第138話 乗り手の決定と援軍到着
第138話 乗り手の決定と援軍到着
屋敷から離れた丘の上。
ちぃネットの慣熟訓練は続く。
復帰したガーネットが、ちぃネットを再び動かす。
その相手を高機動疾風で受ける俺。
「インペリアルシザース!」
必殺の二刀流抜刀を放つちぃネット=ガーネット。
「チェストバスター!」
竜巻になって受ける高機動疾風=俺。
ハサミと、竜巻! 激突する二つの必殺技。
「くぅ」
ちぃネットが、弾き飛ばされる。
ガーネットも必殺技が撃てるが、ルナリアよりは威力は弱い。
四式戦装甲のマニューバもルナリアが動かしたほうが段違いに速いし、小回りが効くな。
「次は、素体状態でスパーリングをやってみるか」
と、俺。
「アーマーパージ!」
武装を一瞬で分離し、素体状態になる疾風。俺もこういう小技が使えるようになった。
「待って」
と、ガーネット。
ちぃネットを手元でホバリングさせて、四式戦装甲をとりはずそうとするガーネット。
「お姉さま」
と、ルナリア。
「一時的に操作権を貰っていいですか?」
「え? いいわよ」
ちぃネットの操作がルナリアに移る。
「アーマーパージ!」
四式戦装甲がはじけとび、素体状態になって着地するちぃネット。
すごいなルナリア。小技も使えるんだな。
「お姉さま、どうぞ!」
「……。うん、ありがとうルナリア」
ちぃネットの操作権が再びガーネットに移る。
「じゃあいくぞ! ガーネット」
「きなさい! カラスマ」
向かい合う、疾風とちぃネット。
「鋭エエエエエエエエーッ」
先に動いたのはガーネット=ちぃネットだった。
一気に距離を詰める突貫。
拳を固めて飛び込んでくるちぃネット!
「うおッ」
それにあわせて、ガードする疾風=俺。
そこに拳の連打を放つちぃネット=ガーネット。
ちぃネットは小さいガーネットだ。さすが本人が動かすと本人そっくりそのままの動きをする。
武器なしのスデゴロ。ストリートファイトだとこいつ強いな。元軍人なんだっけ?
なんだか格闘ゲームを見てるみたいだ。
だが。
「正拳突き!」
を打つ俺=疾風。
連打をしてくるちぃネットの隙を突いて、一撃が重いヤツを浴びせる!
つもりが、すかった!
ちぃネットが、いない。
ちぃネットは空中に飛び上がっていた。
ジャンプの頂点で、蹴りの体制に入っているちぃネット。
「もらった!」
と、叫ぶガーネット。
とび蹴り! 流星になって疾風に飛び込んでくるちぃネット!
だが!
俺はその蹴りを受けるつもりはなかった。
ちぃネットが飛び上がった瞬間に、俺は疾風をガーネット本体に向けてカッ飛ばす!
流星キックが地面に当たるのと、疾風=俺がガーネットの顔面に突きを当てるのは同時だった。
「う!」
疾風の突きは、もちろん寸止め。
ガーネットの金髪のロングが、突きで生まれた風圧でふわりと揺れる。
「操作型ゴウレム戦に慣れてないなガーネット。相手のゴウレムをけん制しながら、本体であるゴーレムマスターを常に狙うのは基本戦法だぞ」
偉そうに言う俺。
まぁ、バトルアリーナじゃ、ゴウレム同士を一切戦わせずに開幕早々直接本体を狙い続けて非難轟々だったけど、実戦ではこうだよな。
「……そうね。油断したわ。実戦ではこうはならないようにする」
と、ガーネット。
ちょっと。いや、かなり息が上がっている気がする。
動いているのはちぃネットなんだが、本人は自分の体を動かしているような感覚になるんだろうな。
なにせ、1/12ガーネットだし。
「次はルナリアの番だ」
「はい!」
向かい合う、疾風とちぃネット。
「いきます!」
と、ルナリア。
「分身殺法! ガーネットの人形遣い!」
しゅばばばばばばッ!!!
超高速移動! ちぃネットが分身した!
俺とルナリアがちぃネットを作りながら、ガーネットだったらこんな動きができるって盛り上がって考えた技だ!
分身したちぃネットが、俺に向かって飛び掛ってくる!
『操作しているゴーレムマスターを狙え』とは言ったけど容赦ないなこの子。
「疾風! ハイマニューバ!」
対抗する俺!
分身に向かって動く疾風! 疾風の足の動きが一気に加速し、残像を残しつつ、ちぃネットの全ての分身を撃ち落す!
大昔のアニメの忍者みたいだ。
「やるじゃないかルナリア!」
「カラスマさまこそ! 負けませんよ!」
激突する疾風とちぃネット。
「……」
ガーネットがそのやりとりを無言で見ている。どんな表情をしていたのか。気の回るほうじゃない俺は気がつけなかった……。
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その後、再び2機に武装をつけて、ガーネットとルナリアともう一戦ずつ模擬戦をやった。
ぶつかった感じ、やはりルナリアの操作するちぃネットのほうが強かった。
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俺は、ガーネット、ルナリアと向かい合って立った。
その間には、ちぃネットが立っている。
「模擬戦お疲れ様。二人とも強かったよ」
と、俺。これから模擬戦の総評を発表するのだ。
「ガーネットが動かすちぃネットだけど、まるでガーネットがもう一人いるみたいだった。素体状態の動きのキレは多分ガーネットのほうがいいな」
「そりゃ、私をモデルにしたゴウレムだし……」
「でも、それだとわざわざガーネットが動かす意味がないかなって思った。ガーネットが直接戦ったほうがてっとり早いんじゃないかな」
ガーネットの操作するちぃネット。それはほぼガーネットの普段の動きの再現だ。
ちぃネットは、1/12ガーネット。ガーネットの分身だからしょうがないといえばしょうがない。
それならわざわざガーネットが小さいガーネットを操作する意味というか旨みがないよな。
「……そうね」
「ルナリアの動かすちぃネットだけど……」
「はい!」
と、ルナリア。
「正直、いいのかなぁって思うぐらい強かった。ちぃネットを作ったときに考えた動きが全部できてる。ルナリアが普段思っている本物以上のガーネット、想像上の理想のガーネットをちぃネットが再現してる感じがした」
ルナリアはちぃネットに想像の翼分の強さを付加している。
ガーネットが分身するほど早く動いたり、筋肉を倍にしたり……、ただでさえ強いガーネットに+アルファの強さが加わっているのだ。
「私はあんな動きはできないわよ。全身の筋肉を倍にするとか。モンスターじゃないんだから……」
と、ガーネット。
「いえ、お姉さまだったらきっとできます!」
「だから……できないわよ」
と、困るガーネット。
「以上を踏まえて」
と、俺。
「決闘に望むフォーメーションを決定したい。ちぃネットをメインで動かすのは……」
「待って」
と、ガーネット。
「ちぃネットはルナリアが動かしたほうがいいわ」
思っていたことを先に言われてしまった。
「私がわざわざ小さい私を動かすより、ルナリアが小さい私を動かして、私は私自身で戦ったほうが戦略の幅が広がると思うの」
また思っていたことを先に言われてしまった。
「でもお姉さまのほうが戦い慣れしていますし……」
「いいのよ、ルナリア。気をつかわないで頂戴」
「まぁ、ガーネットは自分で戦える。自分で自分の身を守れるけど、ルナリアはそうじゃないからな……」
「カラスマ。ルナリアはこう見えて、ゴウレムを動かすと強いのよ?」
「そうなのか……?」
「ルナリアは私が動かせなかった父の搭乗型ゴウレムを動かせたの。多分私よりそういう適正が高いのね」
「わからん!」
その場で総評を黙って聞いていたハウが突然声を上げた。
そして、丘のふもとに続く一本道を指差した。
丘の上を上ってくる一団が見えた。
「来たか」
と、俺。
「何?」
と、ガーネット。
「俺が呼んだ援軍だ。まぁ若干頼りないのが多いけどな」
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まず、丘を登ってきた一団。
「私、奏刃のアルタと申します。ベルン男爵様に置かれましては、ごきげんうるわしゅう」
と、奏刃のアルタ。
「オイっス! 僕は釣り師フィッシャーっス! 魚釣りが趣味ッス!」
釣り師フィッシャー。
「パニッシュメントだ」
パニッシュメント。
「キャンプマスター。野戦のことなら任せて欲しい」
キャンプマスター。
「幼女は? 幼女はいないのか? 一桁までなら幼女として許容するぞ!」
ソードマンロコリコ。こいつは声をかけて良かったのだろうか……。メイド長が明らかに警戒している。
「拙者、侍エイジにござる!」
侍エイジ。
「チャペルです。先日はご馳走になりました」
チャペル。
同僚のバトルアリーナ・リングマスターの皆さん。
そして、
「貧乏貴族にしちゃ立派な屋敷に住んでるズラなぁ」
セレブスタイルのズーラン。言動は全然セレブじゃない。
さらに、
『ケェェェー、イャン、イャン、イャン!』
「やぁ、ガーネット様、みなさん、しばらくです」
と、(中略)先生に乗ったムトーさんが空から合流する。
そしてもう一人。
『ショワアア!!』
「おう、しばらくカラスマ殿! ゴッドブレスカンパニーのジャンヌダルクはまこと良い出来であったぞ」
大蜘蛛に乗って現れたのは、ダブルのスーツのマニアなおじいちゃんことラヴァーズさん。
「これは!?」
と、驚くガーネット。
「俺が声をかけたルナリアの戦闘訓練の相手さ、もちろんガーネットの相手でもある。デン侯爵がどんなゴウレムや戦力を出してくるかわからない。疾風とばかり戦っていたんじゃ変な癖がついてしまうし、土壇場で対応できなくなる。とにかく短期間でも違うタイプの相手と沢山戦って、実戦のカンをつけたり、取り戻したほうがいい」
と、俺。
大勢の目線が当主であるガーネットに集まった。
「ガーネット。皆に挨拶してくれないか?」
と、俺。
だが、ガーネットはうつむいている。
「……ごめん、ちょっと疲れちゃったの。あとで必ずするから……」
と、ガーネット。
ガーネットはそのまま歩いていった。
……どうしたんだろうあいつ。
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