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第45話 空とぶカラスマ氏、異世界の町にお出かけす。

 メイド長のセルフプレイを延々見せつけられて俺の精神はすっかり参ってしまったと思う。


 ことを終えたメイド長がようやくあの部屋から出てくれたので、疾風=俺もやっと開放された。


 メイド長がどこかすっきりとした表情で歩いてゆく。

 ……若干のむかつきを覚えた。


 ……。

 さてあとは俺自身と、疾風がいかに合流するかなんだが……。


 とりあえずまたメイド長に付いていってみるか……と、思った矢先に地下に降りる階段に出くわした。


 メイド長を用心深く見送って、その階段を下りてみる。


 鉄の扉があり、ご丁寧にその横に鍵束がひっかけてあった。


 疾風の小さな体で鍵を持ち上げるとバーベルを持ち上げてるみたいだな。


 鍵を回して、扉を開ける。


 俺が居た。


 そして俺の視界にも、鉄格子の向こうの鉄扉を開けて飛んでくる疾風が見えた。


 不思議。


 というか疾風の目線で俺自身を見るのが不思議。他人から見た俺って……あー、ちょっと太ったなぁ……とくに腹の周りが……。


 まぁそんなことはいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 まず疾風のチェックだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 ……。


 ……。


 ……。


 良かった首の軸はなんともないな。どうやらあのおっぱいゴリラエルフはちゃんと頭部パーツのみを引き抜いてくれたようだ。


 首の軸に白化は見られない。


 大きな傷もどこにも無いようだし、塗装がちょっと剥げてるところがあるが、軽いレタッチで済みそうだ。

 

 目立った破損といえば、あの緑のドラゴンを削った剣の切っ先が若干丸くなってるくらいか……。


 しかし。


 実際に手に持ってみるとなんだこれ?


 この夢の中の疾風、肌の質感がぷにぷにしていてまるでプラモデル、プラスチックとは思えない、生きてる女の子みたいだ。武装パーツの質感や触感、重さもすべて金属や、セラミック。とにかく、ABSやPOMじゃない。キャラデザイナーや俺がイメージして作ったまんまのものだ。


 ふぅむ。


 まぁ夢だしな。



 疾風に鎖を切らせる。



 簡単に切れた。やっぱすごいなこいつ。というか全盛期の俺の作品! うん全盛期の俺はすごかったんだ!!


 鉄格子の鍵を開け、テーブルの上に並べられてた衣類や手荷物を回収する。


 ……サマーセーターはあのダークエルフにやろう。


 とにかく脱出だッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 


 俺は毛布をあたかも中に人間が居るようにいい感じに膨らませて、鉄格子と鉄扉の鍵を閉めた。


 階段の先に疾風を先行させ、斥候というか行く先に『あいつら』が居ないか確認する。


 いない! よしダッシュだ! 階段を駆け上がり。廊下へ!


 誰も近づいてくるものが居ないのを確認して、疾風の刀を廊下の壁に突き刺した。


 バターナイフがバターを切るように刀身がするりと壁に入る。疾風が半円を描いて動き、俺がしゃがんでくぐり抜けられるくらいの穴が開いた。


 斬られた部分がかまぼこみたいになって綺麗にむこうに倒れている。


 その先は外だ。


 俺は穴を潜り抜け、壁のかまぼこを壁に押し付けるとぴったりとくっついた。


 疾風の刀ってすごいな、まるで達人じゃん。


 とにかく俺は脱走に成功した。


 ようやく自由を手にしたのだ!!



□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


「俺は自由だあああああああああああああああああああッ!!!」


 空を飛ぶのはなんと気持ちいいことか。それがたとえ夢の中だったとしても。


 俺は屋敷の周辺に生えてた木の、俺が丁度乗れそうな大きさの枝を疾風に伐採させた。

 あとは木登りの要領でその枝に乗っかる。


 それを下から疾風が持ち上げる。


 俺は枝ごと持ち上がり、空に浮いた。

 あとは疾風を飛ばすだけだ。


 すごいな。


 風を切って景色がどんどん後ろに飛んでゆく。


 気分がいい!


 これはどこにだって飛んでいける魔法の乗り物だ!


 とりあえず街のようなものが見えたのでそこを目指すか。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 異様な光景だった。

 

 最初に思い浮かべたのは千葉にある夢の国。

 そいつをかなりダークにしたやつ。


 中世ヨーロッパ風というか、剣と魔法のRPGに良く出てくる街のイメージ。それにちょっとエスニックが入ってる。


 バザール。

 あるいは、バッザール。


 街に入ってみると、露天がひしめきあっていた。

 上京したときにシャレで行ってみた浅草の仲見世を思い出す。


 そして路地を埋め尽くす人、人、人。


 だけどそれは俺と同じ人間じゃない。

 多いのは耳がアーモンドみたいになったエルフたち。それに混じって人にけものが混じった獣人がポツポツと見える。


 顔が明らかにトカゲの奴なんかも居るし、あれはドワーフなのか? ひげもじゃもじゃの背の低いのは?

 

 だが、そんなのがまるで問題じゃなくなるくらいすごいものがうようよしていた。


 俺は絶句して立ち尽くしていた。


 乗用車のシャーシほどもある巨大なロボットの足の裏。


 それが、俺の顔の前スレスレに振り下ろされ、地響きを上げる。


 巨大なゾウムシ。

 背中にたくさんのエルフを乗せたバスのようなゾウムシのロボットの足だった。


「おいおい、おっさん! ボサっとしてんなよおノボリかぁその年で!」


 そいつを運転しているであろうターバンを頭に巻いたエルフが俺をののしった。

 

 だがそんなもの耳に入らない。


 なんだここ?

 なんなんだここは?


 あれはバスのようなものだろう。超巨大なゾウムシ型の旅客運搬用のロボットが大型バスよろしく観光客? 達を運んでいる。


 足元を尻尾にほうきをつけた犬型の掃除ロボットがくぐりぬけてゆく。


 筋骨粒々な巨人型の重機ロボットが、潰れた店を取り壊している。


 ラクダ型のロボットが、客を拾おうと列を作っている。その客が出てくる先は、光る鏡の前。鏡の中から次々とエルフが出てくるのだ。MMORPGに出てくるような転移門のような感じで。


 屋根の上をドローンよろしく鳩ロボットがばっさばっさと飛んで行く。


 なんだろうこの街は……。


 治安の悪い外国に行ったように。バッグを取られないように思わず抱きしめていた。


 どの露天も、どの看板にも文字が書いてあるが、俺には読むことができない。


 いや、それに混じってアラビア数字が並んでいる。


 夢だから整合性を求めてはいけないのは分かっているが……。


 俺が歩いていると、ふいに見覚えのある、いや、慣れ親しんだ文字が大きく書かれた看板が目に飛び込んできた。


「あれは? 読めるぞ……」


 その看板は日本語、それも漢字で書いてあった。


 異界堂……と。


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