第39話 エンプレスの救援
ハングドマンは疲弊していた。
ここまで消耗させられた経験は、少なくとも今の組織に所属してからは無いはずだ。
あの異界人との戦闘。
思い出すだけでも心が砕ける。
手持ちのマジックポーションを使いなんとかしのいだが、デン侯爵とその配下の部下5人をファクトリーに乗せて逃げ帰れた時には完全に自分の魔力が底を尽きるのを感じていた。
物理で5通。5通りの方法で暗号文を飛ばす。伝書鳩までつかった。
あとは転移魔法で1通。これはおぼつかない魔力では失敗する可能性が大だが。
所属する組織への緊急を伝える報告を出して、ハングドマンは倒れた。昏倒した。
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ハングドマンは目覚めた。同時に自分を見ている視線に気づいた。
同僚だ。
「エンプレス。アンタが直々に来てくれたのか」
「緊急時であることはこちらも把握しておる。ハングドマン。無事で何よりじゃ」
嫌味か。いや違う。この女はそんな無駄なことはしない。
「……ああ」
言葉につまる。
「本部の猛々しき翡翠のスペアキーが粉々に砕けたのじゃ。そのような脅威に相対しながら、よく生き延びた」
「粉々に砕けたか。俺もいろいろと砕けちまったよ」
「非常モード、エメラルドドラゴンはそれが必要とされる脅威が相手にならなければ使えぬ。だから、あれを侯爵に売り渡したのじゃ。我らと侯爵家との友好の証として。殲滅モードが発動するとすれば、同じザ・パワー=テンを相手にした時のみ。すなわちそれは我らと彼ら侯爵家が敵対する時」
「聞いてくれエンプレス……」
「みなまで言うな。あれが使える状況……誰が立ち会っていたとしても対処するのは無理だったであろう、例えタワーや、ジャッジメントだったとしてもじゃ」
「……情報を共有させてくれ……。弁明に聞こえるだろうがな」
映像を記録する水晶。
それをハングドマンはエンプレスの前にかざしてみせた。
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「……。ハングドマン、手持ちのマジックポーションを渡せるだけここにおいておくのじゃ。復帰の判断は、我ら3人以上の承認の元でな」
「……助かる。正直今の状態であの侯爵家の連中を慰められる余裕は無いからな」
「私が引継ぎを行うのじゃ。ハーミットと、ラヴァーズも来る」
「人数の問題じゃねえ。アルカナを何人揃えようが、あれにただ敵対するのは得策じゃない……」
「今は休め、休むのじゃハングドマン。お主に居なくなられると私も皆も困るであろう」
「ああ……ああ。我ら『大いなるアルカナ』のために」
「すべては我ら『大いなるアルカナ』のために」
ハングドマンが眠りについたのを見て、エンプレスは踵を返す。
まずは侯爵家と話をつけなければ。




