第百四十七話 局長
「ダンジョンに好かれたやつと勇者が一緒にいるのは初めて見たな」
熊のような見た目の男はそのまま話し始めた。翼を持った女の人は後ろに控えている。黒桜の話では局長は貴族らしい。この熊人が貴族かと思う。だが姿は全く貴族らしくなくプロレスラーが履くようなパンツとベストを着ているだけだ。
熊の迫力のある見た目ではあるが、どこかおっとりした雰囲気がある。おそらく転生をしているぐらいレベルが高いと思う。でも後ろの女の人は多分そこまでではない。最初から翼を持って生まれる種族がいるのか?
それとも、こういう人たちは高レベル探索者の子孫だったり? それどころではないと思いながらも、目につくもの全てが初めてのものばかりで、興味は絶えなかった。
「局長。ここでこの者たちと話す気ですか?」
「おっと、そうだったな。お前ら全員こっちにこい」
俺はふと気配を感じて登ってきた吹き抜けを覗き込む。下からこちらを興味深そうに伺っている探索者たちがいた。俺たちは注目されているらしい。ここでみんなに話を聞かれながら会話をしたいかと言われれば否である。
大人しく局長についていった。板張りの廊下を歩いていくと、障子戸で行き止まりになる。障子戸が両脇に控えた猫耳のからくり族と思われる女性二人によって開かれた。
その部屋は時代劇などで大名が話す部屋みたいだった。
建物の中だったと思うが、夜の闇の中にライトアップされた枯山水の庭が見え、ししおどしの音が響く。桜の花が満開で咲いている。その光景に魅入る。最後に美鈴が入ると自動扉のように障子戸が閉まった。
すぐに障子戸の方から人の気配が消える。この空間に聞き耳を立てる存在はいないようである。
「ここは翠聖都第二層にある俺の家だ。第三層とは空間的に仕切られている。第三層で働く貴族はこういうふうにして、自分の自宅で働いているんだよ」
「そんなことができるんだ」
えらく金のかかりそうな在宅ワークもあったものである。
「ああ、これは魔法じゃなくて科学だから金があればな」
もしこの世界と地球が戦争になったら、地球が一瞬で滅ぼされる。それは間違いないと思った。空間を簡単に操る技術がある時点で、地球に勝ち目などない。かつて西洋に渡った江戸の武士たちはみんなこんな気分だったんだろうか。
局長が畳張りの広い部屋で、大名のように一段高い場所に座った。時々聞こえるししおどしの音が風流を奏でる。どう見ても熊な男がイキに感じられた。相変わらず翼を持った女の人が後ろに控えるように座った。
局長はあぐらをかいている。翼を持った女の人は正座である。自分たちはどの座り方がいいのかと一瞬悩んだが無難に正座した。
「六条。基本、ここでは男はあぐらだ。女は正座をすることが多い。正式を知らずに余所で恥をかくのが嫌ならそうしておくことだ」
「と……分かりました」
俺は言われるがままにあぐらになった。
「さてお前たち。随分とルルティエラ様に虐められているようだな」
「……虐め……なんですか?」
虐めと言われると語感が悪い。何より俺のトラウマに突き刺さる。俺の顔が引きつった。
「おまけにそのネコだ。白蓮様の飼い猫だな」
「あ、そうです……」
伊万里の胸からひょいと黒桜が俺の肩へと乗り移ってきた。
「そうにゃよ。黒桜のことまでよく知ってるにゃ」
「ああ、まあ、お前が外にいる時は白蓮様がそばにいる証拠だからな」
「今は違うにゃよ。そばにはいないにゃ」
「ではどこにいる?」
「黒桜も今、白蓮様がどこにいるのかは知らないにゃ」
「相変わらず行方知れずか。困りものだな」
「陰陽神……」
思わずといった感じで翼を持った女の人が呟いた。
「それにしても、ルルティエラ様にしては随分とよく見ている。お前さんは、ダンジョンに……いやルルティエラ様に好かれているとしてもずいぶん執着が強いらしい」
「あの……どういう意味ですか?」
ダンジョンに好かれているとよく言われる。でも実際その意味がよく分からない。俺はルルティエラ様という存在にあったこともなければ、名前を知ったのだってここ最近のことだ。
「おいお前、先程から貴族に対して勝手にしゃべるな!」
翼を持った女の人に怒鳴られた。これはマナー違反らしい。基準をはっきりしてほしいところだが、そんな文句は言えなかった。
「えっと、すみません。以後、気をつけます」
「やめとけ摩莉佳。こいつらが生き残ればきっと上がってくる。可能性はどれだけ低くとも将来の神かもしれん」
「どうせすぐに死にます」
「そうかな?」
「そうです。他国でも惨憺たるありさまだそうですよ。直近の勇者は一発目で死んだそうです」
「では少なくとも今回は一発目で死ななかった」
「白虎が手伝っただけです。あの化け物の気紛れさえなければ、もっと地獄のような苦しみを味わったし、必ず死んでいたはずです。少なくともこんな気の抜けた顔をしてられなかったでしょう」
「化け物が気紛れで人を助けるかな」
局長が俺の顔を見つめてきた。熊そのものと言っていい顔で見つめられると怖かった。俺たちの世界ですら高レベルともなると、うっかり怒らせると殺されてしまう。そんな噂をよく聞く。
いや噂だけではなく国ですら実際に滅ぼされているのだ。だからこそ『勝手にしゃべるな』と言われたら、それは守るしかなかった。
「六条。早く本題に入れって顔をしているな」
「……」
図星だけど頷くわけにもいかなかった。
「いや慌てるのが当たり前だな。本州の武官は相変わらず容赦がない。明日の24時までだったか。レベル上げの暇は与えずに殺そう……か。気をつけろよ。囚えられた娘御は結構簡単に殺される。奪い返すつもりなら相当考えねばな」
「あの、聞いても?」
「構わん自由に喋れ。俺も160年ぐらい前はレベル1だ。威張るつもりはない」
「えっとじゃあ……。久兵衛はそんなに簡単に人質を殺しますか?」
「武官とは任務の不達成を自分の命で償うと考えるほどの恥だと考える。任務の不達成で切腹したという話も珍しくない。故にどうあっても何があっても任務を達成しようとする。そのために必要なら簡単に人質ぐらい殺す」
「それは……きついですね」
この人たちは、こちらの状況をほとんど完璧につかんでいるようだ。そう考えると久兵衛たちはこの人たちにも報告しているのか……。
「だろうな。だがそれに見合うだけのリターンもある。正直羨ましくなってしまうほどだ」
「リターンですか?」
「そうだ。そのネコが教えてくれただろう。ダンジョンは自分が決めたルールを必ず守る存在だ。そのために自分の行動が失敗に終わったとしても守る。そしてこれだけ相手を追い詰めるということは、その見返りを用意する。それもまたルルティエラ様という存在だ」
「なるほど……」
やはりこれは俺たちにとって大きなチャンスであることは間違いないようだ。
「さて、お前たちが気になっているダンジョンからのクエストだ。摩莉佳。前に出て説明してやれ」
「はい」
後ろに控えていた摩莉佳さんが前に出てきた。そしてメガネをクイッと上げた。なぜかこちらのことが気に入らないようだった。
「では説明するからしっかり聞け。まずここでのクエストを受ける常識について伝えておく。大八洲国において、クエストは四つの階級に分かれている。
1番目はお前たちが今まで受けてきたダンジョンからのクエストだ。
2番目は国家クエストだ。
大八洲12柱から出されるクエストだな」
「大八洲12柱?」
「この国の神様だ。偶像ではなく実際存在する神であり、お前たちで言うところのレベル1000を超えた12英傑だ。それと同じ存在がここにもいると考えれば分かりやすいだろう。この世界の全ては12柱によって決められている。そしてこの方々もありがたいことにクエストを出してくださるのだ」
「はあ?」
なんというか、この世界の人々はルルティエラという存在よりも12柱の方を大事にしているようにも聞こえた。一番トップがルルティエラではないのか?
「お前たちが敵に回している久兵衛という武官がいるだろう?」
「はい。います。召喚士でした」
「大八洲国の本州から依頼を受ける12柱お抱えの武官だ。それぞれのレベル200の中で最も優秀なものが選ばれる」
「ミカエラよりも劣るんですか?」
「あの女は、お前と同じだ。ダンジョンから好かれていた。ゆえにミカエラの方が少し強い」
「あの、前から気になっていたんだけど、ダンジョンから好かれるってなんなんですか?」
俺が聞いたのではない。美鈴がどうしても気になるのか、俺の右横で口を開いた。
「私も詳細は知らん。ほとんどのものがルルティエラ様という存在を把握していない。だが、あの女神にははっきり好き嫌いがある。嫌いだととことん排除しようとするし、好きだととことん優遇する。そういう気まぐれな存在なのだ」
「迷惑……」
美鈴が思わず口に出してしまった言葉に誰も反論しなかった。これが12柱に対する言葉だったら怒られていた気がする。でも怒られる様子はない。この世界においてルルティエラという存在はどういう立ち位置なのだ?
「三番目は貴族クエストだ」
だが疑問に結論が出ないまま摩莉佳さんは話を進めていく。
「これは局長をはじめとする貴族の方々が出すクエストだ。普段、探索者が受けているのはこのクエストだな。貴族クエストはそこそこの数があるから優秀なら受けられる。
四番目が民間クエストだ。報酬があまり良くないからみんな受けたがらないが、一般人やからくり族がお金を出して探索者にクエストを出している。数はとても多いのだが、お金しかもらえないということであまり人気がない」
「民間クエスト以外では別のものがもらえるんですか?」
「もらえる。それが“レベル、スキル、魔法”だ。貴族、国家、ダンジョンの順番で報酬は良くなっていく。またレベル200を超えるためには、国家クエストかダンジョンクエストを受けるしかない。それがお前たちにはもう出ているということだ」
「つまりダンジョンから優遇されてるって事か」
「そうだ。ただ優遇するだけではない。ダンジョンに好かれたものは異常なほど常に難易度の高いことが求められる。だからほとんどのものは押し潰される。その逆が勇者だ。ダンジョンが最も嫌う対象とも言われている」
しかし勇者は嫌われても報酬がきっちり支払われている。実際伊万里はステータスがかなり良い。よく考えると伊万里は今まで厳しい状況が非常に多かった。ということはルルティエラは嫌いな相手にも平等に振る舞うのか?
奇妙な女神である。どちらでも結果が一緒なら、嫌われても別にいいんじゃないだろうか?
「それならどうして勇者は生き残れないんですか?」
伊万里が聞いた。そうだった。そこが問題だ。出現した勇者の中で、今もその称号を保持したまま生き残っているものは、俺の知っている中ではいなかった。ということはやはり女神には平等ではない部分があるのか?
「いや生き残るものもいるぞ。だがルルティエラ様は永遠に勇者を殺そうとする。そう言われている。だから勇者は常にルルティエラ様から逃げ続ける必要がある」
「ルルティエラ様から逃げ続けている人がいるということですか?」
「そうだ。その御方は、1000年も昔にこの世界に渡ってきた勇者。そして1000年間ずっとルルティエラ様から逃げ続けている。間違いなく大八洲国でダンジョンから最も嫌われている“神様”だ。なんとここに渡ってきた時点で既にかなりの魔法と、式神を自分自身で有していたという伝説が残っている」
「それって……ひょっとして……」
俺は呟いた。一瞬なぜかそこにバチッと繋がった。探索者になってからこういうことがよくある。
「白蓮様……」
「察しがいいな。あの方がそうだと言われている。まあルルティエラ様からどれほど嫌われていても、民間人気はかなり高いのだがな。一目見ただけで寿命が100年伸びるとすら言われている」
「くく。笑えるだろう? ルルティエラ様は常に白蓮様の居所を探ってるらしい。あの全能の女神でもなかなか見つけられないというあの婆さんに、出会うことができたお前たちは相当運がいい」
「婆さん……なんですか?」
「違うのか?」
逆に局長から聞かれた。
「出会ったエヴィーからは人間の女の子に見えたと聞いてます」
「へえ、まああの辺になってくると見た目とか性別とかどうでもいいからな。こっちじゃもうずっとドワーフの老婆って聞くぞ。おかげでドワーフは白蓮様が大好きだ」
「ドワーフが好き……」
それならばドワーフ工房を訪ねてみるか。ドワーフ工房の親方はドワーフの中でもかなり偉い人なのだと思う。何か白蓮様の居所に対する手がかりはあるかもしれない。白蓮様もさすがに1000年間孤独がいいわけではあるまい。
逃亡者というものは寂しさからどこかに痕跡を残してしまうものだ。そしてそれは必ず好いているものがいる場所だ。
「話が横道にそれてしまったな。摩莉佳。いいぞ」
「はい。ではまずクエスト内容だ。お前たちに出されていた第一のクエスト。それは、“【翠聖都】まで到着すること”だった」
「そんなのがクエスト内容ですか?」
それじゃあルルティエラは久兵衛たちには『俺たちを殺せ』と言い、もう一方の俺たちには『死ぬな』と言っているようなものだ。
「全能であるからこそ悪であり善でもある。そういうことなのか……」
「お前本当に察しがいいな。確かにルルティエラ様はそう言われている。一番上でありながら、一番矛盾した行動をとる。これ以上ないというほど愛を注いでおきながら簡単に殺す場合もある。大八洲12柱も何柱か殺され新しいものへと入れ替わっている。我らの信仰の対象ですら殺してしまう。それがルルティエラ様だ。だから全能でありながら信仰の対象にはならない。そういう御方なのだ」
摩莉佳さんの言葉に局長が肩をすくめた。誰からも好かれにくい性質の神様である。どことなくミカエラと似た部分を感じる。だからこそルルティエラはミカエラが好きだったんだろうか?
「第一のクエストは『翠聖都に到着すること』だ。それをお前たち三人はすでに達成している。だが残り一人が囚えられた状態だな」
「白虎様に手伝ってもらったのは別に構わないんですか?」
「このクエストには制限が設けられていない。つまり問題ないはずだ。クエストレベルは120だ。これもレベル100でこなしたということで満たされているな」
じゃあどれだけ自分が簡単に進めてもいいわけか……。いやルルティエラの今までの傾向からして、どこかに罠はあるはずか。
「ではクエスト報酬の項目に入る。成功報酬は、無条件でレベル125へのレベルアップをダンジョンがしてくれるというものだ。そしてブロンズ級のスキルか魔法。今まで出現したその全種類の中で、好きなもの1つを自由選択できる。
そしてブロンズのガチャコインを各自50枚ずつもらえる。最後もかなりの破格だ。HP、MP、SP、力、素早さ、防御、器用、魔力、知能の全ステータス+100だ。お前たち三人はこれら三つを現時点ですでに受け取る権利を有している」
「それは……すごいですよね?」
「破格だな。貴族クエストならばこの1/10もらえたらいいところだ。国家クエストでも1/5ぐらいだろう。ダンジョンクエストでもここまで良いものは滅多にない。つまりほぼ100%無理だとルルティエラ様からも思われていたことになる。それと同時にできるかもと期待もされていた。六条祐太、お前はかなり女神から好かれているようだぞ」
「六条。ルルティエラ様からの要求はできればできるほど過激になってくるからな。気をつけないと押しつぶされるぞ」
摩莉佳さんの言葉に局長が付け加える。勇者はリスクだ。だがリターンがある。レベル1000を目指す俺たちにとってはそのことの方がはるかに大きい。そしてダンジョンに好かれている。それが文字通りの意味なのだ。
ダンジョンなんてものを創り出す存在が個人にこだわる。不思議な話である。
「面白い話だよ。六条と東堂。この二人がどうして一緒にいるのか……俺には笑えて仕方がない。六条たちは何かもっと面白いことをしてくれるのかもな」
局長は本当に楽しそうに笑っていた。
「エヴィーが到着していない状態でも報酬はもらえるんですか?」
「このクエストは個人に出ている。パーティーだからといって仲間が到着していなければクエスト不達成などということはない」
「ああ……」
この場にはエヴィーがいない。そのことがやはり気がかりだった。
「そしてお前たちには次のクエストがすでにダンジョンから出ている。お前たちにとっての第二クエストだ。内容はお前たちの仲間エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクの奪還だ。手段は問わないとのことだ。このクエストも制限は何も設けられていない」
「それってひょっとして、誰に助けてもらってもいいんですか?」
俺自身の行動。その全てがクエストとなっている。それがダンジョンに好かれているということであり、つまりそれだけダンジョンから常に見られているのか……。
「そうだ」
「例えば白虎様に手伝ってもらったりしたらどうなるんですか?」
「くく、その場合、俺が出る」
と口を開いたのは局長だった。一気に圧迫感が増した。意識を保つのが困難なほど濃密な気配が局長から溢れ出てくる。
「面白いから是非やってみろ」
「え……遠慮します」
いくらでも手伝ってもらえる。でも強い探索者に手伝ってもらうと敵も増員してくる。結局のところどれだけ手伝ってもらっても、久兵衛のバックに大八洲国があるのなら、相手はどこまでも強くなってしまう。そういうことか……。
「例えばダンジョンには気づかれていたとしても、久兵衛達に手伝いを気付かれていない場合ってどうなるんですか?」
エヴィーが殺されないためにもクエストの難易度は下げなければならない。今までのように死ぬほどの状況になればなるほど、レベルの上がりが良くなるとかでなくなったのなら、なおのことである。
「その場合は俺が出ることはないな。ルルティエラ様が自分の出した依頼に対して、アドバイスをしたなんて話は聞いたことがない」
「あくまで依頼を受けた本人が、相手の戦力に気付いてなければ増員はないということですね?」
「まあ現時点で有力な探索者の知り合いがいるのならば、だがな」
俺の頭に浮かんできたのは、米崎と玲香。そしてミカエラの魂を力にしたはずのクリスティーナだ。彼女のレベルアップが終わっていれば、すでにミカエラの能力を手に入れている。ミカエラは相当な実力者だったらしい。
「もし久兵衛たちに協力が発覚した場合。こちらがレベル200を一人用意すれば向こうも一人補強する。その考えでいいですか?」
「違うな。そこは勘違いだ。お前たちがレベル200を一人用意すれば、おそらく久兵衛側はレベル200を三人は用意するだろう。ルルティエラ様のルールは、あくまでお前たちがクエストを達成する可能性があればいいだけだ。平等である必要はない」
つまり協力してもらう場合は絶対にバレてはだめということ……。
「あの、じゃあそろそろ報酬に関して……」
一通り聞きたいことが聞けた。後はもらうものをもらって、行動に移すのみである。とはいえ現金すぎる内容は、ちょっと遠慮しながら聞いた。
「構わんが、その前に第二クエストの報酬に関しても聞いておくか?」
「それは聞きたいです」
「まず無条件でのレベル150。これは仲間のエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクについてもだ。そして先ほどと同じくブロンズ級のスキルと魔法のどちらか一つを自由に選択できる。さらにガチャコイン70枚。HP、MP、SP、力、素早さ、防御、器用、魔力、知能の全ステータスが+125となる」
間違いなくこれもかなりいいものだ。まだレベル200にはなっていないもののレベル150になることができれば、大八洲国で俺たちが弱いということはなくなる。つまりエヴィーを生きて無事に取り戻せるかどうか。
これが俺たちにとって重要なことになる。こなすクエストによって、探索者の質が全く変わる。局長と摩莉佳さんが別に驚いていないところをみると、同じレベル200でもこなすクエストによって強さに違いが出る。それは当たり前のようだった。
「ダンジョンからのクエストが出続ける今の状況は、俺たちにとって理想的だ」
ルルティエラは伊万里を殺したいと思えば思うほど、俺たちにも報酬を支払い続けなければいけなくなる。本当におかしな女神様である。
「死ななければな。10000人いたら9999人は死ぬ。一度乗り越えたところで勇者はそれが延々と続くのだ。どこかでちょっとでも躓けばそれで終わりの運命だ。悪いことは言わない。東堂伊万里。お前は探索者を諦めろ」
摩莉佳さんが伊万里に言ってきた。
「まだ聞きたいことがあるんですがいいでしょうか?」
俺はそれを無視した。ちょっとムッとしたからだ。それにしても、ルルティエラからちょっかいを出されるという意味では同じなのに、ダンジョンから好かれるものは生き残り、勇者は死ぬことがほとんどなのか……。
「いいぞ。いくらでも摩莉佳が答えてくれる」
「私は忙しいんですよ」
「いいじゃないか。俺は今まで勇者が一方的に殺されるのを見ていた。正直ただの虐殺ショーは見てて面白くなかったんだよ。あの女神にしては平等さにかける。なんでそんなことするのか女神は教えてもくれないしな。お前ら、理由がわかったら是非俺にも教えてくれよ」
「俺たちの情報を全部、久兵衛たちには秘密にしてくれるなら教えます」
「それはもちろんだ。言っただろう虐殺ショーは見てて楽しくないってな」
局長は分かりやすくて好戦的な人だ。クマを人間にしたような見た目と相まって頼れる雰囲気も漂っている。貴族というものがどういうものなのか。俺は理解していない。だから怖さは残るけど信用はできる気がした。
「摩莉佳さん。レベル200を超えていくために、クエストは全部でいくつこなさなきゃいけないとかあるんですか?」
「基本は20ぐらいだ。普通にやれば、この20をこなすのに、探索者として生き残ることができるものでも10年はかかる。だが僅か一ヶ月ほどで三つをこなして終わった探索者を四年ほど前に見た。クエスト数が少ないほど優秀な奴らだ」
おそらくそれは間違いなく、南雲さんたちではなかったのかと思う。俺が南雲さんと同じ土俵に立とうと思えば、同じことをやるしかない。
「その人達って全員生きてるんですか?」
「いや、一人死んでる」
「……そうですか」
「そしてレベル200に至ることができても、最後にレベル200を超えシルバー級になるためには必ずキークエストというものを受けなければいけない。定期的に出されているものだが、これは非常に難易度が高く、それを超えられるものは1/10以下だと言われている。だがキークエストの難易度は全員統一されている。お前たちが万が一生き残ったとしたら、鼻歌を歌いながらでもこなせるだろう」
「つまりキークエスト以外は何をしてレベルを上げてもいいんだ」
今まではモンスターを倒すことでしかレベルは上がらなかった。それはモンスターの生命力のようなものを奪っているのかと思っていた。だが違うのだ。レベルが上がるのはダンジョンがそう決めたからだ。
「そうなる。ただレベル100以上は必要経験値が全く今までとは変わる。正直モンスターを殺してレベル上げは、クエストをこなすよりもはるかに時間がかかる。20年はかかると思っておけ」
「途方もない話ですね」
「ああ、途方もない。だが貴族クエストにも恵まれなかったものは、コツコツと民間クエストをこなし、お金を稼いで装備を整え、モンスターでレベルを上げ、20年かけてレベル200に至るものが珍しくない。いや半数の探索者はそうなのだ。それを滅多に出ることのないダンジョンからのクエストをこれだけ受けられて、レベル200に一瞬で至ることができる。その権利を有する。死の危険があるとはいえ、お前たちは恵まれすぎだ」
「……」
こればかりは言い返せなかった。現実の世界でも一月で人の一生分稼ぐ人間もいれば、どれだけ頑張っても、生活費ギリギリの給料しか稼げない人間もいる。そしてそういう人間の方が多い。ダンジョンには夢がある。だが現実もあるようだ。
「失礼しました。じゃあ、えっと……」
第一クエストの報酬はどうやって受け取ればいいのかと摩莉佳さんと局長を見た。ダンジョンからの声が聞こえてレベルが上がるわけではないのなら、どうやって上げるのか。非常に興味があった。
「局長。お願いできますか?」
「もちろん」
言いながら局長は自分のステータスをオープンにした。こちらからは見ることができない角度になっている。覗き込みたい衝動にかられたが、それがどれだけ失礼なことかは分かっていた。俺が余計なことを考えていると、局長は言葉を紡いだ。
【翠聖都探索局第二局局長近藤勇より申請する。六条祐太。桐山美鈴。東堂伊万里。三名の第一クエストクリアを認める。承認されたし】
【了。三名のクエスト達成を承認。報酬の引き渡しを行います】
その言葉と同時だった。体が淡く輝き始めて、体の奥底から力が溢れ出てくるのを感じる。今確実にレベルが上がっていってるのだと分かった。モンスターと戦ったわけでもないのにレベルが上がる。
かなり違和感のある状況だ。だが動きが速くなったのがわかる。今までのレベルアップよりも質も良さそうな気がする。モンスターを倒してレベルアップをすれば分かりやすい。それほどのばらつきも出ないだろう。
だが、ここからはますます人によっての差がついていくわけか。まるで社会の縮図のようだ。
「美鈴。伊万里」
「うん」
「前よりは戦えると思う」
美鈴と伊万里が頷いた。
「さて、六条、桐山、東堂。スキルか魔法の報酬だ。この中から選んでいいぞ。どれにする? 俺も摩莉佳も見ないからゆっくり選べよ」
そう言って報酬となるスキルと魔法の一覧表が空中に浮かんで表示された。項目は1000個以上に及び、そのどれがいいのかの判断は非常に難しかった。すごいな。伊万里の【光天道】もある。召喚獣一覧まであった。
それはかなり目移りしてしまう内容だった。
「今までと系統が全く違うスキルや魔法まで選べるんですね」
「まあ、分かってると思うが、自分に合わないスキルや魔法なんてものは選ばんことだ。ステータスがそれに向いていない。つまり死ぬほど使いにくい」
「ああ、やっぱり……そうなんですね」
当たり前のことだが、なんでも選べても、なんでもいいとはならないわけだ。選ぶものによっては、返って自分の足を引っ張る。となると選ぶべきは……、俺は一覧表に目を走らせた。自分の系統に沿ったものが一番良い。
ならば……俺は自分が一番助けられたスキルが頭に浮かんだ。その頭に浮かんだスキルを探していく。系統別に分けてくれていることが非常に助かる。移動系から選択して、
【韋駄天レベル3】
局長と摩莉佳さんが、こちらを覗くような素振りは一切なかった。俺はそれを信用することにして、自分のステータス画面を開いた。つい先ほどレベル125になったのだ。確認するとレベルアップに伴いスキルと魔法も成長していた。
そんなスキルが並ぶ中で【韋駄天レベル2】とある。やはりこのスキルは成長していない。どうもこのスキルはなかなか成長しないようなのだ。
これだな……。
美鈴の【探索網】も役に立つし、伊万里の【光天道】は光の速さで移動することができる。特に伊万里の【光天道】は、物理学的にはありえないほどの奇跡らしい。だが人の能力に目移りするよりも、自分だと思う。
「祐太。どうするの?」
美鈴が聞いてきた。
「俺は自分を極める。結局それしかないと思うんだ」
「なるほど……。確かにそれが一番大事だよね。じゃあ私もそうしよう。伊万里ちゃんは?」
「私もそうします。使い慣れないスキルなんて時間もないのに今は必要ない」
局長の言葉を聞いたこともあり、三人の意見は一致していた。俺は【韋駄天レベル3】。美鈴は【探索網レベル10】。伊万里はかなり悩みに悩んで【破光弾レベル7】を選んだ。全員直接攻撃よりも、他の能力を選んだことになる。
俺は速さ。伊万里の【光天道】は光の速さで動けてもそれを制御することができない。出発地点と到着地点があらかじめ決まっている。それでは戦いには使いにくい。それでも相手より速いことが戦いにおいて最も有利なのだ。
美鈴は索敵能力。久兵衛の召喚獣狒々に追いかけられた時にどこにいるのかがわからなくて、死ぬほど怖かったのだそうだ。これと【気配遮断レベル6】で悩んだようだが、敵の位置を知ることを優先した。
伊万里が目潰し。これだけ魅力的な報酬が並ぶ中で、これを選ぶのは伊万里だけだと思う。ただ圧倒的なまでの初見殺し。だが決まった時の威力はすごい。ジャックもまさか伊万里がこの魔法をさらに強化するとは思ってないだろう。
「いいです。選び終わりました」
俺たちは自分のステータス画面を消した。
「意外と早かったな。じゃあ俺からはここまでだ。後は自分たちが思うようにやれ」
俺たちは頭を下げて立ち上がる。障子戸を開けようと思ったら勝手に開いた。どうやって俺たちが出てくるのが分かったのか、猫人のからくり族が開けてくれたようだ。そこから出ようとして、
「これからどうするつもりだ?」
摩莉佳さんが聞いてきた。
「一旦外に出ます。転移駅を使えば、一日で帰ってこられますよね?」
とにかく米崎に連絡を取る必要がある。何を置いてもあの男だけは必要だ。
「それはまあ帰ってこられるが……。まさかとは思うがレベル200の協力者がいるのか?」
「……秘密です」
「ひっ……みつ?」
意表をつかれたようにメガネの奥の瞳が瞬いた。
「ぷっ」
何が面白かったのか局長が吹き出した。
「そりゃそうだ。六条たちからしたら俺らも信用できない」
「むっ。ならいい」
怒らせてしまったか。だがおいそれと自分たちの手の内を人に伝える趣味はなかった。
「まああっちも六条のお仲間を殺しに来てるんだ。遠慮はいらない。思いっきりやりたまえ」
「ええ……それは多分」
言われなくてもそうなる。そんな予感がしていた。そして探索者になってからこういう予感は外れたことがなかった。
もうすぐチャンピオンREDの発売日。
なんだか1ヶ月が早いような気がします。
次回もチャンピオンREDにて、
5月19日発売の7月号にて掲載されます。
第四話となります。
相変わらず、原作者なのに読んでて面白い。
本格的に美鈴が出てきて超可愛かったです。
なので是非、チャンピオンREDを手に取って読んでいただけると嬉しいです!
https://www.akitashoten.co.jp/red
このアドレスにて詳細が見れるので、またよろしくお願いします。





