第55話 20秒
「カラスマー、次の対戦相手のリングに行くわよ!」
毛皮にネックレスでゴッテゴテに着飾ったシズルが俺の手を引っ張る。
ザ・成金といういでたちだ。
バトルアリーナには勝った選手の投票券を景品に交換できるコーナーもあり、そこで換えてきたらしいが。
「もういい、もういいだろ? 十分稼がせたろその格好。大体一日に何試合戦わせる気なんだ」
うんざりだ。いくら一撃で勝負がつくからと言ってさすがに疲れてきた。20試合から先はもう数えるのをやめてしまった。
「カラスマ。次は……20秒よ」
20秒……。20秒か……。
……何が20秒かは想像におまかせします。
「いくかぁ……」
「そうこなくっちゃ!」
「シズルー!」
マズルがやってきた。
次の試合の挑戦権利を買いにいったはずだが、なんだか審判と、あとやたら派手な格好をしたエルフが一緒についてきている。
「なんか偉い人が話があるって……」
「偉い人?」
黒い皮のライダージャケットに、サングラス。頭はリーゼントに決めたエルフ。
なんだこのファンタジー世界観から浮いた姿は……。
「ようこそファイター、バトルアリーナへ。ミスターカラスマ……で、いいんだよな?
俺はここの支配人、ジャッジ・ザ・オーナーだ。ベリーストロングなアンタをVIPルームへ招待したい。
そこで休憩といかないか?」
白い歯を見せて、金髪リーゼントのエルフが二カッっと笑う。
ジャッジ・ザ・オーナー?
なんだその名前。
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VIPルームというから、黄金の調度品とか、やたらでかい壺なんかで敷き詰められた部屋を想像していたんだが、意外にも何もない部屋だった。
真っ白な壁紙に床。
床は大理石張りだろうか。豪華だ。
そこに白い巨大なテーブルがあり、それを同じ色でととのえられたソファーが囲んでいる。
俺はソファーの上座に案内され、シズルとマズルに挟まれて座る。
対面に座るのはジャッジ・ザ・オーナーだ。
「今日は珍しい酒が手に入ったんだ。良かったら飲んでくれ、異界の逸品だそうだ」
テーブルに置かれたのは見慣れたロング缶だった。
アルコール9%のストロングな炭酸飲料。
……これかよ。
まぁいいけど。
「さて、ビジネスの話をしようか。
ミスターカラスマ、アンタは強い! 強すぎる。ウチのファイターに連戦して
……ここまで連勝されたのはこのバトルアリーナ始まって以来の惨劇だ」
オーバーアクションで頭を抱えるポーズをとるジャッジ。
「いや、あんたにとっては大快挙ってところだろうが、正直こっちは大損害。
……ウチのファイターたちをこれ以上使い物にならなくされちゃあこっちも商売があがったりだ」
なにが言いたいんだろ。
「そこでだ、アンタをファイターとしてスカウトしたい!
ここのリングマスターになる気はないか?」
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