第四章最終話 最終確認
良ければ前話のステータスを見ながら読んでください。
「まず祐太のガチャ結果からよね」
「祐太の内訳はめぼしい物でこんな感じね」
ダンジョンの中にある東京。その高層ビルの会議室らしき場所。そこで話し合っていた。周囲の警戒は召喚獣たちがしてくれている。会議室の机の上にずらっと並べられた合成素材やポーション。
ほかの探索者にすればうらやむべき光景なのだろう。だが、見慣れてしまった光景。それでも、とてもありがたいことには違いなかった。このアイテムをすべて売り払えば、100億円ぐらいにはなる。
「ストーンで100億円のガチャ……」
探索者はストーンを超えるまでは貧乏だと言われている。お金のやりくりがこの期間は大変なのだ。だが、俺のガチャ結果はそんなもの簡単に振り切ってる。
「私がモデルで築き上げた資産と同じ価値がここにあるのね」
エヴィーは赤ん坊の頃からモデルだった。その頃からずっと今までトップモデルとして第一線で活躍し続け、そして築き上げた資産。その資産と同価値のものが目の前にある。
「なんかごめん」
「謝らないでよ。それだけ探索者がすごいということなんだから。あなたがいてブロンズガチャを回せるようになったら、その収入がどれぐらいのものになるのか、今から楽しみだわ」
エヴィーはこの辺やっぱりアメリカ人でお金の話は好きだった。
「ねえ祐太。私も大金持ちでいいんだよね?」
美鈴はいまいち実感がわかないようだ。俺のガチャ運を考慮して、俺がいつも利益配分を一番多くもらっている。それでも美鈴たちにもかなりの利益を渡しているので、今回のガチャで間違いなく美鈴も大金持ちである。
「まあそれでいいと思うよ。俺も正直実感がわかないけど。15歳でこれだけ稼げれば十分じゃないかな」
「だよね。20億円分ぐらい現金化しても、祐太が10億で、私とエヴィーと伊万里ちゃんで残りを等分に分けても3億円以上だ」
「半年ぐらいは外にすら出ないけどね」
「金はあれど使う暇は無し。それ以前に死んだら終わり。まさにハイリスクハイリターン」
「確かに。でも、使う暇については大八洲国がどんな国かによるけどね」
大八洲国。入国許可が出ているその国はどんなものなのか? このタイミングで出たということは、それほど離れた場所にはないのだろう。もしそれが貨幣経済をちゃんと築いているのならば、お金はいくらでも使う機会がある。
そしてドワーフの話を聞く限り、その可能性は高かった。なんでも【貨】という通貨が存在しているのは間違いないのだ。それが大八洲国である可能性も高い。
「ところで、この祐太のクエスト評価さ。SSSなんていう評価があるの?」
全員で自分のステータスを表示しながら話していた。最初に俺のステータスを見て美鈴から聞かれる。ミカエラのクエストが終わった後、いつもどおりのクエスト判定の声がなかった。だから俺は判定自体がないクエストなんだと思った。
だが、やはりあった。しかも聞いたこともないSSS評価だ。
「まあそうだね」
「クエスト目的はミカエラの治癒で、ミカエラは祐太がその……」
美鈴が言い淀んだ。ミカエラを殺した。人を殺すこととモンスターを殺すことはかなり意味が違う。必要だったとはいえ忌避したくなる言葉。俺は自分で言った。
「ああ、間違いなく殺した」
「祐太、美鈴。その話はやめましょう。結果がそうだった。それでいいじゃない」
「そ、そうだね。ごめん祐太」
エヴィーが俺の様子がおかしいと思ったのか、この話題から離れた。ミカエラを殺してSSS評価。ミカエラを殺したことをダンジョンから褒められているみたいだ。あの事は誰からも褒められたいわけではない。
ミカエラと美鈴たちを天秤にかけた。
そして美鈴たちを選んだ。それだけのこと。心のどこかでミカエラが美鈴たちを殺すことに、手加減してくれるのではないかと期待した。だが、それをする気がないと分かった瞬間、俺の心は殺意で満たされた。
「いや、ミカエラを殺した。別にその言葉から逃げる気はない」
「じゃあ祐太。私も同罪よ」
エヴィーが言う。
「その、私もだよ。私は祐太がミカエラを見逃すんじゃないかと思って怖かった。だからあの言葉を言って、背中を押した。私はあの女は死ぬべきだと思ったから」
美鈴が言う。
「うん。私もそう思う。ミカエラはどうしようもないほど人を傷つけすぎた。祐太が殺さないなら私が殺した。だから私も同罪」
伊万里が言う。
「私ができれば私がしてあげたかった。でも祐太にしか出来なかった。祐太の強さは私たちの中で頭一つ抜けてるわね」
さらにエヴィーが言う。皆に気を遣わせている。だからできるだけ明るく言った。
「そうかな? 俺たちのパーティーはみんなそれぞれに強いし、そこまで飛びぬけてないと思うけどな」
「そうかしら? 私は現時点でもあなたが最強だと思うし、下に行くほど祐太の方が強くなっていくと思う」
俺の専用装備を見ながら言ってくる。お互いミカエラの話は終わりにしようと頷きあっていた。ほんの少しでも道が違えば、ミカエラと二人で探索者だったかもしれない。でももうそんな未来はないのだ。俺は頭を振った。
エリアごとにある専用装備。それはエリアが深いほど強い。ガチャ運6になったことで、俺はブロンズ装備をまず間違いなく揃えられる。俺は下に行くほど強さが増していく。お互いに触れたくない話題を避けるようにその話題に移った。
「まあそりゃそうだけど。カインの召喚獣の強さから言って、エヴィーの強さもかなり変わることになると思うよ」
「確かにそうでしょうけど、私はあなたのステータスには何か他人にはない特別なものを感じるの」
「そうかな。むしろ特別なのは伊万里のステータスじゃないか」
全員の目が伊万里のステータスに移った。
「伊万里ちゃんは【勇者】か……。やっぱりレア職だったんだ」
「ええ、そうみたいです」
俺も含めて全員が勇者と表示されているのを見て難しい顔になった。
【勇者】
そう聞くと、すごいことのように思えるが、世界に現れたダンジョンの中において、勇者というその称号がいったい何を示すのか? そのことがよく分かっていなかった。
それはただ単に勇気ある者への称号なのだろうか?
それとも某有名RPGゲームのような特別な意味があるのか?
だとしたらかなりすごいことである。だがそれでも手放しで喜ぶ者はいなかった。勇者であることはあまり喜ばれることではなかった。というのも今まで勇者は何人か世界に現れた事があるのだ。
「最初に勇者があらわれた時は大騒ぎだったよね」
「うん。あんまりにも騒がれて持ち上げられて結局、ブロンズエリアを超えることが出来なかったのよね」
「ああ、なんかあれは可哀想だったな」
称号勇者が現れ、世間は騒ぎ立てた。勇者がいるということは、特級ダンジョンの最奥には魔王がいて、それを倒すのが勇者だと誰もが噂したのだ。だから当時の勇者の人気ぶりはすごかった。現れたのはプエルトリコ。
アメリカの自治区でありながら未編入領域であるプエルトリコ。スペイン語を話すその勇者はそれでも【アメリカの勇者】と言われた。ダンジョン関連で大きく後れを取っていたアメリカはそこに希望をかけたのだ。
それこそアメリカのあらゆる企業がこぞって勇者の支援を表明し、潤沢な軍資金を持った勇者は、まさに完璧なはずだった。しかし、プエルトリコの勇者はブロンズエリアを超えることができずに死んでしまったのだ。
その当時はこれで魔王を倒すものはいなくなったと言われ、世界中がお通夜ムードだ。勇者の死は悼まれ、世界中で葬式が開催されたのだ。だが、【勇者】は再び現れた。みんな喜んだがすぐにまた死んだ。
そのため、勇者の称号はあまりよく言われることがなかった。強いからこその勇者であり、弱い勇者に興味があるものはいなかった。何よりも勇者は途中で探索者をやめてしまうことが多いのだ。
現在、確認されている勇者の数は十人という話で、伊万里で十一人目だ。ステータスの称号は国の住民データーにまで反映されるため、自分の称号だけは偽ることができない。
そのため、そのはっきりしている人数の中から、ブロンズエリアを超えられた【勇者】はおらず、半数は死亡したという事実も有名だった。
「でもこうして見ると伊万里は強い。【勇者】の称号があるとステータス全般に+100のバフが付くのか。ステータス自体の上がりもいい。おまけに【回復】がある。むしろこれでどうしてブロンズエリアが超えられないんだ?」
なぜなのかと思わず首をかしげた。
「まあダンジョンの攻略難易度が高すぎるから超えられなかっただけ……」
だが、伊万里のステータスを見る限り、それだけでもない気がする。
「伊万里。実際、この称号をもらって何か気になった事ってあるか?」
「うん。あのさ……この称号をもらう前の事なんだけどね」
「ああ」
「クエストを達成したときのことなんだけど……」
伊万里が口を開きかけて閉じた。
『あんたの親父ももう家には帰らないんだって』
なぜかそれが親父までが家に帰ってこなくなった時の伊万里と重なって見えた。伊万里が俺のことを凄く嫌っていた頃。その言葉を俺に伊万里が言った時。ものすごく心細そうで、今にも泣きそうな顔をしていた。
その時の顔と今が重なって見えた。
「伊万里。何かあったのなら言うんだ。こんな場所でお互い秘密はなしだ」
「うん……」
それでも伊万里は言うことを迷っているようだった。
「伊万里。情報共有をするべきだわ。嫌な情報だったとしても、聞いておかなければ何も分からないのよ」
エヴィーも言った。
「伊万里ちゃん。私たちは仲間だよ。いつ死んでもおかしくない場所で協力し合う仲間なんだよ。それとも私には言いにくい? それなら私は向こうに行っておくしさ」
美鈴は伊万里が、自分を嫌っていると感じているみたいだ。
「いえ……別にいてくれてもいいです」
伊万里はうつむいて何かを考えていた。そして顔を上げた。
「祐太。あのさ」
「ああ」
「クエストの最後で私、リッチグレモンに会ったの」
「リッチグレモン? 伊万里のクエストの高位アンデッドの?」
俺は伊万里のクエストである八階層クエストを確認した。
「うん。リッチグレモンの秘宝は【回復石】だった。それを装備すると同時に自分の魔法に【回復】が現れたの。それでね。“迷宮”を抜けてそれをなんとか手に入れたとき、リッチグレモンが私の前に現れた」
伊万里が四人の中で一番クエストに時間がかかった。その理由は高難度の迷宮にあった。クエスト内容に【高位アンデッド】と記載されていることから伊万里はまずピラミッドを目指した。
実際、狙いは外れていなかった。というのも、ピラミッドの下にとんでもない規模で地下迷宮が築かれていたそうだ。迷宮は横への広がりだけではなく縦にも広がっていて、
「砂漠エリアの下のすべてが迷宮になってた」
「そんなのよくクリアできたな。いや、クリアどころか入って出てくる事ですら難しいだろ」
「多分、出られなくなってそのまま死んだんだと思う死体は結構あったよ」
「うわー」
「わ、私のクエストじゃなくてよかった」
美鈴もエヴィーもそのクエストはいやそうだった。そして俺もそんなクエストをクリアできる自信はなかった。
「リッチグレモンはどんなやつだったんだ?」
「うん。骸骨が黒い高位の僧侶服を着てる感じだった。骸骨だけど物腰は柔らかくて優しい喋り方をするの。正直、敵になるようなアンデッドじゃなかった。そういう意味ではエヴィーさんが見た白蓮様と似ているかも」
「強さの底が分からない?」
「うん。私にはそいつがどれぐらい強いのか分からなかった」
「そうか……」
嫌になる。探索者以外にも手の届かない相手が、普通に同じ階層に出てくるのか。
「そいつに何かされたか?」
「別に何もされてないんだけど……。【死を約束されし者】って言われた」
「【死を約束されし者】?」
その言葉に俺はすぐに反応できなかった。
「それってまさか伊万里が死ぬって意味か?」
おぼろげにしか顔を思い出せない実母よりも、俺たちを捨てた親父よりも、ずっとずっと一緒に生きてきた伊万里。それが死ぬ……。
「たぶん、そういう意味だと思う」
「……」
握り拳に力がこもった。
「伊万里。リッチグレモンに言われた言葉はその言葉だけじゃないよな? 全部話してくれ」
俺は促した。ここはダンジョンだ。俺がどれだけ強くなったと思っても、俺より強い奴がいる。白蓮様は敵対的な存在じゃないみたいだが、そいつはどうなのだ? 落ち着いて対処しないと、一歩間違えば本当に伊万里が死ぬ。
「わかった」
伊万里はその時のことをできるだけ正確に語ってくれた。伊万里はピラミッドの地下迷宮をかなり深くまで降り、疲労困憊だったそうだ。エヴィーが用意してくれていたポーションも尽きようとしていたらしい。
それでも自分だけがクエストを達成できないなんてことになってはいけない。伊万里もかなり焦っていたそうだ。そうして下へと降りたその先に、地下を大きくくりぬいた神殿があった。
そこには女神像らしきものに向かって祈りを捧げているリッチグレモンがいたらしい。
『よくきたね【死を約束されし者】』
骸骨だったから男か女かわからなかった。でも若い男の声だったらしい。彼は言う。
『おや、お腹が痛そうだけど大丈夫かな?』
伊万里はポーションが尽きたら死んでしまうと思って、剣で腹を刺された傷を治さないままだったらしい。そして伊万里はリッチグレモンに『大丈夫じゃない』そう答えたら、【回復石】をくれたそうだ。
『私の秘宝の一つだ。君にあげよう』
「話を聞く限りいいやつそうね?」
「うん。ちょうど欲しいものをくれたから余計に私もそう思えた」
「エヴィーの見た白蓮様といい、統合階層は妙なのが出てくるな」
『それと一つ忠告だよ。【死を約束されし者】はダンジョンから嫌われる。ダンジョンから嫌われ、生き残る者なんていないと思うけど、もしも生き残るなら私と再び会おう。そうなることを私は願っているよ』
「ダンジョンから嫌われる?」
「兄妹で真逆ね」
「兄妹じゃありません。元々義理だし、男と女です」
リッチグレモンの言葉。それは穏やかではない言葉だ。ダンジョンに入っているのだ。死ぬ確率は誰にだってある。それでも“約束”となれば話は違う。伊万里がほぼ間違いなく死ぬと言われたようなものだ。
「ひょっとして勇者が強くなれない理由って?」
俺はその疑問と重なった。ステータスにバフまで付くのに、ブロンズエリアを超えることができない【勇者】。
それが、
【死を約束されし者】
と、何か関係があるのではないか?
「伊万里。リッチグレモンはその辺のことを話してくれたか?」
「ううん。言ってなかった。私に言いたいことを言ってふっと消えちゃったの」
「死ぬまでの猶予はどれぐらいあるんだ?」
「それも言ってなかった。でもそんなに遠い話なら言わないんじゃないかな」
「そうか……」
頭の中を一生懸命回した。呪いじみた言葉で、伊万里が死ぬことになるなんて許せるわけがない。なんとしてでもその言葉の真意と、その言葉を覆してもらわなければいけない。
「リッチグレモンか……」
それは悪意のある存在だろうか? アンデッドという存在だけで一概に敵視はできない。アウラや大鬼の例もある。知能の高いモンスターは利害関係を超えて動く。だからこそ目的がわからなければならない。
リッチグレモンに会わなければいけない。大八洲国に居るんだろうか?
「伊万里」
「うん」
「当分、俺と常に一緒にいよう。どんなときも離れないように気をつけるんだ。嫌じゃないか?」
「う、うん。嫌じゃない!」
「じゃあ伊万里はたとえ何があろうとも俺が守る。だから絶対離れないでくれ」
「わかった。絶対離れないように気をつけるね」
伊万里の顔が明るくなる。すごく喜んで見えたのは、きっと気丈に振る舞おうとしているだけだろう。死の予言など冷静でいられるわけがない。伊万里がスッと俺の横に移動してきたから、手を強く握ってあげる。
そうすると伊万里からも恋人握りをしてきた。
「伊万里。ほどほどにしておきなさいよ」
エヴィーが瞳を細めて伊万里を見る。
「わ、分かってます。でも嘘をついたわけじゃありません」
「当たり前でしょ。そんな嘘をついていたら……いえ、まあさすがにそれはないでしょうから、いいわ。とにかく伊万里はその言葉の真意がわかるまで祐太と行動する。そういうことにしましょう」
「【勇者】の称号か。かなり面倒そうだね」
「良いじゃないか、エヴィー、美鈴。世界中のまだ誰も突き止めていない【勇者】の謎を突き止める。それこそ探索者の醍醐味じゃないか」
「まあそうだけど……」
伊万里が腕を組んでくる。ここぞとばかりに二人に見せつけるようにくっついてくる。伊万里の巨乳が俺の腕に当たって気持ちいい。
「いや、伊万里そこまでくっつかなくていいだろ」
「祐太。こうしてないと私死んじゃうかもだよ」
「うん、まあそれは困るが」
「じゃあいいじゃない」
「ああ、気持ちいいな」
美鈴が自分のステータスをオープンした。伊万里は当分の間この状態を確保するつもりのようだ。
「祐太。次は私でいい?」
美鈴は話を進めることにしてくれた。まあ家での伊万里は大体こんな感じである。今まで大人しすぎて逆に驚いていたので、二人が怒ってこないならいいかとされるがままにして、美鈴のステータスを見る。
「私はやっぱりこれが一番嬉しいな」
美鈴が【毘沙門天の弓槍】をテーブルの上に乗せた。それは明らかに異質な武器だった。この優美な弓を見るとまざまざと脳裏に蘇ってくる。俺は美鈴が大鬼を殺した一撃が忘れられなかった。
【爆雷槍】
あのまるで地上を走り抜ける雷のような一撃。あれは怖い。あんな攻撃をされたら、自分でも危うい。
「【爆雷槍】。すごい威力だ。美鈴はモンスターを貫けなくて困っていたはずなのに、大鬼を貫いて、さらにその後ろのビルまで貫いていた」
「うん。【覇哭】もなんか凄かった」
「これで美鈴はレベル1000を目指せる訳よね?」
エヴィーが美鈴の武器を不思議そうに見つめた。
「いや、そうでもないんだよ。田中は虹を三つ持ってるって噂だ」
「三つ? 一つ手に入れるだけでも大変なギャンブルなのに、これがあと二つ?」
当然、ガチャのランクが上がると虹が出る確率も低くなる。それをあと二つも美鈴が出せるのか?
「【毘沙門天の弓槍】があるだけじゃダメか……」
美鈴は遠くを見つめた。道のりは遠い。
「ねえ、美鈴が強くなる条件ってなんというか……」
「ギャンブルみたい」
エヴィーが言い淀んだのに伊万里がはっきり言ってしまう。
「あうっ」
本人の努力も必要だが、美鈴の場合、強くなる条件が虹アイテムに偏っている。ブロンズガチャでどれぐらい虹アイテムが出るのかは知らないが、ストーンガチャと同じということはないだろう。
ストーンガチャで虹が出る確率は1/4096と言われている。それよりもまだ低い確率。美鈴はようやく虹アイテムが出たと思ったら、また次のガチャである。
「ガチャ沼……」
美鈴はガチャを回せば回すほど、ガチャの底なし沼にはまっていくようだ。
「うぅ……。せっかく喜んでたのに現実に戻ってしまった」
がっくりと美鈴は落ち込んだ。今はまだ大丈夫だと思うが、また下の階層に行くと、美鈴の防御が柔らかすぎる問題が出そうだ。
「エヴィーさんのステータスはもう自分で戦うって感じじゃないですね」
そんな美鈴を放っておいて、伊万里はエヴィーのステータスに注目した。
「やっぱりエヴィーさんは召喚士ですね」
エヴィーは職業もそうだし、何よりもステータスがそう言っていた。そこそこ高いステータスもあるが、それを生かし切れるほどの魔法もスキルも本人にはない。それがエヴィーの場合は当然なのだ。
「これってひょっとしてエヴィーは戦ってない?」
美鈴が聞いた。エヴィーのステータスではどう考えてもレベル100オーバーのモンスターとの戦闘についてこられない。つまり戦っていないということだ。
「だって私が戦おうとするとリーン達が邪魔そうな顔するし」
「まあ、このステータスで前に立たれたら守らなきゃいけなくなるだけだよ」
俺が言う。エヴィーのステータスにある【素早さ334】の表記。これだとエヴィーと合体してもリーンは全く強くならない。正直、邪魔である。リーン達はきっと『主は黙って指示だけしてくれ』と思っていることだろう。
「まったくもってその通りよ。クエスト報酬に至っては、私のものは一つも無かったわ。全部、召喚獣への報酬ばっかり」
エヴィーはちょっとむくれる。召喚士はどんどんと相対的に弱くなる。だが、それはエヴィーの召喚獣の優秀さを証明していた。俺たちが会議しているビルの周囲を守ってくれている召喚獣。
エヴィーが召喚獣のステータスをタブレットに表記させ俺に見せた。
「リーンも順調に強くなってるね」
「そうね。最近じゃワイバーンに正面衝突されても耐え切ってくれるのよ」
おそらく新しく生えているスキルなのだろう。
【ブルーシールド】
リーンのこの盾が強固らしくて、衝撃にも強いし、オーガの斬撃ですら耐えたらしい。
「ラーイも種族進化してから格段に強くなったわ」
「この【死毒】って、ひょっとして一撃死の技?」
俺はおっかなそうに聞いた。
「ええ、そうよ。アニメのデスとか、ザキ。これらとほとんど同じね。ラーイの尻尾の蛇に噛まれたら終わりって感じ。即死しなくてもかなりのデバフがかかるから、決まれば強力ね」
「それはデスポイズン……」
美鈴が微妙な顔になり、ラーイの尻尾にいるしゃべることのないヘビを見つめた。俺たちが休憩がてら長話をしている間、ラーイは俺たちのいるビルの周りを飛んで警戒してくれている。
窓から見ることのできる5mあるライオンの異様さ。その姿、まさにビルを守るボスキャラである。上にはリーンが乗っていて、近付けばラーイが手を出す前に一刀両断にしてしまう。
ビルの側面には【隠れ蓑】で姿を消しているクーモが張り付いていた。例え、ラーイとリーンの目をかいくぐっても、巨大蜘蛛に音も無く殺されるのだ。
それを乗り越えても、ビルの玄関ホールで黒桜が警戒していて、魔法の一撃で消し炭にされる。モンスター側から言わせれば、この四姉妹を突破して、このビルに入り込むことは絶望的なほど無理ゲーだ。
「クーモもすごいよね。これ、かなり速いでしょ?」
韋駄天のレベルが2になっている。素早さで言えば俺やラーイに負けないぐらいある。それに何より【隠れ蓑】だ。人間は相手を認識する時に視覚にほとんど頼っている。他のどの器官を使っても視覚ほど正確に相手を捉えることができない。
「その上あのにゃーにゃーネコ」
玄関ホールできっと何も警戒せずに眠りこけているであろうネコを思い出した。
「白蓮様って人がくれたんだよね?」
「ええ、そうよ」」
「……エヴィー狐にでも化かされたとかじゃないよね?」
「違うわよ。だってクエストにも出てるし黒桜がいるじゃない」
「まあ確かに……」
白蓮様。エヴィーがその人物のことをかなり言っていた。
「でも、本当に砂漠の砂嵐の中に居るの?」
美鈴が不思議そうに聞く。俺も美鈴も、そして伊万里もレベル上げの時に、統合階層をほぼくまなく回っていた。当然、エジプトを模したと思われるエリアにも、入り込んで砂嵐も見ていた。
しかし、その中に誰かがいる気配など感じた事も無かった。それにしても、ここぞとばかりに伊万里がくっついてくる。巨乳が当たって気持ちいいのだが、二人の視線が痛い。
「まあともかくお互いのステータス確認はこれぐらいにしよう」
その人物のことについてはこれ以上考えても仕方なかった。こうして全員がクエストを無事にクリアすることができたのだ。
「行こうか。十一階層に」
俺たちはようやく新しい階層へと行くのだ。以前と違う。ほかの探索者たちとも本格的に関わっていく時がきた。
もうすぐチャンピオンREDの発売日。
先月号もかなり好評だったようでありがとうございます。
次回もチャンピオンREDにて、
4月19日発売の6月号にて掲載されます。
第三話となります。
相変わらず、原作者なのに読んでて面白い。
南雲さんもとても輝いていました。
なので是非、チャンピオンREDを手に取って読んでいただけると嬉しいです!
https://www.akitashoten.co.jp/red
このアドレスにて詳細が見れるので、またよろしくお願いします。





