第97話 ムトーさん、男爵邸に来たる。
第97話 ムトーさん、男爵邸に来たる。
ベルン男爵邸。
正面玄関の前。
そろそろ約束の時間だ。
俺。ガーネット、ルナリア、メイド長、ハウ。
俺達はお客さんを出迎えるために、屋敷の玄関の前に集合していた。
「遅いなぁ、丘を登ってくるなら、馬車か何かが見えるはずなんだけど」
「わからん?」
と、ハウ。
「なんだよハウ?」
ハウは、上空を指差した。
空?
なんか、飛んでるのが見えるな。
あれは鳥?
『ケェェェー、イャン、イャン、イャン!』
怪鳥の泣き声のようなものが聞こえた。
「ドラゴン?」
と、ガーネット。
「ワイバーンだ!」
と、俺。
身構えるガーネット、ハウ、メイド長。
俺も疾風を戦闘形態でスタンバらせる。
敵襲というか、野良ドラゴンが襲ってきたのか……と、思ったが違った。
『ケェェェー、イャン、イャン、イャン!』
飛んでくるものが、近づいてくるにしたがい、その姿がだんだんはっきり見えてくる。
飛んでくるそのワイバーン。その姿に、俺は見覚えがあった。おおきなくちばし。くちばしは、したのくちのほうが受け口で大きくなっている。頭にはえりまきのような大きな耳が生えている。羽根はコウモリみたいな皮膜があるタイプ。
『ケェェェー、イャン、イャン、イャン!』
あの鳴き声にも聞き覚えがある。
「……クック先生だあれ」
俺のつぶやきは、飛んできた怪鳥の羽ばたきから生まれた下降気流に遮られる。
上空で旋回し、着陸態勢に入ったらしい。
「え? なに?」
と、ガーネット。ちょっと大声になる。
「あれ、(中略)先生だ」
と、俺。ちょっと大声。
「え? (中略)先生? なによそれ」
と、ガーネット。
『ケェェェー、イャン、イャン、イャン!』
「うん、俺の世界にある、モンスターを狩るアクションゲームに出てくる怪鳥のモンスターかな。プレイヤーがゲームで一番最初に戦う大型モンスター。ボスモンスターなんだけどね」
このモンスターが出てくるゲームが大好きな人を、俺はこの世界で一人知っている。
見上げるような大きさのワイバーン、(中略)先生は、バッサバッサと、羽根を羽ばたかせて、俺達の目の前に着陸した。
その背中には、見慣れた男の姿。山岳ジャケットを羽織ったナイスガイ。
(中略)先生、これゴウレムか? 1/1(中略)先生を作ったのかこの人。どんだけあのゲームが好きなんだよ……。
ムトーさんは(中略)の背中から降り立った。
「やぁ、本日はお招きいただきありがとうございます」
会釈をするムトーさん。
「ベルン男爵家、当主のガーネット・ベルンです。本日はようこそいらっしゃいました」
と、ガーネット。
「これはご丁寧に。ムトー・ジュウベイと申します」
と、ムトーさん。
「当家のカラスマのために、色々な便宜をいただき。その節はありがとうございました。当主として、カラスマの主人として感謝をいたします」
頭を下げるガーネット。
ムトーさんには、工具を借りたり、バトルスーツやもこもこの材料を分けてもらったりお世話になったからな。
「ようこそ、ムトーさん」
と、俺。
「どうもカラスマくん」
「屋敷の皆を紹介します。ガーネットの妹のルナリアです」
「はじめまして、ムトーさま」
と、スカートをつまんで頭を下げるルナリア。
「彼女はハウ。ジャガーの獣人で、屋敷の警備員です」
「わからん」
と、ハウ。
「……ええ?」
と、驚くムトーさん。
「ああ、気にしないでください。『わからん』と『ごはん』しか喋らない変なやつなんです」
「そ、そうなんですか……」
と、ムトーさん。
「わからん」
とハウ。
「最後にこの人は、メイド長の……」
あれ、そういえば……。メイド長を紹介しようとして、詰まってしまった。
「メイド長の名前って今まで聞いてなかったね。なんて名前なのメイド長?」
「……」
メイド長は答えない。
そのままムトーさんに向き直り。
「はじめましてムトー様。この屋敷をお世話しております、メイド長でございます。本日はごゆっくりおくつろぎ下さい」
名前の話はスルーかよメイド長……。
ムトーさんはメイド長に向き直った。
「ご丁寧に、ありがとうございます」
と、会釈するムトーさん。
その後、屋敷の女性陣の顔を見回したあと。
「で、誰がカラスマさんのお嫁さんなの?」
と、俺に聞いた。
「「「「……」」」」」
固まる女性陣と、俺。
「はい!」
と、手を上げるルナリア。
「私です! 私がカラスマの家内でございます」
と、ルナリア。
「ああ、これは、いつもカラスマさんにはお世話になっています」
「いや、違う! 違うからムトーさん!」
ムトーさん。ジョークとか冗談にしちゃパンチがきついぜ。
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