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第百七十三話 明日の手紙

「祐太のガチャさー。なんか1つよく分からないのがあるね」


 美鈴が言った。ブロンズガチャの中から俺は30個のルビーカプセルを出した。大収穫だ。ブロンズアイテムがその中から様々に出てきた。その中でも1つ、名前を見るだけでは意味のわからないものがあった。


「これ、


【明日の手紙】


って、どういう意味?」


 アイテムは自分が持つと名前だけステータスに表示される。その機能を使ってブロンズアイテムである【明日の手紙】というものを確認している。アイテムの名前だけが分かった。しかし仕様が分からない。


 ブロンズガチャから出てきたのだから、かなりいいものだとは思う。当然中身は全てブロンズアイテムだし、普通の手紙が入っているだけではないと思う。だが、名前がすごく平凡なのだ。


「黒桜、知ってるか?」


 白蓮様の飼い猫だったために色々なアイテムに精通している黒桜。ブロンズアイテムに関しては全部知っているんじゃないのかと思えるほど詳しいのだ。


「……どうしてこんなものがブロンズガチャから出てくるにゃ?」


 とても不思議そうに黒桜はブロンズガチャから出てきた【明日の手紙】を見ている。白い封筒に包まれたそれは、外から見ている限り何か特別なものがあるとは思えなかった。ごく平凡な白い封筒の中身を確認してみる。


 小さい紙切れが1枚入っているだけだった。


「祐太。気をつけるにゃ。それ他の探索者には手に入れられないとてもいいものにゃ」

「そうなの? でもブロンズガチャから出てきたから、他の誰にも手に入れられないってことはないだろ?」

「ブロンズガチャには、個人にしか出てこないアイテムが専用装備とは別にもう1つあるにゃ。【明日の手紙】は多分祐太専用のブロンズアイテムにゃ。その小さい便箋。なくすと【明日の手紙】は使えなくなるにゃよ」

「え……そうなの?」


 黒桜からそう聞くと俺は、その小さい便箋をとりあえずなくさないように白い封筒の中に戻した。


「……祐太はやっぱりかなり変わってるにゃね」


 何か物珍しそうに、マークさんに抱きかかえられていた黒い猫が床に降りて俺の足元に来た。


「そうか?」


 やはり俺は特別なのか?


 特別だったら嬉しい。


 ずっとそうなりたいと願っていたから。


「そうにゃ。【明日の手紙】は()()()()()()()()にゃ。白蓮様が言ってたにゃん」



『わしでも時間に干渉するのはあまりうまくいかんのじゃ。できんこともないんじゃが、うまくせんと別の世界が出来るだけになってしまうのじゃ。でも友人はとてもそれが得意でな。別の世界が出来ずにうまく今と融合させてしまう。これはそのものからもらったものじゃよ』



「って、同じものを10枚ぐらい持ってたにゃ」

「白蓮様が……」

「ということは白蓮様がカプセルに入れたってこと?」


 美鈴が聞いた。白蓮様。かなり謎の多い人物で、おそらく1000年は生きている大八洲の元勇者と思われる人。そして なぜかエヴィーに力をくれた人。おかげでエヴィーはラーイを進化させることができた。


 それがなければ統合階層のクエストをエヴィーはこなせなかったと言っていたのだ。


「そんなことまで知らないにゃ」

「まあそりゃそうか。で、これどんなすごいアイテムなの?」

「明日書いた内容が、今日、その手紙の中に浮かび上がるにゃ」


 俺はその効果を聞いた瞬間サブイボが立った。


「……思った以上にすごかった」

「それは言ってみれば完全な未来予知でしょ?」


 エヴィーが戸惑ったように口にした。


「そうにゃよ」


 そしてエヴィーは自分の召喚獣のことではあるが、黒桜を奇異に見る。


「随分あっさり言うのね」

「言うにゃ。祐太は、これが出てきたってことは時間を移動できる可能性があるってことにゃ。それはルルティエラ様がよほどのことがない限り許さない権能の1つにゃ」


 いや、だからお前なんでそんなこと知ってるんだよ。というツッコミはこの際誰もしなかった。


「ダンジョンに好かれている祐太ならありえると?」

「でも制限はあるにゃ。その手紙も使用制限があって昨日に送ることができる文字は10文字までにゃ。明日の自分がそこに書き込むといつの間にか今日の自分が持つ【明日の手紙】に文字が浮かんでるらしいにゃ。一度使えばそれっきりで、読んで確認すると手元から消えるそうにゃ。だから使ったことを自覚することもできない。そういうアイテムらしいにゃ」

「……いくらでも言葉を送れるってわけじゃないのか」


 例えば【13時に伊万里が死ぬ】と書いて送れば、俺は伊万里を守るために13時に全力を尽くせる。1枚だけしか出てこなかったのは残念だが、一度だけ悲劇的なことが起きたとしても回避できることは非常に大きかった。


「ねえ、その場合変わった後の時間軸は消えちゃうってこと?」


 美鈴が聞いた。言葉の使い方からしてアニメかドラマでそういうのを見たことがあるようだ。時間軸。俺も何度か聞いたことがある言葉で意味は分かった。


「多分そうにゃ。でも詳しくは分からないから、白蓮様に会ったら聞いてみたらいいにゃ」

「そっか……。ダメな時間はなくなるならいいね」


 それはそれで何気に怖い。個人の悲劇のために全体の世界が消えたことになるのだから。というか本当にそんなことが可能なのか? 時間を移動する。米崎ならそういうことを何か知ってるだろうか。


 もうすぐ会うので聞いてみようかと思った。ともかく大事にとっておかなければとマジックバッグに収納しておいた。これから毎日これを確認することにしようと思った。


「ところでさ。これって……」


 そして美鈴はもう一つ俺がブロンズガチャから出したアイテムで気になるものに目を向けた。俺も気になっているものだ。それはとても感慨深いものだった。俺たちにとっても最も馴染みのあるブロンズアイテムである。


「【アリスト】って本当にここにあったんだ」


 南雲さんが最初にくれたアリスト。それが俺のガチャからもついに出てきた。アリストに何度命を助けられたことか。これがなければ今ここに俺は存在していない。1階層で野垂れ死んで、ダンジョンの肥やしになっていたはずだ。


「祐太がこれを貸してくれてなかったら私死んでただろうな。まあだからって今更って感じがものすごくするけど」

「それは言えてる」


 正直、HP100分の防御力というのは今となってはかなり微妙で、俺も含めて全員、もう首にはつけていなかった。何しろ今相手にしているブロンズ級探索者の攻撃ならば一発でガラスのように割れてしまうのだ。


 つけていたところで、敵の攻撃のタイミングが変にずれてしまい、戦いにくくなってしまう。なので大八洲からはアリストをつけることをやめていた。


「今更出ても仕方ないわね」


 エヴィーも言ってくる。最初の頃にものすごくお世話になる【アリスト】なのだが、今必要かと言われたらいらない。


「そうなんだよな。なんのためにここで出てくるんだろうな」


 正直ストーンガチャで出てきた方がいいと思うレベルだった。


「あ、そうだ」


 とは美鈴が言った。


「うん?」

「使わないなら使う人にあげたらどうかな」

「まあそうなるか。買えば結構高いものだし」


 探索者にとってはレベルが上がれば役に立たないものではあるが、初期の頃には十分役立つ。それに交通事故程度なら無傷で生還できることもあり、探索者本人が使うよりは、余裕の出てきた探索者が知り合いにプレゼントするものかもしれない。


 まあ金カプセルから出てきたものだったりする。金カプセルの中身にもストーンとは違うものがあるということか。それにしても誰にあげるか……黒木にあげるか。でももう三階層も終わりに差し掛かっているだろうしな。今更微妙か。


 いやなんだか感覚がわからなくなってる。三階層ならまだ必要だった気がする。あと思いつくので親父だ。もう縁が切れている相手である。それでも未だによく親父のことは思い出す。一応生きていてほしいぐらいは思っていた。


 親父ももうこの急激に変わる世界で、ダンジョンに反対などとは言ってられないはずだ。とすると今頃勝手がわからず右往左往している気がする。そしてそれを最も知ってそうな俺とは話しづらい。


「意地っ張りな人だからな……」


 こちらから声をかけなければ絶対に声はかけてこない。それも含めてレベル200になったら様子を見に行ってもいいかと思った。なんというか……そう。今となっては少し心に余裕ができていた。


「エヴィーの方はどうだった?」


 でもやっぱり黒木にあげた方がいいか。それとも黒木のパーティー分購入してあげて、これは親父にやればいいか。考えながらも、エヴィーに尋ねた。何しろ金カプセルが8つ出たのだ。今回でストーン装備がかなり揃ったはずだ。


「ストーンの専用装備が2つあったわ。ルビーは専用装備はなし。本当はストーンが3つだったら嬉しかったのだけど、こればっかりは仕方ないわね」


 エヴィーは言いながらも装着して見せてくれた。【コーリエの魔法衣】と【マント】と【髪飾り】。そして【杖】である。今回で専用装備が4つ。いよいよエヴィーも専用装備を着ているという感じになってきた。


 青色が基本になったその服は、エヴィーの雰囲気とマッチしていて、気品すら漂わせている。でも、この調子で行くとブロンズエリアでもエヴィーの専用装備は完全には揃わないようだ。


 やはりエヴィーは自分自身の強さよりも、召喚獣の強さが何よりも大事なのかもしれない。


「マークさんは?」

「俺は二個増えてこれで三つだな。まあ見た目は全然変わらないんだけどよ。これってどうなんだ?」


 それに続いてマークさんも、専用装備が2つ増えていた。これで【ボルドの魔銃】【ボルドの背広】【ボルドのサングラス】が揃い踏みである。しかしそれはシークレットサービスの黒服みたいなもので、見た目に変化がない。


 正直言って専用装備を着ている感じは0だった。


「まあマークさんはよく似合ってるからいいんじゃないですか?」


 思わず笑ってしまいながら言った。


「そうか……なんか俺も祐太みたいにかっこいい甲冑とか着たかったんだけどな……」


 しかしマークさんは不満そうだ。まあ全員がファンタジーな姿になっていくのに、1人だけどう見てもシークレットサービスだもんな。マークさんの背中には哀愁が漂っていた。


「伊万里は?」

「私は“ブロンズ”の専用装備が一つ出たよ」


 伊万里は嬉しそうだった。


「どんなの?」


 ガチャ運3だと順調に行けばある程度はブロンズ装備も出るのか。伊万里が見せてくれた。


【霊光玉】


 という首飾りになっていて、淡く白く光っている玉だ。なんというか見ていると安心する。人を落ち着かせる効果もあるのだろうか。


「へえ、胴鎧じゃないんだ。伊万里の装備は変わったのが多いな。この間は【清明の剣】だろ」


 やはり伊万里は特殊な何かがあるのか。そんなことを考えさせられる。


「うん、それは分からないけど……。あ、ストーン装備もまた2つ出たよ」


 伊万里はこれでストーン装備もかなり揃ってきた。


「じゃああと2つで全部か」


 みんなの装備の数はちゃんと覚えてる。伊万里はここまでで6つの専用装備が出ていたはずだ。


「うん、この調子で行けばなんとかこの大八洲でエンデのストーリーを開放させられるかも」


 エンデのストーリー。それは俺もかなり興味があった。というのも伊万里の専用装備には、明らかに勇者らしき何かがあった。だからこそエンデというのは、高確率で勇者であった可能性が高い。伊万里とは別の勇者のストーリー。


 道半ばで死んだのかもしれないが、それがどんなものだったのかとても興味があった。

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― 新着の感想 ―
タイムパラドックスへの挑戦はリスキーだなぁ せっかくステ制が破綻無く機能してるし、ご都合主義強まるから萎える
[一言] 明日書いた内容が、今日、その手紙の中に浮かび上がるのなら、それは『昨日への手紙』なのでは?
[一言] とうとう追い付いてしまった……。 更新ありがとうございます。
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