第95話 メイド長が生まれた日
第95話 メイド長と『羽うさぎの夫婦』
16年前。
「私が、メイド長ですか?」
彼女はまだ18歳の少女だった。
「ああ。今のメイド長の結婚が急に決まってね。彼女を見初めた騎士。まぁ、俺の部下だが、転属の決まった奴が任地にすぐに連れて帰りたいというんだ」
対するのは逞しい貴族の男。鷹のように鋭い目。貴族というよりはどこかの冒険者のように見える。
オー・ウル・ベルン。
ベルン男爵家の先代当主にして、ガーネットとルナリアの父親である。
「ついては後任を君に任せたい」
「しかし、お館様。……私はまだ新参の身です。先任の皆様を差し置いて私が役職を預かるわけにはいきません」
と、固辞する。
だが、オー・ウルは引き下がらなかった。
「彼らとは俺も相談したよ。誰もが納得済みだ」
男爵邸の使用人たちは、オー・ウルが呼び集めた戦災孤児がほとんどだった。彼の意向を汲まない使用人は居なかった。
「逆に君ならば是非にと推薦するものも多かったよ。この屋敷に来てもらってからこの一ヶ月。君の仕事ぶりは本当に素晴らしい」
「そう言って頂けるのはありがたいのですが……」
「君がポストについてくれたほうが、俺もハウも、ルナリアを守るのに丁度いいと思うんだが、どうかな? 元侍女長殿?」
「……」
「それにだ」
「それに……?」
「君の名前がないのは不便だ。ものすごくな」
「……」
「君のことをどう呼んだものか、屋敷のみんなも俺も正直困っていてね。ハニー」
ダーリン、ハニー。親しい間柄の人間を、そう呼ぶ文化はこの異世界にもあった。オー・ウルは、親愛をこめて、名前の無い彼女をハニーと呼んでみせた。
「ハニー……は……ご勘弁ください。お戯れが過ぎます。お館様」
「名前が無いから仕方ないだろうハニー?」
「お館様……」
「それが嫌なら。……引き受けてくれるね? メイド長?」
「……。謹んで、お受けいたします。お館様」
その時から、彼女はベルン男爵家のメイド長となった。
「では、メイド長にこれを。俺からの就任祝いだ」
女性ものハイヒールだった。
靴の全体がうさぎの形をし、一組で二匹のうさぎになるデザインをしている。
部位限定装備型ゴウレム『羽根うさぎの夫婦』。魔力を秘めた鉱石を一刀彫で削り出した逸品だった。
「武器型ゴウレムの一種だそうだ」
オー・ウルの魔力が流れたのか、靴型ゴウレムははじたばたと暴れ出す。
「君ならばこれを履きこなせるだろう……、これで我が娘達、ガーネットとルナリアを守ってやって欲しい」
「身命を賭して、かならずや」
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メイド長は自室で目を覚ました。
ベッドのヘッドボードには、ガーネットやルナリア、ハウ達、屋敷の人間達と写った写真が飾ってある。
写真の中、メイド長の隣に立つ人物は、先代当主のオー・ウル・ベルンだ。
「おはようございます。お館様」
写真の中の先代に挨拶をする。それが彼女の日課だった。
写真の横に揃えて置いてあるのは、靴型ゴウレム、羽根うさぎの夫婦だ。
だが、片方の靴は大きく真ん中から折れ、もう片方はヒール部分が破損している。
生物としての形が維持できなくなり、ゴウレムとしての力は失われていた。
これは先日、ガーネットとルナリアを襲ったデン侯爵の一味、ハングドマンとの戦いで破壊されたものだった。
メイド長にとって、先代から贈られたこの靴は、特別なものだった。
腕のよいゴウレム職人を見つけられれば、元通りに修理をすることは可能だろう。
だが、他人の手を加えてしまっては、先代から送られた靴とは別物になってしまう。
そんな気がして、彼女はこの靴を直すことができないでいた。
「お館様。本日も、お勤めを果たして参ります」
着替えを終えたメイド長は、写真の中の先代にもう一度挨拶し、うさぎの靴を撫でて職務を始める。
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朝の食事の準備を終え、それを食卓に用意する。
主人であるガーネット、その妹であるルナリア。そして食客のハウの3人分。
長らく3人分を用意する生活が続いたが、最近そこにもう一人分増えた。
新たな屋敷の食客、異界人カラスマの分である。
「なぁメイド長? こないだのお礼がしたいんだけど、何か俺にできることはないか?」
その日、朝食の席で、異界人にそんなことを聞かれた。
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