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第百二十三話 帰還

 俺はもう一度カラスになり、上空まで飛びあがると、甲府ダンジョンの直前で地上に急降下していく。そして中年男性の姿になってダンジョンの中へと入った。


【六条祐太は六階層のクエストをS判定でクリアしたことをお知らせします】


 直後のことだった。頭の中で女の人の声がした。いつも聞こえるダンジョンの機械的な声だ。


「六階層のクエストクリア?」


 いきなりそんな声が聞こえた。美鈴たちがクエストをすでに終わらせてしまったということか? 分からなかったが、ともかく三人に連絡した。


《ただいま。美鈴、伊万里、エヴィー。そっちは大丈夫だったか?》

《《《祐太!?》》》


 声は3人同時だった。


《ああ、無事に帰って来られたよ》

《よかった。祐太、帰って来られたんだね!》


 伊万里だった。そこから美鈴とエヴィーが無事を喜んでくれて、俺は素直に無事を喜んでくれる仲間がいてくれる事が嬉しかった。


《ああ、そっちも元気そうでよかった。今向かっている》

《うん。早く会いたいよ》


 伊万里の声はとても明るい。かなり心配してくれていたようだ。それでも優先すべきはまず状況確認である。特にミカエラのことが気になった。あれからすぐにここに来たから大丈夫だとは思う。


 それでも気になるほど、ミカエラが怖く、そして気になった。


 3人に確認したところ、ミカエラはダンジョンの中に現れていないようだ。カラスの言葉を信じてくれたか? 信じたとしても、カラスをどこまで怖がるかもわからない。


「ミカエラ……」


 レベル200で、あれだけ強かったら外で稼ぐ方法はいくらでもある。大企業は何かあったときの用心棒として、探索者を高額で雇用するし、知能の上がった探索者は、いくらでも働ける場所があるのだ。


 あんなボロアパートに住まなくたって、高級マンションにも住める。ミカエラが人殺しさえしなければ、きっと可愛いから好きになってくれる男だっている。もういっそそうしてほしい。


 そんな淡い期待を抱きながらも、それはきっと無理なのだろうとわかっていた。


「せめて俺が殺してやる」


 ただ、そのことだけ決めていた。それが言葉だけのことにならないように殺害計画を頭の中で着々と組み立てていた。どんなに同情したとしても敵対する覚悟だけは決めている。


 ともかく【意思疎通】でクエストの詳細について聞いた。美鈴たちは10トン車を使いグランド鋼というものをドワーフ工房の直前まで運び、俺が帰ってくるまでクエスト達成を待とうかと思ったらしい。


 だが、ドワーフ工房の利休というドワーフに聞いたところ、



『それは気にしなくても大丈夫ですよ。仲間がクエストを達成するためにレベル42の探索者が、レベル200の敵対的探索者を引きつけている。それが真実なら、たとえその人がダンジョンの外にいたとしても、ダンジョンはS判定をその人にちゃんと与えます。私たちもそれを真実だとしてS判定をお渡しします』



 とのことだったので、俺が生きて帰ってくると信じた美鈴たちは、クエストをやってしまったそうだ。実際、俺はクエスト達成扱いになったので、どうやらダンジョンはその辺の事も汲み取ってくれているようだ。


《良かったよ。今は一つでもステータスを上げたい時だしな》

《今まで一度もダンジョンにミカエラが現れなかったから、あなたが無事だとは思っていたけど、本当、よく無事だったわね?》

《ああ、ネコの俺が大事にされたよ》

《ふふ、それは私も可愛がりたかったわね。ついでにミカエラと仲良くなれて戦わなくてよくなったのなら一番良いのだけど……》

《いや、ミカエラはネコの俺を大事に思っているだけだ。人間の俺とは次こそ殺し合いになる》

《そう。やっぱりそんなに甘くないのね。でもお金をいくら積むことになってもいいから、和解できないものかしら》


 エヴィーはレベルが高過ぎるミカエラと戦わなくていい方法がないのかと考えているようだ。でもデビットが殺されたことを知らないからでもある。それを言うべきかどうか迷いつつ結局言えなかった。


 俺は一通り話し終わると下へと急いだ。最後の階段を下りて六階層へと辿り着くと、ダンジョンに再現された甲府盆地に出てくる。しばらく走ると伊万里たちに教えてもらった建物など、どこにもない田んぼが見えた。


 そして、田植えが始まっている田んぼの前に美鈴たちが立っていた。こちらを見つけて手を振ってくるので、俺も振り返した。大きな10トン車が脇に停めてある。あちこち傷ついていて、大蜘蛛や木乃伊にかなり攻撃されたと聞いていた。


「よくトラックなんて運転できたね」

「ユウタ。私が運転したのよ」


 エヴィーが自慢そうにドヤ顔をした。


「そりゃすごい」

「ふふ、ユウタお帰り、本当に無事でよかった」

「ただいまエヴィー」

「祐太。また女の子たぶらかしたりしてないよね?」

「して……ないよ。うん」


 最後に美鈴に言われた言葉に焦る。思い当たるふしはないから大丈夫だ。でも美鈴たちと別行動をするたびに女の子と知り合っている気がしなくもなかった。


「ユウタ。元気だった?」

《ずいぶんあってない気がするな》


 リーンとラーイも後ろについてきて、ドワーフ工房の中へと入れてもらった。ファンタジーを感じさせるドワーフの姿に気分が明るくなった。ファンタジーの住人が本当にいるということは、異世界が本当にあるということでもある。


 もっと下へ行けば、その姿を見られるのかと思うと楽しみだった。日本間の座敷机にお茶とお茶菓子が置かれて、しっぽが二本ある【意思疎通】でしゃべってくるネコに目を瞬かせる。


「ずず」


 と、お茶をすする。ダンジョンの中なのにモンスターに警戒もしないというのは奇妙な感覚だった。座敷机を挟んだ目の前には利休というドワーフが座った。俺は自分の専用装備を全て外して、隣の部屋に並べ、利休さんにまず見てもらった。


「凄い! これは驚きましたよ! まさか六階層の入口から入って来た探索者が専用装備をすべて揃えているとは!」


 若いというわりに口髭を蓄えたドワーフ。利休さんは目を輝かせていた。俺は合成素材も専用装備の隣に全て出して並べた。


「これで専用装備をかなり強くできますか?」

「そうですね。専用装備が全部揃っている上に合成素材まで揃っている。おまけにこの専用装備。誰か別の魂が入っていますよね?」

「やっぱりそうなんだ」


 そんな気がしていた。そしてそれがアウラに間違いないことも確信していた。


「こんなの僕は一度も見たことがありません。元にあった魂とうまく結合させている。ただでさえ扱いが難しい魂をこんなふうにしてしまうなんて」


 利休さんが美火丸を一つ一つ手に取りながら、その目が比喩ではなく光った。その輝きは鑑定持ち特有のもので、美火丸の装備一式を鑑定しているようだ。


「珍しいことなんですか?」


 何がどうなっているのか理解できないアウラのこと。どうして俺にアウラのものと思われるスキルが生えているのか聞けるかと思った。


「少なくとも僕はこんな不思議な状態になっている専用装備を見たことがありません。これに合成素材を合わせたらどうなるか……。ストーン級でありながら、ブロンズ、いや、シルバー級にも足がかかる装備になりますよ。これ、預かってもいいですか?」


 利休さんの目が輝いていた。


「預けたいところなんですけど、今ちょっと探索者と揉めていて、専用装備が無いのは困るんですよね。どれぐらいかかりそうですか?」

「ううん。普通の探索者は合成素材がガチャから出るたびに持ってくるんですが、あなたは十個全てですからね。全部一気にとなると……半年ですね」

「そんなに?」


 いや、普通に考えたら常識的かもしれない。しかし、それはあまりにも長期であり、先を急ぐ俺たちには待っていられる時間ではなかった。


「ええ、半年でも短い方です。申し訳ないのですが、ただでさえ扱いの難しい専用装備に、ほかの魂なんてものが入っているとなると、僕の腕ではそれが精一杯だ」

「半年……」


 作業を待つことができればかなり強い装備に生まれ変わってくれるようだ。でも、半年も待つことは無理だ。ダンジョンの探索だけなら思い切って任せてしまう事もできるが、ミカエラという脅威がある。


「何も悩む必要はないのでは? その揉めている探索者を放っておいて、半年間休めばいいだけですから、悪い話ではないと思うのですが。この時点でこれだけ揃うということは、あなたはガチャ運も良いようですし、お金もあるでしょう。しっかりと英気を養われればいいと思いますよ」


 なるほど普通はそうするわけだ。そして万全の状態で下に降りようとして、余計に時間がかかってしまうわけだ。


「いえ、利休さん。じゃあ専用装備の強化はやめておきます」

「ええ、ゆっくりしていてください。僕がその間にこれを完璧に……って、え!? や、やめるんですか?」

「ええ。みんなもそれでいいね?」


 頭の中ですぐに結論が出た。あるいは専用装備を一つずつ外して、利休さんに任せることも考えたが、その間にミカエラが来ないという保証はなかった。日記を読んでみてミカエラの強さがどれほどガチなのかもわかった。


 どう考えてもこの状況で、自分の戦力を減らすなんて、選択は取れない。それに、それではレベルアップするスピードも遅れてしまう。何よりも思っていたことがあるのだ。


「いいんですか? その、どうしてかは言えないのですが、やるなら今ですよ?」


 やるなら今という言葉がわからなかった。利休さんの様子から強化できるのは今しかないと言っているように聞こえる。だとしても結論は出ていた。


「いいんです。おそらくこの装備はもう十分に強い。これ以上強くする必要はないと感じた」


 俺は言い切った。合成素材と俺の美火丸を改めて見比べたとき、これは違うと思ったのだ。


「いやいやそれはもったいない。ストーン級の装備としては前例がないほど強力なものになるのに」

「それにね。この装備はすでにアウラが十分に強くしてくれた。そんな気がするんです」


 思っていたことはそれだった。それはもう手の入れようがないほど完全に、アウラはもうこれを強くしてくれた気がしていた。


「六条さん。あなたは専門家じゃないでしょう。そんなのわかるわけない。でも僕には分かる。これはもっと強くなる」


 繰り返しになるが自分の専用装備を外して、改めて合成素材と見比べてみたとき、俺はこの装備に、この合成素材は違うと感じた。だが、利休さんはかなり前のめりだった。その時だった。


「いいや、利休。その男前の言うとおりだ。その装備は、それ以上は無理だな」


 と言って襖を開けて入ってきた人がいた。これぞまさにドワーフという感じの皺が濃く頑固そうな初老の男だった。


「あなたは?」

「行慶だ。ここを仕切ってる親方だ。親方と呼べ」

「は、はあ?」


 この人はなんだ?


 鍛冶師?


 纏うオーラが南雲さんに近いような苛烈さだ。おそらく強い。探索者というものを少しだけ分かってきた今なら、この人が化け物だと分かる。まさか鍛冶師として一流になるのにもステータスを上げる必要があるのか?


「それでこの専用装備だがな。桁違いのバフがかかっているだろ?」

「ええ、まあ、確認したら驚いたぐらいには」


 何しろ近接戦闘に必要なステータスが常に+200である。おかげで本来なら難しいと言われている六階層も今ならきっと楽勝だろうと思えた。


「それ以外にもわけわからんほど強力な装備スキルが生えてるな?」

「え、ええ、生えてます」

「やっぱりな。利休。よく見ろ。こいつはもう限界ギリギリまで強化されているぞ。今の状態でこの装備は奇跡的なバランスを保っている。これ以上いじろうとしたら逆にぶっ壊れるぞ。ストーン級の極限だ。無理に合成素材なんて合わせたらかえって弱くなっちまう。利休。お前もそれぐらい見抜けないのか?」

「でも親方。時間をかければなんとかできるんじゃ」

「バカ。何年かける気だ。そうやって頑張ったとしてもせいぜいバフがちょっと強くなるだけだ。間違いなく装備スキルが消えちまうよ。六条だったな。お前さんこれは誰がした?」


 じっと睨まれると思わず怯んでしまった。


「いや、それがわからないんです。俺はレベル200の探索者に追い回されていた。その時、巨大な爆発を起こされて下半身を吹き飛ばされたはずなんだ。専用装備だってかなり消失した。専用装備に修復機能があるとはいえ、履物や脛当ては完璧に消失したはずです」

「それでよく五体満足なんだな」

「まあ、いろいろあってエリクサーを持っていましたから」

「はあ? なんだお前、意味わからん。エリクサーなんて手に入れるのはレベル500越えてからだぞ」

「いや、まあそれはいいんです。でも、目が覚めたとき何故かなくなったはずの専用装備が復活していた。それになぜか俺を助けてくれたアラクネがいなくなっていた」

「エリクサーにアラクネに専用装備が勝手に復活……」


 親方が難しそうな顔で、こちらに寄って来た。俺の半分ほどの身長しかないドワーフが奇妙なほど存在感があった。


「あの、どうしてかわかりますか?」

「ふん。所有者がわからない間にこんなことできる存在なんざ一つしか無いな。ダンジョンだ。魂なんておっかないものを自由に加工する存在もダンジョンしかいない。お前さんどうやら難儀なものに好かれているようだな」

「難儀?」


 ダンジョンに好かれることを難儀というのか? 俺の認識では逆なのだが、ミカエラもダンジョンに好かれていた。それを知った今は、その言葉が妙に重く聞こえた。


「急ぐのか?」

「ええ、レベル200の探索者はまだ生きてますから」

「お前さん六階層ならレベル42だろ?」

「ええ」

「逃げないのか? レベル200にも色々いるが、少なくともレベル42で勝てる相手じゃないぞ」

「なんとかします」

「なんとかか……。自暴自棄になっている目でもないか」


 どの道、強化する事は出来ないと分かり、俺は専用装備を全て自分に装備し直した。合成素材を全てマジックバッグの中に戻していく。


「名前は?」

「六条祐太」

「六条。お前さんはレベル200に目をつけられてるんだろ? 良いのか? このままいけば死ぬぞ? ダンジョンが安全になるまで待たないのか?」

「無茶なのは分かっています。でもダンジョンは安全になんてならないでしょ」

「ふん、よく分かってるじゃないか。おい。じゃあこれをやる。使え」


 ポンッと、野球ボールぐらいの黄色い玉を投げて渡された。


「これは?」

「ワシの店はどの階層にも入り口が存在する。だがどの階層からでも見つけるのは超難しい。でもそれがあれば次からはすぐに見つけられるようになる。そいつにMPを注ぐとこの工房の方角へと光る。次からは探さなくていいから楽だろ」

「もらっていいんですか?」

「ああ、お前が馬鹿じゃなく本物ならワシにやりがいのある仕事を持って来てくれる。だが、男前、気をつけろよ。ステータスを見なくてもわかる。お前はダンジョンに好かれ過ぎるほど好かれている。それは人の身には重すぎる」

「重い?」

「重すぎて潰れんなよ。お前が潰れたらワシの仕事が一つ減る」


 親方さんにそんなことを言われた。気になる言葉だったし、何か知ってそうな人だと思った。ただ深く聞こうとすると口を閉ざしてしまった。だから意味深な言葉だけが頭の中に残って、俺たちはドワーフ工房から出てきた。


 ドワーフ工房から出た瞬間。田んぼだらけの空間に逆戻りする。ただ長閑さだけが自慢のような風景の中に異質なものが一つだけあった。


「お前……」


 車がなんとか通れるぐらいの農道だった。そこに、その“者”がいると異質すぎてすぐに気づいた。


「敵!」


 エヴィー達が身構える。


「クーモ!」


 農道に大蜘蛛のクーモがいた。見た目の違いなどつくわけもない姿なのだが、何故か俺にはそれがクーモなのだとすぐにわかる。クーモは素早くこちらに近づいてきて、ほかのみんなが武器を構えようとしたのを俺が制止する。


 一瞬で俺の目の前まで距離を詰められると流石にビビる。何かを言おうとしているようだが言葉をしゃべらないので、本来、理解できないはずだ。でもなんとなく見当がつく。だからクーモが思っているであろう事を口にした。


「俺について来たいのか?」


 何も言葉をしゃべらないが、うなずいたような気がして、それで間違いないようだった。


「でもお前を連れて歩くのは……」

「ね、ねえ、ユウタ。ひょっとしてこの大蜘蛛って、あなたに協力してくれたっていうアラクネと関係があるの?」


 エヴィーは召喚士だけあり、気になるようで、クーモに警戒しながらも近づいてきた。


「ああ、アラクネは大蜘蛛と木乃伊に命令できるみたいで、そのアラクネが死んでからもこいつだけ従ってくれてるんだ。俺はこいつのおかげでミカエラから生き延びることができたんだ」

「そうなの……ちょっといい?」


 エヴィーはそう言うと、警戒を解く。無警戒に近づいてきてクーモに触れた。


「ちょっと、エヴィー大丈夫?」


 生理的に無理なのか美鈴は近づこうともせず距離を保っていた。伊万里なんて武器を構えたままである。しかしクーモはエヴィーに触られても何も反撃しなかった。


「よしよし、お前は賢い子ね」


 エヴィーはさらにイヌにでも接するように近づいて、くっつきそうなほど顔を寄せた。


「でもね。ユウタはお前が目立ちすぎるから、連れて歩くことができないの。だって私たちの世界だとお前はとても変わった姿をしているの。お前がついて歩いたらきっと人間が怖がるわ」


 クーモは理解しているようで落ち込んだように見えた。


「だから、あなたは私の“召喚獣”にならない? 私はずっとユウタと一緒に居るから、お前も私と一緒にいたら、ずっとユウタと一緒にいられるわよ?」


 俺も考えたことのない提案だった。そもそも今まで召喚獣とはダンジョンから与えられてきた。だからてっきりそういうものなんだと思っていた。だが、こんなふうに自分でスカウトするのも有りなのだろうか?


 クーモはしばらく身動きをせず、10秒ぐらい動かなかった。しかし、足を畳んでイヌで言うところの伏せをした状態になった。どうやらエヴィーの言葉が分かり、召喚獣になることを了承したようだった。


「エヴィー、召喚士って、そんなこともできるのか?」


 召喚士というものの詳細など知らない俺が聞いた。


「ええ、それができることはなんとなくわかっていたの。だからアメリカではゴブリン相手に何度か挑戦してみた。でも、ダンジョンに出てくるモンスターはどれもこれも敵対的で、こちらの言うことを全然聞いてくれなかったのよ。それで私もダンジョンに出てくるモンスターを召喚獣にすることはできないと思った」

「クーモならひょっとすると出来るのか?」

「ええ、おそらくね。クーモ。良いわね?」


 伏せた状態のままで相変わらずクーモには動きがなかった。


「いいってことよね?」


 エヴィーがもう一度確認するとクーモがはっきり頷いた。


「よし、じゃあ」


 エヴィーがステータスを開いた。そうするとステータス画面にエヴィーが触れ、それと同時にステータス画面が輝きだした。


「【ダンジョンに申請。召喚獣化の登録を要請。個体名・大蜘蛛のクーモ】」


 急にエヴィーが機械的な声を出す。こんなことができると俺は全く知らなかった。どうもその職業にならないとわからないことがダンジョンには多いようだった。


【クーモの了承を確認。主の遺言を守り、六条祐太について行くため、申請受諾】


「え?」


 どういうわけか俺の頭にもいつも聞こえてくる女の人の声が聞こえた。


【クーモがエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクの召喚獣になることを了承。以降、クーモはエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクへの敵対行為を禁ずる。魂のパイプを接続。美火丸装備の許容限界により残ったアウラの魂魄残滓を使用。クーモは種族進化条件をクリア。大蜘蛛からレッドスパイダーに種族進化】


 クーモの体が赤く輝きだす。


「種族進化? う、嘘でしょ。ラーイはあんなに頑張っても出来ないのに……どうなってるの?」


 エヴィーが驚いてその様子を見守る。目を閉じたくなるほどの強烈な赤い光。収まると、クーモは赤い外骨格に覆われたさらに大きい大蜘蛛へと進化していた。アラクネのような人型ではなく、それは5mはありそうな大蜘蛛だ。


「な、なに? え? この子って種族進化してるの?」


 美鈴が興味深そうに聞いてきた。


「ええ……そうみたいね」

「なんで種族進化してるの?」

「さあ、アウラがどうとか言っていたけど、ユウタ分かる?」

「ごめん。わからない。でも間違いなくクーモはかなり強いよ」


 全長5mあろうかという巨大なクーモの体に触れる。アウラのことには思い当たることがある。だが、3人に説明する必要は感じなかった。ただ、アウラの何かがここに残っていることだけは間違いなかった。


「……エヴィー、私を置いていかないで!」


 美鈴が割と本気で言ってるみたいだった。何しろ、人間の強化に特化したリーン。移動力特化のラーイ。そしてまだその真価はわからないが巨大な質量を持つクーモ。召喚獣が3体ともなればかなり召喚士は強くなる。


 召喚士は召喚獣次第だという話だったが、確かにエヴィーは召喚獣次第でいくらでも強くなっていくのだ。俺たちはまた一つ戦力を強化できた。それでもミカエラにはまだ遠く及ばないが、良い事には違いなかった。


「行こう。七階層に」


 そして俺たちは降りることにした。ようやく七階層だ。俺は七階層でミカエラを殺すのかもしれない。いや、それはあるいは逆なのかとも思った。

名前:クーモ

種族:ハイレッド

レベル:42

職業:戦糸召喚モンスター

称号:エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクの召喚獣三女

   赤の者

HP:444

力:444

素早さ:444

防御:444

器用:444

知能:35

特殊能力:【斬糸】

     【縛糸】

     【空間糸】 

     【韋駄天】

     【暗視】(常時発動可)

     【睡眠耐性】(常時発動可)

     【意思疎通レベル2】(常時発動可)

装備スキル:【レッドペイン】

装備:ストーン級【レッドアーマー】クーモ専用装備

   ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)

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― 新着の感想 ―
まさかの三女
うおおおお アツい強化(テイム)だなぁ ほんとドラマチック 凄いー
[良い点] クーモが仲間になるとか予想外! んでもって更に強化されたエヴィー良かったね! [一言] 美鈴、今はまだまだ我慢の時だよ我慢。
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