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第66話 雷光

第66話 雷光


 ロイヤルボックスの窓が爆発していた。


 階下。


 ロイヤルボックスからコロシアムのリングへとつながる観客席が一直線になぎ倒されていた。


 まるで嵐が過ぎ去ったかのように、そこだけ綺麗に人の群れが倒されている。


 一瞬の真空が生まれたからだ。


 その場の空気が瞬間的に移動するダウンバーストを受けて、射線上の観客たちが泡を吹いて倒れている。


 コロシアムを覆う鉄格子の壁。


 その壁に大穴が開いていた。


 ズーランの鞭が、ガーネットの頭に振り下ろされることはなかった。


 会場の空気を爆発させて、


 リングに飛び込んだ疾風が、鞭を受け止めたからだ。



 呆然とするガーネットと、ズーラン。


 2人の間には、小さな妖精の様な小人、戦闘機型美少女プラモの疾風が浮かんでいる。


 高熱のあまり、オゾン化した酸素がバチバチと火花を散らす。



□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆

 

「……魔力障壁が……魔力障壁が」 

 

 うわごとのように、ジャッジ・ザ・オーナーがつぶやきつづける。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆



 観客の安全のため、あのリングには魔力障壁を貼っていた。


 このロイヤルボックスの窓にもだ。


 何重にも。


 物理障壁が5重。


 各属性を3重に。


 俺は公平な裁定を下すもの。俺は公平な戦場を用意するもの。それを生むためならば、すべての物理法則を無視した魔術を用意できる。


 何びとたりとも、神聖な戦場に干渉させない、絶対の壁。



 そのすべてを一撃でぶちやぶって、


 カラスマのゴウレム。あの小さなゴウレムが穴を開けた。



 魔力障壁をぶち破っただと?!


 冗談じゃねえ。こいつは何の冗談だ?


 なんなんだこいつは、カラスマというこの男は!?


 異界人。


 違う、ただの異界人じゃない。


 用心棒バウンサーとして姿を消して控えていたハーミットが姿を現し、

 崩れ落ちそうになっている俺の体を支える。


「ジャッジメント。あなたの障壁が破られるとは」


「悪夢ってやつか、これ」


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 おっぱいは無事か?


 無事だな。


 良かった。


 上がっていた息が落ち着くと、


 見えているはずの、まわりの様子がようやく俺の目に入ってくる。 


 そして、気がつく。


 目の前の窓に大穴が開いている。


 やべえ。


 これを、俺が、疾風がやったのか?!


 俺と疾風がやっちまったのか……。


 思わず疾風が動いていた。


 あのおっぱいが危ないとおもった。


 そうしたら……。


 何も考えずに。


 あと先を、周りを、何も考えずに動けていた。


 あの時、空間が、世界が急に縮まった感覚がした。


 疾風があの場に居ろと。、


 鞭が振り下ろされるおっぱいの前に居ろと。


 自分が手を伸ばすと、おっぱいの顔に届くような気がした。


 そして実際に届いてしまったんだ。


「誰ズラ!」


 雄たけびが聞こえた。


「誰ズラ、誰ズラ、誰ズラ」


 ……こわい。


「オレの真剣勝負! オレの真剣勝負を台無しにした『だらず』は誰ズラ!!」


 コロシアムのリング、その上に居るおしりが、遥か遠く離れた俺を見つけて、にらみつけてきた。


「お前かーッ」


 コロシアムから伸びてくるものがあった、


 あれは、


 鞭?!


 孫悟空の如意棒!


 どこまでも伸びる棒。


 それの鞭版?!


 鞭は俺の体に巻きつくと、


 凄まじい力で俺の体をロイヤルボックスの外へ引っ張り出す。


 階下の観客席を飛び、


 俺の体は、巻き取られてコロシアムへと。


 疾風が地面にたたき付けられるはずだった俺の体を受け止める。


 憤怒の形相のおしりのお姉さんが、俺の首を鞭で締め上げてその怒った顔へと引き寄せる。


 だが、俺はガーネットを、おっぱい姉エルフを見ていた。


「無事か、おっぱい?」


「……え、ええ」


「よかった。本当に、よかった、……間に合って」


「カラスマ!」


「ああ、駄目だ。なんか、俺」


 全身の力を一度に使い尽くした。


 いや、疾風に全部吸われた感覚がする。


 眠い。


 またアレだ。こないだのアレだ……。

 おっぱいとメイド長に踏み潰されたときのアレだ。


 眠気。耐えられない眠気。


 もう、意識が保てない。


「カラスマさま! カラスマさまぁ!」


 ルナリアの声がうっすら聞こえた気がする。


 ふわふわと浮いていて疾風が力を失い、ことりと地面に落ちる。


 激烈な睡魔に襲われ。吊るされるまま、俺の意識はその場に倒れこんだ。

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