第98話 ムトーさんの修理の見立て
第98話 ムトーさんの修理の見立て
ベルン男爵邸。
倉庫。
俺とガーネットとハウは、ムトーさんを案内して、早速屋敷の倉庫に入った。
そこでゴウレムの破片を見せる。
ムトーさんはこの世界でアーム工房ってゴウレム工場を開いて、ゴウレムの制作や修理を専門にやっている人だ。
俺では手に負えないゴウレムの修理も、この人ならなんとかしてくれるかもしれない。
そう思って、ムトーさんを屋敷に招待したのだ。
「これか……」
破片を見るなり、ムトーさんは難しい顔をした。
「どうですか?」
と、俺。
心配そうに見ているガーネット。
「残念だけど」
と、ムトーさん。
「この状態までバラバラにされていると、ウチでも復元は難しいかな。復元ができたとしてももう別物になってしまう。見たところ破片も全部揃ってはいないように見えるしね」
と、ムトーさん。
「そうですか……」
と、俺。
「お役に立てず申し訳ない」
と、ムトーさん。
「いいえ、専門家に見てもらえただけでもありがたいです」
と、ガーネット。
「なら、新しいゴウレムをムトーさんの工場に発注したらどうかな。お金ならあることだしさ……」
「カラスマくん」
と、ムトーさん。
「はい」
と、俺。
「ウチで受けることはもちろんできるし、仕事の依頼はありがたいことだけど……」
ムトーさんは、念を押すように言葉を区切った。
「ガーネット様は、君が仕えている人なんだろ? なら、君が作ったほうがいいんじゃないかな?」
「俺が、つくる?」
「そうだ。貴族のゴウレムだ。要人警護のためにはそれがいい」
「要人警護ですか?」
「ああ。ゴウレムを作った場合、製作者に操作権が生まれるのはわかるよね」
「はい」
「僕がガーネット様のゴウレムを作るとする。もし、そこで、僕がガーネット様に悪意を持っていたとしたらどうなると思う?」
「それは……」
「ガーネット様のそばにあるゴウレムを、僕が操作して、彼女に危害を加えることも可能だ」
「それは、……仮定の話ですよね?」
「そうだ。だが、例えば、僕がガーネット様に悪意のある貴族に捕まって、無理やりゴウレムを操作するように命じられるかもしれない」
「なるほど」
「そういう事態を防ぐために、この世界では貴族の家が専門のゴウレムマイスターを抱えて、専用のゴウレムを作るのが一般的らしい。……ですよね? ガーネット様」
「そうね」
と、うなずくガーネット。
「昔は貴族の身の安全を確かにするために、ゴウレムを作り終えたゴーレムマイスターの命を奪った。なんてこともあったらしい」
うわぁ。嫌だなそういうの。
「あくまで昔、そんなことがあったという話だけどね」
と、ムトーさん。
「君が作ったほうが、ガーネット様も喜ぶんじゃないかな? どうですか?」
「え、ええ……」
なぜか、言葉につまるガーネット。
「そうなのかガーネット?」
「そ、そりゃあ……」
「じゃあ……作ってみるかな」
と、俺。
「……いいの?」
と、ガーネット。なんだか嬉しそうだな。
「ああ。すぐには出来ないけど。時間がかかるけど、それでいいなら」
「うん!」
と、ガーネットは答えた。嬉しそうだな。
ムトーさんは、いつの間にかハウと一緒に猫型のゴウレムを見ていた。
「このジャガー型のゴウレムなら、修理は可能です。だいたい一週間から10日も時間をいただければ元にもどせるでしょう!」
「まほう」
と、答えるハウ。
「動物型の魔法鎧ですね。わかります。うちでも何件か、修理の実績がありますんで、お任せください」
そういうことになった。
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本日ムトーさんを屋敷に呼んだ本題の話。
メイド長の靴型ゴウレムの修理の話だ。
屋敷の応接室。
メイド長と、ガーネット、ルナリア、ついでにハウ。
俺と、ムトーさんがいる。
俺とムトーさんはメイド長の羽うさぎの夫婦をもう一度見せてもらった。
「この靴はメイド長にとってすごく大事な品なんです。だからヘタに修理して別物にしたくない」
と、俺。
「ふむ」
とムトーさん。
「だからその靴はそのままにして、もう一足新しいのを作ろうと思うんですよ」
と、説明する。
「なるほど」
「型取り用のシリコンと、レジンみたいな複製素材は手に入りますかね?」
と、俺。
「注型をとって、そっちを直すわけか」
と、ムトーさん。
「はい!」
「シリコンもレジンも手に入るよ。日本にあるやつじゃない、この世界のやつがね」
「やった」
俺達二人のやりとりを、???と、?マークを頭の上に浮かべて聞いているメイド長たち。
「メイド長。靴をつくるから、あとで、ちょっとこれを借りてもいいよな?」
「はぁ、はい」
とメイド長。
「材料のあてがついた以上、あとは作るだけだ! メイド長の大切な靴はそのままに、同じ靴を用意できるから待っていてくれ!」
そういうことになった。
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