第49話 カラスマ氏、異世界で儲け話に誘われる。
第49話 カラスマ氏、儲け話に誘われる。
「それで、その騒ぎのあと見失ったと?」
メイド長は驚きを隠せずにいた。
「わからん」
申し訳なさそうにハウが言う。
「まさか貴方の追跡を巻くとは……、少々あの異界人をあなどっていたようですね」
「見失ったものは仕方ないわ」
執務机で報告を聞いていたガーネットは立ち上がった。
そして窓から外に広がる町を見る。
「ヘタに拘束して暴れられるよりは泳がせて居場所を把握したほうがいいと思ったけれど」
「申し訳ありません」
「わからん」
ベルン男爵邸を逃げ出したカラスマ。だがそれを獣人のハウは追いかけていた。
だがパン屋で騒動を起こした後に見失ったのだ。
「いいわ。どの道、私たちには制御できないものだったのよ。主人に噛み付く番犬は要らないわ。ましてや手に負えない召喚獣なんて、
抱えて滅ぼされていたのは私たちだったのかもしれない。いい厄介払いが出来たと思いましょう」
『うれしそうですね』
とは、メイド長は言わなかった。
「アリーナに出ます。支度を」
「はい」
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シズルとマズル。
姉のシズルは銀色、妹のマズルは黒い毛並み。
狼の獣人の女の子。双子の姉妹だそうだ。
目の前でニコニコ笑っているこの双子に店のパンをおごって貰い、俺の腹はようやく満足した。
しかし、あの猫、ハウっつったっけ? 追いかけられていたとは、ゾッとしたな。
2人に教わって鐘楼の上に居るハウを見つけた時は、心臓が止まるかと思った。
あいつ屋敷からずっと俺のことをつけてきて見張っていたのか。
目線を向けて『尾行にこちらが気づいたことに』気づかれないように疾風の視点を通して確認した。
その後は町の裏道を先導してもらって今は2人の家に厄介になっている。
もう完全に行方をくらませられただろう。
一安心と。
テーブルに山盛りにされたお礼のパンは美味かった。食べきれないほど山盛りにされていたので2つほど平らげたところで、腹がいっぱいになる。
あの店で暴れていた悪漢を退治したお礼だそうだ。
「しかし、あの店はほったらかしで良かったのか?」
「いいのよ、今日はもう商売にならないし」
「私達を前に出してゴロツキに震えてた店長(役立たず)が今頃後片付けしてるから」
そういうもんか。
「「一緒にどう?」」
シズルとマズルはワインの様な酒を勧めてくれた。
うん、気が利いてるね。
「あなた、本当に強いのね」
「あのゴウレム、アーム工房の特級品だって言ってたから相当頑丈に出来てるはずなのにそれをスパスパって切っちゃうなんて」
おどろいた。
疾風を目に見えない速さで飛ばしたつもりだったんだが、こいつらには全部見えていたらしい。
「あれ、ゴウレムでしょ?」
「見せてくれない?」
シズルとマズルがずいっと迫ってくる。
ちょっといいにおいがする。
酒で気分が良くなった俺はバッグの中に忍ばせていた疾風を宙に浮かせた。
背中に機械の羽根の生えた人形。
褐色の肌に緑の瞳、銀髪のダークエルフの武人型のフィギュアだ。
第2次大戦の戦闘機をモチーフにしたアーマーをつけ、背中にはその戦闘機由来の翼をはやしている。
「「わぁ」」
「かっこいいだろ?」
「ええ。こんなの初めて見る」
「フェアリア? 変わった鎧を着てるのね。でもすごくかっこいい」
「そうだろう。わかってくれるか」
俺は疾風をその場でくるりと回転させ、しまっていた刀をその場でバッと展開してみせた。
シズルとマズルは嬌声を上げて喜んだ。
本心からか? お世辞かな? まぁどっちでもいいか。
自分の作ったプラモデルを褒められてちょっと俺は気分が良かった。
「カラスマは旅の人よね? そんな格好初めて見るけど」
「もしかして異界から来たの?」
異界? なんのことだろう。
いや、いい加減なんとなくだが、わかる気がする。
この夢は俺が異世界に来たという設定なんだな。
「さぁ、まぁちょっと遠い場所かな」
ぼかしておく。
「そんなに強いんだ。もしかしてアリーナに挑戦しに来たの?」
「アリーナ? なんだそりゃ?」
アリーナ席? ライブでもあるのか?
「「アリーナを知らないの?」」
2人は驚いてみせた。
「マズル」
「うんシズル」
双子はうなずきあうと、向かい合って座っていた俺の両サイドにやってくる。
「ねぇん、カラスマ」
「カラスマさん」
「その腕を見込んで」
「ちょっといい商売があるんだけど」
2人は俺の腕に両方から抱きついた。
「「私たちと一緒に一儲けしない?」」
例えば海外旅行に出かけて「いい商売があるんですが?」なんて声をかけられたらどうおもうだろう?
俺は警戒するタイプだ。
いい商売と聞いて、ついででいいから友人とやらの荷物を運ぶ。
それが、知らずに麻薬とか違法なものを運ばされていた。
冗談じゃない。
まず犯罪に巻き込まれるパターンだ。
俺は即答してやった。
「いいよ? 俺はどうすればいいんだ?」
何故なら俺の両方の二の腕に、小ぶりなおっぱいが当たっていたからだ。




