第百八話 パーティーミーティング
「おはよう」
「うん」
伊万里がようやく目をさました。悪いが既に五階層に下りていて、三日も目を覚まさない伊万里を待ち続けることもできず、探索を始めさせてもらっていた。寝ている伊万里は背中に背負っていて、リーンによって落ちないように固定してあった。
《2人とも伊万里が起きたから、一旦戻るよ》
《《了解》》
そうしてすぐに三階層にまで帰ってきた俺たちは、リーンとラーイに見張りをしてもらって、まず伊万里と話をしようということになった。
「初めまして、ではないですよね。東堂伊万里、これからパーティーに合流させてもらいます。よろしくお願いします」
まず伊万里から挨拶する。三階層のサバンナで伊万里がペコリと頭を下げた。俺の知っている伊万里にしてはかなり固い喋り方だ。
「よろしくイマリ」
「よろしくね伊万里ちゃん」
「これからもよろしく伊万里」
エヴィー、美鈴、俺の順番で返事をした。これで本当に伊万里が合流した。俺がダンジョンに入ってから三ヶ月が経過していた。普通にダラダラ過ごせば一瞬ですぎるような月日だが、探索者を始めてからの月日はとても濃密で、俺の人生を一変させていくほどのものだった。
「ところで祐太。聞いておきたいんだけど、祐太が助けてくれたんだよね? どうしてあんなところにすぐに現れることができたの?」
それが伊万里には不思議だったようだ。だが、俺達からすれば当たり前のことである。伊万里は一人じゃないし、大事なパーティー仲間である。他に代わりなんて居ないし、できる限りの人事を尽くして、サポートしていただけのことだ。
「それでも普通に考えたら、あんなに早く私を助けることができるとは思えないんだけど」
「いや、難しいことじゃないよ。エヴィーが伊万里のクエスト内容を見てかなり危険だと判断した。それでエヴィーは自分だけでは何もできないと考えて、二階層にいた俺と美鈴に連絡してきたんだ」
「祐太、美鈴さんのお姉さんのレベルアップを手伝ってたの?」
「あ、ああ、そうなんだ。そのこと知ってるんだ」
「美鈴さんと休憩してる時に聞いた」
まさか伊万里の嫌いな母親のレベルアップを手伝っていたとは言えなかった。
「ふーん、で?」
何か怪しそうにこちらを見てきたが先を促してきた。
「ああ、それで、伊万里が同じ階層に仲間と入れるのは5分だけだということをエヴィーから聞いた。そしてエヴィーは四階層に入る瞬間、ちゃんと時間を計っていたということも聞いたんだ。だよねエヴィー?」
「まあ当然ね。四階層は時間制限付きのクエストが出る可能性が高いから」
「エヴィーが言うには伊万里といっしょにいたのは26秒。まだダンジョンが伊万里に課してきた禁止事項に触れるまで4分34秒の猶予があった」
「つまり祐太はその4分34秒の間に、四階層の階段から五階層の階段まで駆け抜けたわけ?」
そこまで聞くと伊万里は、もう大体概要がつかめてきたようだった。そう。俺が待機していたのは三階層ではなく五階層なのだ。
「そうだ。【韋駄天】のスキルに合わせてリーンと合体した俺は、階段まで3分6秒で到達することができた。残りは約1分半だ」
「たったの1分半だけど何かできたの?」
「うん、出来た。まず伊万里には【天脚】がある。加えて、エヴィーは過剰とも思える程、伊万里にSPポーションを供給していた。俺はそれを聞いて伊万里が取る作戦を考えた。必ず伊万里は最も効率的な作戦をとるはずだと思ったからね」
「その作戦とは?」
「【天脚】と【閃光弾】を使って上空1キロぐらいから一気に階段を探す。だよ」
「ああ」
伊万里が微妙な顔になる。何か間違っていただろうか? それが一番効率の良い探し方だと思ったのだが、伊万里ならもっといい方法を思いついてたのかもしれない。
「何か間違ってた?」
「いや、私も一人になってテンパってたんだなって思っただけ」
「そうなの? まあとにかく、その方法で探した場合、階段は1日~7日以内で見つかると予想したんだ」
「どうしてそんなに幅があるの?」
「探索者用のスマホは、上空からの探索に関してナビしてくれない。そんなスキルを持っている人間は滅多にいないからね。だから、その場合、自分でマッピングしながら探さなきゃいけない。マッピングに手間取れば、かなり時間がかかることも考えられた」
「なるほど祐太やっぱり賢いね」
伊万里から褒められた事が何気に嬉しい俺だった。
「このパターンでベストは一日目~四日目での階段発見だ。この場合、探索者なら寝ずに頑張れる。でも、もし時間がかかって【睡眠耐性】が必要なぐらいまで追い込まれたら? このパターンになった場合、危険なのは五日目と六日目だ。だから五日目に入った時点で俺が四階層に入って、リーンと五階層に降りた」
「そして、私とミスズは三階層にある階段の前で待機した」
「あとは一時間ごとに、俺が五階層から階段を上って、2秒だけ四階層で伊万里を探して、五階層に戻ってを繰り返した。そしたら5日目の終わり頃から空がピカピカとよく光るようになった。伊万里の【天脚】の光だとリーンが教えてくれた。その光を見るたびにちゃんと伊万里が生きてるって安心したよ」
「そっか……。ありがと」
伊万里が俺もだが、エヴィーにも美鈴にもお礼を言った。
「お礼を言われるほどではないわ。ユウタの言っていた方法に私が気づいていたらちゃんとそれをするにあたってのアドバイスもできた。私のミスよ。ごめんなさい」
「はは、私は伊万里ちゃん見ててすごいなって思いすぎちゃった。この子ならできるかもしれないと思って無茶なこと言っちゃってごめんね」
「美鈴さんは本気で反省してください。おかげで死にかけました」
「うぅ。 ごめん」
伊万里は正直な性格をしている。好きな人のことはとことん好きになるし、その知性を認めた人に対しては、それなりの敬意をはらう。エヴィーはそのお眼鏡にかなったらしい。美鈴はまあ……うん。頑張れ。
「でも、まあ、無茶したおかげでSS判定もらえたからいいです」
「SS? 何それ?」
俺は目を瞬いた。そんな判定は聞いたことがなかった。
「うん。6日でクリアしたらなんか出たよ」
「へ、へえ」
SS判定? 俺はとったことがないぞ。悔しいじゃないか。でも顔には出さなかった。
「お二人さん。とりあえず一階層まで戻らない? イマリのガチャを引かなきゃいけないでしょ?」
「ああ、まあそうだね。じゃあとりあえず戻るか」
SS判定の詳細を聞きたいところだったが、それよりもまず伊万里のガチャである。戻る前に俺とエヴィーは姿を変えた。というのも、元Dラン生と、その流れに乗った一般人がすでに探索者として、かなりダンジョンに流れ込んできていた。
今は周りにいないが三階層にもちらほらと現れ出しているのだ。俺とエヴィーはギリギリまで姿を隠す方針だったから、ごく普通の顔をした女の姿になり、美鈴と伊万里はそのままの姿だった。
ハーレムパーティーだと目立つかと思い女パーティーを装い、少し走り出すと探索者の姿がすぐに目に入った。
「昨日二階層で氷見パーティーの死体が転がってたらしい。全員頭が吹っ飛んでたってよ」
そこから話し声が聞こえてきた。
「こ、怖っ! 二年の氷見のことか? あいつらはレベル16だよな? 二階層で死んでるなんて変だし、やっぱり外のダンジョンにはやばいのがいるかよ」
「甲府だと魔眼病ミカエラ?」
おそらく元Dラン生だ。女パーティーにしたことで男達から声をかけられないかとも思ったが、それ以前にかなり不穏な話だった。向こうはこちらの事どころじゃないのか、注意は払っているが、声をかけてくる様子はこれっぽっちもなかった。
「魔眼病……」
『盛大な遠回りご苦労様。あなたたちに教えてあげましょう。これがダンジョンよ』
米崎の言っていた言葉を思い出す。南雲さんとも少なからず因縁があるのだという魔眼病。南雲さんが本気で相手しているのかは知らないが、南雲さんとはあれ以来会えていないので、魔眼病のことは聞けてない。
それでも危険人物の情報は必要だと思い、人工レベルアップ研究所で米崎から甲府の危険人物。殺人依頼請負人ジャックと魔眼病ミカエラの話は聞いておいた。それによるとジャックは依頼がない限り、誰かを害することはないらしい。
問題はミカエラで、理由はわからないが度々ダンジョン内で殺人を繰り返しているそうだ。甲府で上げられる最高レベル200の女。相手がレベル200の探索者だと、池本の時のような方法は通用しない。
ステータスアップ系のアイテムをどれだけ使ったところで、おそらく1000以上違うであろうステータスが逆転することなどない。出会えば逃げるしかないのだが、それすら通用するかどうか……。
「——うわー、またすごい増えてるね」
美鈴が呆れるように言った。ガチャゾーンの前には50人以上並んでいて、順番待ちをしている。みんなかなり暇そうである。
「これは一時間以上かかるかな?」
「まあこれが普通よ。アメリカもこんな感じだったわ」
「こんなところで順番を取りあっても仕方ないし、おとなしく待とうか」
みんな探索者のもめごとは嫌なのか、文句を言いだすものはいないようだ。そして順番が回ってきて、伊万里がガチャを回した。
結果は、銅18、銀4、金3だった。
伊万里は三階層でかなり多くのガチャコインを見つけることができたようで、53枚あった。それで金カプセルが3個出てくれたのはかなりいい結果だ。俺たちはどうせ一階層にいるのだしということで、いったん外に出た。
そして甲府のダンジョンショップで、ミーティング用の部屋を借りた。探索者は人に見られたくないことも多いので、ダンジョンショップにはミーティング用の部屋がいくつも用意されているのだ。ここで、まず伊万里の金カプセルを開いた。
ガチャから出てきてくれた三つともすべてである。そして、
「はあ」
伊万里がため息をつく。専用装備がまたもや出なかったのだ。
「祐太は例外として、エヴィーさんは専用装備が一つ出てるんですよね?」
ミーティング用の机の上にはチョコ菓子やスナック菓子が皿にもられていて、美鈴がそれに手を伸ばしていた。俺は白カプセルからカールおじさんが出たので、袋を開けて口に放り込んだ。
「ええ、まあね。でも、私はストーンエリアではもうガチャを回さないつもりよ」
「どうしてですか?」
「ミスズの虹カプセルを優先させたいの」
「美鈴さんとずいぶん仲がいいんですね」
「まあ最初はひどいもんだったけどね。今は一緒にいたいと思ってるわ。それに別に仲良しごっこをしたいから、そうするわけじゃないのよ。虹カプセルは私たちのパーティーに必要なものだと思っているから、そうするの」
「そうですか」
興味なさそうに伊万里は自分のガチャ結果を見た。前回の分と合わせて金カプセルは4個。その4個とも専用装備ではなかった。もちろん金カプセルから出てきたものなので、外れは一つもない。全て必要な物ではあるのだ。
強化素材がまたひとつ出ていた。残りはステータスアップの果実と1000万円のポーションで、ダメではないのだが、ガチャ運2のエヴィーが金2個で専用装備を引き当てたことを考えると、ガチャ運3なのに4回も外したことが悔しいのだろう。
「ま、まあ、こういうこともあるわよ。次は出るんじゃない?」
美鈴が慰めるような言葉を言ったので、俺も続いた。
「うん。それに強化素材が二つ出てる事には違いないんだ。専用装備さえ出れば、その専用装備をかなり強化できることになるはずだ」
「別に落ち込んでないから、慰めてくれなくていい」
そうは言っても、明らかに落ち込んでいる様子の伊万里は、放っておいてほしいようだ。
「えっと、祐太。じゃあ果実の分配も決めてしまおっか」
同じくガチャでまだ一度もあたりを出したことがない美鈴がとにかく話題を変えた。果実の分配だ。こちらはこちらで結構重要なことだ。伊万里のレベルアップが終わるまでとっておいた果実である。内訳は、
HPの果実×7
SPの果実×8
力の果実×6
素早さの果実×10
器用の果実×3
防御の果実×10
魔力の果実×1
防御の果実は二つ売ったので、10個になっている。そして魔力の果実は伊万里が出したものだ。すべてを売り払えば、きっと100億円以上になるだろう。普通なら考えられないほど大量にある果実。この分配を決める必要があった。
「この果実の件だけど分配方法についてずっと考えてたんだ」
「何かいい方法があるの?」
「ああ、それぞれに欲しい果実の優先順位を決めて、提示する。それを見ながら分配数を決めるっていうのはどうかな? 人によっては必要のない果実もあるだろう? だからそれがベストだと思うんだ」
ガチャから果実を出したのは俺だ。だからこそ俺がそう言わないと話が進まないと思ったのだ。
「悪くない方法だわ。分配に関してはそれでいいわよ」
「私もそれでいいです」
「私もそれならいいと思う」
「OK。じゃあ、お互いに意見を出し合おう」
全員がその考えに賛同してくれたのでホッとする。美鈴も、自分だけがもらうわけじゃなく、みんなが必要な果実を言う。それなら抵抗がなかったようだ。
最初はステータス不足の美鈴だけを優先的にということも考えた。しかしそれだと最初は良くてもだんだんとパーティー内での揉め事の種になっていきかねない。それだけは避けたかったのだ。
「じゃあまず欲しい果実の順番にスマホに打ち込んで、それぞれ共有するから、それでいいね?」
「「「了解」」」
そしてそれぞれが欲しい果実を優先順位を提示した。
祐太 【1素早さ 2器用 3防御 4HP 5SP】
美鈴 【1力 2器用 3SP 4防御 5素早さ】
エヴィー【1魔力 2防御 3HP 4素早さ 5器用】
伊万里 【1素早さ 2防御 3器用 4HP 5SP】
「こうして見ると、よくわかるね。それぞれ欲しい果実が全然違うんだ」
「ミスズは何よりも力か。矢の攻撃が通らないこと多いものね」
「うん。正直一番火力不足で困ってるんだよね。伊万里ちゃんは素早さか」
「今回SS判定を取れたおかげで素早さもかなりボーナスがつきました。だから果実はあればいいなって言うぐらいです。祐太はどう?」
「俺も伊万里と同じだよ。バフが五階層だと+52もつくし、五階層からはほとんどの専用装備が付けられるから、防御面は心配ない。正直、ステータス不足になるとは思えないけど、全く必要ないとは言えないよ」
ただ一つだけ懸念事項があった。魔眼病である。万が一、こいつが俺の前に現れたら、かなりやばい。
「さっき聞こえてきた話、気にしてるの?」
伊万里が察しがついたのか聞いてきた。
「うん、まあ、本当に魔眼病がいるなら怖いよね」
「せめてあと一年、そういう探索者と出会わずにいたら、その間に強くなれるのにね」
「まあ、きっとそれも含めて探索者の強さなんだ。揉め事は避けて通れない」
「でもレベル200はな……」
「穂積の時ほどの差じゃないけど、せめてレベル100ぐらいまで待っててくれないかな」
「ともかく、それぞれのステータスアップは真剣に考えようよ」
俺と美鈴と伊万里が話してると、エヴィーが果実の分配数をまとめてくれた。
ユウタ【素早さ×5、器用×1、HP×2、SP×2】
ミスズ【力×6、器用×2、SP×6、防御×3】
エヴィー【魔力×1、防御×5、HP×3】
イマリ【素早さ×5、防御×2、HP×2】
「こんな感じでどうかしら?」
「うん。良いと思う。俺が必要だと思ったものとも合致しているよ。果実一つで+4がつくから、5個で素早さが+20。かなりいいんじゃないかな」
「というか、私もらいすぎじゃ……、それにエヴィーの分少なくない?」
「ミスズ。あなたの火力不足は深刻よ。虹カプセルが出るまでの我慢だと思うけど、もらいすぎとか考えずに力の果実と、スキルを多く乗せられるSPの果実は、あなたが食べた方が良いわ」
「いいの? その二つは祐太や伊万里ちゃんにも必要なステータスでしょ?」
「俺はいい。美鈴、遠慮はいらない」
「でも……」
「祐太。こういうのははっきり言った方が良いんだよ。美鈴さん」
「は、はい」
伊万里からまっすぐ見られて、美鈴はビビっているのか声が震えた。
「これだけ祐太にしてもらっても、まだ、私たちの中であなたが一番弱いですよ。それでも、どうしてもついてきたいなら、できるだけお荷物にならないようにしてください」
「……」「……」「……」
何事においてもはっきりしているアメリカ人エヴィーでも、それを言っちゃうの? って顔になる。俺はといえば、昔の伊万里を思い出した。というのも伊万里は俺のことを好きだと言い出すまでこんな感じだったのだ。
そしてはっきり言われてしまった美鈴は、ちょっと涙目で果実をおとなしく食べた。俺も果実を食べてしまい、その結果、エヴィー以外のそれぞれ一番欲しいステータスが、20程上昇し、かなりステータスの底上げになった。
「ああ、それと私のステータスを見せておきますね」
伊万里が自分からステータスをオープンさせた。
名前:東堂伊万里
種族:人間
レベル:23
職業:探索者
称号:新人
HP:231→241→249
MP:152→162
SP:160→170
力:188→218
素早さ:190→220→240
防御:185→215→223
器用:154→184
魔力:156→166
知能:70→80
魅力:54
ガチャ運:3
装備:ストーン級【髪飾り】
ストーン級【胴鎧】
ストーン級【脛当て】
ストーン級【ガントレット】
ストーン級【肌着】
ストーン級【アミュレット】×2
ストーン級【剣】
ストーン級【盾】
ストーン級【靴】
ブロンズ級【アリスト】(バリア値100)
シルバー級【マジックバッグ】(200kg)
サファイア級【天変の指輪】
魔法:ストーン級【閃光弾】(MP4)
ストーン級【光線銃】(MP8)
ストーン級【浄光】(MP12)
スキル:ストーン級【光輝二線】(SP6)
ストーン級【加速】(SP5)
ストーン級【剛力】(SP4)
ストーン級【暗視】(常時発動可)
ストーン級【睡眠耐性】(常時発動可)
ストーン級【意思疎通レベル2】(常時発動可)
ストーン級【光天道】(1mにつきSP5)
クエスト:二階層S判定 三階層クエストS判定 四階層クエストSS判定
俺はそのステータスに驚いた。そしてレベルアップで伊万里が一切手を抜かずに頑張ったことがよくわかった。ほとんど全てのステータスが俺より上。つまり伊万里は俺より強いんだ。
「俺より強いね」
「お世辞はいいよ。自分でも分かってる。祐太には及ばなかった。追いつくつもりだったんだけど無理だったな」
しかしそれは専用装備をつけず、スキルも使わなければの話である。なんとなくわかる。確かに素の状態の戦いなら伊万里の方が強い。でもこれだけのステータスを持っている伊万里でも、かなり条件が限定されない限り俺が勝つ。
「でもかなりいいステータスであることは間違いないわ。祐太の【四連撃】と【韋駄天】がなければ、いい勝負にはなるでしょうね」
「私じゃ手数で祐太に押し負けるか。装備に至っては月とスッポンですしね」
エヴィーに言われ、それでも伊万里は冷静なままだった。そして、
「思ったほどすごくないな。SS判定はおまけみたいな感じかな」
伊万里は自分のことを俯瞰的に言った。
「ふふ、ずっと一緒に住んでいたというだけあってあなたも自己評価が低いのね。伊万里十分すごいわよ。これですごくなかったらこっちの立場がないわ」
「そうそう。正直羨ましいぐらいだよ」
「伊万里。行こうか?」
俺が最後に声を掛けてみんなで立ち上がった。
五階層まで一気に下りる。人ごみがかなり多くなったダンジョンの入り口を通りぬける。きっとそれほど遠くないうちに俺たちと同じレベルの、いや、それ以上の奴らが同じ階層に来るはずだ。それの対応もしなければいけない。
悩ましい問題は山積みだった。ともかく俺たちは2チームで別れることになった。俺とリーン。そして伊万里と美鈴とエヴィーとラーイ。五階層にはかなり手強いモンスターがいるから、戦力を均等に分けることになった。
その結果。俺とリーンが合体すると、他3人とラーイの分と同じぐらいの強さになるという結果になった。
「リーン。なんかこういうのいいな」
「ユウタ。楽しい?」
四階層に入った段階でチームに分かれて動き出し、五階層に降りてみんなが遠ざかっていくのを見ながら、リーンと2人になる。
「そうだね。ちょっとだけ楽しいかな」
「リーンも楽しみ。サイ〇ガン早く撃ちたい」
「そうだね。それも楽しみだ」
俺はそう言いながら景色を見つめた。夜のサバンナ。闇の中で雨が降っていた。そしてその中に透明で巨大なスライムが浮かびあがった。





