第十一話 伊万里
「祐太、今の誰から電話?」
「うわっ」
急に声がして目の前に伊万里の顔があった。
「な、なんだよ心臓に悪いな。いるならちゃんと声かけてくれよ」
「楽しそうに喋ってたから黙って見てただけ」
「ずっと見てたのか?」
「悪い?」
「いや、まあ、いいけど」
「今日も一緒に寝たい」
伊万里は傍らに枕を持参していて、すごく不機嫌そうな顔で言ってきた。
伊万里の俺への気持ちは正直少しわかってる。と言うか小学生の頃から2ヶ月しか歳の違わない男と女二人だけで、家にほったらかしにされたのだ。
身を寄せ合って生きるしかない俺たちが、多少なりとも相手のことを過剰に思うようになっても当たり前だった。
おまけに血の繋がりだってないのである。俺はそんな伊万里のことで今までかなり悩んできた。正直伊万里は嫌いじゃない。可愛いし好きだ。
だからってそれが恋愛感情かと言われると自分でも結論を出せなかった。
伊万里の話だと両親が結婚していても義理の兄妹は結婚できるらしいが、そんなこと考えたこともなかった。伊万里のことは何から何までよく知ってる。おもらししたのを片付けた日だってある。それでも伊万里は昔こんな感じじゃ全然なかった。
「伊万里、中学生になった時に約束しただろ。お互いにちゃんと好きな人を作って、あいつらを見返そうって。俺は好きな人できたぞ」
「私はもうずっと目の前の人以外好きじゃない。他の人が好きになるとも思えない」
「……」
俺は学校で虐められてた。
今でも学校に行ったら虐められると思う。
それでも耐えられたのは、伊万里という存在が大きかった。彼女が俺を男と認めてくれて、必要以上に頼ってくれた。その事に俺はものすごく励まされた。
だから学校生活は頑張れなかったが、ダンジョンについてだけは真剣に頑張れた。おかげで良い出会いもあった。
「祐太は好きな人作っていいよ。私が作らないだけだから」
目の前にいた伊万里がそのままベッドの中に潜り込んでくる。抵抗できない自分は本当に見下げた根性のやつだと思った。先ほどまで電話していた桐山さんに対抗するように、ぎゅっと伊万里が俺の手を握ってくる。
それでもこれ以上は近づいてこない。これ以上近づけば俺に嫌がられるとわかっているのだ。俺に嫌われることを気にしている女子はきっと伊万里だけだろう。
「祐太、私本当に祐太ならいいんだよ?」
「ダメだ」
「じゃあ祐太が覚悟できるまで待つ」
「待たなくていい。好きなやつを見つけろ。見つけるまでは仕方ないからたまに一緒に寝るぐらいはいいから」
「じゃあ一生見つからないから一生こうしてる」
伊万里が俺の手を胸元に持っていく。俺だって年頃なので抵抗できるものと抵抗できないものがある。あまりに気持ちいいと理性が続かない。かといって何かできるわけではなく、伊万里が俺の手に押し付けようとした巨乳に触れる前に、
「こ、こういうのはダメだ」
そう言ってそっと手を離した。
「……」
「な、泣きそうになるなよ! だいたいまだ15歳だぞ! こ、子供ができたらどうするんだ!」
「じゃあ18歳になったらしてくれる?」
「じゅ、 18歳になった時のことなんて考えられるか!」
「むう」
「むうじゃない! もう早く寝ろこの馬鹿!」
こいつは、なんでこうグイグイくるんだ。毎日毎日俺の理性のことも考えろ。俺がお前に本当に襲い掛かって子供ができたらどうする気だ。まったくもってけしからん。本当にけしからん。なんちゅう胸だ。ああ、もう。





