第十六話 Side美鈴
「じゃあまた」
「うん、明日も今朝と同じ時間でね」
祐太の方が早かったけど私もレベル3に無事なれて、2時間ほどかけて甲府から国分寺駅まで帰ってきた。辺りはすっかり暗くなっていて、家に帰って、これから両親に怒られるのかと思うと憂鬱な気分だった。祐太の姿が遠くに消えていくまで見ていた。
「はあ」
祐太の姿が見えなくなると急に寂しくなる。
ほとんど何も知らなかったクラスメイト六条祐太。初めて知り合ったあの日、私は家出をしていた。親とダンジョンのことで揉めたのだ。どうしても、
『ダンジョン高校に行け』
と言ってくる親と、それに納得しない私。
受験が行われるあの日、両親からは『武蔵野ダンジョン高校まで送る』と言われていた。Dランまで送り届けられたらもう受験するしかない。それが嫌で、夜中にこっそり抜け出して、始発電車に乗って池袋ダンジョンに行ったのだ。
そしてそのまま私は池袋ダンジョンに入った。
入った瞬間に見たあのサバンナの光景。立ち上る陽炎の中、刀を持ったゴブリンの目が獰猛に光って見えた。私は怖くなってすぐに引き返した。そこにいたのが祐太だった。正直、すぐには名前が思い出せなかった。
『き、桐山さん。き、桐山さんもダンジョンに入るの?』
まさか私と同じ家出をしてきたのかと思ったが、向こうはそんな行き当たりばったりじゃなくて本気で探索者になろうとしていた。私はなんだか自分が急に恥ずかしくなって、バカなことを考えずに、Dランを受けようと思って家に帰った。
幸い私のたった3時間ほどの家出に、親は気づいてなくて、急にしおらしくなり、武蔵野を受験するという私に喜んでいた。でも自分はあの日の両親の言葉が悔しかった。
『美鈴、お前は無理しなくていいから、普通に結婚して、この家のそばに住んでくれ』
『そうよ美鈴。あなたは平凡でいいから』
私の姉二人はとても優秀な人たちで、優秀すぎて滅多に家に帰ってこない。だから両親は私はそばにいてほしいみたいだった。私はそんな両親が嫌いだった。父親は昔、いわゆるブラック企業に勤めていて、朝は早く夜は遅かった。
『ああ、疲れた』
『おい、肩を揉んでくれ』
『たかが係長のくせに威張りくさって!』
『年下なのに年上の俺に怒ってばっかりしやがって!』
『ああ、しんどいなあ』
自分で選んだ会社のくせに、会社の文句ばっかり言っている。
そんな情けない姿が嫌いだった。でも、いつもお姉ちゃん達はお父さんの肩を揉んであげていた。『大変な中働いてくれてるお父さんのことだから』とお姉ちゃん達は言ったけど、自分の選んだことに文句ばっかり言ってる姿が私にはどうしても格好悪いと思えた。
でも、それ以上に嫌いだったことが、あの頃も今もお父さんはいつも私とお姉ちゃん達を比べる事だ。
『玲香に芽依。お前たちは出世するんだぞ。俺みたいに会社にこき使われる人間になるんじゃない。玲香は頭がいいんだから国連にでも勤めろ。芽依はすごく美人だからアメリカでトップモデルを目指すんだ』
二人の姉はいつもお父さんからそんな夢物語を言われていた。
私はいくら姉達が優秀でも国連勤めとか、アメリカでトップモデルとか、そんなのになれるわけがないと馬鹿にしてた。でも、見事に二人ともその通りになった。
玲香お姉ちゃんは国連で世界を飛び回っているし、芽依お姉ちゃんは18歳で単身アメリカに渡って、本当にトップモデルになった。
だからお父さんの言葉は当たった。
『お父さんってやっぱり凄いのかな? 私も褒められたらすごくなれる?』
私はお父さんの言葉には、子供を凄くさせる不思議な力があるのかと思ったのだ。じゃあ私にも何か言ってくれればよかったのに、私が肩を揉んでも、お父さんはそんなことを言わず、
『お前は何の取り柄もないしな。無理しなくていいから、お父さん達のそばで住むんだぞ』
そんなことを言うだけだった。そんなお父さんは仕事をしていない。二人の姉の仕送りで、十分生活できるからブラック企業をやめてしまったのだ。姉達がお父さんに『辞めたほうがいい』と勧めたせいでもある。
そうしないと本当に死ぬんじゃないか思うぐらい、会社にこき使われてたからそれはいい。でもそれから働かなくなってしまった。いつも暇そうに家にいて、気が向いたら夫婦で旅行に行く。私も『一緒に行こう』と誘う。
でも、姉と比べられるのが嫌で、ついて行ったことはなかった。
自分は頑張らないのに、探索者として頑張りたい私に反対ばかりするお父さんは余計嫌いだった。でも、さすがに今日のことはやりすぎた。朝早くから書き置きだけ残していなくなった。
「『夜に帰る』じゃあ納得しないよね」
万が一にもダンジョンに探しに来たら危ないからと思って、行き先は書かなかった。どこの歌のタイトルだっていうような書置きを残して家を出てきた。
「帰るの嫌だな。祐太の所に押しかけようかな」
確か祐太はほとんど両親とは一緒に住んでいないと言っていた。それなら私が一緒に住んでご飯とか作ってあげたらいいんじゃないだろうか。妹さんが一緒にいるという話だけど、祐太の妹ならいい子に決まってる。
「よし、今日も怒られたらそうしよう!」
不穏な事を考えて、それでも両親とはできれば喧嘩はしたくなかった。
私はバックパックに祐太に貸してもらった物を忍ばせて、気合を入れる。
家が見えてくる。
お姉ちゃん達が両親のために買った家。
他の家と同じ作りで申し訳程度の庭がある。
「東京だから、これでも8000万ぐらいするって言ってたもんな」
これをキャッシュで買えた姉二人はやっぱりすごかった。バックパックの中に忍ばせたものも大概すごいものだが、この家には見劣りしてしまう。気が重くなりながら玄関の扉を開けた。
「ただいま……」
できれば両親に聞こえないようにと小さい声を出して儚い抵抗をする。しかしその目論見はあっさり破かれた。
「遅かったじゃない。ダメよお父さん達困らせたら」
玄関に出てきたのはお父さんでもお母さんでもなかった。
「美鈴ちゃんおかえり。ダンジョン怖くなかった?」
私は思わず二度見した。
「お、お姉ちゃん?」
玄関にいたのは二人の姉だった。
最初に腰に手を当てて言ってきたのは次女の芽依お姉ちゃん。レベルが3になってもまだこの姉の綺麗さに勝てる気がしない。身長180cm。22歳。姉妹の私ですら、遠慮してしまうほど美人。
きっと傾国の美女と言われる玉藻御前はこんな怜悧で、人間離れした顔をしてたんじゃないかと思った。
次に声をかけてきていたのは、玲香お姉ちゃん身長169cm。24歳。タヌキ顔で私や芽依お姉ちゃんと比べておっとりしているが、どこか人を安心させる可愛らしい人だった。
「お姉ちゃん達。何でいるの?」
二人とも忙しいなんてものじゃない。日本に帰ってくることも滅多になく、あちこちの外国を飛び回ってる。二人が揃った姿を見ることなどもうないと思っていた。
「何でも何もダンジョンよ。あっちじゃ今いろいろ大変でね」
「帰ってこなきゃいけないほど?」
私が不思議そうに尋ねた。日本にいるとダンジョンの中はともかく、 ダンジョンの外の大変さはよくわからなかった。
「こっちの人間は呑気なことを言うわね。あっちじゃビルの陰からゴブリンが出てくるのよ。護衛を付けてなかったら死ねるわ」
「アメリカはダンジョン崩壊からのゴブリンはもう一掃できたって聞いてたけど」
「表面上はね。でもまだ地下鉄とか下水に残ってるのよ。それが出てくるともう最悪」
「なんか不潔そうだね」
「おまけに連れ去られるしね。今はみんな武装して固まって行動してる。私も怖いけど掴んだチャンスだと思って、拳銃持って頑張ってはいたのよ。でも、どうも最近4階層のモンスターまで出てくるようになってさ」
「街中に4階層のモンスターが出てくるの?」
「夜の怪物よ。あいつら拳銃当たんないんだから」
夜の怪物。4階層から出てくることで有名なモンスターで、探索者でなければたとえ拳銃を持っていても相手にしてはいけないと言われているモンスターである。
そしてダンジョンのモンスターは4階層ぐらいから、レベルアップしていないとどうしようもない相手ばかりになってくるとも言われていた。
「これ以上は危ないからってもう帰ってきたの。ボスからも『レベル10になれ』とか無茶言われるしね」
「レベル10?」
「そ。今のモデル業界の合言葉みたいなものよ」
「私も同じ。『レベルアップしてこい』って、ちょっと前は勉強してキャリアアップを目指せって意味だったのに、今はリアルでモンスター殺してこいって意味なのよ。ちょっとは頑張ってみたけど、さすがにお姉ちゃんは無理だと思ったから帰ってきたの。日本でも言い始めてるんじゃない?」
「あー、そういえば、そんな話ネットで聞いたことある。会社の上司がいつのまにか探索者崩れに置き換わっていたとか、おまけにそっちの方が優秀だとか言うんだよね」
「そう、それ。美鈴ちゃん、あっちじゃもうそれが当たり前でね。食糧支援していたはずの貧困層の女の子がいつの間にか私の上司だったわ」
「外国からだと日本の渡航チケットは高いのよ。同僚から『日本に逃げるの羨ましい』って言われちゃったわ」
「そうなんだ。じゃあずっとこっちにいるの?」
比べられて劣等感を刺激されるが、優秀すぎるほど優秀なこの二人の姉のことが好きでもあった。尊敬もしていた。だから嬉しかった。
「それなんだけど」
「まあ美鈴ちゃん玄関じゃなんだから、こっちで話しよう」
ふたりは意味ありげな顔をしてリビングの方へ歩いていく。
そうするとお父さんがソファーに座って待ち構えていて怒ってるぞというような顔で睨んでくる。お母さんもその横に座って、姉2人は隣のソファーに腰掛けている。私は一人だけ床に座らされた。
どうしよう。完全にアウェーだ。
でも、お姉ちゃん達は歳が離れていることもあり、私に甘い。ちょっとは味方してもらえるかもしれない。それなら、ここは先制パンチである。私はゴソゴソとバックパックから祐太に借りてきた物を取り出した。
コトンッとテーブルに小気味の良い音がした。
「これは何のつもりだ?」
お父さんが私にドスの利いた声を出す。お姉ちゃん達のおかげで生活していて、すっかり中年太りして、イケオジだったのに今では中年オヤジだった。それでも頑固さだけは健在で、働いてないせいか劣等感まで出てきて、面倒臭いおっさんである。
「お父さん見てわからないの? ポーションだよ」
「それがどうした」
「今日ダンジョンガチャで手に入れたの。市場で1000万ぐらいで売られてるやつだよ」
「い、1000万? 嘘を言え!」
おお、さすが1000万。この家が8000万だから大して反応しないかと思ったが、思った以上にお父さんは驚いた。
「ついでに私はクラスメイトと2人で今日レベル3になったから。私がDランに行かないことお父さんは怒るけど、かなりすごいことなんだよ」
私は頬が膨らんだ。そうだ。私は今日すごいことをしてきたんだ。おかげで祐太におしっこ漏らす姿2回も見られたんだぞ。なんで怒られなきゃいけないんだ。だんだん腹が立ってきて怒りたければ怒れという心境だった。
一人だったら無理だったけど、私よりはるかに優秀なお姉ちゃん達がいてくれるのが、ありがたかった。
「レベル3? それがどうした! 高レベル探索者とかはレベル1000とかだろ。それよりも、どうして学校に行ってないんだ!というより『夜に帰る』とかふざけてるのか! どれだけ心配したと思ってるんだ!」
ほら怒った。明日は祐太の家に押しかけてやろうと思った。大丈夫。祐太なら私の逃げ場所になってくれる。それに案外楽しいかもしれない。思っていたら、
「お父さんちょっと待って」
長女の玲香お姉ちゃんが口を挟んできた。
「え?美鈴ちゃんもうレベル3になったの? 確か『ダンジョンに勝手に入った』とか言ってたの今日じゃなかったの? クラスメイトって友達?」
「そうだけど」
「おい、そんなのはいいからお前達からも美鈴を叱ってくれる約束だろ」
なんだと? 味方だと思ってたお姉ちゃん達もそっち側だったのか? 神はすでに私を見放していたのか?
「何言ってんのお父さん。1日でレベル3って意味わかってる? つまり魔の10匹を1日で超えたのよ。次に危ないと言われてるレベル3だって超えたんでしょ?」
「私なんてゴブリン一匹も殺せなかったのに……」
しかし次女の芽依お姉ちゃんは怒ってこなかった。玲香お姉ちゃんもだ。
「お、おい。お前たち! 美鈴は学校サボってダンジョンに入ったんだぞ。おまけにダンジョン高校に入れば安全なのに自分で勝手に入ってるんだぞ!」
「美鈴凄いじゃない! 私の同僚なんて『レベルアップして綺麗になってやるんだ』って気合い入れてたのに、1日目で大怪我して帰ってきたよ。死んじゃった子までいる」
芽依お姉ちゃんが私をこんなふうに言うのは珍しかった。
圧倒的に綺麗な芽依お姉ちゃんを私は好きだけど、芽依お姉ちゃんはいつも迷惑そうだった。芽依お姉ちゃんにそんなふうに言われるとお尻がムズムズした。思わずうれしくて顔がゆるんでしまう。
「だから言ってるんだ。そんな危ないことするもんじゃないって」
「ちょっとお父さん黙っててよ。お父さんが言うから私たちと同じみたいなことになってるのかと思ったけど、全然違うじゃない。1日でレベル3とか高レベル探索者の最初の頃ってそんな感じだって言うわよ」
「高レベル探索者になったら収入最低でも100億超えるのよ。すごいわー」
「こんなポーション早速出たの? ストーンガチャでしょうに凄いわね。やっぱり探索者は、やばい稼ぎよね」
「お前たち! そもそも探索者なんて野蛮なもの、子供が穴蔵の中で殺し合いをするんだぞ!」
「お父さん。世の中はもうそうじゃないのよ」
長女の玲香お姉ちゃんがお父さんに諭すような声を出した。
「何がだ? 探索者なんて化け物ばっかりだろ。あんなのになるのはバカで教育のないやつばかりだ」
「そんなこと言ってるの、まだ平和な日本だけよ」
「そうそう。フォーリンに木森に龍炎に田中にレベル1000超えてるのが4人もいるから、そんな呑気なこと言ってられるのよ。『どうして日本に天使がいるんだ』って外国の人、フォーリンのことを死ぬほど羨ましがってるのよ」
「あ、あんなののどこがいいんだ? 背中に羽が生えてるなんて気味悪いだろ」
「外国でそれ言ったらお父さん殺されるわよ。フォーリンはすごいわよ。日本よりむしろ外国の方が人気ある」
「外国に行ったら探索者って言ったらもうそれだけでモテるんだから。それにスポーツの世界は、もうダンジョンに入っていない人間の出番なんてどこにもない。レベル10の部門、レベル20の部門って分かれて、普通の人が認識できるスピードで動くレベル100が、最高位部門。お父さんだって知ってるでしょ?」
「それは体を動かす人たちの話だろ」
お父さんは何とか抵抗を試みる。
お父さんは家で暇にしててもテレビしか見ない人で、ネットではすでに流れている情報でもテレビでしていないことは知らない。その上こっちが話しても信じない。おかげで私は散々苦労した。
「お父さん、偏見ばっかりで情報収集ちゃんとしてる?」
「してるぞ。毎日ちゃんとニュースを見てる」
「じゃあモデルの世界でも同じだってわかるでしょ?」
「何のことだ? モデルこそ関係ないだろ?」
「だからさっき言ったじゃない。もう。この親父ちょっと甘やかしすぎたかしら」
「なんだ芽依。親に対して偉そうに!」
「あのね。今は、モデルでもダンジョンに入って、綺麗にならないと、なかなか上の方で活躍できないのよ。だからみんな命がけでダンジョンに入ってる。容姿が変わるのはレベル10までだから、レベル10まで上げるのが今のトレンド。私だってゴブリン殺したわ。必死になって10日かけてやっとレベル2になったのよ。まあそれで嫌になっちゃったけど」
「モデルがそんなにダンジョンに入ってるの?」
お母さんが不思議そうに聞いてきた。
「そりゃもうみんな必死よ。だって『トップモデルだったのにダンジョンに入るの嫌だって駄々こねたら、モデル事務所クビになった上にエージェントに見放された』なんて話まであるのよ。私だってダンジョン入るの怖いから帰ってきた口だし」
「しかし、芽依はともかく玲香は違うだろ? 国連にダンジョンなんて関係ない」
「お父さん。むしろこっちの方がひどいわ。ダンジョンってレベルが上がると知能まで上がるのよ。それまでエリートだった人たちが、何の学歴もない人たちに頭の回転で負けちゃうの。食料支援とか受けてる一切学校に行けなかった人たちが、ちょっとダンジョンに入ってきただけで、頭の良さでこっちが言い負かされる」
「玲香お姉ちゃんが負けるの?」
ちょっと信じられなかった。玲香お姉ちゃんの頭の良さだけは私じゃ理解できないぐらいだった。おっとりして見えるのに頭の回転は異常なほどいいのだ。
「さすがにすぐには負けないけどね」
「じゃあレベルいくつで負けるの?」
「レベル30ぐらいになるとこっちがどれだけ勉強しててももう無駄。『飢えて死ぬぐらいならダンジョンで死ぬ』って平気で入っていくし。まあそれでほとんどの人は装備もなしで入るから本当に死んじゃうんだけど、100人に1人ぐらいはレベル3になれるし、中には30を超えてくるのよ」
「上司になったとか言ってたのもその中の一人?」
「ええ、最初は『暴力バカの探索者でも取り込んで、面倒な探索者の担当にさせよう』って腹だったの。そう言っていた私の上司がいつの間にかレベル100になった15歳の女の子に代わってた。差別なんてしてないって思ってた私でもあれは心にきたわ」
「治安、大丈夫なの?」
日本でも急激なレベルアップをした探索者が、治安を悪化させてかなり問題になっていた。
「大丈夫なわけない。人間の心がそんな急激な強さについて行かない。だから、どこの国も一般人をダンジョンに入られたくなくて、規制するからもうむちゃくちゃ。自由を得るためにダンジョンに入ってるのに、争いの種にまでなって。まあ、とにかく、そういう人たちって頭がいいのよ」
なんだか本当に色々あったらしく、玲香お姉ちゃんは少しやつれていた。
「だから言ってるんだ! そんな頭の良さはまやかしだ!」
「まやかしでもなんでもレベルアップしてない人間の頭なんてたかが知れてるのよ。ほんと何の為に勉強してきたんだか……。とにかく出世したい人たちはみんなダンジョンに入ってる。でも頭の良さで勝負してきた人たちが、そんなのうまくいくわけなくて、死んだり大怪我したり、私もう怖くって逃げだしたの」
「そんなバカな! あんな野蛮なものがそんな大事になる理由がない!」
「お父さん考えてよ。だってダンジョンに入るだけで頭が良くなったり綺麗になったりするんだよ。まあ綺麗になるのは大抵は元がダメだとそこそこどまりだけど……。でも、たまに元の顔なんて関係無しに、恐ろしいほど綺麗になる人までいるの」
それも聞いたことがある。 ダンジョンで容姿が変わるのはレベル10まで。そして稀にどんな不細工な人間でも驚くほどの変身を遂げることがある。大抵はそこまで極端に変わらないらしいが、特定の人間にはそういう兆候があるらしい。
そしてそういう人間ほどダンジョンに好かれていると言われている。
それが多分祐太だ。祐太は自分でよく気づいていないみたいだが、レベル3の時点でかなり男前になってきていた。 あれは多分恐ろしいほど化ける。
「テレビではそんなこと一言も……」
「テレビはたくさんの人が見てるの。だから色んな人の意見を聞かなきゃいけない。影響力がある分、報道できないことがかなり多いのよ。特にダンジョン関連は規制かかりまくってるから、全然あてにならないわ」
「そんなこと……」
結局私を怒るつもりだった両親は、うやむやな感じになった。この調子だともう反対されないかもしれない。それはそれで肩透かしな気もしたが、怒られるよりはましだ。お姉ちゃん様々だ。そして実際私はその話し合いを逃げ切ることができた。





