなに守ってもらって生きてます」

「仲間に恵まれたな。9割方の勇者の仲間は、勇者に探索者をやめることを要求するって聞くぞ。それをしなかったやつらはそんなに時間がかからず死んでる」

「そうですね。私は仲間に恵まれた」


 それを認められる。


「ふん、お前さんだけ浮いてたように思ったがずいぶん素直になったな。しかし、まあ、お前さん。随分と難儀だな。六条のあれはかなりダンジョンに好かれてるだろう?」

「そうみたいです」

「自然といい女が寄ってきたりしてないか?」

「それは……」


 二人はまだ祐太に新しい女性ができたことを知らない。私もあの後、黒桜に【意思疎通】で確かめたけど今度は3人とも年上の美女ばかり。ダンジョンに好かれると縁に恵まれるという話を聞いた。ふとそれもあるのかと思えた。


「えっと、私の生き延びる方法を白蓮様にお聞きしたいだけなんです。それで白蓮様にお会いする方法を教えてもらえないかと思ってここまで来ました」

「いいだろう。白蓮様に関係する全てのことに我らは誠意を持って対応する。ましてや勇者となればなおのこと。まずワシの知る限りを語ろう」


 親方はまず目を閉じてもう一度開いた。


「世界を放浪する神。それが白蓮様だ」

「はい。それは知ってます」


 どこであの人のことを聞いてもそう言われた。そしてその居所がどこなのか誰もわからないのだと。いつどこに現れるのか誰も知らない神。神様とは在所がはっきりしていることが多く。放浪神というのは珍しいそうだ。


「まあ慌てず聞け。ドワーフはみんなあの方が大好きでな。ワシたちのこの特区も誰が創ってくれたかって言えば、アマテラス様と話をつけて白蓮様が創造してくださった地区だ。それまでは背が低くて戦闘能力が低い。そういうワシたちは結構軽んじられてた。昔ながらの鍛冶技術にこだわるものだから、科学が発展してからは、大したものも造れまいと、見向きもされなかった」

「でも造れるんですよね?」

「造れる。機械はな。大量生産は得意だがダンジョンの中みたいに特別な素材を使い。それを加工する。となるとやはり手作業の方がいい。どれだけ科学技術が進んでもその部分は変わらなかった。そしてワシたちはそれが得意だ」


 親方のその言葉は誇らしげだった。


「この特区は我等が最初だ。でも他の地域は他の種族がやってる。我等の成功例を見て、他の神も、誰彼構わず最先端の技術に触れさせるよりも特区を設けて限られたもののみに触れさせる。その方が良いと判断された」


 話を聞けば他の9部門は時代とともに別れて増えたものなのだそうだ。


 その中でドワーフが関わっているのはこの武具町のみ。探索者が装着するオーダーメイドの武器と防具がメインで造られ、化学技術とは程遠い、まさにファンタジーと言った鍛冶をする職人集団という話だ。


「本当に不思議ですね。そういうのが科学技術の集大成をぶった切ったりするんですよね?」

「くく、そうだ。他の地区のやつらはな。最初に来た時、まず我等のことをちょっとバカにしてる。そういうやつらを我等の武具で黙らせる。それがワシは結構好きだ」


 そんなことを親方が話してくれた。本当に自分の知ってることをちゃんと教えてくれるつもりのようだ。


「私も面倒なこと全部ぶった切りたいな」

「そうはいかぬのが世の中だ。我等も散々苦労した末のここ。ワシはこの島の国役長・行慶。国役長はドワーフの中で転生をし、エルダードワーフになることができたものだけが歴任している」


 自分たちが安心して住める場所と立場までくれた。ドワーフが白蓮様を好きになるわけである。


「親方は偉い人ですか?」

「くく、それなりにな。ともかくドワーフはいつでもあの方の味方だ。決して裏切らない。あの方を裏切るぐらいなら我等は死ぬ。だから嬢ちゃん達の言葉にも本来は答えられない。ただ、白蓮様はな。『もし勇者がこの地を訪れたら、その時は無条件で助けてやってほしいんじゃ』。そんな言葉を残している」


 親方が少し頭を下げた。私はもっと頭を下げた。


「白蓮様について俺の知ってる限りを話してやろう」

「いいんですか?」


 私が思わず顔を緩めた。


「ただし、お前さん達が白蓮様にもしちょっとでも迷惑をかけたら俺が死ぬと思え。それぐらい俺もあの方が大事だ。それでも聞くか?」


 この人達にとってはそれぐらい大事な存在。決しておろそかにできない。でも私も自分が生き残るには、そして祐太とこれからも生きていきたいのなら、どうしてもその神様に会わなきゃいけなかった。


「断る選択肢はありません」


 だからはっきりと言った。


「ま。そうだろうな。じゃなきゃこんなところまで来るわけがねえ。よし、ならば覚悟をして聞け。いいか?」

「はい」

「あの方はな。逃げてるし、常に探しているのだ」

「誰をですか?」

「決まってる。ルルティエラ様だ」

「同じ相手を逃げながら探してるんですか?」

「そうだ。それには理由がある」

「どんな?」

「あのお方は1つの存在ではないのだ。とてもとても長い年月、ワシのような存在では想像できないほど長く長く生きてこられた間に、いくつかに分かれていると言われている」

「ルルティエラ様が?」

「うむ。数は3面。女神、人、機械神の3面。このうちの人としてのルルティエラ様を白蓮様は長く探しておられるそうだ。女神はそれを嫌っているらしい。ルルティエラ様の中で勇者を殺そうとするのはこの女神なのだという。機械神は常に平等で、妙なことはしない。これが昔に白蓮様から教えてもらったこと。ついてこれてるか?」


 私は一時停止した。想像していた言葉と何もかもが違った。かなり重要な話を聞いたような気がする。でもそれがどういうことなのか理解できなかった。


「重要性がよく理解できません」

「まあそうだろうな。この区域はな。ルルティエラ様の禁止事項がほとんど機能していないんだ。だから知ってる限りのことはなんでもしゃべれる。お前さん達にはまだまだ聞いても仕方ないような話なのもよくわかる。ただワシは勇者を名乗る者がここに現れた以上、知っている限りのことを教えてやろうというだけだ。まあ聞いておけ。お前さんとあの小僧が死ななければ、かなり重要になる話だ」

「分かりました。覚えておきます」


 私は頷いた。この話だけは後でしっかり祐太にも教えなければいけない。だから一言一句間違えずに覚えておくことにした。


「よし、それでいい。ルルティエラ様が優劣をつけて判断する。それが一番強いのが人のルルティエラ様だ。この方は特に平等ではないと言われている。好き嫌いが激しく、特に勇者が嫌い。そしてなぜか好きなタイプがいるらしい」


 本当にそれは人間みたいだなと思った。


「人と言ってるけど人間なんですか?」

「面白いことに人間なのだそうだ。人のまま永遠を生きているらしい。普通それは不可能で、100年を超えた辺りから人の意識というのは曖昧になりやすい。それを上位種に至ることで500年までは生きられる。半神に至ることで1000年を生きる。そして完全なる神へと至れば万年を生きる。そう言われている。だが、ルルティエラ様は人であり続けることにこだわっている。白蓮様の話では、誰かを探しているのだそうだ」

「誰を?」

「分からん。たとえそれが誰であったとしても、どんな魂すらも、もう生きていないはずなのに探しているそうだ。広い宇宙の中をずっとずっとだ。それはもう白蓮様ですら想像できないほど長き時、人のルルティエラ様の望みは変わらぬのだそうだ」

「誰かをただずっと……」


 私の中にあるルルティエラというものに対するイメージが少し変わった。私の命を狙ってくるから、もっと根性の悪い女神のようなものを想像していた。しかし話を聞く限りどうも違うらしい。


「ルルティエラ様って何歳なんですか?」

「それは分からんらしい。白蓮様が翠聖様に聞いたことがあるそうだが、翠聖様ですら想像もできないほど長生きであることだけは間違いがない。そう言われていたそうだ。まあ少なくとも100万年は超えている。100万年前の文明の痕跡を白蓮様はダンジョン内で見つけたことがあると言っておられた」

「……」


 そんなに長く誰かを探し続けてるのか。私はルルティエラから命を狙われているのに、その思いだけはかなって欲しい気がした。


「勇者の嬢ちゃん。東堂でいいな?」

「はい」

「東堂、お前さんが生き延びることを望むなら、白蓮様に会わねばなるまい。そして、その会う機会なのだがな。半年後にここに来い」

「半年後ですか?」

「ああ、半年だけはなんとしてでも生き延びてここに来い。恐れ多くもドワーフ島と名付けられたこの島で、発明されたものの品評会が12神主催で行われる。10年に1度しかないものだが、運が良かったな。開催期間は1週間だ。白蓮様もその時は参加される。ルルティエル様はこの時、一切の手出しをしないという約束事があってな。それは守られるだろう。俺がまたお前たちにクエストとして出してやろう。白蓮様に会いに来い。でなければお前さんはいくらなんでも、ルルティエラ様の勇者を殺そうとする意思に負けてしまうだろう」


 ルルティエラという存在は、私の命に迫ってきている。そんな気がする。ちゃんとした対策を早く取らないと、殺されてしまうのはそれほど遠くない気がした。半年間何としてでも生き延びなければいけない。その希望が見えた。


「ただ問題はある」


 親方がまだ顔を緩めてなかった。


「何でしょうか?」

「六条とはまた別行動になるかもしれんぞ。おそらく六条の次のクエストはすでにもう決まっている。そしてそれはかなり長い時が必要になるクエストである可能性が高い。ワシなんぞには介入の余地はないだろう」

「……」


 思わず二人を見てしまった。


「OK付き合うわ。ここまで来たらあなたの方も私はとても気になるから」

「私もいいよ。祐太が浮気しないかちょっと心配だけどね」


 祐太は既に美女3人と関わりを持っている。この2人はまだそれを知らない。だからついてきてくれるかわからない。でもなんとなく本当についてきてくれる気がした。この2人は信用できる気がする。


 問題は祐太は放置すると優しすぎて、すぐに女ができてしまう。今の祐太だと独占するのはもともと無理だったかもしれない。ただあまりにも増えるのは困る。何よりも私たちよりもその美女3人との時間が増えるのも困る。


 一番困るのはさらにまた増えてしまわないかということだ。この2人に気を許してしまったせいか、増えたら殺すという極端な方には思考が向かなかった。それでもちょっといい方法が思いついて、私は返事をした。

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今月は再び“センターカラー”とのことで、ダンジョンが現れて5年は、とても好評なようです。それもこの作品を読んでくださっている読者様のおかげです。


本当にありがとうございます!

今後もますます頑張っていくのでよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
ふーう、RPGやり過ぎ。
どわーふの工房が遥か大洋の水深10㎞以上そこにあるとは想像もできんかった。
美鈴は相変わらず何しについて来てるのか全然理解してないなぁ わざと半端もんに設定してあるんだろうけど
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