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第85話 弾正と行者

※大切なお知らせ

現在、あらすじと、冒頭1話~6話の書き直しを検討しています。ご了承下さい。

第85話 弾正と行者


 異界堂。 


 デニアの街の歓楽街。そのはずれにひっそりと建つこの店。


 東西の中世の風景が乱雑に交じり合うこの街にあって、なお異彩を放つ町屋造りの趣きのある外観が特徴だ。


 店を訪れる客は少ない。


 異界の商品を専門に扱う店なのだが、そもそも店が客を選んでその姿を隠してしまうのだ。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 のれんをしまった店の引き戸を、構わずに開く人影があった。


 ダブルのスーツを着込み、腰に刀の鞘を刺した筋肉質な白ひげの好々爺。


 ラヴァーズである。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 薄暗い店内だった。


 天井にある白熱灯が、じりじりとやわらかく、店内を照らしている。


 店内はそのつくりをバーのそれに変えていた。


 カウンターが店の入り口から奥まで続いている。


「行者殿! 行者殿は居られるか?」


『これは弾正様』

 

 異界堂の店主の声がした。

 男のものとも、女のものとも、若いとも、年寄りともとれない何とも不思議な声だった。

 だが声はすれども姿は見えない。


『申し訳ございませぬ。ゴッドブレスカンパニーの1/7ジャンヌ・ダルクは未だ入手がかなっておりません』


「それはよいのだ行者どの、あとで手に入ればよい」


『では『転生したらハーレムでした! (中略)ねぶりスライムの大群がエルフの里に!? 堕ちる悪役令嬢「ミルクを下さい、ごしゅじんさまぁ♡」』の件で? そちらも……』


「タイトルを丁寧に読み上げるでないわ! 手心というものはないのか! ……それも今日はよいのだ行者どの」


()()()よいのですね』


「左様」


『ではどういったご用向きで?』


「良いことを思いついた」


『はい』


「原型師じゃ」


『は……』


「日ノ本より、新たに原型師を呼びたい」


『はい』


「まだまだマスプロダクションモデルのこれくしょんは飽きたりぬが、わしもわんおふもでるのかすたむフィギュアが欲しくなった」


『しからば……原型師であればこの世界に『既に幾人も』訪れておりまする。彼らに制作代行を依頼いたしましょう』


「わかっておらぬの行者どの」


『は……』


「原型師が自分のために作った作品が欲しいのだ。……そうでなければ、魂の入り様が違うというもの」


『なるほどにございます。しかし、原型師が自分のために作った作品。そうおめおめと手放しますかな?』


「……だから『作らせる』のよ。……手はあろう?」


『……ははあ、承知いたしました』


「時間はかかっても良い。ただし、寝覚めの『すく』ほうほうでな」


『委細承知してございます』


「ふむ……では」


 ラヴァーズはカウンターの一席に掛けた。


「マティーニを貰おうか」


『かしこまりました』


『シュアアア……』


 ダブルのスーツの袖から、小さな蜘蛛が飛び出す。


「平蜘蛛にはナッツを出してやってくれ」


 ラヴァーズはスマホを取り出した。今日撮影したフラウの写真を見返す。


「よい」


『マティーニとナッツにございます』


「まこと、良い日になったわい」


 ラヴァーズは差し出されたマティーニを満足げに眺めると、ぐいと傾けた。

 拙作はいかがだったでしょうか?

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