第68話 事後処理
第68話 事後処理
「ふん……」
憎憎しい。
意識を失ったカラスマを、ズーランはなおも離さず鞭で吊り上げる。
「やめてズーラン。そいつを、カラスマを放して……」
ガーネットはレイピアの切っ先をズーランに向けた。
「カラスマ……、名前か? 知り合いか? こいつはお前のなんだ? スカーレット?」
「……」
ガーネットには答えられなかった。カラスマは自分のなんなんだろう。
妹の窮地。自分の窮地。それを脱するために偶然呼び寄せた召喚獣。
自分に猥褻な行為をした痴漢。
放り出したい厄介者。
だが自分はさっき、はっきりと……。
自分の危機を助けるためにリングに飛び込んでくる疾風に、必死に飛び出してくるカラスマの姿を重ねて見てしまった。
彼が助けにきてくれた。
それに安堵し、そして少し嬉しく思っている自分がいる。
「ハァー」
ズーランが苛立たしげに息を吐く。
「オレに負けそうになって、お前の男が助けに入った。これか? 男に助けてもらったズラか?」
「……弁解するつもりはないわ。だから……」
レイピアを捨てる。
「そいつを放して……お願いよ」
懇願する。
だが、頭を下げようにも、目の前の猛獣から目を離すことが出来ない。
怒り心頭のズーランがカラスマを絞めた鞭にとどめの一押しを込めるかもしれないからだ。
それは間違いなく致命傷となるだろう。
「……腹の虫が収まらねぇ。だが、どうしていいかわからねぇズラ。オレに気絶したマヌケ面を絞め殺す趣味はねえ」
「カラスマさまっ!!」
妹の声がした。
関係者用の観覧席で、ガーネットの試合を見ていたルナリアが、リングへと降りてきたのだ。
ガーネットたちに駆け寄ろうとするルナリアを、メイド長が押さえつけている。
「ああ、むかつくズラ」
逆立った髪の毛をかきむしる。
「そこまでだズーラン」
武装した警備兵のエルフ達が、波のように押し寄せてきた。
先頭に立つのはジャッジ・ザ・オーナーだ。
「そいつをこっちへ寄越せズーラン! バトルアリーナ最大の禁忌をそいつは破りやがった!
試合の妨害行為は極刑に値する」
「いやズラ、オレの勝負を台無しにしたこいつを始末するのはオレがやるズラ」
「良い趣味ではないと思いますズーランさん」
ジャッジの横に控えた古エルフが声をかけた。
「……それとも私の手を煩わせますか?」
「用心棒ハーミット……」
ズーランはようやくカラスマを絞めた鞭を解いた。
カラスマの体がごろりと、スタジアムに転がる。
場を支配していた緊張が解けた。
魔力の供給源を失い、今は元のプラモデルに戻ってしまった疾風をガーネットが優しく拾い上げる。
「拘束しろ」
「「はっ」」
警備兵たちがカラスマの体をかつぎあげる。
「ジャッジ? 彼をどうするの?」
「問われるまでもない。法廷にかける。見せしめだ。俺はこのバトルアリーナの長として、法として、こいつを裁かなくてはならない。
こいつのやったことを見過ごしちゃ、バトルアリーナ全体の規律と、今後の運営に関わるんでな」
苛立たしげに髪の毛を掻きあげる。リーゼントがくずれた。
「……ようやくつかんだ俺のベストプレイス、メチャクチャにされてたまるかよ」
ジャッジが、ガーネットを見る。
「そのゴウレムも渡して貰うぞ、スカーレット」
手のひらを広げて寄越してみせた。
疾風を差し出せと。
ガーネットは逡巡したあと、
「……丁重に頼むわ」
ジャッジの手に疾風を載せた。
「連れていけ」
「「はっ!」」
警備兵にカラスマが運ばれていく。
「カラスマさま、姉さま、カラスマさまが!」
ルナリアの声が響いた。
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