第163話 止まれ!
第162話 止まれ!
ミセリコルデの大剣。
振り下ろせば床にひびが入るほどの重圧の込められた大剣の一撃が、今、カラスマの脳天に振り下ろされようとしていた。
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「いけませんあれは……!」
と、チャペル。
「やばいっス!」
と、フィッシャー。
「ひええええ!」
と、アルタ。
「避けろカラスマーッ!」
絶叫するズーラン。
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「ぃぃよぉし!」
ハングドマンが、握りこぶしを振り上げる。
「くふふふ……くははは……」
笑うエンプレス。
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「ブラザーッ!」
叫ぶジャッジ。
「……終わりか」
ハーミット。
「やった! でかしたぞマエストロ!」
歓喜する老公爵。
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『あっけないものですね』
と行者。
「否」
とラヴァーズ。
『は……?』
「あれはあんなところで死ぬようなタマではない」
ラヴァーズは笑う。
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「カラスマ!」
メイド長。
「わからん!」
ハウ。
「カラスマさまッ!」
ルナリア。
「いやああああああああああああああああ、カラスマーッ!」
ガーネットの絶叫。
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大剣が振り下ろされる瞬間!
俺は叫んだ。
「止まれ! ミセリコルデッ!」
……。
ぺちん。
次の瞬間。エポパテの剣と鎧をつけた、プラモデルに戻ったミセリコルデが、俺の頭に当たった。
ちょっと痛い。
「なっ!? ……!?」
驚くムトーさん。
……。
……。
……。
……。
「なんだと……!?」
呆気にとられているムトーさんの顔が目に入った。
「ミセリコルデ!? ミセリコルデ! 何故だ!? 何故動きが止まる!? 僕の操作を受け付けない!? ミセリコルデを組み立てたのは僕なんだぞ! なんで……なんで……」
狼狽するムトーさん。
無理もないか。
自分が組み立てたプラモデル、ゴウレムが突然動かなくなったんだもの……。
「この世界では製作者に操作権が生まれる。それを教えてくれたのはムトーさんでしょう」
「……」
「……」
……。
……。
「そうか……」
とムトーさん。
わかったみたいだな。
「……『君がつくった』?」
「はい……」
答える俺。
「俺が作りました。ミセリコルデは。疾風と一緒に」
「……」
「疾風とミセリコルデの原型を作ったのは俺です。割り図を書いて、樹脂量の計算をしたのも俺です。島田ミカさんが起こした設定画のギミックを、樹脂量を食いすぎるからオミットしたのも俺です。その後の別カラーバージョンの展開案があったんで、色分けを考えてパーツをランナーに配置したのも俺です……」
「……」
「作ってるうちに夢中になって、抱えてたそれ以外の会社の案件を全部吹っ飛ばして作りました。おかげで会社に居場所がなくなりましたけど!」
「……原型師としては見上げたもんだが、社会人としては落第だな……」
苦笑するムトーさん。
ほっといてください。
「テストショットはたくさんあったけど。発売日にPOSデータを1つでも上げたくて、発売日に量販店に行って買ってきました。それがこの疾風です」
疾風を呼び戻し、俺の目の前でホバリングさせる。
「……わかった。わかったよカラスマくん。もういい……」
と、ムトーさん。
「ヨロコビヤ鎧袖戦女。立ち上げの露払いの企画……」
「……」
「現場で動かしたのは君だったか」
ええ、そうです。
「だから疾風はあんなでたらめな力を持っていたのか……君が原型を作ったものだから」
「はい」
「あはははは……あはははは……」
笑うムトーさん。
「かなうわけがないな。原型師本人である君に。プラモデルを組み立てただけの僕では……」
「そんなことありませんよ……」
リングに落ちたミセリコルデを拾い上げる。
「このミセリコルデ。間接がいじってある。これはバージョン2で改修された部分です。俺の原型師としての不足をムトーさんは見抜いてる……」
ミセリコルデ……。
両目から赤い筋が伸びていた。
これは。涙?
泣いていたのか。
血の涙を流していたのかミセリコルデ。
これは。
ムトーさんの涙か……。
ムトーさん。
そこまで思いつめて戦っていたのか……。
「まさかこれで終わりだなんて思ってないだろう。君も」
<ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……>
上空に影が旋回する。
見覚えのある影。あのゲームで見たワイバーンの影が2体、上空を旋回している。
「第2ラウンドだ。僕も、僕が作った原型を出す!」
「はい! 受けて立ちます!」
ミセリコルデ、力を貸してくれ。
一緒にムトーさんを止めよう。
疾風、ミセリコルデ、ちぃネット。
3体のゴウレムが、俺の足元に並び立った。
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