第74話 カラスマ氏、ベルン家に迎え入れられる。
第74話 カラスマ氏、ベルン家に迎え入れられる。
メイド長に部屋に案内された。
空き部屋でここが俺の部屋になるそうだ。
俺はこの屋敷に住むことになるのか?
女ばっかりの中に俺を置いていいのか?
とりあえずベッドに突っ伏した。
ああ。
落ち着くと疾風のことばかり考えてしまう。
体の芯がぐずぐずくすぶってるかんじがする。
「疾風が……」
枕に顔をうずめる。
「ああ……」
なんて夢を見るんだ。
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執務室ではガーネットとルナリアが書類の整理をしていた。
「……と言った次第で、部屋に入るなり、ずっとうずくまってぶつぶつ何かを言っています」
とメイド長。
「そう……」
ガーネットは執務机の書類整理の手を止める。
「……元気づけてやるか」
立ち上がった。
「何か?」
「ううん。こっちのこと」
「メイド長、離れを使うわ。まだ動かせる魔石はあったかしら」
「いいえ、すべて売り払ってしまいまして」
「仕方ない。手動で魔力を込めるか」
「そんな。魔力を直接使うなど、そんな重労働を御前様がなさることは」
「お姉さま。私にも手伝わせてください」
「お嬢様まで」
「ええ、2人でやりましょうか」
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ドアが叩かれ、メイド長が部屋に入ってきた。
「カラスマ、こちらへ」
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メイド長に促され、俺は屋敷から離れに続く廊下を歩く。
この先ってコンクリの建物があったよな。
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風呂?
案内されたのは風呂場だった。
まんま湯船がいくつかあるスーパー銭湯のつくりなんだが、湯船の中で一番小さなやつにだけお湯が張ってあった。
これ本来は水風呂として使われる湯船じゃないか?
「御前様のご厚意です。ありがたく使うように」
とメイド長。
「当家の預かりとなったからには、体は常に清潔にしてもらいます。こちらを向きなさい。私が体を洗いましょう」
メイド長が俺の服を脱がせはじめ……、
バスタオル一枚を豊満なボディに巻きつけたメイド長が俺の体を洗いはじめる。
……というのを一瞬想像したがそういうのは無かった。
メイド長が出て行ったあと、俺は脱衣所に戻って裸になり、風呂に入ることにした。
どっぷりと湯船に肩まで浸かる。
入院してからずっと風呂に入ってなかったからな。
足を伸ばす。
手を伸ばす。
湯船の中で大の字になる。
お湯の温度がきもちいい。
力がわいてくるような気がした。
浮いているのは薬草か?
なんだかぽかぽかしてくる。
日本人は風呂だねぇ。
疲れが癒えていくのがわかった。
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風呂後。
建物の外で待っていたメイド長に再び連れられ、俺は食堂へと案内された。
長机には、ガーネットとルナリア、ハウが座って待っていた。
料理の皿が広がって……、広がっているとは言えないか、各個人に用意されたのは大き目の皿が一枚ずつ。
メインディッシュ、芋の浮いたうすいスープ。
のみ。
……。
俺がこの屋敷の牢屋で食べていた食事だ。
まさか、こいつらも同じものを食べていたとは。
この屋敷。金が無いんだな。
メイド長に促されて、椅子に座り、食事を取った。
会話は無い。
みんな黙って、時々俺の顔を見ていた。
「その……。湯加減はどうだった?」
と、ガーネット。
「ああ、気持ちよかったよ。風呂」
「そうか、良かった……貴殿は風呂が大好きだと、ジャッジ・ザ・オーナーに聞いたからな」
俺が好きな風呂は、違うやつなんだけどな……。
ガーネット。こいつが俺を元気付けようとしてくれているのはわかった。
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夕食後。
俺はもう一度風呂に入ることにした。
「きゃっ、……カ、カラスマさま……み、見ましたねー!!」
と、裸のルナリアが先に入っていてばったり鉢合わせることを一瞬期待したがそんなのはなかった。
どっぷりと湯船に肩まで浸かる。
足を伸ばす。
手を伸ばす。
湯船の中で大の字になる。
ふー。
気持ちがいい。
……。
……。
……。
……ああ疾風。
また疾風のことを考えていた。
疾風を取り返すには2億の金がいる。
それを稼ぐ手段は今の俺には無い。
疾風がこの手にあれば、バトルアリーナで簡単に稼ぐことが出来るんだが……。
……。
……。
この夢、この世界では俺の作ったプラモは、俺の考えたまま、妄想したままの強さになる。
ということは、俺がこの世界で別のプラモを作れれば、また疾風みたいな強さのプラモが手に入るんじゃないだろうか……。
せめて疾風に代わるプラモが用意できれ……。
あ……。
一つだけあてがあった。
俺は異界堂のビニール袋をさげた山男のことを思い出していた。
「わからん」
いつの間にか俺と同じ湯船に浸かっていたハウが声を出した。
集中して考えていて入ってきたのに気がつかなかったぞ……。
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