第百五十一話 リザルト
「お!」
「やった!」
出てきた瞬間にわかった。宝石なんかが乱暴にガチャから排出されて壊れないのかと心配になるほどの硬い音がした。伊万里のガチャからついに当たりが出たのだ。しかも金ではなくルビーの赤に輝くカプセルが出てきた。
「おお本当にルビーが出てきた!?」
「祐太!」
思わず伊万里が俺を抱きしめてきた。ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現している。未だに美鈴たちの前では固い表情ばかりを見せる伊万里だが、嬉しい時はこんな感じでものすごく喜ぶ。
そしてその喜びはかなり大きかったようで、その豊満な胸が俺の胸板で潰れてとても幸せだった。
「よし! エヴィーさんのためにもここからしっかり当たり出すからね!」
伊万里のその宣言は嘘ではなかった。ガチャとは確率で出てくるもののはずなのに、伊万里は本当にあたりを引き出す。29回目でまたもやルビーを出したのだ。
「すごっ」
美鈴が光り輝く宝石のカプセルに思わずうっとりしていた。さらに伊万里は、34回目では金カプセルを出した。伊万里が喜んではしゃぐものだから巨乳が上下にぷるんぶるんと揺れた。
「くっ、伊万里ちゃん。私に対する精神攻撃がひどい!」
「美鈴はAだもんな」
「Bですー。ギリギリだけどBですー!」
さらにとどめとばかりに46回目でルビーがまた出てきた。
「やった!」
はしゃいだ伊万里がよほど嬉しかったのか俺を抱きしめてきてキスまでしてくる。美鈴の視線が痛い。それでも伊万里はルビーが三つも出たのだ。それとともに俺は思う。どうやらルルティエラはガチャに関わっていないようだ。
というよりもガチャの結果には関与していないのだろう。そうでなければこの結果はおかしい。本来、伊万里のガチャにこそ当たりを出さないのが一番良いのだから。そして、そこに勇者が生き残る希望を感じる。
ルルティエラが自分の作ったルールに縛られている限り、エヴィーを助け出すことも、伊万里が生き残ることも可能なはずだ。そして急ぐ俺たちはすぐにガチャの順番を交代して、俺の番になった。
「ねえねえ伊万里ちゃん。ルビーカプセルってどんなのが出るの?」
自分の当たりが何もない美鈴が外野の人みたいに伊万里のルビーカプセルを覗き込む。俺も伊万里のリザルトが気になった。それでも米崎を呼びに外に出る必要もあるから急がなきゃいけない。伊万里の結果は後でも見れる。
俺も気合いを入れてガチャを回した。ブロンズコイン1枚で1個しか出てこないということで、さすがにガチャ運6でもかなり渋い結果になるのかもな……。
そう思った時が俺にもあった。
「——金17個にルビー13個」
相変わらずガチャが壊れているのかというぐらいバグった結果だ。真面目に探索者をしている人に本当に申し訳ない気持ちになる。いや、だが、その分ダンジョンから課されることも無茶なことばかり。普通ならとっくの昔に死んでいる。
そんな中で俺も頑張ってるのだ。だからこそ役得があるのだ。自分でそう納得した。そんなことを思いながらも伊万里のガチャ結果が気になった。何よりもブロンズガチャというものが、どういうものなのかも気になったのだ。
「伊万里。ルビーカプセルの中身はどんな感じだった?」
ルビーが3つも出ても、資金力のある俺たちにとってはポーションばっかり出てこられては困る。そしてその他のアイテムは俺が出してしまう。やっぱりここは伊万里の“勇者”としての専用装備が出て欲しいところだ。
「うん! かなり良かったよ!」
と、伊万里はニコニコ顔である。
「へへ、専用装備が早速出た。それにね。これ」
なんというか今の伊万里は、家で俺と二人でいる時の伊万里だった。だからこそ少し無理をしている気もする。でもそれぐらいじゃないと挫けそうになるのかもしれない。だからこそ俺も伊万里に笑顔を見せた。
ニコッと微笑みかける。伊万里が顔を真っ赤にしてそむけた。俺のこの顔は本当に性能がいいようだ。そんな伊万里が俺に見せてきたものがあった。それは“盾”だった。そして俺はその盾になんとなく見覚えを感じた。
金色に輝いていたのだ。探索者としてはかなりド派手な盾で、このド派手さには見覚えがある。というのも今まで伊万里がつけていたストーンガチャでの専用装備と似ている気がする。
「これって……」
「うん。これの名前は【エンデの盾】。私のストーン級の専用装備だよ。ブロンズガチャの金カプセルから出るものは、ストーンガチャから出てくるものと中身が同じみたい」
中身が同じ。つまり金カプセルから出てくるものは、どのガチャで回しても一緒の品物が出てくるってことか? それって……。
「黒桜。これってつまり専用装備は上位のガチャを回すほど、いずれ揃うってこと?」
「そうにゃよ。大抵の探索者はこのブロンズガチャでストーンガチャの専用装備をほぼ揃えてしまうと言われてるにゃ。だから金カプセルも結構大事にゃ」
またしても、ブロンズエリアに来ないとわからないことか。まあでもそうだよな。【人魂装備】などと言われるものが、全部出ないからといってガチャの中に放置されるのはあんまりにもあんまりだ。
「そっか。なんか良かった」
本当にそう思った。バラバラになったまま揃えられない魂もかなり多いだろうが、揃えられる魂も俺が思っていたより多いようだ。それにエンデのストーリー開放が気になる。何しろエンデもまた勇者であった可能性が高いからだ。
「ホント。私もエンデにはかなりお世話になったから、祐太みたいにストーリー開放させてあげたかった。だからちょっと嬉しい」
「そうだよな」
探索者はみんな専用装備に守られている。それに人の魂なんてものが使われているとわかったら、余計にそれを大事にしたくなる。
「で、伊万里。ルビーカプセルからも専用装備が出たとか言ってたよな?」
こちらもかなり気になった。
「うん。こっちも出たよ。これ見て」
伊万里が専用装備となるものを見せてきた。ルビーカプセルから出てきた専用装備は1つだけだった。それは今までの【エンデの光剣】のように光ってなかった。だが今までよりもはるかに力強く感じられる。その名は、
【晴明の剣】
であった。
「それ白蓮様のところで見たことあるにゃん」
不意に黒桜が言ってきた。
「白蓮様……って陰陽神の?」
「そうにゃ」
「おお、じゃあかなりいいもの?」
俺と美鈴が言った。
「でも祐太。これの表示はブロンズ級だよ。白蓮様の専用装備とかだったらそれこそルビー級を超えるんじゃないの?」
伊万里がステータスを確かめて言ってきた。
「白蓮様のところにあったものっていうだけにゃよ。別に使っているところを見たことがあるわけじゃないにゃ。でも、多分その見た目は間違いないと思うにゃ。なんか大事そうに保管してたから覚えてるにゃ」
「へえ、じゃあいいものではある……か? というか、どういうことだ? ガチャの中身に白蓮様が介入したってことなら、いくらなんでも、そんなこと可能なのか?」
「ありうるにゃ。『わしはかなり何でもできるんじゃよ』って、前に言ってたにゃ」
「チートってやつ?」
とにかくその白蓮様が、伊万里の味方でいてくれることは確かな気がする。
「伊万里。他はなんだったんだ?」
俺は【晴明の剣】でテンションが上がった。当然あとの2つもいいものだよなと期待がかかる。
「えっとね。【回復石】と【力の果実レベル2】だって」
その2つを持つ。それだけでステータスに名前だけは表示されるのだ。
「【回復石】って、前にももらってなかったか?」
「もらってた」
伊万里は苦笑いした。それはリッチグレモンの秘宝と全く一緒のものだった。
「実は【回復石】の一つ目もまだもったいなくて使ったことないんだよね。というか使うような場面もなかったし。だからどんなのか知らないんだ」
「黒桜、この2つのアイテムについて何か知ってる?」
そして俺はこの猫も聞けばだいたいなんでも知ってるよな、と思いながら黒桜に尋ねた。
「【回復石】は複数回使えるポーションにゃ。一々飲む必要がなくて、持ってるだけで回復してくれるから便利にゃん。でも一定以上回復させると壊れるにゃよ」
「それってめちゃくちゃ便利じゃん」
「めちゃくちゃ便利にゃよ。多分、伊万里のルビーの中でも当たりアイテムにゃ。ブロンズガチャにはその人のステータスに沿う形で、ものすごくいいものが1つ入ってるにゃ」
「これがそうだと?」
「そうにゃ」
「そうか……。そりゃそうだよな。ポーションを飲まずに数回は体を治せるんだもんな。戦闘中でも相当強力だよな」
黒桜は猫だけどかなりなんでも知ってるんだな。伝言役をエヴィーが黒桜にしたのだろうが、おかげでかなり助かっている。何気にこの猫、俺たちのパーティーで一番知能も高いしな。これからもその知識に頼らせてもらおう。
「便利のいいものだな。前に手に入れたものと同じだったけど、よかったな伊万里!」
「ねえ、これ良かったら1つは祐太が持つ?」
伊万里がそんなことを言ってきた。
「は? いやいや、バカを言うな。ガチャから出てきたものは自分で使っていく。その方がいいに決まってる。何よりも伊万里が一番危ないんだから、伊万里こそ持ってるべきだ。で、黒桜、最後の【力の果実レベル2】ってすごいのか?」
「かなりいいにゃよ。力のステータス+10にゃ。果実のレベル2は全部そうにゃ」
「そっか。やっぱりブロンズになるといいものが多いな。よし。伊万里! じゃあそれを早速食べておくんだ!」
ふと気を抜くと伊万里の顔が陰っていた。やっぱりかなり無理してるんだな。
「ほら、伊万里。エヴィーは捕まったままだけどもっと笑っていいから。伊万里は自信を持つんだ。俺は伊万里のおかげで強くなれるんだって思ってるぞ」
「う……うん。分かった」
「で、祐太は?」
ガチャの結果も何もあったものじゃなかった美鈴は、俺の結果に興味を示した。
「俺はこんな感じだ」
俺は2人にガチャの結果を示した。
【焔将の刀】
【焔将の銅鎧】
【媚薬】×2
【幻惑の粉】
【石化ガス】×2
【転移石】
【飛行石】
【素早さの果実レベル2】
【器用の果実レベル2】
【SPの果実レベル2】
【身代わり人形】
「むむ……これは!? ねえ黒桜!」
美鈴がアイテムの説明を求めた。
「はいはいにゃ。まず、専用装備は使っていく中で分かっていくから必要ないにゃね。で、最初の【媚薬】はシルバー級までの探索者に有効な結構強力な惚れ薬にゃ。飲ませることに成功するとシルバー級までだと抵抗する方法を持ってなかったらまず間違いなく祐太にメロメロにゃ。効き目は1日継続するし、効果が切れた後も強力に惚れた副作用で大抵そのまま好きになるにゃ」
「男や女は?」
「どっちでも一緒にゃ」
「うわー、怖っ」
確かに怖い。ブロンズガチャからかなり危険なものも含まれてくる。そんな話は聞いたことがあった。そしてガチャ運の高い俺はかなりそれを手に入れられる。そんな期待もしていた。それにしてもいきなりすごいものが出た。
ここぞという時、相手に使用すると、合法的に相手が俺を好きになる。完全なる催眠術。これを使うかどうかは自分次第というわけか。何よりも忘れていけないのはこれを相手も持っている可能性があるということだ。
万が一エヴィーに使われていたら……。
「続いて【幻惑の粉】は幻を見せるにゃね。これも見破るためのアイテムを持ってない限りはシルバー級まで有効にゃ。【石化ガス】も同じにゃ。石化から守るアイテムを持ってない限りはシルバー級まで石になっちゃうにゃ」
「黒桜。久兵衛やジャックは【媚薬】を持ってると思うか?」
「多分、持ってないにゃ。それに持ってたとしても好きでもない相手にもったいなくて使いたくないと思うにゃ」
「それは確かなんだな?」
万が一にもエヴィーが、久兵衛やジャックにエロエロ状態になっていたら俺はショック死するかもしれない。
「ルビーカプセルは祐太が思っている以上に出にくいにゃ。それにブロンズコインが今回みたいに50枚も手に入ることはめったにないにゃ。【媚薬】が出る確率はルビーの中でも1/30と言われてるにゃ。持ってる探索者の方が少ないにゃ」
「そうなんだ」
俺はほっとした。どうやら寝取り展開はないらしい。





