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第百三十五話 奈落の花

【レベルアップのお知らせをいたします。あなたはオーガを倒しレベル100に到達しました。これにより称号を授けます。あなたをこれから【焔斬の武者】と呼称します。同時に【大八洲国(おおやしまぐに)】への入国許可証を交付します】


 俺のレベルがようやく100になった。正直、美鈴と競争のようになっていた。その美鈴がまだレベル79だと言っていたから、圧勝できてホッとしている。まあ、虹色アイテムのない美鈴に負けたらそれこそ洒落にならないのだが。


「【焔斬の武者】か。結構かっこいいじゃないか。【六条の君】とか変なあだ名ばっかりつけられていたからな。そっか【焔斬の武者】か。ふふ」


 だめだ。顔が笑ってしまう。うれしくて仕方ない。誰かに自慢したい。でもみんなが必死な時だから自重した。しかし、これで戸籍や住民名簿にも自動的に、称号の項目が出来て【焔斬の武者】と記載されるらしい。


 どうして戸籍が変わるなんて現象が起きるのかは分かっていない。ただ、ダンジョンでレベルが上がれば、人の価値そのものを高める。そのため、その人を表現する一切の物に、新たに得た【称号】が追加されるのではないかと言われていた。


「分かるようで、分からない話だよな。いや、それより、さっそくステータスを見てみるか!」



名前:六条祐太

種族:人間

レベル:99→100

職業:侍

称号:焔斬の武者

HP:1111→1121

MP:409→413

SP:780→788

力:940→948(+200)

素早さ:1021→1031(+200)

防御:1013→1023(+200)

器用:846→854(+200)

魔力:339→342

知能:277→280

魅力:80

ガチャ運:5→6

装備:ストーン級【美火丸の額当て】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の胴鎧】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の脛当て】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の籠手】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の陣羽織】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の魔法護符】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の物理護符】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の炎刀】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の短刀】六条祐太専用装備

   ストーン級【美火丸の履き物】六条祐太専用装備

   ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)

   シルバー級【マジックバッグ】(200kg)

   サファイア級【天変の指輪】

魔法:ストーン級【石爆弾レベル3】(MP30)

   ストーン級【鉄隔壁】(MP24)

   ストーン級【身代わり石像レベル3】(MP25)

スキル:ストーン級【焔鳥レベル4】(SP34)

    ストーン級【巨力レベル4】(SP32)

    ストーン級【気配遮断】(SP10で10分継続)

    ストーン級【念動力レベル3】(常時発動可)

    ストーン級【探索網】(常時発動可)

    ブロンズ級【炎蛇十三連撃】(SP60)

    ブロンズ級【韋駄天レベル2】(SP51)

    ストーン級【暗視光】(常時発動可)

    ストーン級【永続睡眠耐性】(常時発動可)

    ストーン級【意思疎通レベル3】(常時発動可)

装備スキル:ストーン級【縛糸】(SP8)

      ストーン級【斬糸】(SP13)

      ストーン級【炎流惨】(SP18)

      ストーン級【斬糸繰々】(SP25)

      ブロンズ級【灰燼】(SP52)

      ブロンズ級【獄斬】(SP70)

      シルバー級【炎無効】(常時発動)

      未承諾シルバー級【炎華鏖殺陣】(SP113)

      未承諾シルバー級【糸華死縛陣】(SP143)

クエスト:二階層S判定 三階層S判定 四階層S判定 五階層SS判定 六階層S判定

入国許可:大八洲国


「ステータスで1000を超えるのが増えてきてるよな。それにブロンズ級装備スキルが解放された。普通のスキルの方もブロンズ級が出てるじゃないか。【韋駄天】ってレベル2になるだけで、そんなに消費が激しくなるのか? 【炎蛇十三連撃】。段々と成長してきて、ついに十三連撃か……最初の【二連撃】からここまでくるとはな。そして……たぶん一番すごい事なのが【ガチャ運6】だ」


 俺は本当にガチャ運に恵まれているらしい。レベル100ごとに上がると言われているガチャ運だが、ガチャ運が高いほど、上がる確率が高いと言われている。あてにならないネットのダンジョン情報ではあるが、これは本当だったようだ。


 南雲さんですら初期レベルで、ガチャ運5は見たことがないと言っていた。それが今度はあっさりと6になった。


「多分、これでブロンズの専用装備もほぼ間違いなく揃う。そうすれば……」


 ミカエラを恐れる必要がなくなる。レベル200になれば、そして専用装備が揃えば、ミカエラに抵抗するだけの力が手に入る。だが、ミカエラがそれを待ってくれる保証はどこにもない。


「だから……」


 俺はステータスのクエスト項目を確認した。



九階層クエスト

クエスト:【秘】魔眼病を治癒せよ。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。

クエスト条件:六条祐太一人で行うこと。

       ミカエラが死亡してもクエスト評価に変化なし。

クエストレベル:100

クエスト使用可能上級アイテム:サファイア級【天変の指輪】

               ゴールド級 【奈落の花】

成功報酬:ブロンズ級スキル【煉獄斬】

     HP、MP、SP、力、素早さ、防御、器用、魔力、知能+70



「それにしても、ミカエラは何をしてるんだ?」


 俺がミカエラの部屋から逃げ出してもう一ヶ月近い月日が流れた。その間、一度としてこの統合階層にミカエラが現れたことはない。おかげでレベルアップはしやすかったが、どうにも薄気味悪い話だ。


 あれほど俺に対してこだわっていたくせに、興味がなくなったということだろうか? もしくはカラス(烏丸時治)がそれほど怖いのか?


「あいつ、ご飯をちゃんと食べてるんだろうな」


 これから殺し合うはずの人間を相手に、そんな心配は必要ない。死ねばご飯を食べる必要もなくなる。だが暫くの間一緒に過ごしてみて、どれだけ生活能力の低い女なのかもよく知っている。


 ミカエラは放置しておくと、ご飯も食べない。そしてひたすらネコである俺を構い倒してくるのだ。非常に迷惑で、何よりもいくら探索者の体が頑丈だからといっても、ご飯ぐらい食えと思ってカップラーメンを作ってやったこともある。


『カップラーメンを作れるなんてニャー君、天才ネコ!』


 そういうのはいいから早く食えと思ったのを覚えている。しかし一ヶ月近くもダンジョンに現れないのはやはり気になる。あの女の目的は『心の綺麗な人間を探すこと』だ。そのためにダンジョンに欠かさず入っていたはずなのだ。


「様子を見に行くか……」


 ダンジョンの中に籠もりきりになるつもりだったのに思いのほか、よく外に出る。でもミカエラが気になった。殺し合いをする相手なのに普通に心配になった。こんなことで本当に殺せるのか?


 考えながらも地上へと戻り、カラスになって空を飛び、ミカエラのボロアパートを目指す。すぐに目標地点に到達し、アパートの直前で、スピードを緩めて電線に止まった。窓から中の様子を確かめて【探索網】も使う。


 そうするとリアルにミカエラの部屋の中の様子が見える。五感もレベル100で強化されるとこういう現象になるのか? 美鈴が使っているのを見て一番便利そうだと思っていたスキルが【探索網】だ。


 自分にも生えてくれないかと思っていたら、本当に生えた。美鈴の【探索網】とは比べるべくもない程度の精度だが、透視でもしているように中の様子を把握することができた。


「カー(いない?)」


 金のないミカエラの、ボロくて一つしかない部屋を確かめていく。


 部屋の中にミカエラがいる様子はなかった。念のためにほかの部屋を確かめていく。右の部屋と左の部屋。さらに下の階の部屋。まるでミカエラの部屋を囲むように、頭のない白骨が、部屋の中に放置されていた。


 なみ達だよな。


 あれほどのことをされたのに、その三人を周りの部屋に置いている。ミカエラはなみ達の真実を知って壊れた。そのはずなのだが、未だになみ達に対して異常なほど執着している。


 それにしてもやっぱり誰もいない。


 どの部屋にもいる様子はない。俺はミカエラの部屋の窓のところまで飛んだ。そして【念動力】を使う。米崎のところで覚えた物体を自在に動かす力。それがスキル化して、【念動力レベル3】まで育っていた。


 おかげで鍵を開けて、さらに窓を開けることも簡単だった。俺はそのまま中に入った。


「ミカエラ!」


 元の姿に戻ると声を出して確認してみる。ミカエラの聴力ならば、アパートのどこにいたとしても俺の声が聞こえるはずである。だが、どこからもミカエラの気配は伺えなかった。


 ミカエラの日記を隅々まで読んだ俺は、ミカエラの行動パターンを把握している。ミカエラはこのアパートの部屋とダンジョン以外、ほかの場所に行くことはない。ほかの場所に行ったなどという記述は滅多になかったのだ。


「どうする……」


 俺は一応自分の目でも確かめておこうと思って、なみ達の部屋に入った。


「白骨があるだけか……」


 白骨以外は家具も何もない部屋だった。なみ達は死んだときに高級マンションで住んでいた。ここに住んでいたわけではないのだ。ここに白骨があるのは、ミカエラがここに運んだからだ。


「本当、ミカエラの気がしれないよ」


 その日からさらに三日間。ミカエラのアパートの周辺で、カラスの姿になってミカエラの帰りを待った。




 しかし、


「帰って来ないぞあの女! 何をしているんだ!?」


 どうして俺はこれから殺し合おうという相手の心配をしているんだ。いや心配をしているんじゃなくて、そもそもミカエラがいなければ、クエストが達成できない。恐ろしい存在のはずのミカエラがいなければ困る。


「どうする。いや、そんなの決まっている。こうなったらミカエラを探すしかない」


 まず、なぜ帰って来ないかを把握しなければいけない。勝手に日記を見て悪いが、また読ませてもらった。しかし俺が前に読んだ部分から更新されている様子がなかった。ミカエラはほぼ毎日、日記をつけている。


 つまり俺がカラスの姿でミカエラを脅したあの日からいないということだ。


「カラスから逃げ続けている……」


 俺がミカエラに放った言葉を本当に真に受けて、ダンジョンに近づくのをやめている。そんなことがありえるか? ミカエラは今まで周りから止められたことは一度や二度ではないだろう。あの程度の脅しで自重するのか?


 とにかく待っていたからって帰ってくるものでもなさそうだ。窓に再び鍵をかけて外に出た。何をどうすべきかと考えながらも、まずはカラスの姿になると飛び上がってダンジョンに戻っていないか確かめた。


「——やっぱいないか……」


 ダンジョンに入り、美鈴や伊万里、エヴィーにも確認したが、誰一人ミカエラの所在を把握している人がいなかった。ただ美鈴から、


【ねえ祐太。それなら藤原さんに聞いてみたら?】


 藤原さん? 正直、誰のことか分からなかった。


【五階層を探索していたレベル31の藤原パーティー。覚えてない? まあ、声を聞いただけで姿は見てないから、私もあんまり印象にないけど】


 そう言われてようやく思い出した。


「ああ、あの、藤原さんか」


 五階層で探索をしていた女パーティー。ミカエラを警戒して、問題が解決するまで、ダンジョンには入らないことにした退学組。確かに退学組でも外にいる人なら、地上でミカエラの情報収集ぐらいはしているかもしれない。


 俺は早速、藤原さんに連絡を入れた。


『——私があの女から逃げている間にもうレベル100?』


 藤原さんはミカエラのことよりも、むしろ俺の事に驚いていた。


『すごーい! キャー、六条君みたいなのが高レベル探索者になるんでしょうね! うわ、やっば、将来の超有名人と喋ってる!?』

「その、ミカエラがどこにいるか教えてもらえる? いや、まあ、ものすごく危険なことなのは分っているから、知っていたとしても無理ならいいんだ。それと遊びじゃないから、それはわかってるよね?」


 俺が負けてミカエラに心を読まれたら、芋づる式に協力者もすべてミカエラの知るところとなる。つまりここで協力すれば、後でミカエラに殺されるリスクがある。


『はは、ごめんごめんついテンションが上がっちゃった』

「頼むよ。これはかなり危険な協力なんだ」

『まあ、確かに危ないことね。でも、将来の高レベル探索者に貸し一つって思えば悪い取引じゃないわ。別にそう思ってもいいんでしょ?』

「それはもちろん。何か困ったことがあれば、そのときはこの貸しを返すつもりだ。もしくはミカエラの情報を持っているなら1億円でそれを買ってもいい」

『い、1億……本当?』

「もちろんだ」

『さ、さすが将来の高レベル探索者。ええ、どっちにしよう?』


 藤原さんは迷っているが、それだけ危ないのだ。命を天秤にかけての1億である。それほどにミカエラは厄介だ。しかし、こういうのは実感としては理解しにくい。だから藤原さんは目が眩んだ。


『じゃあ、その、1億円もらっちゃおうかな』

「OK。電話の後にすぐに振り込んでおくよ」


 俺は藤原さんの口座番号も聞いておいた。


『——じゃあ1億の価値があるかどうか分からないんだけどね。どうも魔眼病は、ここ最近ずっと()()()()()()()()()()()()()

「ネコ探し……」

『あの、何かの勘違いかもしれないんだけどさ』

「いや、いいよ。続けてくれる」

『良かった。一ヶ月ぐらい前からのことよ。それこそ山梨県中にミカエラの目撃情報があるのよ。()()()()とかいうロシアンブルーっていう種類のネコらしいわ。まあ、本当かどうかよく分からないんだけどさ。最近では関東中を探し回っているっていう噂もあるわ』

「そう……なんだ」


 それだけ聞けば十分だった。今、ミカエラが何を考えているのか? 全部分かった。そうか……。むしろその可能性が一番高かったのに、考えないようにしていた。


「藤原さん。もう一つだけ頼まれてほしいことがあるんだけど、良い?」

『いいわよ。1億のためならどんとこい! 私だってこの間まで命を天秤に探索者をやってたんだから!』


 俺はそれを聞いて藤原さんに伝えた。


【甲府ダンジョンの六階層にはネコがいる】


 そういう噂を流してくれと。



「ふう」


 ミカエラが一ヶ月もネコ探しに没頭するとは……。そういえば、なみ達と一緒でも楽しいと感じて、なみ達のために一生懸命することを苦にもしていなかった女である。ミカエラはそういう変わった人間性の持ち主なのだ。


「しかし、ニャー君がダンジョン内に戻っているとは思わなかったのか?」


 まあミカエラからしたら、どう見てもロシアンブルーはダンジョン産の生物じゃない。ダンジョンの中に居ると考える方が不自然なのか。


「それにしても一ヶ月もネコ探しかよ。そんなにニャー君が心配なのか? たかがネコを相手にそこまでするか?」


 俺はダンジョンの中に再現された甲府駅の近く。一際、高いビルの屋上で、ミカエラがやってくるのを待っていた。


「余計なことを考えるな。俺はこれさえ乗り越えればさらに次のステージに行ける」


 街の景色を見つめる。


 藤原さんとの電話の日からさらに月日が流れていた。エヴィーがクエストをクリアする三日前から、俺はみんなとの連絡を絶っていた。気休めかもしれないが、俺がミカエラに殺されても、美鈴達には安全でいてほしかった。


 それには俺の頭の中で美鈴達の情報をできるだけなくした方がいい。でもそう思えば思うほど三人のことをよく考えている。


「ミカエラに心を読ませるわけにはいかない。卑怯だと言われても、できるだけクエストを早く終わらせる」


 藤原さんがうまくやってくれていれば、ミカエラはここにくる。


 そしてその瞬間がミカエラを殺す最大のチャンスである。ミカエラの治療の可能性。それも考えた。しかし、殺せる時に殺しておかなければ、ミカエラが凶暴化したとき、俺の今の幸せの全てが奪われることになりかねない。


 だからミカエラは容赦なく殺すべきだという結論に達していた。


 そしてその瞬間が来た。



「ニャー君! ニャー君どこ!」



 声が聞こえた。ネコとしてではあるが、ずっと一緒に過ごした俺が、聞き間違うはずもない声だ。心臓の音が激しくなる。とたんに自分が緊張しだしたことが分かった。ミカエラはかなり必死な様子だった。


 遠くに見えたミカエラは頬がこけて見えた。


 黒いゴスロリ服もかなりくたびれている。


 まさか一ヶ月ずっと何も食べていないわけじゃないだろうな?


 ミカエラとはまだかなり離れている。向こうが大声を出しているので、【探索網】が未熟な俺でも、耳に捉えることができた。東の方角。山梨駅の方から歩いてきている。絶対に俺の場所を知られてはいけないと低い姿勢になる。


 黒いゴスロリ服を着た可憐な少女。


 だがその実は凶悪極まりない殺人鬼なのだ。


「ニャー」


 もう一つか細い声がした。声と言うよりも鳴き声。離れた場所に足を縛って動けなくしておいたネコがいる。残酷な事は分かっている。もう三日ほど餌を与えていないネコ。ペットショップで購入したロシアンブルーだった。


「ニャー君!?」


 ネコまでの距離はかなり離れていたが、ミカエラは一瞬で近づいていく。ネコの鳴き声がどんどんと激しくなる。それは助けを求めている声ではなかった。ミカエラを激しく恐れて拒絶している声だ。


 ミカエラは自分の気配というものを隠すのが苦手だ。そのため動物はミカエラがそばに近づくのを怖がる。俺が仕掛けたネコも例外ではなかった。それでも俺が足を縛っていたから、逃げることはできなかった。


 俺が仕掛けた単純な罠。普段のミカエラなら絶対に引っかからないだろう。でも今のミカエラは正常じゃない。何しろ一ヶ月もネコを探し続けていたのだ。食事もとっていないのだとしたら尚更のことだろう。


「ニャー君じゃないよね? ニャー君は私のこと、嫌わないもの」

「フーッ! シャーッ!!!」


 ネコが激しくミカエラを威嚇しながらも怯えていた。


「何よ。ニャー君とは大違い。ニャー君は私のことを怯えないすごいネコなんだから。毎日カップラーメン作ってくれる天才ネコなんだよ」


 そう言いながらもミカエラはニャー君が恋しいのか、怯えられながらもそのネコのそばへと寄っていく。


「フーッ! シャーッ!!! フーッ! シャーッ!!!」

「そんなに怯えてるのに逃げない? 足に何かひっかかってる?」


 足に何か引っかかるといっても事故で紐が引っかかったように見えるようにしておいた。それは人間ならばほどけるが猫の知能ならばほどけないような引っかかり方である。


「とってあげるから怖がらずに待ちなさい! お座り!」


「ネコはお座りしないだろう」


 思わず突っ込んでしまう。ネコにミカエラが手を引っ掛かられた。それでもネコの足に引っかかった紐を取ってあげる。心を読むことができないネコには優しくできるのだ。それを見ながら俺は思い出していた。


 今から二年ほど前のある日。外国で起きた大規模殺人事件がある。とある街の住人が一夜の間に全員死んでしまった。それは奇妙なことに街のものは何一つとして壊れていなかった。ただ人だけが死んでいたのだ。


 その数、2万6784名と言われている。


 これだけの人が死んでいるが、行方不明者はひとりもいなかった。みんな分かる形で死んでいたからだ。その死因は非常に奇妙だった。何しろ全員が“自殺”していたのだ。当時は原因不明であちこちでその理由について取り沙汰された。


 しかしその原因はほどなくしてわかった。それから三日後、探索者からの情報で、本来ダンジョン内から持ち出せないはずのダンジョン内の植物。


【奈落の花】


 近付くもの全てに絶望を与え、死んだものの精気を吸い取って生き延び、死んだ者の胎内に種を植える。驚くべきはその効果範囲で、【奈落の花】から放たれる精神波が届く3㎞圏内の人間全員に効果がある。


「ほら、取れたよ。感謝しなさい」


 ミカエラはあっさりネコを開放してあげた。せっかく助けてくれた人間に対してお礼も言わず、ネコは一目散に逃げていく。ミカエラはそれを寂しそうに見ている。


「やっぱりここにもいなかった。ニャー君……お腹すいてるんじゃないのかな? 元気にしてるかな? 私がいなくて淋しがってくれてる?」


 お前だっていい加減お腹がすいているんじゃないのかよ。


【奈落の花】が精神波を放つのには条件がある。


「うん? 綺麗な赤い花だ」


 それは綺麗で赤い【奈落の花】に()()()()()()()……。


「そういえば六条君もこんな綺麗な色の鎧を着ていたな」


 その花はとても赤くて、血のように赤くて、人を惹き付けるほど綺麗だった。


 俺はミカエラに【奈落の花】に触れと思うと同時に触るなと願う。


 ミカエラは【奈落の花】に触れた。


「あれ? お父さんにお母さんだ」


 そしてミカエラは地獄を垣間見るのだ。


 残酷なのはどちらなのだろう。

皆様が読んでいただくおかげでコミカライズ順調です。

先月号もかなり好評だったようでありがとうございます。


次回もチャンピオンREDにて、

3月19日発売の5月号にてセンターカラーとなります。


第二話もなんとセンターカラーです。

南雲さんもついに登場です。

相変わらず、原作者なのに読んでてかなり面白かった。


なので是非、チャンピオンREDを手に取って読んでいただけると嬉しいです!


https://www.akitashoten.co.jp/red


このアドレスにて詳細が見れるので、またよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
>五階層を探索していたレベル31の藤原パーティー。覚えてない? まあ、声を聞いただけで姿は見てないから、私もあんまり印象にないけど 【第百十話 退学組】で美鈴とエヴィーは藤原パーティーと接触した、と…
高レベルよりもアイテムの方が強いってのは貧者の薔薇を思い出すなあ あっちは人間の怖さで、こっちはダンジョンの怖さかな。この花をモンスターが利用してきたら強すぎる…
ミカエラ話は只々切ない 救いを作っても作らなくても蟠りは残るのよね あー きつい 面白い 着地点が気になりすぎる
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