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第二百十話 Side伊万里 蛟竜

 こんな場所でドワーフはどうやって生活するのだろう。正直そう思えるぐらい目標地点に到達する頃には頻繁に海のモンスターが襲ってきた。最初は戦っていたが、それも難しくなってくる。モンスターがどんどん強くなっている。


 レベル300ぐらいの強さがあると思われるモンスターを3人がかりで倒し、それから1時間ほどした時だ。遠くから再び巨大な蛇のようなものが近づく。肌がビリビリする。こいつは強い。遠くからでも分かる。倒せないと。


「引き返すしかないわね」

「まだ目標のドワーフ工房まで500km以上あるしね。これ以上はちょっと……。まあ場所はだいたい掴めてるんだから、祐太とまたこよう。ね、伊万里ちゃん」

「……」


 エヴィーさんと美鈴さんが言葉にする。この2人に迷惑をかける。今度は祐太まで……。私はただでさえ祐太に迷惑をかけ続けた。それなのに今度は命がけの迷惑。嫌だった。ここまでして成果ゼロだというのも悔しい。


 せめてドワーフ工房には到着したかった。しかし近づいてくる蛇と遭遇したら死んでしまう。3人とも船から外に出た状態で、エヴィーさんと美鈴さんは船に戻ろうとする。


「それなら」


 正直、自分だけでもいいと思った。2人は私より弱い。2人がいなければ、私だけならなんとかなる。私は1人でいいんだ。


《潜水モード。ポチっとにゃ》


 エヴィーさんが命令してもなぜか嫌がって戦わない黒桜が【意思疎通】を入れた。正直この猫がここまで戦いを嫌がるというのも予想外だった。本当に全く戦おうとしないのだ。


《主、美鈴、早く乗るにゃ。伊万里はもうちょっとそいつ相手に堪えるにゃ》


【意思疎通】で黒桜が伝えてくる。船のステルス機能があまりにも役立たずで、私たちはお高い船に対して信用がゼロだった。それなのに黒桜が勝手に船を操作して、船が海底へと潜り始めた。


 美鈴さんとエヴィーさんが乗り遅れては大変と慌てて乗った。私はそれを見つめる。遠くからは巨大な蛇が迫っている。私にこれ以上付き合えば死ぬんだから、これはようやく見捨ててくれたかと思った。


《外は大丈夫?》


 私だけが外にいた。なんとなく美鈴さんたちの乗った船を見つめて水中に潜っていく。


《大丈夫です》


 ダンジョンのストーンエリアには海がなかった。だからレベルが上がってから水の中に潜ったのは初めてだ。驚くほど息が続くし、スピードが弱まることもなかった。少し足をバタつかせるだけで、まるで魚雷のように体が進んでいく。


 それは魚のような滑らかな泳ぎではなく、海中を破壊しながら進んでいる感じ。


「へ?」


 思わず声が出た。まだもう少し距離があると思っていた蛇が、唐突に魚雷みたいな速度で進む私の速度以上にスピードを上げ近づいてくる。その異様がどんどん巨大化してくる。10秒もしないうちに目の前にいるのは長細い蛇。


 長細いと言っても幅が10mほどある。全長がどれぐらいあるのかは分からない。海の中は陸地以上に巨大サイズが多い。その中でもこいつは一番大きかった。今まで気配を隠しているモンスターが多かった中で、はっきりと気配を表に出してる。


 この海で隠れる必要のない存在。ビリビリと肌が電気でも流したみたいにヒリつく。濃紺の体。竜のようにも見える。その瞳だけで私の体ぐらいある。一目でわかる。ああ、これは何をどうやっても勝てない。


 黒桜はこれを相手に時間を稼げと言ったな。邪魔だから死んで欲しいとはっきり言えばいいのに。


《伊万里。今、浮上して、あなたを回収するからちょっと待っててね。黒桜運転席からどけなさい》

《その必要はないにゃ》


 やっぱり黒桜は私を見捨てる気か。自分だけでこんな化け物の相手をして、勇者としてダンジョンからの安全を確保する。無理だけどやらなければ、この2人を巻き込む。やれるだけやって死んだらそれまでか。


《黒桜。何を言ってるの?》

《ちゃんと助かるように言ってるだけにゃ。主たちはこの船でどんどん深海に潜っていくにゃ。そうすればまだ生き延びられる可能性が高いにゃ》

《黒桜の言う通りです。美鈴さん、エヴィーさん。ここまでありがとうございました。私がここで囮をするのでさっさと逃げてください》


 私は1人でいい。仲間の中で誰か1人でも私が“邪魔だ”と言ったら潔くいなくなってあげようと思っていた。それが黒桜だったのなら、それは正しい判断なのだ。あの猫はなんだかいろいろ知ってる。判断に間違いはあるまい。


 あの二人がこれだけ私についてきてくれただけでも十分だ。黄色い玉は私が持ってる。ドワーフ工房まではあと500kmほど進めばいい。普通の人間にとっては途方もない距離で、きっと5㎞海を泳ぐだけでもたどり着けない。


 けど、探索者は違う。500㎞ぐらいならばたとえ海の上でもなんとかできる。あとはモンスターに殺されなければいいだけだ。簡単な話だ。あの2人なんていない方がいい。


 私は潜水艇から離れていく。細長い蛇も私と一緒についてきた。障害物などあるわけもない大海原で、こいつから逃げ切れる可能性はあるだろうか? 広くどこまでも続く海の底と周囲の景色、ただ潜水艇から私は遠ざかる。


《じゃあ黒桜、他に回収する方法があるのね?》


 でも、そんな私の覚悟をよそに、エヴィーさんは自分の召喚獣に聞いた。


《もちろんにゃ。伊万里。【光天道】で“蛟竜(こうりゅう)”を一旦遠くに導いてほしいにゃ。そうしたら黒桜が回収しに行くから待ってるにゃ。交戦したらダメにゃよ。いくら伊万里でも何がどうなっても、勝てる相手じゃないにゃ》

《でも私は……》

《伊万里、あなたを見捨てる選択肢なんてないわよ。伊万里が帰ってこなかったら私たちは見つかるまで祐太のところに帰らない。それだけよ》

《ごめんね。伊万里ちゃんがダントツで強いから、ちょっとだけ頼らせて》


 エヴィーさんと美鈴さんが、次々にそんな言葉を口にした。祐太もだけど私も人付き合いはそんなに得意じゃなかった。特に祐太が好きになってからは、家にいる方が楽しくて友達とほとんど遊ばなかった。何よりも、



『伊万里ちゃんの家って親がいないんだよね』



 どうやってそんなことを知ったのか知らない。クラスメイトに言われた言葉。祐太も似たようなことを言われてたんだろう。子供心に言われたその言葉が、胸に刺さって、中学生になっても祐太以外の人間に気を許せなかった。


《……》


 嬉しいと思っている自分がいる。それが悔しい。この2人なら別に祐太を分けあってもいいかもしれない。いや、余計なことは考えない。目の前に大きな竜みたいな蛇がいた。


《あなた蛟竜というのね。ちょっとお話をしてくれない?》


 白虎様の例があるから喋れるかもしれない。そう期待して【意思疎通】を送る。口を開けたので喋ってくれるかと思った瞬間、こちらに噛みついてくるように口を大きく開けた。そうするとその中心部で水流が起きる。


 辺りの海水が全てその口の中へと飲み込まれていく。体が強烈に引っ張られる。必死で泳いで抵抗した。それでも向こうが引き寄せる力の方が強い。飲み込まれる。みんなは? 私はステルス潜水艇の方に視線を向けた。


 海底へとどんどんと潜っていってる。この水流には引っかからずに済んだようだ。よかった。それなら別にこのまま……。


《伊万里。最近簡単に諦める癖が出てるにゃよ。もっと底力を出せるはずにゃん》


 勝てるわけがない相手だから、ここで死ぬならそれでいいかと思った。でもそうしたら、黒桜のそんな声が聞こえた。飲み込まれそうになりながら周囲を見渡すけど、その姿はどこにもない。


《いるならさっさと助けてくれない?》

《嫌にゃ。ちゃんとやれることを全部やったら助けてあげるにゃ》


 なんだこの上から目線の意地悪猫。その力があるならさっさと助けてくれたらいいじゃないか。私だって女の子だ。こんな巨大な蛇を相手に、勝てる気がしなくて、死ぬんだと諦めてもいいじゃないか。頑張り続けるのはしんどいんだ。


《十分やったよ。私は頑張ってる。助けないならいい。このまま飲み込まれるだけだから》

《祐太。浮気してるみたいにゃよ》


 しかし、黒桜がそんなことを言ってきた。


《は?》

《年上のお姉さんが優しく接してくれたから甘えちゃったらしいにゃん。美鈴のお姉さんで玲香っていうそうにゃ》

《あの女また私の邪魔を? 姉まで使って邪魔する気?》


 私の中で何かがプチッと切れた。


《美鈴は関係ないにゃ。誘惑されてフラフラーと祐太が食べちゃっただけにゃん。祐太は女にだらしないにゃー》

《違う! 祐太はだらしないんじゃなくて女の方が悪いだけ!》

《そうにゃ?》

《そう! 祐太は優しすぎるからそれにつけ込まれるの!》

《まあもう死んじゃう伊万里には祐太の浮気なんて関係ないにゃ》


「ちっ」


 この猫どこでそんなこと知ったんだ。大八洲国はどこにいてもスマホは繋がる。だから米崎と電話はできる。ただ、祐太は隠密性の高い行動をしていることが多いので、連絡は控えていた。米崎がそんな余計なことを言ったのか。


 いや、言わない。じゃあどこでこの猫はそんなことを知った。何か祐太の状況を常に知る方法があるのか? そんなものがあるなら是非教えてほしい。黒桜の言葉。その言葉は嘘ではない。なぜかそれだけはわかる。


「ちっ」


 私は100m以上潜った深海ではっきりと2度目の舌打ちした。やっぱりここで死んだらダメだ。祐太のためになるなら離れようと思ったけどそれもダメだ。祐太の顔は美の結晶というぐらい美しくなってる。


 おまけにダンジョンの中での祐太は死ぬほど格好良い。モンスターを殺している祐太を見ているだけでも女は惚れてしまう。そんな祐太を放置すれば、いつどんな馬鹿な女に引っかかってしまうかわからない。


 やっぱり祐太には私が必要だ。


 不思議とそう思った瞬間、体の内側から、燃えたぎるようにグツグツとエネルギーが湧き上がってくる。そうか。私の生きる原動力は祐太なのだ。あいつの傍にいることが迷惑になると思った瞬間から生きるのがつまらなくなった。


 だが祐太には私が必要だと思った瞬間、生きたい気持ちが燃え上がってくる。ごめんね祐太。いつも一緒にいるって決めてたのに死んじゃってもいいなんて考えた。甘えさせるぐらいいくらでも私がそばにいたらしてあげたのに……。


 人が生きるということはとどのつまり欲望の塊なのだ。それがなくなれば死にたくなるのは当然だ。私の欲望のすべては祐太。祐太だけが存在すれば他は何だっていい。【清明の剣】が、私の腰に現れた。


 今ならあなたも応えてくれるでしょ。


 すごくイラついているの。


 さっさと目の前のくねくねしたやつを斬り刻ませてちょうだい。


 頭の中に言霊が浮かんだ。


 蛟竜が私の剣に注目している。


 飲み込む水流が止まっていた。


【光とともにあるのが勇者の定め 光とは欲望 無欲とは虚無 理を見いだし この世 万物一切を断ち斬る光となれ】


【光覇烈斬】


 海中に無数の刃が現れる。私が【清明の剣】を振り下ろした瞬間、その刃が無数に蛟竜に向かって振り下ろされる。海の中が強烈な光に包まれた。その瞬間私の体が後ろから掴まれた。


《やればできるにゃ。いちいち面倒くさいから諦めてないでちゃんとやれにゃん》

《仕方ないでしょ。私がそばにいることで祐太の迷惑になるかもって思ったんだもん》

《若いやつは言い訳ばっかり得意だから困るにゃねー》

《むう》


 言いたいように言われて腹が立ったけど、やればできるのは本当みたいだったから、なんとも文句がつけられなかった。私は大きくなった黒桜の背中にしっかりと掴まった。


《あの竜、死んだ?》

《死ぬわけないにゃ。蛟竜はレベル500超えてるにゃ。珍しい場所に人間がいたから面白がって遊んでただけにゃ。目くらまししてる間にさっさと逃げるにゃ。さすがにもう気がすんだにゃ》

《ふふ、なるほどあの方の……》


 そんなことを言っていたのにすぐ横にその巨大な蛇が並んできた。


《うげ。もういいにゃ。十分遊んだにゃ。これ以上はこの人間が死んじゃうにゃ》


 本当に嫌そうに黒桜が口にした。


《相変わらずぬるい猫だ。あの方は息災か?》


 人の言葉が理解できたのか蛟竜は喋りかけてきた。


《知らないにゃ。黒桜はちょっと離れて遊んでる最中にゃ》

《遊びね……》


 その巨大の瞳がきっちりとこちらをとらえてきた。


《なんにゃ。やる気にゃ? 言っておくけど黒桜の逃げ足は天下一品にゃ》

《逃げ足か……。まあいい。今宵はお前の顔を立ててやろう。女。辛きことが多かろうがまあ頑張れ。この広すぎる世界では2度とまみえることはないのかもしれぬが、女神が気まぐれを起こせばまた出会うかもしれぬ。その時はもう少し楽しませろ》


 そんな言葉が聞こえる。ほんと化け物ばっかりで嫌になる。全然傷ついてないじゃないか。こっちは放っただけで体がギチギチ痛いのに、ノーダメージとか嫌になる。しかしそう思っていたら手元に1枚の大きな鱗が現れた。


《うん?》

《1枚だけ剥がされたからやる。それほどか弱き身で、ウロコ1枚とはいえ剥がれるとはな。さすが勇者というところか》

《黒桜、これ?》

《素材に使えるにゃよ。蛟竜の鱗ならゴールド級の戦利品だから大事にとっておくにゃ》

《祐太にあげたら好感度上がる?》

《自分で使えにゃ。どうせ祐太はガチャから素材が山ほど出てきてるにゃ。あげても困るだけにゃよ》

《あんまりいらないかも……》

《くく、面白いことを言う女だ。また会えると良いな》


【意思疎通】の内容を聞かれたことに焦ったけど、それほど気にしている様子もなく私たちから離れていく。プレッシャーがどんどんと感じられなくなりほっとする。黒光りした凄まじく硬そうな鱗だった。


 自分の装備のどこに使えるんだろう。さすがに捨てる気は起きなくてマジックバッグに大事にしまった。黒桜がそのまま海の中へと潜っていく。1㎞、2㎞、5㎞、10㎞……。深海に潜っていくほど体に圧力がかかってくるのが分かる。


 海の中に潜り続けて30分以上になるだろうか。まだ息が続いてるが、苦しくなってきて体が重いと感じられるようになってきた。


《あんまり暗くないね》


 不思議と海は光に照らされていた。あとどれぐらい息は続くだろう。怖さはなかった。私の息が続かなくなったら、この猫がなんとかするだろうと思えた。


《海はかなりずっと暗くならないにゃよ。光虫が居て、あらゆる場所で照らしてるにゃ。ただ500㎞を超えると光虫がだんだんと生息しにくくなってきて暗くなってくるにゃん》

《私たちの体ってどこまで水圧に耐えれるのかな》

《レベル200で200㎞ぐらいって言われてるにゃ。伊万里は頑丈だから今のレベルでも、それぐらい深海まで耐えられると思うにゃよ》

《深さ1000㎞で太陽並に広い海か。なんだか不思議。重力とか絶対におかしくなりそうなのにこれで成立するんだ》


 周囲を見渡すと巨大生物の影が時折見えていた。しかし、海の中だと私たちは気にならないらしい。それなら最初から『海の中に潜れ』と言えばよかったのに、この猫は何を考えてるんだろう。


《ダンジョンの中にある全てのものは基本的な物理法則を守りながらも、かなり違うにゃ。ダンジョン内で物質が、どういう状態でいるのかはその場所で、ダンジョンシステムによって管理されてるにゃ》

《じゃあ少なくともダンジョンの中で重力によって潰れて本物の太陽になるということはないんだ》


 潜水艇が見えてくる。黒桜が【異界反応】を唱えるとそのままボディをすり抜けて、中へと到着した。


「お帰りなさい」

「よかった無事で」

「ありがとう」


 さすがにお礼を言って、体がベトベトになってたからお風呂にまず入った。かなり2人には気を許したけど、それでもまだ素直になれなかった。こういうところはさすがに直した方がいいのかなと思いながらも、別にいいかと開き直る。


 黒桜曰く、まだ海の中の方が目立たないらしい。深度100㎞に達した。そしてしゃべることもやめた。少しでも声や音を立てただけで、敏感に気づいてしまうモンスターがあちこちにいるらしい。


 この深海で戦うことになるとかなり戦いづらい。だから黒桜はできる限り海に潜れとは言わなかったようだ。


《何かが下を通ってるんだけど》


 美鈴さんの【探索界】に引っかかるものがあったらしい。そしてそれは私でも分かった。隠そうとしても隠しきれるわけのない気配。何か巨大なものが私たちの潜水艇の下を通り抜けていってる。


 何かの間違いではないかと思うほどそれは大きく感じられた。


《青蛙にゃ。体長1㎞ぐらいの大きなカエルで、この辺りを縄張りにしてるにゃん。気まぐれで食べてくるから蛟竜よりも怖いにゃ》

《とにかく静かにって事ね》


 エヴィーさんも手を口に当てた。私たちは息をするにも気を使うほど静かにした。それぐらい深海にいるモンスターも厄介だった。北海は平均で1000㎞ほどの深い海らしい。もっと深い場所にはもっと面倒なやつもいるらしい。


 海の中に国もあり、アトランティス国やムー国なども存在するという話だ。


《不思議なことだらけだね。伊万里ちゃん》

《本当ですね。ちょっと行ってみたいですね》


 美鈴さんからの必要のない会話に答えた。妙に喜ばれたのが非常に鬱陶しかった。


《あと10㎞もありませんよ》


 そう口にした時だった。


【ドワーフ工房への入島許可証を確認。本人確認を行います】


 頭の中に声が響く。本人確認。到着したようだが祐太がいない。やっとここまで来て、入れないのではないかと不安になる。


【船内を検査の結果、導き玉所有者の六条祐太の存在を確認できませんでした。親方行慶に確認中……確認が取れました。エヴィ・ノヴァ・ティンバーレイク、桐山美鈴、東堂伊万里、3名の入島を許可します】


 ホッと息をつく。そこは海の中だった。深海100㎞のままで、海中に門が開いた。水は流れ込んでいかないようだった。私たちが中へ入ると黄色い玉の光も消え、エレベーターになっているようだった。


 上に登っていく下からの圧力を感じる。大きなエレベーターの中で潜水艇となっていた私たちの船の上部が開いていく。久しぶりに船の中から出られて閉ざされた空間の中だけど気持ちが良かった。


「改めて思うんだけどさ。ダンジョンの中ってどうなってるんだろう? 大八洲の外に広がる世界も全部ダンジョンの中にあるんだよね?」

「私に聞かれても」


 美鈴さんから聞かれて答えることができなかった。当然エヴィーさんもそんなこと知っているわけがない。自然と3人の目が黒桜に向いた。


「黒桜もあんまり詳しくは知らないにゃよ。でも全部ダンジョンの中にあることだっていうのは間違いないにゃ。祐太とずっと探索していたストーンエリアが、このもう一つ上の表層にあるにゃ。それでここのブロンズエリアがその内側。それぞれのエリアがどれぐらい広いのかは、あんまりよく分かってないにゃ。ひょっとするとルルティエラ様もよく分かってないんじゃないかにゃ」

「知らないって言う割には、よく知ってるじゃない」

「まあ主よりは知ってるにゃ」

「黒桜。階数ってどうなってるの? 統合階層でも思ったけど、あんまり階段でそれぞれが別れてないよね?」


 美鈴さんが聞いた。


「11~20階層分の広さが大八洲国にはあるってことにゃん」

「だとすると広すぎない?」

「エリアごとにどんどん広くなってくるって話にゃ。それに大八洲国は元々あの広さじゃなかったにゃ。いろんな要因で国土がどんどんと広がってきて今の広さになってるにゃ」


 黒桜の話では大八洲国はもともとそれぞれの大陸ごとに独立した存在だったらしい。それが長い年月をかけて徐々に統廃合され、今の大八洲国を形成している。だから一応、それぞれの大陸に階層の数字は振り分けられているらしい。


 ちなみに一番古い大陸は【翠聖兎神の大森林】なのだそうで、大八洲国で一番長生きな神様も翠聖様なのだそうだ。


「ふーん、なるほど……なんだかそういう話面白いね」


 私は思わず素に戻った反応をしてしまった。美鈴さんがまたにやにや見ている。そういう顔をするんじゃない。そしてふと湧き上がった疑問は、シルバーとかゴールドエリアはもっと広いのかということ。


「ねえ、黒桜」


 聞こうとしたその時だった。エレベーターが到着した。扉が開いていく。私たちはようやくドワーフ工房へたどり着いたのだった。

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― 新着の感想 ―
伊万里の内面が見れて良かった。 黒桜も良い働き?してたwww
[良い点] おもしろかったです [一言] 竜のうろこをいらんといい出した伊万里ちゃん 100億、いやもっともっと価値があるかも
[一言] 美鈴の態度が不愉快(嫌いなキャラってのもある)
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