第百十六話 魔眼病ミカエラ
「動けないでしょ?」
魔眼病の瞳が紫色に光っていた。それは本来、人間の瞳としてはあってはならない場所にあった。紫色の瞳はまるで神話の世界の住人のように額にあったのだ。心眼が左で、爆眼が右だと聞いていたから、額についている第三の目はなんだ?
魔眼の怖いところは、何よりも相手を見ただけで、スキルが発動してしまうことだ。つまりミカエラに見られただけで、心を読まれ、気に入らなければ頭を爆発させられる。この上にまだ何かあるのか?
「六条祐太君。この紫の瞳は束縛眼って言うの」
ミカエラが自分の額をさして言う。束縛眼? 名前からして相手を捕らえて動けなくするのか?
「あなたはもうそこから一歩も動けない」
この女は今まで誰にも咎められることなくこういうことをやりなれている。強いからという理由で人の自由を奪い、殺してきた。みんな心を読まれるのが嫌でミカエラを避け、そうしてこの女は今でものうのうと生きている。
「あれ? 全然抵抗しないんだ。普通はなんとか動こうと、もがくから結構抑え込むの大変なんだけど、君は賢いね」
何よりも、Dランが出来ると弱い新人がそっちに移ってしまった。魔眼病は一定以上に強い探索者は狙わない。なぜか? 理由は至ってまともなもので、強い相手を狙うと、自分が危ないからだそうだ。
「じゃあ、ちょっと待ってね。心を読む間までだから」
曰く、怖がりなのだと公言しているらしい。だからミカエラは生き残っていた。何しろ、Dランができた途端。甲府に弱い奴がいなくなった。そうするとミカエラは大人しくなり、大人しくなった危険人物は放置された。
日本人の悪癖、問題の先送りである。
そうして先送りにされたおかげで弱い俺が被害に遭っている。夜の闇の中、炎と溶けた地面に照らされて、近寄ってくる少女。その紫色の第三の瞳で見つめられて、身動きすることもできず、ただ蛇に睨まれたカエルのように待つ。
「うん?」
ミカエラが俺を見つめながら首を傾げた。
「あれ? この子、頭の中で何も考えてない?」
俺はそんなミカエラをギリギリ開いている隙間から見つめていた。ミカエラが束縛眼というもので拘束した俺は、俺であって俺じゃなかった。
「どういうこと?」
ミカエラの存在に気づくのがもうちょっと遅れていたら、おそらく捕まっていた。ギリギリで俺が唱えた魔法は、
ストーン級魔法【身代わり石像】である。
俺がよく使う土魔法。その1種らしくて、レベル29から42へと一気にレベルアップした中で、これともう一つスキルを身につけていた。それは、
ストーン級スキル【隠密】である。
どちらも完全に、敵から姿を隠す事に特化した魔法でありスキルだ。基本的にダンジョンはどの魔法もスキルも、その人が今、一番必要としているものが生えると言われていた。そして今、実際、俺にとって本当に必要なものが生えた。
この新しく生えた【身代わり石像】と【隠密】がなければ本当に今頃【束縛眼】で捕らえられていた。
「何かの魔法かスキル?」
魔眼病が溶けた地面の上を涼しそうに歩いてくる。不可抗力だが、下から見ているためにスカートの中が見えた。かなり色気のある際どい黒いパンティだった。そのミカエラは俺が作り出した石像をコンコンと叩いて、音を確かめた。
「これ、石像かしら?」
俺から見てもその石像は本当によくできていて、俺の顔めっちゃカッコイイなと思いながら、息を潜める。何しろ俺が居るのは、その石像の真下の地面の中だ。この魔法は名前の通り身代わりとなる石像を一瞬で作り出せる魔法である。
おまけに石像があらわれると同時に、その真下の地面に俺の体を埋めてしまうらしい。ネタバレすれば地面の中に居る俺は窮地に立たされる。しかし余程のことがない限り、残した石像の真下に本人がいるなんて思わない。
それに【隠密】も唱えていた。このスキルは俺が動くことで起きる物音全てを消してくれる。だから心臓の音も呼吸の音も今は一切していない。
「こんな魔法あるの? かなり特異な子だって教えてもらったけど、使う魔法もスキルも変わってるのね。でもレベルはこの階層相応のものだって小春ちゃんが教えてくれたよね。素早いのは仁也君が教えてくれたけど、さすがに私の視界の外に一瞬で飛び出せるとは思えないのだけど……」
頭がおかしいんじゃないかという理由で、人を殺して回る殺人鬼だが、レベル200まで上がることができた実力者でもある。論理的に物事を考えられなければ、レベル200にはなれない。だからミカエラもこういう事に関して緩くない。
動悸が激しくなる。
落ち着けと自分に言い聞かせる。
こいつはきっと榊小春を殺した。
『レベルはこの階層相応のものだって小春ちゃんが教えてくれた』
だと?
「そんなに遠くに居るとは思えないけど……ううん」
周囲を見渡しているのがわかる。道路の周りはかなり開けた田園である。俺が一瞬で身を隠せるような場所がないことくらい見ればわかる。
「ねえ祐太君。どこに居るのかしら? ちょっと心の中を見せてほしいだけなの。私は心の綺麗な人を探してるの。そして私を好きでいてくれる人。そういう人と一緒に生きていきたいの。誰だってそうでしょう?」
『僕もよく頭のおかしい探索者って言われるけど、彼女は僕より頭がおかしい』
米崎はそう言っていたが、どっちもどっちだろうと思っていた。でも今はこいつの方が頭がおかしいと思う。人に好かれたいなら好かれる行動を取れ。俺の知っている人間を殺して、それで好かれると考えてるならお前は頭がおかしい。
「ねえ、どこー? 出てこれないってことは、あなたは心が汚い人なの?」
何をもって心が汚いのだろう。人を勝手に自分の物差しで測るな。俺はお前に腹が立っているが、だからって心が汚いかと言われると……そんなもの知らん。と思う俺だった。
「慌てない、慌てない。こういう時は鑑定眼に入れ替えてっと。あちこちチェックするべきよね」
【鑑定眼】?
この女、本当になんでもありじゃないか。俺が使ったのはストーン級スキルだ。【身代わり石像】を俺よりレベルが上のこいつに見られたら、間違いなく【身代わり石像】の詳しい情報が、すべて出てきてしまう。
《人間》
「?」
《アウラだ》
《アウラ?》
俺は背中に八本の脚が生えている綺麗な女の姿を思い出した。アウラの声だ。アウラの【意思疎通】に違いなかった。
《なんの用だ? 今かなり取り込み中だぞ》
《助けてやる。三秒後に一気にそこから出て逃げろ》
《は? なんで?》
《理由は後だ》
《いや、お前正気か? 俺を助ける? ミカエラはお前を絶滅させ《3》かけた》
「なんだそういうことか。恥ずかしいからって土の中に《2》隠れちゃうなんて」
アウラが強引にカウントを進めていく。時間がない。それを俺以上にアウラがわかっているみたいだった。相手は【身代わり石像】を既に鑑定してしまっている。そしてその仕様に気づいて、石像がどかされた気配がした。
「みーつけた。ちょうど頭が見えてるじゃな《1》い……うん?」
このままでは、こんな間抜けな場所で、頭を爆発させて死ぬだけだ。地面の中から思い切って飛び出す。そうすると何かの地響きが聞こえてきた。田んぼから湧き出るように闇の中に生物がうごめく。
「大蜘蛛? 随分多いわね」
大蜘蛛がこちらへ大量に襲いかかってきていた。
俺も襲われるのかと身構えそうになり、
《落ち着け。この子たちはお前を襲わない》
《本当?》
《信じろ》
大蜘蛛は自分に【加速】をかけているようで、とてつもない速度でこちらへ近づき、
「きゃ」
俺達を呑み込んでいく。すぐそばに居るミカエラの姿を一瞬見る。無差別に人を殺しまくっているとは思えないほど儚げで可憐な少女だった。ミカエラも大蜘蛛に襲われているとはいえ俺の出現に気付いたと思う。
しかし大蜘蛛の口から吐き出された投網のような糸が、器用に俺を外して、魔眼病の周りを包んだ。
「バン!」
しかし、ミカエラの一言であっさりと破られる。
「なんなの?」
まだこの状況がいまいち理解できていないようでミカエラの対応が遅い。でも俺は、まだ先ほどの戦闘からポーションを飲めていなかった。かなり消耗していて足元がぐらつく。なんとか踏ん張って、
《【瞬足】!》
走ろうとするのを蜘蛛の糸に足をつかまれた。
《遅い! そんなんじゃ殺されるよ!》
いつの間にか自分の体がアウラに抱きしめられていた。
《遅いのは仕方ないだろう。お前との戦闘でかなり消耗してたんだよ》
「バン!」
ミカエラにのしかかっていた大蜘蛛が爆散した。
《ちっ、化け物女もうこっちに!》
「なんなの? どういうこと? どうして大蜘蛛が《ロクジョウユウタを助けたい》って考えてるの? 祐太君。君は何者なの? ひょっとしてモンスターに好かれちゃうぐらい心が綺麗なの?」
ミカエラと距離をあけることができた。しかし、奴は障害物など無いぐらいの勢いで大蜘蛛を爆散させて、こちらとの距離を詰めてくる。暗闇の中で大蜘蛛が爆散する音が近づき、それと共に可愛いゴシックロリータが迫ってくる。
《アウラ。助けてもらっておいて悪いが、初動でミスった。正直まずい》
ミカエラに見つかったタイミングが悪すぎた。本当は【天変の指輪】で変身して、美鈴達に近づかないように気をつけながら、この階層を逃げ回るつもりだった。しかし俺の方が先に見つけられ、おまけに俺は疲れきっていた。
《見てて分かった。人間。とにかく回復しろ》
《そうだな。すまない》
俺はまずマジックバッグから取り出した【天変の指輪】を装着する。そしていくら限界を超えたスキルを使ったといっても、ふらついている場合じゃなかった。体調を万全に戻さなければいけない。ポーションを出して飲んだ。
「ねえ、どうして逃げるの? あなたは私の愛しい人かもしれないの。ひょっとすると私はついに運命の人を見つけられたの。もちろん祐太君は心が綺麗だから、良い子の私のことを好きになるよね?」
誰が良い子なのだろう。ミカエラみたいな殺人鬼がいい子なら、この世に悪人なんて存在しないことになる。この女は良い子の概念をポジティブに捉えすぎだ。
《アウラ。どうして助けてくれたのか知らないが、ありがとう》
むしろこのモンスターの方が良い子だし、好感が持てた。
《いい。お前が殺されそうなのを見てたら手が出てしまっただけだ。それよりもどうする?》
《すでに見つかってしまっているのが痛すぎる。せめてもうちょっと猶予があればどうにか出来る予定だったが、今のこの場では何をしたところでかなりリスクがある》
【天変の指輪】で変身するにしても、せめてミカエラがこちらを見失ってくれる必要がある。そうでないとどんな生物に化けたところでミカエラは俺だと気づいてしまう。
《……人間。じゃあ殺される可能性が高いか?》
《ああ。そうなる可能性がかなり高い。でも、お前まで死ぬ必要はない。俺を置いて逃げろ。あの建物の中ならなんとかなるかもしれない》
道路を真っすぐ進んだ先。建物は再現されているというのに、明かりは着いておらず、夜の闇の中で巨大な建物のシルエットだけが浮かび上がる。それは巨大な箱が組み合わされたような建物だった。
地方で最近よく見かける商業施設。大型ショッピングモールだ。
それは甲府市の外れ、大規模な土地を確保するために田んぼの真ん中に建てられていた。ダンジョンの中には、無機物がすべて再現されており、都市部では考えられない、だだっ広い大型ショッピングモールの駐車場がもうすぐそこだ。
停められた大量の車の中に、大量の大蜘蛛達と共に俺達が押し寄せた。ファミリーカーも高級車も軽自動車も皆等しく大蜘蛛に吹き飛ばされ、道が開けていく。
《ここまで助けた相手を今更見捨てることなどできない。人間。このまま私とこの子たちと共に移動するなら、まだ生き残れる可能性があるだろう?》
《でも、お前まで死んだら嫌だろ。だから離れてくれ》
《お前まで死んだら?》
《ああ……多分、俺はミカエラに知り合いを殺されている》
だだっ広い駐車場の中を駆け抜けていく。なんとか大蜘蛛が俺の周りを囲んでくれて、ミカエラの爆撃を身代わりに受けてくれた。大型ショッピングモールの箱のような建物。その自動扉を大蜘蛛が破壊した。
壁や支柱ごと突き破り、大型ショッピングモールが揺れる。
「ねえ、逃げないでよ! 怖がらなくても大丈夫! ちょっと心の中を読むだけだから! 祐太君が心の綺麗な人なら、何も怖がる必要がないでしょう? 逆に心の汚い人なら死んだらいいじゃない!」
ミカエラが頭のいかれたことを口走っている。
爆発が絶え間なく起きて、後ろからその距離がどんどんと近づいてくる。商品棚に並んだスナック菓子やカップラーメンが飛び散っていく。ミカエラは建物の中で巨大な大蜘蛛に大量に襲いかかられても気にしてなかった。
大蜘蛛などいないのかと思える程、高速で近寄ってきて、もう10mも離れてない。
《くそっ、この女。相変わらずえげつない破壊力!》
《アウラ、もう本当にいいんだ! 本当にお前まで死んでしまう!》
《……》
アウラは何か考えていて、口を開いた。
《人間。お前、時間さえあれば何とかできるようなことを言ってたな?》
《もう良いと言ってる》
《最後になんとかあの女の気を散らしてみる。あの、お前そっくりの石像を何体か出せ》
《……だめだ。そんなことをしたら》
《議論している余裕などない。早くしろ!》
ここで揉めてたら2人とも仲良く魔眼病に頭の中を読まれて、頭を爆発させられて死ぬだけ。まだアウラに言いたくなる気持ちを抑えて、俺はアウラの言葉に従って、六体の【身代わり石像】を出した。
《人間。死ぬなよ。死ななければ——》
アウラは何か言おうとして、また何かの制限がかかったようで、言えないようだった。そばに大蜘蛛が五体寄って来た。その大蜘蛛が俺に見向きもせずに、俺が造った石像を素早く糸を出して自分の背中にくくりつけた。
大蜘蛛というモンスターが側にいて、襲い掛かられない状態というのはかなり奇妙な感じがした。アウラも俺の石像を大事そうに抱えた。そして俺自身は【天変の指輪】で木乃伊に変身した。
《木乃伊に? 人間。そんなことができるのか?》
《ああ》
俺は考える。できるだけ早く考える。アウラは何を言ったところで俺を庇おうとしている。俺そっくりの石像なんてこの階層で最も強いモンスターであるアラクネが、持って出て行けば、間違いなくミカエラはアウラに狙いを定めてしまう。
こいつは多分俺の身代わりになって死ぬ気だ。
《じゃあな人間。結構楽しかったぞ》
こんな命がけの行為に楽しさがあったというのか。
《アウラ。お前は石像を持たずにこっちに来い。お前ぐらいなら何とかごまかせる》
俺はアウラを抱き寄せる。そしてアウラを【天変の指輪】で木乃伊の一部に見えるようにした。【天変の指輪】は南雲さん達がいる階層のアイテムだ。ミカエラでも見破れない。まあ見破れなくても攻撃されたら終わりだが。
「ねえ祐太君。お姉さん、なんだかもう面倒になってきちゃったなー」
ミカエラのイラついた声がした。本当に猶予がないと、まず大蜘蛛の一体が俺の【身代わり石像】を抱えて、表へと飛び出す。瞬間。大蜘蛛だけが爆発した。いくらモンスターでも、守ろうとしてくれているものが殺され歯噛みする。
「また身代わりくん?」
それでもミカエラは石像が気になって近づいていく。そうなるのも無理がないほど石像は俺そっくりだった。それと同時に、大型ショッピングモールの建物の壁が何かの衝撃を受け破壊された。
ミカエラが破壊したのかと思った。
イラついて無意味な行為をしたのかと思ったが違った。
外から木乃伊が大量に建物の中へと雪崩れ込んでくる。
「木乃伊? 木乃伊まで祐太君の味方なの?」
木乃伊がミカエラだけを狙って群がっていく。木乃伊も明らかにアウラの命令を受けて動いているようだった。
《大蜘蛛だけだと思ったら、時間差か。やるなアウラ》
《いや、あれは走るのが遅いから遅れただけだ》
《そうなんだ……》
「本当、まるであなたをモンスターが守っているみたい。不思議ー。何がどうなってるの?」
ミカエラは木乃伊と俺の石像。どちらにも気を取られて動きが止まった。そして次に大蜘蛛が四体。全く別方向へと散り散りに【身代わり石像】を抱えて走り出した。全く別の方向へ進んでいく四体の大蜘蛛に加えて木乃伊の大群。
「ふーん」
ミカエラはそれらをどういうわけか追いかけずにただ見ていた。
「ふあ」
そしてこちらは命がけだというのにあくびをした。
「なんかもう面倒臭くなってきちゃった」
ミカエラの声のトーンが一つ下がった。今まで可愛く喋っていたのに、声に殺意が込められているのがわかった。この間に逃げようと思ったのに、激しい悪寒に襲われる。何かがまずい。
《人間。このまま木乃伊たちに紛れて逃げよう》
俺達は完全にミカエラの視界から外れていた。ミカエラは見てないものまでは爆発させることはできないはずだ。だからこの作戦は完璧なはずだった。
それなのに、
《早くしろ人間! 機を逃すぞ!》
動かない俺にしびれを切らして、アウラが俺を急がせようと、俺から離れて、俺の石像を持ったまま走りだした。バカか。まだ身代わりになろうとしてるのか?
『行くな!』と叫ぼうとして【天変の指輪】で完璧に変身してしまった木乃伊の口から、なんの言葉も出てくることがなかった。木乃伊は完全に発声器官が死んでる。慌てて【意思疎通】を使おうとした。
「【大】」
何か来る。まずい。
「【爆】」
アウラを一緒に連れて逃げる。いや、冷静になれ。一緒だとスピードが半分ぐらいになってきっと逃げられない。
「【発】」
でも、榊もデビットもクリスティーナもアンナもマークも死んだかもしれない。こいつに殺されたかもしれない。許せなかった。アウラの体を掴んだ。ミカエラの体を中心に衝撃波が起こる。
【大爆発】
それはミカエラを中心にまき起った破壊の力。こんなふざけた攻撃ありかというほどの威力。大型ショッピングモールの巨大な構造物を内側から爆発させていく。
《【韋駄天】》
とにかく全力疾走した。どんどん衝撃波がせまってくる。アウラなんて庇わずに自分一人なら逃げ切れただろうか? この期に及んで、そんなことを考える自分を薄情だと思った。俺の背中にとんでもない規模の爆発の衝撃がぶつかる。
できるだけアウラに衝撃が届かないようにと抱きしめる。
アウラが抱き締めていた石像を投げ捨てる。石像が粉々に砕けた。そのまま体が吹き飛ばされてアウラと共に地面を何度もバウンドした。
《人間。無事か?》
衝撃が収まったとき、背中が凄まじく痛いことだけは分かった。
《どうかな》
足が動かない。それでも何とか振り返った。ミカエラがいて、まだこちらを見ていない。今なら逃げられるはずだ。でも体が思うように動かない。アウラはほとんどダメージがなかったのか? 心配してアウラの方を見る。
五体は無事だった。死んでない。なぜか心底よかったと思っていた。榊達もこうして守れていればと思うと泣きそうになった。そして今度はアウラが俺の体を抱え上げて、半壊した大型ショッピングモールの瓦礫の中に一緒に隠れてくれた。
「あらら、ちょっとやり過ぎちゃったわね。死んでないよね?」
ミカエラは声のトーンが戻って本当に心配そうに言う。その様子をとてつもない虚脱感とともに見ていた。アウラが俺の足を見ている。俺が足元を見ると、木乃伊の両足がなくなっていた。
【天変の指輪】を使い続ける集中力がなくなり、人間の姿に戻ると、本当に自分の両足がなくなっていて大量に血が流れ出てきた。
《ま、待っていろ。すぐに私の糸で止血する》
《アウラ。今は動くな。動かずに聞いてくれ》
《人間。せめて止血しないと死ぬ》
《大丈夫だ。マジックバッグにエリクサーが入っている。俺は血を失いすぎた。意識がもたない。ミカエラがいなくなったら飲ませてくれ》
《エリクサーを? わ、わかった。飲ませる。ちゃんとするから心配しなくていい》
それだけは聞こえて、それでも、まだ気を失うわけにはいかなかった。俺は最後に、
《美鈴、エヴィー、伊万里、いったん隠れろ! できるなら上の階層に移動した方がいい! そして一時間しても俺から連絡がなかったらダンジョンの外に逃げろ! いいな!》
三人にそう伝えて意識を手放した。





