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第71話 裁判の結審

第71話 裁判の結審


 ガーネット。


 ガーネットが弁護人? それって俺を助けに来てくれたってことか?


 ガーネットは落ち着いたドレスを着ている。

 多分法廷に合わせたんだろうが、顔は試合中につけていた赤い覆面で隠していた。


「重ねて申し上げる。裁判長。弁護人として私に陳述の機会を頂きたい」


「スカーレットか。証人としての出廷を蹴って、弁護人だと?」


「はい」


「許可できない。弁護人として裁判に参加する相応の理由は無いだろう」


「理由ならあります」


 スカーレットと呼ばれたガーネットは覆面を取った。青い目のエルフがそこに居た。


「スカーレットはリングネーム。私はガーネット・ベルン。丘の上の屋敷を預かるベルン男爵家の当主だ」


 傍聴席からざわめきが起こった。


『ガーネットさま……』

『嘘だろ、ガーネット様がスカーレットだったなんて』


 裁判長、ジャッジが木槌を叩いた。


「静粛に、傍聴人は静かにするように」


 ガーネットが手を上げた。


「被告人カラスマは、当家の呼び出した召喚獣である。所有物の裁判に、当主が弁護人として参加する権利は当然あると思われる」


 傍聴席から再びざわめきが起こった。


『召喚獣?』

『じゃあ異界人かあいつ?』


「よろしい……弁護人の参加を許可しよう」


「感謝する裁判長」


 検察官であるハーミットが手を上げた。


「検察官、発言を許可する」


「ガーネット様。貴方は先ほど、被告人カラスマをベルン家の所有物だとおっしゃいました。

 つまり、『身内に自分の試合の進行を妨害させた』ことになりますが、それをお認めになるのですか?」


「認めます」


「被告人と共謀して試合を妨害したことになりますが?」


「認めます」


『それは違う!』


 だが、俺が口を開こうとする前に、叫び声を上げたやつが居た。


「嘘だ!」

 ズーランだ。


「スカーレットはそんな卑怯な真似をするやつじゃねえ」


「それは買いかぶりというものだズーラン」

 とガーネット。


「昔の私ならいざ知らず。今の私は窮乏する男爵家の財政をアリーナの懸賞金で食いつないでいる剣闘士にすぎない。

 懸賞金のためには負けられないのだ。『勝つためならばどんな卑怯な真似もしよう』というもの。あの試合の場合は『負けない』ためか」


「嘘だね! お前は騎士道精神が服を着て歩いてるようなやつなんだ。

 そんな真似はやろうと思っても出来ねえ、それは対戦したオレが一番わかってる!!」


『そうだ! ガーネット様はそんな方じゃない!』


 傍聴席から声があがる。


『ガーネットさま。男爵家が落ちぶれたのはこの町の食糧危機を、貴女と先代様が身銭を切って救ってくださったからです』


『ベルニアに住むものなら誰だって知ってます!』


『そうだそうだ。今はデン侯爵に土地を取られてベルニアはデニアって名前に変わっちまったが、俺はそんなのは認めていねえ』


「静粛に、静粛に。傍聴人は黙りなさい。そして、証人ズーラン、弁護人ガーネット。発言は認めていない。勝手な発言は慎むように」


 法廷は再び静まり返る。 


 ガーネットが手を上げた。


「裁判長。彼、カラスマはベルン家の召喚獣であり、彼のしでかしたことは、自分の不始末です。

 よって、カラスマの罪はすべて自分がこうむるべきであると考えます」


「なんだって! それはお前、お前が死刑になっちゃうんだぞおっぱい!」


「黙っていろ召喚獣!」

 とガーネット。


「失礼、裁判長。発言を続けても?」


「よろしい続けたまえ」

 

「その上で裁判長。このガーネット、そもそも『試合妨害の事実は無かった』ものと主張します」


 法廷全体からざわめきが起こった。


「なんだと……」

 とハーミット。

 

「……試合妨害の事実は無かった?」

 とジャッジ。


「はい」

 ガーネットは続けた。


「私は、カラスマのゴウレムが飛び込んでくる直前に、『敗北を宣言』しました。

 よって『その時点で試合は終了』しており、『カラスマの進行妨害はなかった』ものと主張します」


 傍聴席からざわめきが起こる。


「静粛に。証人ズーラン、ガーネットの主張は事実かね?」


「そんなことはないズラ。オレはギブアップは聞いていないズラ」

 とズーラン。


 当日試合会場にいた審判にもそれは伝わっていないはずだ。


「裁判長」

 とガーネット。


「私の敗北が成立していた論拠として、魔力障壁の壁がやぶられたことを上げます」


「……」

 黙りこむジャッジ。


「周知の通りスタジアムには、『試合中は絶対に侵害できない』魔法の壁が貼られています。

 あれは試合中に張り巡らされており、終了後には解除されるものです。

 それが破られたということは試合は終了後だった。浸入可能な状態になっていたということです」


「詭弁だ。どういった論法だ」

 と、ハーミット。


「ええ詭弁です。ですがこのガーネット、当法廷では詭弁を弄し、卑怯卑劣の限りを尽くす」

 とガーネット。


 なんだか不敵に笑っている気がするがその態度はどうなんだ? どうかと思うぞ。


「バトルアリーナの魔力障壁は絶対です。試合中に部外者の侵入を許すはずがない。

 だが先の試合では、侵入可能な状態になっていた。これを事実として認めればアリーナのシステムに欠陥があることを認めることになるがどうか?」


「……」


「あの小さなゴウレムが浸入できたのは、試合が終了し、魔力障壁が解除されていたからに違いありません」


「……」


「うがー」

 突然、ズーランが頭をかきむしった。


「オレには難しいことはよくわからねえズラが、スカーレット、いやガーネットが、

 そいつをどうしても助けたいっていうのはわかったズラ。そいつにゾッコンに惚れちまったわけだ……」


「そ、それは違っ……!」

 と慌てるガーネット


「裁判長! さっきのオレの発言を撤回するズラ! ガーネットは敗北を宣言していた。試合はすでに終了していたズラ」

 とズーラン。


「お前たちいい加減にしろ、そんな無法が通るか!!」

 とハーミット。


「第一、ガーネット、いえ、ガーネット様。試合が終了していたとして、カラスマのゴウレムがあなたのいるリングに駆け込む理由はなんですか?」


「さぁ、タオルでも運んできたんじゃないかしら」


「ふざけるな」

 とハーミット。


「裁判長、いいズラか?」

 とズーラン。


「発言を許可する」


「契約ファイターを代表して言うズラ。

 魔力障壁の件。あれが破られる性質のものなら、オレたちファイターはもうバトルアリーナで安心して戦うことはできねーズラ。

 アリーナのシステムに欠陥があるってことだからな。それを認めるよりは、試合は終了後だったということにしたほうがお利口な気がするズラ」


「お前たち……、アリーナを恫喝する気か!」

 と、ハーミット。


「静粛に」

 とジャッジ。


「弁護人の主張はわかった。……これより結審に入る」


 ジャッジら裁判官が一度退席し、法廷は十数分の休憩に入った。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


「判決を言い渡す!」

 ジャッジが木槌を叩いた。


「結審。被告人カラスマの試合妨害については、当日の試合は終了後であったことを認め、これを不問とする」


 傍聴席から、大きな歓声が上がった。


「やった! 死刑じゃないぞ!!」

 思わず俺もガッツポーズ。


 ガーネットが、ズーランが笑みを浮かべた!


「ベルン男爵家におかれては、召喚獣の管理を徹底するように通告する」


「承知した」


「続いて、器物損壊と観客への傷害での罪状を言い渡す。刑罰は罰金刑2億エン」


 うげええ。


 2億か。


 ……だが、……いい。


 またバトルアリーナの試合に俺と疾風が出場すれば、決して稼げない額じゃない。


「最後に被告人カラスマ、ならびにベルン家に現状罰金の支払い能力はないものと認める。


 よって、罰金を担保するものとして、ゴウレム疾風を当法廷で差し押さえるものである。


 支払い期日までに罰金を用意できない場合、疾風を没収するものとする」


「なんだってー!!!」

 拙作はいかがだったでしょうか?

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