第157話 お前のための【英雄武装】だ!
第157話 お前のための【英雄武装】だ!
「ルナリアッ、ルナリアーッ!!」
座り込んだまま、ガーネットが半狂乱になって叫ぶ。
「カラスマッ!! ルナリアが、ルナリアが食べられちゃった!! 食べられちゃったよぉぉぉ!」
俺を見るガーネット。目には涙が溢れていた。
怖いのだろう。
恐ろしいのだろう。どうしていいかわからないのだろう。
だが、敵は、ケルベロスは待ってくれない。
<ぐるるるるるるる……ッ>
ルナリアの魔力? エネルギーを吸収し、腹を膨らませたケルベロスは、なおも次の獲物を求めて、その6つの目をガーネットに合わせたところだ。
「立て! ガーネット! 立つんだ!」
「無理よ、もう無理よ、足に力が入らないのッ!」
足が竦んで動けないか……。
「それでも立て! ガーネット! ケルベロスが来るぞ! 自分の身を守るんだ!」
「無理よ……私にはもうルビーアイは無い……」
「ちぃネットだ! ちぃネットを動かせ!」
ちぃネット。ルナリアが自分の身を犠牲にしてケルベロスの中から拾い出したゴウレムは、今ガーネットの目の前に倒れている。
魔力を回しさえすれば、まだ戦えるはずだ!
「無理よ……無理だよ……、私はあの子みたいに、ルナリアみたいにちぃネットをうまく動かせない。カラスマだって知ってるでしょ!!」
<ぐるおおおおおおおおおーッ!>
「来るぞッ! ガーネット!」
ケルベロスが、跳んだ。
かぎ爪のついた前足を伸ばし、ガーネットに飛び掛る。
「いやぁーッ!!!」
両腕で顔を覆い隠すようにかばって、叫ぶガーネット。
ガーネットの腕のかばう動きに合わせて、ちぃネットが飛びあがった! とっさに動かせたんだ!
振り下ろされるケルベロスの爪。
それに対応して、ちぃネットの日本刀が振り上げられる。
がちん!
盾の様にガーネットに覆いかぶさるちぃネット。
だが、ガーネットの操るちぃネットでは、ケルベロスの一撃を受け止めきることはできずに……。
「ぎゃっ!!」
ケルベロスの爪が、ガーネットに振り下ろされ、ちぃネットを巻き込んで、ぶち当たる!
ちぃネットもろとも、ガーネットがはじきとばされ床に転がされた。
<ぐるるるるるるる……ッ>
ずしん、ずしんと、倒れたガーネットに向かって近づいてゆくケルベロス。
弄ぶつもりなのか、ケルベロスはすぐに止めを刺そうとしない。
どうしたら?
どうしたら俺は、ガーネットを元気付けられる?
砕けてしまったあいつの心をもう一度直してやれる? どうしたらあいつのやる気、闘争本能にもう一度火をつけてやれるんだ……?
もう無理なのか……ガーネット……。
「御前様立って! 立ってください!」
「ガーネット立つズラーッ!」
観客席で見ていられなくなったのか、メイド長とズーランが最前列の手すりまでやってきてガーネットに声を掛ける。
メイド長……、ズーラン……。
!
1つだけあったぞ……ガーネットを発奮させる方法が、1つだけ……!
「メイド長! ズーラン!」
「何ですかカラスマ!?」
「何ズラァ?」
「二人に頼みがある! ガーネットを奮起させるには、これしかない! 二人の協力が必要なんだ! 頼む!」
俺は二人に頭を下げた。
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ケルベロス。巨大な三つ首の狼ゴウレムに痛打され、ガーネットは動けないで居た。
痛みで動けない。
否。それもある。だが。
恐怖だ。
怖い。
怖くて体がすくむ。
動けない。
動けないのだ。
情け無い。
ずしん。ずしん。
目を開けると、ぼやけた視界の中で、巨大なゴウレムが近づいてくるのが見えた。
あの日見た、銀河。
その銀河を詰め込んだような黒に銀のゴウレム。
そのゴウレムの中に、3つの人影が浮かんでいるのが見えた。
シズル、マズル。
そして……。
ルナリア、ごめん。ごめんね……。
「ガーネット!」
カラスマ……。
「ガーネット、こっちだ! こっちを見ろ!」
カラスマの呼ぶ声がする。
でももう見ることが出来ない。
体が動かないから。
いや……、でも……最後に……、最後にあいつの顔を見るんだ。
私が好きな、あいつの……。
「きゃあああああああああああああああああああああーーーッ」
「うあああううううううううううううううううううううーーッ」
!?
何、この声。
「だめっもう、もうやめてええええええええええええええええええええーーッ!?」
「あああああああああああああああああああああああああーッ」
何よ、この声。
ズーラン……?! メイド長!?
まさか……。
まさかアイツ!!!
感覚の無い右腕、まだ無事な左腕、両腕に力を込めて、上半身を跳ね上げ、観客席を見た!
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「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーッ!!」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああーッ」
叫ぶズーラン。
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああーッ」
叫ぶメイド長。
呆気に取られたガーネットと目が合った。
合ったけど揉み続ける。
「どうだガーネット! 早く立ち上がれ! 立ち上がらないとズーランとメイド長が大変なことになるぞ!」
「(もう大変なことになってるズラ……)」
「(下着が……下着がぁ……くああああーッ)」
「カラスマ、貴方……、貴方って人は、貴方って奴は……」
すっくと、ガーネットが立ち上がるのが見えた……。
「やった! やったぞメイド長! ズーラン! ガーネットが立ち上がったぞ!」
「カ、カラスマ……、私はもう……駄目……ふえあぁぁ……ッ」
メイド長は太ももをがくがくと震わせたのち、全身を痙攣させて倒れた。
びくんッ、びくんびくん。
床で痙攣するメイド長。
「ありがとうメイド長! あとはズーランに任せるんだ!」
メイド長を掴んでいた右手をズーランに集中させる俺。
両手でズーランを掴みなおす!!
「ちょっと待つズラ……オレだってもう……」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「いやあああああああああああああああああああああああああーッ」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「カラスマッ! あんた! ルナリアと私が大変なときに何やってんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーッ!」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「お前を再起させるためだ! それにはもうこれしか手が無かったんだ!」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「だって! そこにはハウも居るでしょ!!!! なんでズーランなのよ!」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「駄目……もう駄目ぇ……」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「そ、それは、ズーランのほうが大きいから……」
ついでに俺が揉みたかったから……。前から直接すごく揉みたかったから……。
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「お前……お前……」
と、ガーネット。わなわなと震えている。
ついでに真っ白だった肌が、怒りで真っ赤になっている。
「必ずブッ(中略)すからなあああああああああああああああああああああああああああああああああああーッ!」
大きなガーネットと、小さなガーネット。
赤銅色の修羅が2匹。リングの上に立ち上がった。
<ぐるおおおおおおおおおーッ!>
立ち上がったガーネット、そのむき出しの殺気を見て、ケルベロスが、飛び掛ってくる。
「お前は黙ってろ犬!」
すぱん。
空気が裂けた。
日本刀を構えたちぃネットが!
怒りの瘴気を全身のアーマーから噴き出させたちぃネットがケルベロスの真ん中の頭を両断する。
<ぎゃあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーッ!!>
怯むケルベロス。だがすぐさま両断された顔が泡立ち、元にもどっていく。
「カ・ラ・ス・マぁ……!!!!」
「待てガーネット! お前の敵は俺じゃない! そのゴウレムだ! その怒りを! 俺に怒る気持ちを、全部そいつにぶつけるんだ!」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「……」
「わかったか? わかったな? ユーアンダスタン?」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「あふうう……あううう……」
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ……。
「わかった。私はもう大丈夫だからズーランからその手をすぐに放せこの変態(中略)! でないとお前の(中略)を私が想像できるもっとも残忍な方法で(中略)してやる……」
喋るゴミを見るような冷たい目で俺を刺すように見るガーネット。
冷気。というか、おぞ気というか、俺の背筋を冷たいものが走る。
「は、はいいいいいいいいいいいいいいいい!」
ズーランから手を放す俺。……名残惜しい、本当に名残惜しい……。
「……ふえあぁぁ……ッ」
ズーランは太ももをがくがくと震わせたのち、全身を痙攣させて倒れた。
びくんッ、びくんびくん。
床で痙攣するズーラン。
「よし!」
と、ガーネット。
「今すぐこの犬を倒す! そしてルナリアを助け出して、カラスマ! お前をブッ(中略)す!」
ガーネットの目の高さに、四式戦装甲をつけたちぃネットが浮かび上がる。
「魔力経路エンゲージ! ちぃネット、四式戦装甲! リンクアップ!」
叫ぶガーネット。
ちぃネットの真っ赤に燃えた体から、アーマーパーツの隙間から、オーバーヒートした怒りの魔力が吹き上がる!
次の瞬間。
ぱぁん。
四式戦装甲が弾けた。
「はぁ!?」「はぁ!?」
同時に叫ぶ、俺と、ガーネット。
アーマーパーツが!? ちぃネットから噴出すエネルギーに耐え切れなくなって、全部はがれた!?
「なにやってんだよお前ーッ!」
叫ぶ俺。
「あんたのせいでしょぉーーーーーーーーーーー!!!」
叫び返すガーネット。
<ぐるおおおおおおおおおーッ!>
頭の傷を癒したケルベロスが、再びガーネットに飛び掛る。
「ちぃネット!」
アッパーカット!
素体状態になったちぃネットが、拳を固めて飛び上がり、ケルベロスのあごに一発を決めた!
<ぐるおおおおおおおおおーッ!>
だが、ケルベロスは怯まない。
3つの大あごを目一杯開き、ガーネットにかぶりつこうと突進してくる。
「くぅ!」
咄嗟にちぃネットを呼び戻すガーネット。
「今だガーネット! 秘密兵器を開けッ!」
「秘密兵器……? ……!!」
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ベルン男爵邸。
カラスマがルビーアイ・ラムペガスを完成させて現実世界へと帰る眠りについた後。
全てを託されたメイド長から、ガーネットに秘密兵器の存在が打ち明けられていた。
「秘密兵器?」
と、ガーネット。
「はい。ルビーアイ・ラムペガスは形状を変化させますが、1つだけ、変わらないコアになるパーツがあります。それが、首の根元のパーツです」
と、メイド長。
「首の根元のパーツね……」
「はい。それは箱になっていて、中には1/6ルビーアイの動力源になるものが入っていると。それは同時に秘密兵器であるから、万一1/12ルビーアイを展開する事態が起きたら、かならず回収して身につけて置くようにと」
「わかったわ……」
□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆
シズルとマズルの放った人工太陽。
それを迎え撃つために、ガーネットは、1/6ルビーアイのなかから、ちぃネットとの合体機能を秘めた1/12ルビーアイを取り出した。
飛び散ったオーバーアーマーの破片たち。地上に落下するはずのその1つを、無事な左手で掴むガーネット。
「ありがとう…ルビーアイ」
いとおしそうにその破片を胸に抱く。
この時、ガーネットが掴んだ破片こそ、カラスマに支持されたコアパーツ。秘密兵器を中に隠した箱だった。
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ガーネットが掴んだ破片、胸にしまっていた、ラムペガスのパーツ。
箱型のそれを開く、開放するガーネット。
瞬間、眩しい光が箱の中からあふれ出す。
<ぎゃあおおおおおお!?>
ケルベロスが光の眩しさに怯む。目がくらんで動きを一瞬止める。
ガーネットの左手の上、開かれた箱の上には、1つの鎧が浮かんでいた。
「これは……【英雄武装】!? これは……この鎧は!!!!」
「そうだ! 【英雄武装】だ。お前のための【英雄武装】。お前に力を貸してくれる、最強の英雄の力が込められた鎧だ!」
「カラスマ……あなた……」
「使えガーネット! 使い方はわかるだろう? お前の最強の英雄を呼び出すんだ」
「ちぃネット!」
を、左手に呼び戻すガーネット。
ガーネットの手の上で、ちぃネットが【英雄武装】に手を触れる。
「さあ呼べガーネット! その英雄の名前を! 『お前が思い描く』『お前の思い出に残った最強の姿』をイメージしろ! 呼べ! 叫べ! 『お前の最強の英雄の名前』を!」
「ちぃネット! 魔力経路エンゲージ!」
ガーネットの左手の上で、ちぃネットが光り輝く!
そして、ちぃネットの輝く体に、鎧のパーツが吸いつけられてゆく!
「【英雄武装】、オー・ウル・ベルンアーマー! リンクアップ!!」
ガーネットの父親、オー・ウル・ベルン!
そのオー・ウルが乗った黒い武装型ゴウレム、ゲートキーパー。
そのゲートキーパーの破片から作り出した、オー・ウル・ベルンの鎧を身につけ、ちぃネットがまばゆい光に包まれた。
拙作はいかがだったでしょうか?
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