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第百五十二話 作戦会議

「じゃあこれらを俺たちが使った場合、向こうは防衛手段を持ってるか?」

「おそらく()()()()()()()()()()()。防衛手段は専用装備の中にある【魔法護符】がそれに当たるにゃ。けど、【魔法護符】は専用装備の中でもかなり最後の方に出てくる装備にゃ。だから【“ブロンズ級”魔法護符】はまず持っていないと考えて間違いないにゃ。ただ、【“ストーン級”魔法護符】は多分久兵衛もジャックも持ってるにゃ。だから【幻惑の粉】はかなりしっかり相手に吸い込ませる必要があるにゃ。【石化ガス】も3秒以上煙の中にとどめておく必要があるにゃ」

「他はともかく【石化ガス】って回復できるの?」


 美鈴が聞いた。確かに石になどされたら治るとは思えなかった。


「状態異常の回復薬がルビーから出てくるにゃ。それがなかったら回復しないにゃ。でもこれがあってもすぐに回復するわけじゃないにゃ」

「じゃあ、かなり相手はこの手のアイテムを警戒してるだろうな」


 これらのどれか一つでも決まればかなり強力だ。【奈落の花】で嫌というほどそれを味わった。ミカエラですら俺が助けてなければ死んでいた。そして助けようとした俺まで死にかけた。だが絶対ではない。


【媚薬】は飲ませる必要があり、【幻惑の粉】は吸い込ませる必要があり、【石化ガス】はその中に留まってもらう必要がある。一般人相手にその条件を満たすのは楽勝だろうが、ブロンズ級の探索者相手だとかなり難しいことだ。


「超警戒してるにゃ。向こうはガチャを回すことを邪魔していいなら、邪魔したいぐらい祐太にガチャは回させたくなかったと思うにゃ。それぐらいガチャ運のいいもののガチャは怖いにゃ。祐太は最初から首飾りをしてたにゃ。それはストーンエリアで専用装備を全て揃えたっていう証拠にゃ」

「つまり俺のガチャ運がかなりいいって向こうも分かってるって事か」

「そうにゃ」

「やっぱ祐太のガチャ運6ってすごいんだ」


 美鈴が言ってくれた。そして、さらに黒桜がルビーから出てきたガチャアイテムについて説明してくれた。


「【転移石】は10m圏内に10回転移することができるにゃ。転移する場所は任意で決められるから超便利にゃ。【飛行石】は時間制限1時間の飛行ができるにゃ」

「最後の【身代わり人形】は?」

「一度だけ即死攻撃を身代わりしてくれるにゃ」

「つまり祐太って1回死ねるって事?」

「そうにゃ」

「な、なんかブロンズになってからガチャ運のいいことがバグってくるんだね」


 元々ガチャ運がいいことはかなり強力だった。しかしそれがブロンズガチャになってからさらに強力になった。ブロンズガチャでは1つでも相手に決まれば、それで相手を殺してしまえるようなアイテムがかなり多く入っているようだ。


「黒桜ありがとう。じゃあ時間がない。エヴィー奪還の作戦会議に移る」

「了解」「了解」「了解にゃ」


 俺たちはそのままガチャ屋敷の中で作戦会議に入った。後ろで待っている人は一組いたのだが、ブロンズガチャはそれほど頻繁に回しに来る人がおらず、


『結構な枚数があるので待たせることになるけどいいですか?』


 と話したら、後ろの人も、


『じゃあちょっと本州観光してくるから、ごゆっくり』


 と言ってくれた。俺たちも時間があれば是非ともしたいのだが、そんな余裕は多分ない。ともかくジャックの監視があるので、この誰にも話を聞かれないガチャ屋敷がとてもありがたかった。


「まず聞いておきたいんだが黒桜。【異界反応】ってどういう魔法なんだ?」


 まずそこが気になった。黒桜がたびたび使う【異界反応】。これを使うと壁や人間を通り抜けることができるようだ。ものすごく有効そうな魔法なのだが、その詳細は知らなかった。


「ごめんにゃ。説明すると【秘密事項】に当たってしまうから、説明できないにゃ」

「つまり俺たちではまだ知る権利がない魔法なのか?」

「そうにゃ」


 ダンジョンの秘密に関わる魔法になるわけか。【秘密事項】となるとどれだけ聞いても、しゃべることができないから聞き出すのは無理だ。


「じゃあこれだけは教えてくれ。【異界反応】で壁を通り抜けるだけじゃなくて、姿を見えなくすることはできるか? それと他の人にも適用できるか?」

「無理にゃ。白蓮様なら簡単にできるけど黒桜にはどっちも無理にゃ。そもそもものすごく疲れる魔法にゃ。10秒も使うと魔力がすっからかんにゃ」

「となると使いどころは限定的だな」


 ただいざという時に使えば強力な魔法であることは間違いない。


「祐太。それともう一つ情報」


 俺が残念がっていると美鈴が発言してきた。


「何?」

「ジャック以外にももう1匹誰かいるよ」

「へ?」


 寝耳に水の言葉に目を見開いた。


「ジャック以外にもう一人私たちを監視してるやつがいるよ。見た目からして久兵衛の召喚獣だと思う」


 大事なことなので美鈴はもう一度言ってくれた。


「ま……マジなのか?」


 正直、他に監視されている気配は全くわからなかった。そんなもの俺には全く感じなかったのだ。


「多分、私たちが【翠聖都】に入ってきた時点で、西門からついて来られてたんじゃないかな。私も【探索網レベル10】にして、局長の部屋から出てきて初めてつけられてることに気づいたし」

「まさかとは思うが、局長のところでのことは知られてないよな?」


 あそこでのことを知られていたら自分たちのステータスが敵に全部知られていることになる。俺や美鈴や伊万里がそれぞれのスキルをかなり強化したことも、秘密にできなければ、相手に対策を取られてしまう。


「それは大丈夫。局長のところではそいつの存在は感じなかったから。多分あの中でそんなことしたら、局長に怒られるんじゃないかな」


 それは怖そうだ。ミーハーみたいに反応するのは嫌だったから何も言わなかった。でも近藤勇という名前を聞けば男の子なら絶対反応する。きっとあの人の逆鱗に触れたいとは久兵衛たちも思わないだろう。


「それならまあ安心だな」

「ごめん。もっと早く言いたかったんだけど、探索局の中では他の探索者の目があったし、外ではジャックにずっと見られてて言い出しにくかったんだ。でも安心して、ここにも入ってこようとしたけど、それは阻止したから」

「よく阻止できたな」

「多分、ここで争うのが禁止だから、私に接触しそうになった瞬間に慌てて避けてたよ。それに向こうは私に気づかれてるって分かってなかっただろうから、余計に私とぶつかりたくなかったんだと思う」


 間一髪だったことに冷や汗がどっと流れてくる。油断も隙もない。実は結構人がいいジャックを近づけて油断させ、久兵衛は本命を他に用意していたわけか。


「美鈴、その他につけてるやつはいないよな?」

「うん。それは大丈夫。つけてるのはジャックとその召喚獣だけ。レベル10になった私の【探索網】でもわからないんなら、もうそれは仕方ないけど」


 それはさすがにない。召喚獣はそれを極めた探索者本人よりは、少し劣るステータスであることが多い。今回のクエストの報酬で、ブロンズ級最高値まで【探索網】を強化できた美鈴の察知能力から召喚獣が隠れられるとは思えなかった。


「付け回してるのは、どんな召喚獣なんだ?」

「はっきりとは見えないんだけど、多分握りこぶしぐらいのハエだと思う」

「ハエ……。それはまた偵察に向いてそうなやつだな」


 かなりスピードもありそうな召喚獣だ。エヴィーにとってのクーモ枠といったところか。久兵衛はこれに加えて赤竜と狒々の召喚獣がいる。移動型の赤竜。偵察型のハエ。狒々は美鈴を追跡していたやつだ。


 だから、ある程度の探索能力がある万能型だろうか。だとすると近接ゴリゴリのリーンみたいなやつが出てきていない。召喚士は本人が弱いことが多く、護衛役の近接型がいないとは思えなかった。


「あともう一体か二体いるって考えた方が良さそうだな」

「厄介だね」

「ああ、召喚獣がいることで久兵衛には弱い部分がないからな。きっと格下の俺たちには一番戦いにくい相手だ。とはいえ他に監視者がいないなら、俺たちの問題は、ハエとジャックに絞られる。この2つの監視網をくぐって誰がどうやってゲートをくぐって外に出て、米崎を呼びにいくかだな」

「4人それぞれで別れて移動するのが一番いいと思う」


 伊万里が言ってきた。


「却下だ。それじゃあ伊万里が危なすぎる」

「むう。じゃあどうするの?」


 ここでは争いが禁止されているわけだから、俺たちが別れて行動すれば、敵は俺たちの行動を追いきれなくなる。ただそうなれば伊万里の周りが手薄になる。それこそが相手の手かもしれないのだから当然却下である。


「黒桜。俺たちがゲートをくぐって外に出る。この行動を向こうはどれぐらいの確率で予想していると思う?」


 この猫は驚くほど賢い。そういう意味でもかなり頼りになる猫なのだ。


「多分ほとんどしてないと思うにゃ」

「どうして?」


 俺ならそれを一番警戒する。特にこのクエストには制限が一切ないのである。それならば、外から有力な探索者の助けを呼ばれたら、それが一番面倒なのだ。


「久兵衛は武官にゃ。こういう仕事を一度や二度こなしただけじゃないと思うにゃ。それなら日本の探索者がこの状況で外に出る時は、ダンジョンを諦める時だって思ってるにゃ」

「なんで?」

「祐太は自分のことよくわかってないにゃ。自分よりレベルの高い探索者が、積極的に協力してくれる。普通そんな状況ありえないにゃ。探索者を生業にしているなら、“自分の探索は自分で頑張れ”がスタンスにゃ。“できないなら探索者を諦めろ”。普通そうじゃないかにゃ」

「……身内とかならありえないか?」

「ないにゃ。探索者は大抵ダンジョンの中にいるにゃ。美鈴はお姉ちゃんが今レベル上げをしてるって話してたにゃ。でも助けられるかにゃ?」

「無理かな。だってそんなことしようと思ったら、仲間を放っておいてずっとそばにいなきゃいけなくなるもん」

「でも、米崎は助けてくれるぞ?」


 おそらく俺の要請を米崎は断らないはずである。


「見返りを用意したからにゃ。自分よりレベルの高い探索者に利益をもたらす。その利益は普通、用意できるものじゃないにゃん」

「そうか……」


 過去のあの時点で米崎に協力を要請しておく。それが絶対に未来につながると俺は思った。しかし、ここまで考えて行動している探索者は少ないのかもしれない。


「だとするとジャックがゲートの先の甲府で待ち伏せ。なんてことは起こりえないんだな?」

「そんなことを心配してたにゃ。そんなのほぼ0に近いにゃ」

「よし。じゃあ、やりようはいくらでもある。伊万里は俺と移動しよう。美鈴は黒桜と一緒だ。おそらくその2組に別れた場合、ジャックは俺と勇者である伊万里についてくるだろう。ハエは美鈴と黒桜だ。そして全ての気配を把握できるのは美鈴だけだ。だから美鈴の判断で黒桜と二手に分かれて、誰もつけてきていないことを確認して美鈴がゲートをくぐって米崎を呼んでくるんだ」

「黒桜じゃない理由は?」


 美鈴が聞いてきた。


「米崎は黒桜を知らないだろ。さすがに知らない相手から協力を求められても困るだろ」

「そりゃそっか。分かった。でも、ハエが私についてきたらどうする?」

「そうならないように美鈴の方でハエをうまく誘導してほしい。でもどうしてもハエが美鈴について来るようなら、美鈴と別れた黒桜はすぐに俺たちと合流してくれ。黒桜が合流した時点で、俺が伊万里と黒桜から離れて、外に出て米崎を呼びにいく」


 俺はできるだけ今は伊万里のそばから離れたくなかった。だから本来行くのは自分が一番いいのだろうが、美鈴に頼みたかった。美鈴もそれが分かったのだろう納得してくれた。


「了解。じゃあ動こう」


 美鈴がそう言って、俺たちはすぐにガチャ屋敷から出た。


「じゃあ買い物頼むな」

「はーい」


 何気ないふうを装って、美鈴たちと別れる。しばらく歩くとひょこっとジャックが現れた。相変わらずの鼻ピアスに鬼神のスカジャン。見た目的にはものすごくいかついやつである。


「んーだよ。あの可愛い子ちゃんどこ行ったの?」

「買い物を頼んで別れた」

「へえ、何か秘密兵器でも買い物か?」

「どうだろうな」

「まあ無駄な努力だと思うぜ。大八洲はルビーから出るブロンズアイテムを俺たちに全然売ってくれないからな。それよりお前ガチャ結果どうだったんだよ?」

「これがまた最悪だったよ。泣きたくなるほど【ハズレ】ばかりだった」

「嘘つけ。ごまかしたってわかるぜ。かなり良かったんだろ?」


 そうだ。かなり良かった。おそらくジャックが予想している以上に良かった。でもそれをこいつもかなり警戒している。それがブロンズガチャを回してみてよくわかった。実際ジャックの気配が濃密になっている。


 いつブロンズアイテムを使われてもいいように、最大級に警戒しているのが分かった。そして、何もブロンズガチャは俺たちだけに利益をもたらしているわけではない。その中の有力なアイテムを久兵衛とジャックも一つは所持している。


 その可能性が高い。俺たちだけが有利ではない。だからこそやはり米崎がいる。多分あいつがいなければエヴィーを助け出せる可能性は10に1つもない。何しろ久兵衛とジャックの方が、ブロンズエリアのことを知り尽くしているのだ。


「まあいいんだけどよ。俺は久兵衛のおっさんから『東堂伊万里から離れるな』って言われただけだからな」


 親切にも教えてくれた。ただその言葉はものすごいプレッシャーになる。そのことも理解しているんだろう。どうあっても伊万里を守りたい。何があっても死なせたくない。でもこいつらは間違いなく伊万里の命を狙っている。


 だからこそ美鈴の方がうまくいってくれることを願った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハエ(虫)で偵察と聞くと、ドラゴンボー○でドクター○ロが虫型のスパイロボで偵察&細胞採取してたのを思い出しますね。
[一言] ガチャはさすがに離れてたんだなぁヒリヒリとした感じがいいですねぇ
[一言] ハエにはハエトリクモ? 祐太のアラクネ糸かエヴイーのクーモしか対応できない
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