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第90話 伝説の再現

※大切なお知らせ

現在、あらすじと、冒頭1話~6話の書き直しを検討しています。ご了承下さい。

第90話 伝説の再現



「ハンッ!! ギブアップはごめんズラ! 絶対しねえ!」


 立ち上がれないズーランは、尚も不敵に啖呵を切った。


「そして、そいつを、龍撃鞭を破壊するのは不可能ズラ!」


「そんなもん、やってみなきゃわかんないだろ!」


「そいつは女王竜オルガスデルの牙から削り出したゴウレムだ! なんびとたりとも傷ひとつつけられねえズラ!」


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 霧の谷の女王=虹竜オルガスデル。


 異世界より1500年前に呼び出されたドラゴンの一柱であり、この世界の始祖ドラゴン、大母のひとつである。


 その巨躯は暗黒の島の皇城の大きさをはるかに超え、空を飛べば一つの町がまるごとその影に覆い隠されたという。


 その頑強な鱗は太陽のコロナを直接浴びても傷一つつかない。


 人間が入浴を愉しむように、女王は太陽まで飛翔し、その炎を浴びて愉しむのだ。


 女王は破壊と殲滅を何より好み、人間の苦しむ様を何よりも愛する。


 この世界に伝わる寓話にこうある。


 むかしむかし。


 王国と帝国。戦争をはじめた二つの国があった。


 王国の王子と帝国の皇女は将来を約束しあった恋仲であった。


 だが、互いの祖国が戦争をはじめ、仲を引き裂かれることとなった二人は嘆き苦しんだ。


 その前に現れたオルガスデルは、戯れに王子と皇女の願いを一つだけ叶えてやろうと持ちかける。


 二人は『どうか祖国同士の戦争を止めてくれ』とオルガスデルに願った。


 オルガスデルは二人の願いを聞き入れ、実際にその戦争を止めた。


 王国と帝国。2つの国を、民を、国土を、その炎の息で粉微塵に消し飛ばしたのだ。


 自分達の愛のために、互いの祖国を失った王子と皇女は悔恨に泣き叫び続け、その涙がやがて塩の湖を作ったと言われる。


 親月、兄月、妹月。


 この世界に浮かぶ3つの月のひとつ、妹月の表面を覆う巨大なクレーターは、オルガスデルスが吐いた息一つが穿ったものだ。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 ドラゴンの牙から削ったゴウレム? なんだそれ、超かっこいい設定!


「いいんだなズーラン? お前の龍撃鞭、粉々に消し飛ばしても?」


「やってみろよカラスマ!」


「恨むなよズーラン!」


 俺はバッグのなかから、一つの模型を取り出した。


 台座にとりつけられた、1/12の騎士の鎧だ。


 俺は1/12ガーネットを呼び寄せ、その騎士の鎧を台座から外して着せていく。


 装着完了。


 龍の頭の意匠を象った額当てのついた白いヘルム


 龍の爪が張り出した肩当をつけた白い鎧。


 すね当てと一体化したレッグアーマー、そのつま先とかかとには、巨大な竜の足爪が生えている。


 分厚い両刃の聖剣を構え、背中にはマントがたなびく。


 1/12ガーネットは聖騎士の姿となった。


 準備はできた。 


 俺はほぼボールになった鞭、いや、鞭でできたボールを1/12ガーネットに放り投げる。


 斬るようなソバット。


 1/12ガーネットは、とんできたボールを蹴り上げる。


 一直線に天を衝くボール。


 天高くでスピンをはじめる。


「1/12ガーネット、エーテル体最大励起!」


 1/12ガーネットの体から、鈍い光があふれ出す。


「なん……ズラ……?」


「1/12ガーネット、ジークフリートアーマー! 【英雄武装】、リンクアップ!!」


 その光が、聖騎士の鎧へと伝播し、鎧全体が光を放つ。


「ニーベルングの歌にうたわれし、龍殺しの英雄よ! 我がフラウが貴方の伝説を、今ここに再現します!」 


 同時に、1/12ガーネットの体から激しい風が巻き起こる。


 風に吹き付けられて、俺とズーランの髪の毛が逆立った。


「なんズラそれは……ッ!!」


 上空で空転していたボールが落下軌道に入った。


「アウトリガー、放て!」


 レッグアーマーの竜の爪が、リングの床板に深々と突き刺さる。 


「機体固定よし! 聖剣、構え!」


 1/12ガーネットが聖剣を振りかぶる。


「目標! 上空の龍撃鞭!」


 吹き付ける風と光がその激しさを増し、俺と、ズーランは目を開けていられない。


 俺は自分の目を閉じ、視界を1/12ガーネットのものに集中する。


 1/12ガーネットの目が、リングに向かって、落下してくるボールを捉えた。

 

「全エーテルを、聖剣に注げ! 龍を殺した聖剣よ、再び啼き叫ぶがいい!」


 1/12ガーネットの全身から溢れていた光が、掲げた聖剣に集められてゆく。


 風が止んだ。

 

 無音が周囲を支配する。


「いざ放て! バルムンクの慟哭!!」


 落下してくるボール目掛け、まばゆく光る剣を振りきる1/12ガーネット。


 一閃。剣から生まれた巨大な光の柱が天を衝く!


 光の柱が、落下してきた龍撃鞭に激突し!


 巨大な爆発が、空で起こった!!


 上空で生まれた爆風が、リングや、観客席にふきつける。


「な……ああ……」


 空を見上げて、うめくズーラン。


「うそでしょ、うそよ……龍撃鞭を、オルガスデルの牙を……本当に消し飛ばしてしまうなんて……」


 ぱきん。


 からん。


 役目を終えた、聖騎士の鎧が、1/12ガーネットの体から、ひとりでにはがれてゆく。


「どぶだ! 見だがよ!」


 俺の顔を見て、


「ひっ」


 と、驚くズーラン。


 そりゃそうだろな。俺、さっきから鼻血がとまらないんだもの。


 この技。


 威力は凄まじいんだが、俺の体の何かを消費するらしく、俺の体への負担がとんでもなくでかい。


 屋敷で軽く実験したときは、貧血を起こして倒れてしまった。


 あと、屋敷の庭木が何十本か消し炭になった。


 ……とにかく。


 1/12ガーネットを、まだ立てないズーランの前に立たせた。


 その手にはチェーンにつながった棺がある。


 ブンブンブンブン……。


 棺を振り回しはじめる1/12ガーネット。


 これ旋風機だな。


 回転から生まれた風が、ズーランの髪を揺らす。


「こいつで、お前の顔面を気絶するまでぶんなぐれば、このバトル! 俺の勝ちだ!」


 どうだ怖いだろう?


「お前の武器であるゴウレムは無くなった。お前は自分を守る手段が無くなった! ギブアップしろズーラン!」


 ぶっちゃけ、すごい疲労感と、ズーランのドロップキックの痛みで立っているのがやっとなんだけど。


 はやくギブアップしてズーラン。

 

「くっくっく……」

 と、小さく笑い出すズーラン。


 なにそれ? なんで、笑い出すの?


「あっはっはっはっは!」


 なんかむかつく笑い方だ、ばかにしてんのか!


「何がおかしい!」


「できるのかお前に?」


 なに!


「なぁカラスマ? その小さいガーネットをオレの胸に入れた時、どうしてお前はそいつでオレの顔を蹴らなかったんだ?」


 ええと。


「お前は防戦一方で、どうしてお前からオレに仕掛けてこなかった? 生身のゴーレムマスターを情け容赦なく速攻で潰すのがお前の戦法だったよな? それをどうしてオレにやらなかった? なぁ疾風のカラスマさんよ」


 それは……


「お前、女が殴れないんだろ?」

 拙作はいかがだったでしょうか?

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