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第159話 マエストロと呼ばれた男

第159話 マエストロと呼ばれた男


<Hello! みんな俺ちゃんだよー。タイトルのマエストロって誰よ? って思ってる読者のみんなも多いと思う。

このなろうも159話。ずいぶん長くなったからねー。マエストロは第50話と第117話に出てくる。本当のことを言うともっと出てる。わりと頻繁に出てる。

まぁそれは今回の話を読んで欲しい。えっ? 俺ちゃんが誰かって? 俺ちゃんはもうちょっとあとで出てくるからみんな楽しみにしてて。じゃあねChao!>


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


「ルナリア」

 ガーネットがルナリアの上半身を抱いている。


「姉さま……」


<ルナリア。大きくなったな>


「お父様!?」


 ルナリアがびっくりしてる。そりゃ、起きていきなり死んじゃったお父さんが半透明で枕元に立っていたらびっくりするか……。


 ルナリアを抱いたガーネット。その二人をさらに抱くお父さん。


「お父様……」


「お父様!」


<まさかもう一度こうしてお前たちを抱きしめられるとは……ああ……>


 親子の再会。いいね……感動的なシーンだと思う。


 でもあれ必殺技なんだけど、ガーネットの魔力? というか精神力よく持ってるよな……。お父さんなかなか消えないし。


 あ、お父さんが立ち上がった。


<さぁ……立ち上がれガーネット>

 手には拾ったレイピアが握り締められている。シズルが持っていたレイピアだ。


<決着をつけろガーネット>

 と、レイピアをガーネットに手渡そうとする。


<それが決闘を挑まれたものの務めだ。当主の役目、お前の役目だ>


「……はい」


 立ち上がったガーネットがレイピアを受け取った。


 レイピアを左手ににぎり締めるガーネット。


 そのまま、倒れているシズルとマズルの元に歩いてゆく。


 シズルとマズルは動かない。


 ぴくりとも動かない。


 決着をつけろ……。つまりとどめをさせってことか……。


 シズルとマズルを見下ろすように立つガーネット。


 レイピアを振りかぶる!


 見たくない。


 俺は。


 俺はそんなの見たくない。


「……ッ、!」


 俺が止めようと声を上げようとしたとき、


 からん。


 ガーネットが、レイピアを捨てた。


 そして、倒れているシズルとマズルを抱き寄せ、その上半身を抱き起こしてやる。


「終わりよ、シズル、マズル。あなた達はよく戦ったわ。終わりにしましょう……」


「……」


「……」


 二人とも、返事は無い。気絶していて、動けない。


「王よ!」

 ガーネットが叫んだ。そして観客席の天幕を見上げる。


「われらが王よ! ヘリック王よ!」


 ガーネットの声が、コロシアムに響き渡った。


 静まり返っているコロシアム。ガーネットの声は良く響く。


「戦いの趨勢は既に決しました! 我らが王は、これ以上の血をお望みか?」


 天幕の中から返事は無い。


「男爵風情がッ!」


 その代わりに答えた声があった。


 天幕の前にいる豪華な貴族の服を着たおじいさん。そいつが、声を上げた。


「男爵風情が、無礼であろう! 我が王に声をかけるばかりか、意見するなどと!」


「王よ! ヘリック王よ!」

 ガーネットは構わずに続けた。


「よい」

 声がした。


 多分天幕の中からだ。


 王様。本当に中に居たのか……。


「この決闘、ベルン男爵家の勝利とする」


 王様の声に続いて、怒涛のような歓声が、コロシアム中から湧き上がった。


 決着だ。


 本当にこれで終わりだ。


 良かった。


 本当に良かった。


 あとは……。


 と、思った次の瞬間。


 俺の体が、バリバリとしびれた。


 そしてそのまま10センチくらい浮き上がる。


 俺の体は魔方陣みたいなもので拘束されている。ご丁寧になんか青白く光ってる。


 再び静まり返るコロシアム。


 魔法?


 体の自由を奪うやつ? 拘束の魔法かな。


 まいったねこりゃ。さすがファンタジー異世界だ。


「獣人風情が、役立たずどもめ!! このわしに! このわしの顔にドロを塗りおって!」


 天幕のほうから声がする。さっきのじいさんだ。じじいだ。


 獣人風情。シズルとマズルのことか。


 シズルとマズルのことか……!!


 じじいが俺に向かって両手を振りかざしているのが見えた。その手が青白く光っている。


 俺に魔法を使っているのはこいつか。


「何を……! 何をしているかマエストロ! はやくその異界人の首をはねろ!」


 俺の背中で、『ムトーさん』が聖剣を振りかぶっているのが見えた。

 俺の背中に目はついてないが、高機動ユニットを着せた疾風の視点で見えている。


 ムトーさん。


 やっぱりですか。


「……しゃあ!」「わからん!」

 メイド長が、ハウが動いた。


 ジャガーの鎧を装着するハウ!


 ドラゴンうさぎの靴で、ムトーさんに蹴りかかるメイド長。


「止まれゴウレム!」

 叫ぶムトーさん。


 ムトーさんの止まれの言葉どおり、メイド長とハウ、二人の動きが止まる。


「な、靴が……重い……」


「わからん……!?」


 そりゃあそうでしょ。


 ドラゴンうさぎの靴はムトーさんが作ったものだし、ハウの鎧はムトーさんが修理したものだ。


 操作権はムトーさんが持っている。


 この世界のゴウレムは作った人間が優先的に動かせるんだから。止めるのも自由自在だ。


「ムトーッ!!」

 ズーランが鞭をふりかぶる!


 じゅお!


 振りかぶったその鞭が、根元のところを残して焼失した。


 何だ今の!?


 どっかから光線が飛んできた。


 チャペル、キャンプマスターと侍エイジ、意識のあるリングマスター達が俺を守ろうとして動いてくれたが、その様子を見て、また動きを止めた。


「みんな、ここは大丈夫だ」

 と、俺。


 まずは、この拘束を解かなきゃな。


 ぴしゅん!


 俺の目の前に浮いた疾風。


 その前で空気の壁に穴が開く。


 ヨロコビヤC・A・S=カスタマイズ・アクセサリー・シリーズ、『トビクナイ』。

 忍者が投げてつかう手裏剣の一種。


 そいつを音速を超えるスピードでぶん投げた。


 狙いはあのじじい。


 その眉間。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 びゅおッ!


 音速の壁を越えて、トビクナイが飛ぶ。


 老公爵に迫るトビクナイ。


 だが、そのトビクナイは、老公爵の背後から飛び出した『小さな影』によって撃墜される。


 ぱん。


 と、はじけるトビクナイ。


「ひいいいっ!?」


 目の前で響いた炸裂音に驚き、老公爵が尻餅をつく。


 同時に、老公爵がカラスマにかけた魔法が解けた。


 『小さな影』。ローブに包まれた妖精サイズの何かは、そのまま、老公爵の腹の上に降り立ち、彼を守る。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 おう。


 魔方陣が消え、浮いていた俺の体が着地する。


 体の自由が戻った。


 俺はムトーさんに向き直る。


「……」

 無言の俺。


「……」

 聖剣を振りかぶったままのムトーさん。


「何を、何をしているかマエストロ! はやく! はやくその異界人を始末するのだ!」


 ムトーさんの聖剣。だけど、その剣が俺に振り下ろされることは無かった。


 がらんと音を立てて、ムトーさんは剣を落とした。


「閣下」

 と、天幕の方向に向かって叫ぶムトーさん。


「始末する方法は私に選ばせてください」


 天幕のほうで騒ぎが起こった。


 見れば、何か、小さい何かが近づいてくる。


 布?


 疾風やちぃネットと同じサイズの何かが、ローブを羽織ったものが、ぴゅんぴゅんと、まるで忍者の高跳びみたいにしてこっちに近づいてきた。


 そのローブを羽織った小人が、ムトーさんの肩に着地した。


「ムトーさん」

 と、俺。


「どうしてもやらなくちゃ駄目……。なんですよね?」


「ああ。すまないカラスマくん」


「わかりました」

 と、俺。


「ジャッジ! 聞こえているか?」

 天幕の方に向かって叫んだ。


「リングを貸してくれ。あと、観客を避難させてくれると助かる……俺は、今から本気を出す!」


『OK。わかった……』

 ジャッジの声だ。


 館内放送みたいに聞こえる。この施設、アリーナの中では自由自在だな。便利だなあいつ。


『ただ、起きてる観客は避難させない。逃げろと言っても聞かない連中しか残っていないさ。気絶したのは運び出してるから安心しろ』


 良かった。


『リングに降りろブラザー。お前達が降りたら、またリングの次元を切り離す。外に被害が出ないやつだ。存分にやれ』


「だそうです。ムトーさん」


「ありがたいね……」

 と、ムトーさん。


 俺はムトーさんを連れ立って、ガーネット達が居るリングに降りた。

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