第二百九話 Side伊万里 海
美鈴さんが出て行くのをやめて、私はエントランスで自分のした行動がばかばかしくなる。なぜこんな行動をとったのかと考えながら、今回の祐太がおらず、私のせいで女3人でドワーフ工房まで赴いたことを思い出していた。
少し時間を遡る。どの階層にも入り口が存在するというドワーフ工房を探す旅。私たちはドワーフの親方から預かった光る玉を見つめた。野球ボールほどの黄色い玉で、ドワーフ工房の方角に向かって光る。
ドワーフ工房というのは、親方たちの名前、行慶や利休からもわかるように、大八洲国に本当の在所がある職人集団。というより技術者集団らしい。しかし、ドワーフ工房がどこにあるかは大八洲国でも隠されてる。
そのため大八洲国にあること自体が伝説になってる。それぐらい見つかりにくい場所にあるという。なんでもこの階層では探索者を超えるような技術を開発することが嫌われる。基本的にはレベル200を超えない程度の技術が推奨される。
だがドワーフ工房は、その禁忌を破ることをアマテラス様が許可しているらしい。このため、様々な勢力が興味を示すことになり、存在が秘匿されないと危険なのだそうだ。
「ドワーフ工房? その場所に到達するのは大八洲国では絶対不可能だ」
極端なほど苦手になってしまった近藤局長に聞いて、そう言われたのだ。
「どうしてですか?」
特に大八洲国ではその存在を最初から知っていなければ、絶対にたどり着くことができない場所にある。私たちは親方から渡された黄色い玉を使って、転移駅を利用し、あらゆる場所から光る方角を確かめた。
その結果、どうやら大八洲国の本州から1万㎞ほど離れた海上に入り口があることを突き止めた。
「海上か……地図を見ても島はないみたいだね」
「広大な海の中で地図にも乗っていない場所をあてもなく探す。本来は見つかりっこない場所だったのね」
「祐太を連れて行かないけどいいんでしょうか? この黄色い玉って祐太のために渡してくれたやつですよね」
初めての女3人旅。私は美鈴さんとエヴィーさんと完全には打ち解けることがなかった。普通に旅で必要な会話はしたけど、日常的な会話はしない。祐太以外の人間に気を使う気になれない私。面倒の方が先に立ってしまう。
「伊万里。あなたね」
エヴィーさんはそんな私の態度に何度か怒ったけど、勇者のことや自分の不甲斐なさ。そういうのが積み重なって今の状況が面白くなかった。そもそもこの2人がいなければ、祐太とのんびり探索者をしてたのに。
今は毎日が命がけだ。祐太のためならいくらでも頑張るけど、この女たちのためじゃない。でも今はこの2人は私のために動いてくれてる。ダンジョンから命を狙われる私。それなのに何も言わずについてきてくれてる。
「まあまあエヴィー」
それでも私は、この二人さえいなければと思ってしまう。結局私は独善的に考えることをやめられない。だから旅の途中で私はまたこのパーティーから抜けようと思った。でも結局は実行できなかった。
「伊万里。そういうのはよくないにゃ。あんまりすると黒桜も怒ってしまうにゃよ」
陸上で移動中、私はわざと2人から離れた。このまま1人になってしまおうと思ったのだ。ドワーフ工房は1人で見つける。2人に貸しを作るのが嫌だった。そんな私の行動を見抜いて黒桜があっさりと追いついた。
「あなたはなんなの? どうしてエヴィーさんなんかに従うの?」
何かこの猫は特殊だと思ったから聞いた。
「それを伊万里に教える必要はないにゃ。ただ余計なことを考えずに自分の問題を解決することに専念した方がいいにゃ。そもそも祐太は伊万里が問題で危険に巡り合っているわけじゃないにゃ。祐太は黒桜にも理解できないぐらい、ダンジョンから好かれてる。それは伊万里がいてもいなくても一緒にゃ」
黒桜さえどうにかすれば逃げられると思ったけど、ダメだった。この猫にはどこにもつけ入る隙がなかった。飄々としているのにどうしてもその目を掻い潜れると思えない。私は余計に不機嫌になった。
「伊万里ちゃん。なんだか日に日に怒ってない?」
それでも美鈴さんはいつも通り話しかけてくる。そのことを疎ましく思いながらも、だんだんと怒り続けるのも難しくなってくる。何しろ相手は全然怒ってないのだ。1人だけ怒ってるのはしんどい。
「お気楽女」
「あっ」
思わず旅の途中でそんな言葉が出た。そうするとなぜか美鈴さんは笑ってきた。
「どうして笑うんですか?」
「いや、だって伊万里ちゃんいつも仮面をかぶっていて素が見えないからさ」
「ふん」
「ふふ、伊万里ちゃんはきっとそっちの方が似合ってるよ」
「嫌味ですか?」
「いやいや嫌味じゃなくてさ。正直私、伊万里ちゃんと最初に出会った時さ。祐太のことで伊万里ちゃんから何を言われるのかってものすごく覚悟してたの。でも何も言ってこないんだもん。おまけにずっとさん付けで、本当のところなんて、これぽっちも見せてくれないし。祐太がいない途端に私たちと話をするのやめるしさ」
「……」
私はこの女が一番許せない。祐太を一番私から取り上げた。多分、エヴィーさんはしばらく一緒にいて、祐太の中での優先順位で、私より上位ではないと分かった。でもこの女は違う。祐太はこの女が本気で好きだ。
私が文句を言わなかった理由ははっきりしている。言ってしまうと止まらなくなる。ポッと出の女に祐太の“好き”を取られた。祐太が私に感じる愛とこの女に感じる愛は違う。私はこの女が祐太から受け取っている愛が欲しい。
「いっそ死んでしまえばいいのに」
「うわー、ひど。そこまで本当は怒ってたんだね」
エヴィーさんが旅先の宿でお風呂に入っている時だった。2人だけになる機会はあまりなかった。私はいつの間にかこの女に自分の本音を引き出されていた。
「正直思ってます。今でもあなたたちがいなくなれば祐太は私だけのものになるって考えてばかりです」
「伊万里ちゃんはそんなに祐太が好きなの?」
そんなに好きなのとか軽く言われて腹が立つ。私と祐太は普通じゃないんだ。
「多分あなたじゃ私と祐太の関係は想像できませんよ。私とあいつはずっと二人だった。小学生の頃から2人で支え合って生きてきた。いや、違う。私は祐太に小学生の頃から我が儘放題で、小学生のあいつに親であることも求めた。祐太はそんな私をいつも優しく笑って許してくれた。私はあいつがいないと生きていけない。だからあなたには本当に消えてほしい」
「そっか。でもヤダ」
あの女は簡単にそんなことを言ってきた。
「どうしてよ。あいつは私と2人でも幸せになれるわ。こんな無理しなくたって十分幸せになれる。だからあなたはこっそり消えてくれればいいじゃない。そうすれば私もあなたを殺さなくて済みますよ」
すっと【清明の剣】が腰に現れていた。この剣もこの剣だ。正直【エンデの光剣】と比べて使いにくいなんてものじゃなかった。未だに装備スキルの一つすらまともに生えない。その割に私の気持ちに応えてすぐに手元に現れる。
「伊万里ちゃんは私にそんなことできないよ。戦いになるとしょっちゅう助けてくれるもん。それに私も祐太のことは本気だもん。だからこれぐらいのことで諦められない」
「異常だと思いませんか? 一人の男に3人も女が寄ってたかって好きだって」
「最初は私も怒ったけどね。でも最近はちょっと納得してきてるかな」
結局私は旅の途中で、美鈴さんとエヴィーさんを亡き者にはできなかった。物理的に邪魔してくる黒桜もいたし、悔しいことにあの二人に対して気を許してきている自分がいるのだ。
「やっぱり最初の段階で殺しておくべきだった」
情が移るとそれもできない。嫌だなと思いながらも港町についていた。5層構造にはなっていない普通の街だった。大八洲国で5層構造になっているのは、主要都市である八都だけで、他の町は違うらしい。
私たちがたどり着いた本州の端っこにある港町もそうで、月城家という一貴族が治めてる場所だ。同じく海も一層だけで、その広さは大八洲国の技術があっても未だに完全には分かってない。海の向こうには当然、外国も存在している。
それらの情報も総合すると、海の面積は、地球で言うところの太陽よりも広大であることは間違いないそうだ。陸地と陸地は実はかなり離れているらしく。大八洲だけでも陸地同士が2万㎞離れているということもある。
隣国なんて10万㎞も離れていて【盤古国】と呼ばれている。本来なら中国の探索者がブロンズエリアとして訪れるはずだった場所だ。だが、国家規模でのダンジョン閉鎖を未だに継続しているために、誰も来ていない。
そのことに焦れた盤古の神、斉天太聖がわざわざ他国にいる麒麟を問い詰めに行ったという話もある。戦争かと思ってその時は随分と大騒ぎになったらしい。そして私たちがこれから航海しようとしているのは北海と呼ばれる場所だ。
その北海を航海して1万㎞ほど先に目指すべき目標はあった。
「あなたたち、遠海に行きたいの?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ最低限、探索者なのね?」
私たちが海について聞きたくて港で船から降りてきた女の人に声をかけた。それは人間ではない何か。頭に珊瑚礁のような角が生え、耳も魚のヒレのようだった。手と足にもヒレがついていて、体は普通の人間の女だ。
胸の膨らみはあるが、乳首らしきものはなくて服は着てない。少し青っぽくて肌の色はリーンと似ている。話を聞けばこの港町で主要な種族らしく見た目に綺麗だった。というかここまでにかなり良く見ている。
大八洲国と盤古国では海人と呼ばれているらしい。
「日本から来たの?」
「よく分かったわね。私はアメリカ人だけどね」
「アメリカも地球でしょ?」
「あら、よく知ってるのね」
「ルルティエラ様がなされた今回の件は、結構私たちにとっても大事だからね。まあ最近よく分かってない人間が増えて、そういうやつは大抵日本人なのよ」
「その分かってない私たちにご教授できることはある?」
「そうね。10万でご教授できることはあるかな」
はっきりと金銭を要求された。エヴィーさんは値引き交渉をしなかった。いつもならするけど、さらに上乗せして20万にした。相手は機嫌が良くなって私達を飲み屋に誘って詳しく話し出してくれた。
先程の盤古国の情報も全てこの海人の女性が教えてくれた。飲んだのは日本風の居酒屋で、お酒を飲んでも問題のない体になってる。私もお酒を頂いた。ここのお代も私たちが持つ。できる限りの情報が欲しかったのだ。
「海にはモンスターが多い。近海なら大丈夫だけど、遠くなればなるほど神の加護が消えていく。消えればかなり強いモンスターばっかり出てくるの。陸からどれぐらい離れた遠海を目指してるの?」
「1万㎞ぐらいになると思うわ」
「あっさりそんなことを言うか。やっぱり日本人よね」
「何かまずいの?」
「まずいことしかないわね。その海域は神の加護が消えてしまう海域よ」
「加護?」
聞いてみると加護とは神がそこにいるという圧力なのだそうだ。無駄に荒らすと薙ぎ払われてしまうという圧倒的なまでの武威。その領域が本州はかなり大きいらしい。何しろ本州にはアマテラスとスサノオとツクヨミの3柱が居る。
だからこの辺りはかなり平和なのだという。陸から数千㎞離れてもまだモンスターにはその神のご加護は感じられるらしい。当然それがなくなればモンスターは自由に出てくる。だから遠海に人は滅多に行かない。
「できればやめておけだって」
1万㎞離れるとレベル500の海のモンスターが出てくる。確率的にはかなり低いそうだが、0ではない。そして、そこまで行かなくてもレベル300ぐらいはウヨウヨいるらしい。
「子供のおつかいじゃあるまいし、それで引き下がるわけにはいかないわね。方法を考えましょう」
エヴィーさんは“私のことを諦める”という選択肢は全く提案してこなかった。
「エヴィーさんはリーンと人獣合体すれば飛べますよね。美鈴さんが黒桜、私がラーイに乗って一気に駆け抜けるっていうのが一番速いんですけど」
さすがに私もちょっとこの2人と喋ろうかと思うようになってしまった。そして自分の提案は、先ほどの女の人の話から、無理だと分かっていた。
「空はもっと危ないって言ってたね……」
美鈴さんが答える。空には神の言うことも聞こうとしないヤマタノオロチという化け物がうろついているらしい。全長153㎞の化け物。神の領域にある悪神で、レベル1000を超えるモンスターなのだそうだ。
どうやらモンスターにも悪神に至る12の枠というものがあり、その一角の中でも最強の呼び声が高い化け物がヤマタノオロチ。大昔に本州を襲おうとしてスサノオ様と凄まじい戦いを繰り広げて陸がいくつも沈んだとも言われている。
本州から1万㎞も離れてしまうとそいつとランダムで出会う可能性があるらしい。他にも空には面倒なのが多いという話で、海よりも恐ろしいという話だった。
「エンカウントしたら終わりだよね」
「飛んで一気に行く案は却下か」
「1万㎞も遠海に行くなら自分で船を買えって……」
「私もこの国のお金は用意できないわよ」
「不本意だけど米崎に頼るしかないか……」
米崎が別に私たちに悪いことをしたわけじゃない。でもその雰囲気から私たちは敬遠しがちな人だった。ただ祐太とはかなり仲良くしている人だ。この国のお金も持っていると聞いた。今回は私のことなので自分で電話した。
「だから……」
『なるほどその条件だと。借りてる船を使っても壊れてしまう可能性があるね。買い上げじゃないと海に出るのはOKが出ないわけだ』
だいたい予想していたのか、米崎さんは私が全部説明をしきる前に話し始めた。
『で、いくら用立てればいいんだい?』
あっさりとそんな返事が来た。この男は祐太に関わる全てにおいて驚くほど金払いがいい。
「2000万貨で、小型でそこそこのものが買えるみたいです」
『その船の航続距離とモンスターに対する対策はどうなってるの? 僕もあまり詳しくないけどね。もっといいのにしておかなくて大丈夫かな。大八洲国の技術ならかなり遠海までそれでいけるかもしれないけど、ここの海はかなり危険だという話だしね。まあ転覆しても君たちなら死なないだろうけど、空を飛ぶことになって、戻ってくる時に悪神とこんにちはなんてこともしたくないだろう』
「それはもちろん……でもあんまりいいのになるとお金が……」
『お金の問題程度で死なれては困る。なるべく早く手に入れられるもので最も安全性が高いものを買いなさい。それでいくら?」
「えっと……」
こういうことは私も美鈴さんも苦手だ。エヴィーさんに途中から変わってもらって、結局、資料も見て10億貨がエヴィーさんの口座に振り込まれた。
『まだいるなら言ってくれたまえ』
「い、いえ、結構です」
私は遠慮しながら返事をしていた。この人の金銭感覚は南雲さんと同じぐらいだ。正直、こういうことになるんじゃないかという予想はついた。米崎さんはどうしてもレベル500を超えたいのだ。
自分だけでは無理だと判断しているなら、祐太という存在には気を使う。その女が3人で行動している。死なせないようにかなり気を使う。でもこれは祐太のコネだ。祐太は探索者になってから女とお金に困ってない。
そんな祐太に私が与えているものは迷惑だけだ。だからせめて強さで報いたい。
「祐太……」
お金の力は凄まじい。10億貨もあると分かった瞬間に船会社の社長が出てきた。船が用意できるまでの期間。私たちには港町で一番の宿泊施設が用意され、祐太たちのことを思えばくつろぐ気にはなれなかったけど、不自由はしなかった。
「うわー」
そして用意された船はクルーザーではなかった。のっぺりと丸い形をした船だ。潜水艦にもなるらしく、ステルス性能に全振りした特殊船艇らしい。探索者のスキル【自然化】に近い能力を発揮する。
その機能が発揮されると、船の姿が私の目でも見えない。
私たちはこのステルス船で船出した。
「なんか設備がすごいね」
美鈴さんは完全にビビっていた。見た目には小さいのに室内には亜空間を作り出し、局長さんが用意してくれた宿並みの広さがある。おまけに部屋だけで、3部屋用意されており、それぞれ個室を利用することができた。
それでも美鈴さんとエヴィーさんの睦言は聞こえてきた。興味がゼロかと言われると悩んでしまう。でもそうしてしまうと本当にあの二人に気を許してしまうことになる。それがなんだか嫌で私は絶対に関わらなかった。
リビングでは食事が自動で出てきたし、お風呂も完備されている。恐るべきは大八洲国の技術だった。ただこの船の中で一番気を使われているのが、モンスターにその存在を確認されないことだった。
陸から遠くなればなるほど、モンスターに発見されないことが難しくなる。特に転移駅の設置されていない遠洋の島に行くのは、これほど技術が進んだ今でも命がけ。
この船は最高時速1000kmというかなりのスピードが出せるらしいが、モンスターに察知されない条件になると時速200kmが限界らしい。
「今のところ順調だね」
「風が気持ちいいわ」
私たちからしたらいくら海の上でも、時速200kmでは歩いているのかというぐらいゆっくり船は進んでいた。美鈴さんの【自然化】があるので船の上に乗り、気晴らしにお茶をしていた。小型なのに驚くほど揺れない。
「もうすぐ5000kmを超えてきますよ」
陸から5000km。その辺りが今の大八洲国の技術でモンスターにばれないで船を出せる限界らしい。この辺りを超える頃から、敏感なモンスターがこちらを見つけてくる。
エヴィーさんも美鈴さんも私の言葉を聞いて、お茶菓子なんかを片付けてしまった。
ここ数日でなんだかんだで仲良くなってきてる。この2人は、悪い人間ではない。それでもやはり私から祐太を独占できる機会をとってしまった。そのことにどうしても苛立ちを覚えてしまう。
「美鈴さん、どうですか?」
意地を張って美鈴さんとはエヴィーさん以上に口をきかずにいたけど、今そんなことをしていたら死んでしまう。やっぱり死にたくないと思ってる。だからその方法を探しにこんな場所まで2人を連れ出してしまった。
ダメだな。自分の心がまとまらない。
いっそ許してしまえば楽なのか。
「なんだか大きいのが来てる」
美鈴さんが言う。5000㎞を超えてさらに10時間ほど経過した時のことだった。ふと海上に魚の背びれのようなものが現れる。普通の人間なら船の中にいるのだろうが、私たちは探索者だ。やはり船よりも自分の肉体の方に自信がある。
美鈴さんに【自然化】を唱えてもらって、船は自動運転にしていた。エヴィーさんは先ほどからずっとリーンと人獣合体をしている。ラーイも出して美鈴さんと二人乗りをしている。
黒桜は姿を隠す魔法も持っているらしく、正直私はこの猫がちょっと怖いけど、乗せてもらっていた。
《緊張しなくていいにゃよ。黒桜には何の敵意もないにゃ。それより主たちと仲良くなってくれて嬉しいにゃ。ありがとうにゃ》
《うるさい》
この猫ちょっとお母さんみたいなんだ。それも苦手の原因だ。私のことを見逃さず、いつも見守ってる。それが嫌だ。だったらどうして捨てたんだ。見えていた魚の背びれはどんどんと巨大化してくる。
海上にその姿を現してきて、海自体が盛り上がっているように見えた。地球では絶対に見かけないような巨大魚だ。100mをゆうに超えている。
昔存在したというメガロドンという魚に近づいてくるほどに似ていると分かってきた。
「あちゃー、こっちに来ちゃってるね」
「私たちを目標にしてますよね」
「あいつら嘘ついたわね。1万㎞を超えてもこの船なら滅多なことでは見つからないって言ってたのに」
「仕方ありません。ここでは“探索者を超える技術はできるだけ作らない”が基本ですから。私が倒してきます」
スピードを出すために黒桜から降りる。
「一人でいいにゃ?」
「こっちの方が速いもの!」
私は口にした瞬間、【光天道】を唱えた。巨大魚にとってはきっと、虫にも似た小さな存在が、一瞬にして目の前にいた。そのことに驚いてる。こんな虫にしか見えない存在でも敵だと知ってる。人間を知ってる。知能が高いんだ。
水流が渦巻き出す。海上に巨大な水の槍が現れた。魔法を唱えるのか。巨大な槍が向かってくる。私に衝突する寸前で【爆雷槍】に射貫かれた。驚いてる。表情がある。人間並に考えてる。
「それなら理解できる? どんな味がするのか。3枚におろして味わってあげるわ」
【極光】
自分でも眩しいと思うほどの光が明滅した。ただの光の筋が巨大魚を一刀両断にした。その魚の体を一部分だけ斬り取って、持ち帰って、お刺身にして食べてみた。「案外美味しいね」と3人で舌鼓を打った。
私もだけど意外とこの二人もタフだなと思わされた。





