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第二十話 階段探索

 新しいスマホは探索者用のスマホであった。お値段はなんと50万円。驚きのボリっぷりである。探索者用のスマホは日本とアメリカが共同で開発したもので、高いが優秀でダンジョン探索のスピードが飛躍的に上がる。


 というのも、この広い空間を地図もなしにうろついたら下手をしたら迷子になる。迷子になったら終わりである。直径100㎞もあるこの円の空間を死ぬまで出られないなんてことが普通にある。


 そこでこのスマホには地図アプリが入っていて、ダンジョン内での自分の位置がわかるのだ。パーティー仲間との相対位置もわかるようになっていて、これさえあれば迷子の心配がない。


 ダンジョンではそれはかなり切実な問題なので、まず先に買った。新しい武器等は、1階層のレベル限界3に到達したことでこれ以上必要がなく、エヴィーが来てから買おうということになっていた。


「美鈴、とにかく10㎞まで離れよう」

「了解」


 ダンジョン内は、直径は100kmで、高さは10km。筒型になっている。

 10kmより上は見えない壁があり、こちら側からは電波すら通さないと言われている。それを利用して、この地図アプリは見えない壁を反射した電波を感知して、立体的に空間を捉えてくれるのだ。


「これ、本当に分かりやすいな」

「そりゃ50万円もするんだもん。それぐらいちゃんとやってもらわないと」

「今で入り口から6km離れたって」

「マジかー。なんか全然進んでる気がしないわー」


 美鈴がうなだれた。今でもゴブリンから逃げながらひたすら移動することで、かなり疲労が蓄積している。これを二人でやるのもかなり疲れる。それでも走った状態でいられるのだから以前とは桁違いの持久力であった。


 俺たちはそこからさらに10kmのところまで走り切った。二人とも目的の10kmまで離れて、激しく息をした。ゴブリンから見つからないように、見つかっても殺さないように逃げて結構な体力を使った。


「ここまで来ればよっぽどのことがない限り大丈夫よね」

「そう思いたいよ」


 何しろ穂積達はレベル100以上。

 というより今ダンジョンには新人がおらず、穂積達以外でもレベル100以下のものはいないという話だ。レベル3の俺たちとは何もかもが違う。

 俺たちはここまで来るのに1時間ほどかかったが、レベル100のものが、ここまで来ようと思ったらおそらく5分もかからない。もしも中レベル探索者なら1分もかからない。


「じゃあちょっと休憩」


 もうこれ以上無理と美鈴が座り込んだ。俺もかなり疲れて腰を下ろした。


「祐太、穂積たちってなんで女の人殺したんだろうね」

「言えてる。そんなのしなくてもレベル100超えたら、富裕層なのに」

「ね、レベル100って、いま世界にどれぐらいいるか知ってる?」

「12万人ぐらいだったと思う。ダンジョンの数が今世界に約6000個だから、一つのダンジョンで20人の人がレベル100になれているぐらいだね。日本は世界平均の倍ぐらいいるらしいよ」

「穂積も十分凄いんだよね」

「そりゃもう凄いよ。レベル100ならブロンズガチャが引けるし、楽にガチャコインを集めるだけで年収1億は超えるはずだ」

「それだけじゃ満足できなくなっちゃったのかな」


 見晴らしのいい場所だったので背中合わせで地面に座った。


「祐太、空気が気持ちいい」


 美鈴がまた手を出して繋いできた。ちょこちょこと動いてくると向かい合わせで隣に座った。お互いの反対方向も見えるが、お互いの顔も見ることができた。


「さて、どうやって階段探索していくの?」

「地図アプリを見ながら虱潰し」


 地図アプリは50万円もするだけあり優秀だ。自分が移動した場所の足跡も表示してくれる。おまけにこちらの条件を打ち込むと一番ロスのない道順を自動で表示してくれる。サバンナには道などないので、これが非常に助かるのだ。


「虱潰しかー」

「まあ初級ダンジョンだと1階層の中に運び込まれたヘリコプターを使って上空から探すこともできるし、ジープも運転手付きで借りれるらしいよ。1月1日の全世界レベル上げデーの時はそれを利用する人が結構いるんだって。でも、楽をした分だけ、次のレベルが上がる時にステータスの上がりが悪くなる」

「厳しいなあーと。でもステータスは大事だーね」


 美鈴は不意に自分のステータスを開いた。


名前:桐山美鈴

種族:人間

レベル:2→3

職業:探索者

称号:新人

HP:12→18

MP:9→14

SP:11→16

力:12→17

素早さ:12→17

防御:12→17

器用:14→19

魔力:12→16

知能:14→16

魅力:43→46

ガチャ運:1

装備:ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)

魔法:ストーン級【レベルダウン】(MP3)

スキル:ストーン級【精緻一射】(SP2)


「ダンジョン探索でちゃんと走っといたら、また魔法とかスキル出てくれるかな」


 美鈴は自分のステータスを見てニヤついた。レベル3になった時に今度はちゃんと魔法とスキルが出たのだ。


「俺は今回出なかったのになあ」

「弓兵ジョブの【精緻一射】とデバフの【レベルダウン】だよー。いいでしょ?」

「うん」

「ふふんー、祐太。苦労した分の見返りは十分あったね」

「そうだね。【精緻一射】が弓を打った時の命中率が上がって、【レベルダウン】は敵のレベルを1下げるだったよね」

「まあどっちも祐太のやつみたいな使い勝手の良さは無いけどさ、これはこれで使いようだと思うんだよね」


 美鈴はよほど嬉しかったのかまだニヤニヤしている。美鈴が嬉しそうなので俺まで嬉しくなった。


「美鈴」

「何?」

「今日はとりあえず探索は二人でやって、明日からは分かれてそれぞれ探索しようか。ルートは地図アプリが教えてくれる。まあ別れて探索するのは明日からだけど一人でも大丈夫だよね?」


 この円筒形のだだっ広い空間をしらみつぶしにしようと思ったら、手分けをしないととんでもない時間がかかる。そのためレベル3までなれば分かれて探索するのがベターだと言われていた。


「大丈夫。ここからはレベルを上げる必要もないから拳銃使い放題だしね」

「穂積達のことだけど」

「2人の時に見つかっても1人の時に見つかっても一緒。レベル100以上の人たちなんてレベル3がどれだけ居たところで有象無象にしか見えないでしょ。ごめんなさいして許してもらうか、変なことをされる前に死ぬか。それぐらいしかないわ」

「そうだよね」


 もう一度考えてみる。甲府は初級ダンジョンで上にいけなかった人たちがくすぶっている場所でもある。その分鬱憤が溜まっている探索者も多いという。逆に池袋には上を目指すもの以外にないという話で、池袋で探索者をしているというだけで憧れもされる。


 だが……。だめだ。やっぱりどっちが正しいのかわからない。


 階段探しもたいていの探索者は一人でやるのが当たり前だという。階段探しの段階に入るとレベル限界に到達しているので、ステータスをうまく上げられた探索者たちにとってはモンスターはその頃には脅威でなくなっている。


 レベルを上げる必要がないから拳銃だって使える。美鈴にはアリストを預けてあるから、不意打ちを食らっても大丈夫だ。


「一応戦闘訓練代わりに近接戦闘もしていこうと思ってるんだけど」

「わかってる。でも私、弓のスキルが出たってことは、弓兵ジョブになったってことだと思うんだよね。だからこのまま弓兵に特化していきたいから、近接戦闘よりも弓で打ち抜いてやろうかと思ってる」


 自分のジョブがなんなのかは本当のところは職業と称号欄が変わらない限りは分からない。レベル100になると、職業欄の探索者、称号欄の新人を卒業して別の表示が出て、ようやく自分のジョブがはっきりする。


 ただ生えてくる魔法とスキルからある程度の予測はできるので、そこから自分自身の育て方を決めていくのだ。


「それぞれにやらなきゃいけないことが違うってことか」

「そ。で、このやり方で1日どれぐらい進むの?」

「レベル3の人間で1日の移動距離は150kmって言われてる。もちろんゴブリンに邪魔されながらの移動距離だよ」

「150km!?」


 思った以上の数字に美鈴が驚いたようだ。


「人間はレベルアップしてなくても鍛えたら、1日でそれぐらい走れるよ。レベル2でアスリート並って言われて、レベル3で人間の限界を超えるって言われてる。人間の限界を超えた時点で、それぐらい走れるようになるのが普通らしいよ」

「明日に疲労残らない?」

「ポーションがある。10万円のポーションで体に溜まった疲労ぐらいなら完全回復させられるらしいよ。俺ガチャ運5だし、美鈴は神話級の100万飛んで1らしいからそれぐらいの出費は大丈夫だ」

「あ、ああ、そっか。そうだったね」


 自分で言っておいてちょっと恥ずかしいのか顔が赤くなっていた。


「1日150㎞の移動で、1週間~15日ぐらいが1階層にかかる探索の時間になるそうだよ」

「階段探して1週間以上も走り込むのか。部活みたい」

「1階層で怖いのはゴブリン、しんどいのはマラソンだってさ」


 それから俺たちは、お互い地図アプリを確認しながらゴブリンの警戒もして階段探索を開始した。襲ってくるゴブリンはほとんど拳銃で仕留めた。


 進路上に発見次第走りながら拳銃を撃つ。レベル3になってくると片手打ちでも何の負担も感じない。一応の戦闘訓練もあるので、定期的にわざとゴブリンを残して、俺は近接戦闘、美鈴は矢で射抜くことを繰り返した。


 俺があっさりゴブリンの首を切り落とせば、その隣で美鈴があっさりゴブリンの頭を射抜く。


「しかしまあゴブリンって、こんなに弱かったっけ?」

「俺たちレベル3だからね。ボクシングのヘビー級チャンピオンより強いんだよ」

「ああ、あれはひどかった」


 有名なアメリカの企画番組の話だった。その番組でレベルアップによる人間の変化の実証実験を行ったのである。当時のメディアはダンジョン反対派が占めていて、レベルアップなど何の意味もないと説明するつもりの企画だった。


 ヘビー級チャンピオンとレベル3の46歳主婦の戦い。


 リング上に上がった両者を見て誰もがレベル3になっただけの主婦が公開処刑されるだけの趣味の悪い企画だと思った。しかし結果は正反対になった。その戦いとも呼べない一方的な暴力は誰の目にも鮮やかに残った。


『【レベルダウン】』

『へいへい、なんだ今のは? 呪いか何かか? いや、か、体が重い!?』

『どう? レベル1がレベル0になった気分は?』

『探索者! 俺様に何をした!?』

『こんなの使わなくても勝てるんだけどさ。か弱い女だと思って許してよ』


『お、おい! 魔法とスキルの使用は禁止と言ったはずだ!』

『ふざけるな試合中止だ!』


『続行しろ!』『魔法とスキル禁止とかそれで何の実証になるんだ!』『やっれ!』『やっれ!』『やっれ!』『やっれ!』『やっれ!』『やっれ!』


 結果はあまりにも一方的だった。レベル3の46歳主婦がヘビー級のチャンピオンを簡単に殴り倒した。あまりの衝撃的な光景に八百長が疑われたが、その後どのスポーツ分野でも、レベル3になった人間に普通の人間はかなわないことが証明されていった。


「ギャギャ!」

「よっと! なんか最初の罪悪感なくなってきて怖いわー」


 美鈴が襲い来るゴブリンの体を寸前で射抜いてしまう。徒党を組まれると危ないが、それは拳銃であっさり処理して、そうして慣れれば慣れるほど、一度に倒す数を増やした。


 そんな調子で順調に探索は進んで、休憩になる。休憩中の時はお互いが見張りに立って、生理現象が起きていた場合は、お互い離れることなくそばで済ませる。

 おしっこをするのもだんだんと抵抗がなくなり、横で、美鈴が終わらせてズボンを履いていた。まあだからって俺が平静でいられるかというとそうではないが。


「私、見張り交代するから、祐太も早く済ませちゃって。で、何体ぐらい?」

「あ、ああ。美鈴がゴブリンを35体倒してる。俺は40体ぐらいかな。拳銃で倒したぶんも含めると2人で300体は倒したかも」

「あの辺の森の中とかって大丈夫かな?」


 サバンナと言っても全部草が生えているだけではない。草が生えていない地面がむき出しのエリアもあれば、低木が密集している森エリアもある。そちらの方を見ながら美鈴がそばにいるのに緊張して、それでもなんとかトイレを済ませた。


「まあ多分。下に降りる階段は畳2畳ぐらいはあるらしいし、それが地上に2mは盛り上がっ」パンパンパン!


「うん?」


 その時、不意に拳銃の音がした。


「誰が撃ったの? 祐太じゃないよね?」

「俺じゃないよ」


 探索は順調だった。 ゴブリンを倒すのも問題がなかった。しかしそれゆえに気が緩んだ。その拳銃の音は自分たちのものではなかった。拳銃の音がした方向を見る。


パンパンパン!


「また拳銃の音?」


 かなり目を凝らさないと見えないが、低木の陰から、ゴブリンが低い姿勢になって拳銃でこちらを撃っていた。俺は自分の腕を見る。銃弾がめり込んで血が出ていた。


「撃たれてる?……うそ?」


 撃たれたことにすら気づかず、銃痕を見て初めて痛いことに気づいた。


「祐太、大丈夫!?」


パンパンパン!


「美鈴!」


 俺は急いで美鈴に覆いかぶさった。今度は背中に何か当たった気がしたが、ポリカーボネートの盾がバックパックにくくりつけていて防いでくれた。バックパックごとそれを盾にして慌てて身を伏せた。美鈴の体ごと押し倒して草むらの中に隠れた。


「馬鹿! 私首飾りあるから大丈夫なのに!」

「ご、ごめん、抱きついて」

「そんなこと気にしてない!大丈夫?」

「はは、背中に銃弾が当たったみたい。大丈夫、盾を背負ってるし、ボディアーマーでも防いでくれる。まあ腕は痛いけど。いてて」

「ちょっとどいてポーション、ポーション!」


 慌てて美鈴がバックパックの中からポーションを取り出した。南雲さんからもらったものだった。


「美鈴、俺は腕を撃たれただけだ。流石に1000万円はもったいないよ」

「でも背中に当たったって!」

「盾で防いだってば。全然何ともないよ。あの被害者の女の人が持ってたポーションで十分だ」

「あ、ああ、え? 祐太、大丈夫よね? 急に死んだりしないよね?」

「落ち着いて。腕を撃たれただけで死んだりしない。それより、やっぱりゴブリンガンナーいたか」


 なかなか見かけないので拳銃を持ったゴブリンなどいないのかと思っていた。だが、ちゃんといたようだ。俺はバックパックからポーションを取り出し、あの被害者の女性にお礼を言いながら、口に運んだ。


 少し甘い味がして体が青白く輝く。弾丸が腕の中から出てきて、傷口が見事に塞がった。美鈴がほっとして、


パンパンパン!


 また拳銃の音がした。こちらが見えなくなっているようで次は当たらなかった。何よりも距離が離れている。あれじゃ拳銃はほとんど当たらない。


「やっぱりゴブリンだ。俺たちを見失っているのに撃ったり、射程外だったり、そこまで賢いわけじゃないみたいだな。美鈴、ちょっとガンナーを倒してくる」

「私も一緒に行く」

「俺の方がステータスは高いんだし、大丈夫だって」


 何よりもかなり間の抜けた撃たれ方をしたのが格好悪かった。 美鈴に格好良いところを見せたかった。


「そうやってなんでも祐太に危ない事やってもらったら、祐太とどんどんステータス差がついてきて、私は祐太についていけなくなっちゃうよ。一緒にやる。私と祐太は同じパーティーでしょ?」


 決意を込めたように美鈴が俺を見ていた。


「それにもう一体拳銃持ってる奴がいたらどうするの?」

「ここまで現れなかったのに急にそんなに持ってるやつがいっぱい現れたり……」


 しないだろうと言いかけて美鈴に睨まれているのに気づいた。


「わ、分かったよ。じゃあ美鈴はさっきの銃弾に当たってないから、まだ首飾りのバリアはMAXのままだ。それを生かして立ち上がって矢を撃ち込んでくれ。50m以上離れてるし、あんな距離じゃほとんど当たらないよ」

「わかった」

「俺はこの盾でガードしながら近づいていってみる」

「大丈夫? 死なない?」

「大丈夫だ。信じて」


 美鈴が頷くのを見て、草むらの中でしゃがんでいたのを立ち上がった。盾を前に構えて走りながらジグザグに進んでいく。ゴブリンの姿が少し見えた。100mほど先の低木の陰で、身を隠しながら、拳銃を構えてこちらにまた撃ってくる。


 だんだん距離が近くなってくるほどに命中してくるが盾で弾いた。


「【精緻一射】」パシュッ


 美鈴の声。

 鋭い音が鳴る。

 スキルを使った矢がまっすぐ進んでいくのが見えた。ガンナーは立ち上がった美鈴に気づいて拳銃を撃つ。5発の銃声がした。だが、首飾りのバリアが防御していた。心配はないはずだ。


 グサッとゴブリンの額に矢が命中した。スキルが効いて、かなりの精度だ。


「やった!」


 思わず美鈴がガッツポーズを作ってる。ゴブリンガンナーがやられたことで、他の仲間が一斉に草むらから立ち上がってきた。6体もいる。 一気にこちらに襲いかかろうとしてくる。


パシュッ


 それをまた美鈴の矢が捉えた。今度はスキルを使っていないようだが、レベル3になったことで正確さが以前よりも増していた。体をとらえることができて、走ってきていた1体のゴブリンがもんどりうって倒れた。チャンスだと思うが、ゴブリンの一体が、ガンナーの拳銃を拾おうとするのが見えた。


パシュッ

パシュッ

パシュッ


 それをさせまいと矢がどんどんゴブリンへと飛んでいった。俺が近づき切る10秒ほどの間に10本以上放たれて3体が倒れた。俺に残りの2体が向かってきて、もう1体が拳銃を拾おうとしている。その拾おうとしたゴブリンを再び矢が仕留めた。


【二連撃】【石弾】


 俺はスキルと魔法の出し惜しみをしなかった。もしも拳銃を拾われたら、先ほどよりも近づききっている自分の身が危うくなる。だから確実に殺す方法を選んだ。ゴブリンが三枚におろされて、もう一体の胸を石の弾丸が穿った。


「よし! 美鈴これで全部だ!」

「うん! 祐太! やったね! 私の矢めちゃくちゃ当たったよ!」


 美鈴が嬉しそうに声をかけてきた。笑顔で走り寄ってきてくれるのが嬉しかった。そのまま抱きつかれると惚れられているのだと勘違いしたくなる。胸もドキドキしてくるし、やっぱり俺は美鈴が好きだ。


「なんか、ゴブリンガンナーって思ってたより少ないね。DランのSNSとか見ると結構出るようなこと書いてたけど」

「あ、ああ」


 そのまま抱き付かれたまま喋られた。ああ、この体勢、幸せです。できれば永遠に続いてほしいです。


「祐太、聞いてる?」

「あ、ああ、そういえばそうだね。でもゴブリンガンナーって、Dランとかでしか目撃例がそんなにないんだよ」

「へえ、なんで?」


 ボディアーマーをお互い着ているからそこまで気持ちいいわけではないが、それにしても美鈴は意外とスキンシップが激しい方なんだな。それってとてもいいと思います。


 一方で俺は美鈴の言葉が気になった。ガンナーは思った以上に少ない。俺と美鈴がガンナーを見たのは初めてだった。それはつまり池袋ダンジョンで拳銃を使う探索者がほとんどいないということだ。しかしDランではどうだろう?


「拳銃をよく使うってことか」

「どうかした?」

「いや、きっとDランでは拳銃を持ってダンジョン探索して、拳銃をそのままダンジョンの中に残しちゃうやつが多いんじゃないかと思って。それならレベルを一つ上げるのに一学期全部使っちゃう理由も分かるかなって」

「うん?」


 何のことかまだ分からない様子の美鈴に俺は肩をすくめた。


「ああ、今私のこと馬鹿にした! 絶対バカだって思った!」


 そんなに間近でぴょんぴょんして息をかけられたらドキドキするじゃないか。


「そ、そんなことないよ。ただ池袋だと初心者の人がほとんどダンジョンに入ってない。だから、拳銃持ってるゴブリンも少ない。でもDランは生徒に拳銃を持つことを推奨してるんじゃないかな。結果としてゴブリンにビビって逃げ出した人とかがダンジョンに拳銃を残しちゃう。そしてそれをゴブリンが使う」

「もしそうならDランはゴブリンガンナーだらけだったりする?」

「わかんないよ。南雲さんは拳銃だとレベルが上がらないって言ってた。そのことが分かってないとも思えない。でも、俺達みたいな拳銃と刀と弓の併用した使い方でも、Dランになると人数が多いから大量に持ち込むことになるしな」

「それをゴブリンが大量に使うわけか」


 美鈴は興奮していた気持ちが落ち着いたのかあっさり俺から離れた。すごく残念だが、距離が近すぎて緊張しすぎるのでホッとした。


「あ」

「どうしたの?」

「ガチャコイン発見!」


 またもや美鈴が見つけていた。美鈴はガチャ運は悪いが、ガチャコインを見つけるのは得意らしい。


「これでまたガチャが引けるね」

「美鈴、それは俺が回すからね」

「私が見つけたのになあ」


 いかにも自分のものという顔をしている美鈴。

 それでも俺は今度こそ譲らないぞと強い意志を持った。何しろ探索者はいくらでもお金がいるのだ。お金があればあるほど良いアイテムを買うこともできるし、そうすれば美鈴が生き残ってくれる可能性ももっと高くなる。


「明日からは多分一人なんだから、その時に見つけたのは個人が引けばいいじゃないか。もちろん美鈴がお金必要なら俺が引くけどね」

「せ、専用装備出したいから自分の分は自分で回さないとね。で、でも、1枚だけ祐太に預けようかな」

「はいはい」


 専用装備。その人、専用に出てくる装備のことで、ストーンガチャから出てくるものとしては最強だ。アグニなどの桁違いの装備は、ストーンガチャではどんなに頑張っても出てこない。ただガチャには別枠で虹色カプセルというのがある。


 不思議とこれはガチャ運が悪い人の方が出てくる確率が高いといわれ、虹色カプセルには制限がないとも言われていた。ほとんど出たという話を聞いたことがないが、唯一これを出したというので有名なのが鬼の田中だ。鬼の田中はこの虹色カプセルを引き当てたことでレベル1000に到達できたともいわれていた。


 俺は多分ガチャ運がかなりいいので、専用装備を揃えてしまうことができるだろう。専用のスキルもあるという話だからかなり楽しみだった。俺の専用装備は何という名前の装備なのだろう。


 そして美鈴に専用装備が一つでも出てくれることを心から祈った。ともかく一旦昼食を挟んで、さらに下の階層へ降りるための階段を探すことを続けた。

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― 新着の感想 ―
…漫画…?って事はよぉ…あるんだよね?あのシーンが…(。´´ิ∀ ´ิ)
田中さんは何で鬼って二つ名がついたのかな
[良い点] 美鈴が自分の貧乏神話級にガチャ運が悪いのを理解してくれて良かった
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