第96話 修理の相談
第96話 修理の相談
なんということだ。
朝食に焼きたてのパンが並ぶようになった。卵料理もある。
今まで3食同じ芋のスープ。それに庭で取れる草=薬味を加えて味を変えて頑張って食べていたのに、一気に文化度があがった気がする。
ありがたや。ありがたや。
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「お礼がしたい?」
と、ガーネット。
「うん」
と、俺。
「疾風が取り戻せたのは皆のおかげだからさ」
朝食を終えて屋敷の皆が揃っていたので、俺はかねてから考えていたお礼の話をすることにした。
ルナリアには先日空を旅をプレゼントしたからな。
「じゃあ、お金がいいわね」
と即答する御前様。
「それは生活費で入れてあるだろ」
たまに出場するバトルアリーナのファイトマネー。それをほぼ全額生活費としてこの屋敷に入れることになっている。
俺が持ってても、使い道がないからな。
あと、疾風を取り返すために出してもらった2000万の返済の分も含めてだ。
「お金以外なら、……そうねぇ、相談したいことがあるからあとで倉庫に一緒に来てもらうかな」
と、ガーネット。
「わかった……、ハウは何かあるか?」
「ごはん」
とハウ。
「じゃあ、なんか美味いものを食いに行こうか」
「いいわね!」
と、ガーネット。
「楽しみです」
と、ルナリア。
ついてくる気満々だね君達。まぁ、誘うつもりだったからいいけど。
「メイド長はなにか無い?」
「はぁ……」
と、メイド長。
「こないだのお礼がしたいんだけど、何か俺にできることはないかな?」
メイド長には、参加費の10万エンを工面してもらったからな。特にお礼がしたい。
メイド長はちょっと考え込んで、
「……。……。特に……ありませんね」
と、答えた。
「そうか」
なんか一瞬間があった感じがしたけど気のせいかな?
「じゃあ、もし何か思いついたら、遠慮なく言ってよ」
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ガーネットとハウに案内されて、俺は屋敷の倉庫に入った。
初めて来るなここ。
倉庫の床にはブルーシートが敷かれ、一面に何かが敷き詰められている。
破片だろうか?
黒い破片が集められた箇所に、赤い破片が集められた箇所。
あとは、ボロボロに壊れた赤い猫科のでかい動物のゴウレムが置かれている。虎? チーター? ジャガー? よくわからない。
しかし、赤い破片か。
「これは……」
赤い破片を手に取る俺。
破片は透き通ったルビーのような色をしている。
「私のゴウレムよ。こうなってしまっては元ゴウレムかしら」
「ルビーアイってやつか?」
ガーネットが使ってたゴウレムだ。バトルアリーナには過去の対戦動画のアーカイブがあって金を払えば閲覧できるようになっている。
俺はそれを見たことがあるんだが、仮面のファイタースカーレットとなったガーネットが、赤い馬型のゴウレムに乗って戦う動画があった。
馬に乗ってズーランを追い詰めるガーネット。
サジタリアモード。ゴウレムと合体して人馬形態になるのはすごいカッコいいんだよなアレ。
……この破片があれなのか。
「貴方がこの世界に来たときに壊されちゃったのよね」
「あの時か……」
わけもわからないまま疾風を動かし、ガーネットやルナリアを襲っているでかい緑のゴウレムと戦った。
俺が召喚された時って、すでにガーネットは上半身裸だったなぁ。あれはすごかったなぁ……。本当にすごかった。
思い出して、思わずガーネットの胸を見る。
「カラスマ……。どこ見てんの?」
と、胸を隠すガーネット。
「(口笛)」
を吹いてごまかす俺。
話題を変えよう。
「これをわざわざ俺に見せたってことは」
「修理できないかな? 原型師なんでしょ?」
俺は破片をいくつか手に取る。
……。うーん、はっきり言うか。
「多分、俺には無理だな。全部の破片をつなぎ合わせても馬の体には全然足りないと思うし……」
「そう」
と、残念そうにうつむくガーネット。
「だけど、俺より詳しい専門家を知ってるから、ちょっとその人に見せてみてもいいか?」
「そうなの!?」
ガーネットの顔が明るくなった。
「うん。この屋敷に呼んでもいいかな?」
「いいわよ!」
そういうことになった。
「こっちの黒い破片もゴウレム……でいいんだよな?」
「ええ、父の乗っていたものね」
「あっちのでかい猫は?」
ハウが俺の肩をつかむ。
「(くいくい)」
そして、自分の顔を指差した。
ハウのか。猫の獣人が、猫型ゴウレムね。わかりやすいよね。
「でかい猫のゴウレムなら原形をとどめてるし、俺でもなんとかできそうだな……」
ハウは、俺の肩をもういちど叩くと、
「(ぐいっ!)」
と、サムズアップ。よくやったと親指を立てた。
こいつ、「わからん」と「ごはん」しか喋らないんだよな……。
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食堂に戻る。
メイド長が掃除をしていた。
「メイド長」
と、呼ぶガーネット。
「はい、御前様」
と、答えるメイド長。
「貴方の『羽うさぎの夫婦』、カラスマに見せてくれない?」
「は、はあ」
「私とルナリアを護衛するのに、メイド長にはあれを履いていて欲しいのよね」
今護衛って言った? ルナリアには必要だけど、君に護衛って必要あるの?
「カラスマ。何か?」
「いいえ」
「御前様のお申し付けでしたら。……ただいま持って参ります。」
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ことり、と置く音。
メイド長は机の上に、一足のハイヒールを乗せた。
「ちょっと拝見」
と、俺。
どれどれ。
靴の全体が、うさぎの形をしているな。一組で2匹のうさぎになるデザイン。
だから、うさぎの夫婦か。洒落た名前をつけるじゃないか。
片方の靴は真ん中からべきっと折れている。もう片方はヒール部分が折れてるな。
なんとなく、こないだ見た、ズーランの龍撃鞭。カメレオン型の鞭のゴウレムを思い出すな。
と、思っていたら、ヒールだけが折れているほうのうさぎの靴がもぞもぞ動き出した。刻まれた手足の意匠がばたばた動く。
「生きてるんだこれ?」
「武器型ゴウレムの亜種ですので、魔力を注ぐと動き出すんです」
「そうなのか」
よくわからん。
「生き物なら、このままにしておくのはかわいそうだな」
「……」
「俺は靴の専門家じゃないけど、これならなんとか直せると思う。俺でよければ修理するよ?」
大きな石を削り出した、お椀みたいなものだからな。折れてるのを戻して、パテか何かでつなげば元通りにできるだろう。
「……」
メイド長は黙り込んだ。
「御前様……」
「なあにメイド長?」
「このゴウレム。どうか、このままにしておくわけにはいかないでしょうか?」
「どういうこと?」
「このゴウレム。羽うさぎの夫婦は先代様。お館様から賜ったものです」
先代ってガーネットの父親か。屋敷の色んな場所に肖像画とか写真が飾ってあるのをいつも見てる。
「御前様と、ルナリアお嬢様をお守りするために賜りました。本来であれば、修理をしてお役に立てるべきなのです。ですが……」
メイド長はうつむいた。
「ですが、これを修理する。他人の手を加えてしまう。別の材料を継ぎ足して補修する。そうすると、これではない別のもの。お館様から頂いたものとは別のものになってしまう気がするのです。
お館様から頂いた品が失われてしまう気がするのです……」
メイド長はガーネットを見た。
「どうか、この羽うさぎの夫婦は、このままにしていただくわけにはいかないでしょうか?」
「……」
黙りこむガーネット。
「……」
黙りこむメイド長。
「ごめんなさいメイド長」
と、ガーネット。
「貴方の気持ちをもう少し考えるべきでした」
「御前様。わがままを申し上げました。申し訳ありません」
「いいのよ。私もデリカシーが無かったわ。お父様からの贈り物ですものね」
「……」
「メイド長には新しい戦闘用の靴ゴウレムか、新しい武器のゴウレムを用意しましょう。それで戦力を取り戻せばいいわ」
二人のやり取りを聞いていた俺。
ちょっと手を上げる。
「なによカラスマ?」
「んー。要はその靴がそのままで、もう一足同じものが用意できればいいわけだろ?」
「そうね……まぁ、そんなことが出来ればそれが一番いいんだけど」
「多分。何とかできるぞ」
「うそ?」
とガーネット。
「ええ?」
とメイド長。
「その靴をそのままに、同じモノをもう一足用意できる!」
原型師烏丸からす。
ひとつ腕の見せ所といこうじゃないか。
まぁこの世界には俺はまだ詳しくないので、援軍は呼ぶけどね。
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