第119話 決闘状
第119話 決闘状
「決闘状ね」
と、ガーネットがぽつりと言った。
「期日は10日後。場所はバトルアリーナ。差出人は、デン侯爵家当主と、その継承権保持者の2名。立会人は……へリック王陛下」
「決闘!? バトルアリーナ!?」
と、驚く俺。
「王陛下自らの、立会いの下!?」
と、驚くメイド長。
執務室。
窓際に置かれた執務机にガーネットが座っており、その隣にはルナリアが立っていた。
いつになく真剣な二人の表情を見て、立ち位置が、司令官と、副官みたいだなと、場違いなことを思う。
二人と相対するように、俺とメイド長は立っていた。
デン侯爵家から届けられた手紙をガーネットは読み終える。
それを、隣に立っていたルナリアに渡す。
驚いた顔をするルナリア。
デン侯爵からの決闘状。
というからには、闘うのはガーネットか。
「ガーネット」
「何よ?」
「そんなもん無視しろ」
「…………」
黙り込んだあと、
「それはできない」
と、ガーネットは言った。
「なんでだよ?」
「決闘から逃げることだけは、このベルン家の人間には許されないのよ」
ベルン家の人間には許されない? どういうことだ。
「じゃあ、俺が今からあの侯爵をもう一度倒してくる」
「やめてカラスマ。そんなことをすれば、逃げるのと一緒だわ……。決闘に応じられず戦争をしかけた卑怯者と言われてしまう」
と、ガーネット。
「俺が代理人として闘うことはできないのか?」
「決闘の相手は、この手紙に指定してあります。それはできない」
「……」
「お姉さま」
と、言葉を区切るように
「この決闘、お受けします」
ルナリアが言った。
「受諾してくださいお姉さま」
と、続ける。
まるで、ルナリアも決闘をするような言い方だな。
まさか……。
「ルナリア、お前も戦うのか?」
「決闘状の送り先は、ベルン男爵家当主と、その継承権保持者、ガーネット・ベルンと、ルナリア・ベルン殿とあります」
「やめろ、お前に戦いなんかできるわけないだろ!」
「それでも、私達は決闘から逃げることはできないわ。相手はよくわかっているのね」
ガーネットは立ち上がり、窓の外を見る。
「私達の父は、かつて、上官に決闘を申し込んだことがあるの。結果は父が勝ったけれど……」
ガーネットとルナリアの父親。あの写真に写っていた人か。
ルナリアが口を開く。
「父は乱心して突然上官である将軍に決闘を申し込んだ。表向きはそうなっています。ですが、父が決闘を申し込んだ理由はちゃんとあるんです」
ルナリアが、俺の目を見る。
「私の命を守るために、父は決闘を行いました」
「……どういうことだ?」
「16年前。この国は、とある国と戦争をしていたわ」
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16年前。
暗黒の島。ガイバス帝国の支配域。
ガイバス帝国と、へリック王国の戦いは、王国の勝利の下に幕を閉じようとしていた。
王国軍の本隊が、帝国の最後の城、その宮殿になだれ込む。
本隊を指揮するオー・ウル・ベルンが将軍に命じられたのは、敵の皇族の掃討であった。
帝国の皇帝とその血族を根絶やしにせよと。
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16年前。
ガイバス帝国、最後の城。
その宮殿、刃の間。
炎に包まれる宮殿の中を、愛機ゲートキーパーを駆り、オー・ウル・ベルンは進む。
そこで、オー・ウルは二人の帝国兵に出会う。
先発した王国将兵と相打ちになり、息も絶え絶えの二人。
一人は長身の女性。名前の無い侍女長と呼ばれた後宮を取り仕切る重鎮。
もう一人は陸軍のトップ。血の雨と呼ばれたハウ・ジャガー師団長。
ゲートキーパーは果敢に向かってくるハウを倒し、その剣の切っ先は侍女長に振り下ろされようとしていた。
だが、その剣が寸前で止まる。
侍女長が抱えた毛布、そこに包まれていた赤ん坊が、大きな泣き声を上げたからだ。
侍女長が守るその赤子は、帝国皇帝の血筋を受け継ぐ最後の生き残りであった。
「俺にも娘がいる……」
ガーネットの顔が頭をよぎる。オー・ウルに赤ん坊を殺すことはどうしてもできなかった。
オー・ウルは、ゲートキーパーを降り、侍女長が抱えた赤ん坊を抱きあげた。
「お前達を逃がす」
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オー・ウル・ベルンは、その後、二人を屋敷の使用人として迎え入れ、赤ん坊を自分の娘、ルナリアとして育てた。
そして10年の時が経った時、事件は起こる。
オー・ウルに帝国軍皇帝とその血族の掃討を命じたオーグ将軍に、ルナリアの正体が露見したのだ。
オーグ将軍は、オー・ウルに再びルナリアを殺すように命じた。
オー・ウルはそれを拒み、オーグ将軍に決闘を挑んだのだ。
ルナリアの正体を隠すため、表向きは、乱心を装って。
これが決闘事件の顛末である。
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「私達が決闘から逃げることは、私の命を守るために決闘沙汰を起こした父の名誉を傷つけることになります。オー・ウル・ベルンは決闘をけしかけることはしても、いざ自分達が決闘を申し込まれたら、逃げるのか。と。」
と、ルナリア。
「決闘に関してだけは、父の名誉を、傷つけたくないの」
と、ガーネット。
「だからカラスマ様。どうか止めないで下さい」
ルナリアは俺の目を見て言った。
「……わかった」
そうとしか、俺には言えなかった。
「受諾の手紙を書きます。メイド長、カラスマ、届けてもらっていいかしら?」
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ガーネットとルナリアは、デン侯爵家当主とその後継者の二人と、決闘をすることになった。
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馬車はデニアの町を離れてゆく。
俺はゴウレム馬を操って、馬車を引いている。
ガーネットが書いた決闘受諾の手紙を、デン侯爵が住んでいるという、別宅に届けるためだ。
馬車の中にはメイド長とハウ。
そして、ガーネットとルナリアが居る。
当主自らが手紙を届けるものではないと、メイド長には止められたんだが、俺が頼んで、ついてきてもらった。
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林を抜け、穀倉地帯を過ぎて、馬車はデン侯爵家の別宅の前についた。
時刻は夕方、もう日も落ちようかという頃だ。
うちの屋敷よりもずいぶん立派だな。
大きな門があり、その前には2人の門番が槍を構えて立っていた。
馬車をすこし離れた場所に止めた。
「メイド長、決闘状の返事は俺が届けてもいいか?」
「……それは」
「カラスマの好きにさせていいわ」
と、ガーネット。
俺は手紙の返事を持って、屋敷の門へと歩いてゆく。
門まで20歩の距離で止まる俺。
武装させた1/12ガーネットを地面に置いた。手にはバルムンクソードを構えている。
1/12ガーネットのアウトリガーが、地面を深々と噛み、その体がまばゆく光る。
光が輝きを増し、1/12ガーネットの体から風が台風のような風が巻きおこる。
周囲が、まるで昼間のように明るくなった。
「なんだ!?」
慌てふためく門番。
光が、バルムンクソードに一点集中し、風がやんだ。
「バルムンクの慟哭!」
ゴオオオオオオ……!
ドンと、地面を揺らし、巨大な光の柱が、天に昇ってゆく。
門が開け放たれ、武装したゴウレム兵達が出てきた。
そこには、見知った顔が混じっている。
ハングドマンと、ゴスロリののじゃロリエルフだ。
「どういうつもりじゃ、異界人?」
のじゃロリエルフが俺の前に出てきて言った。
「これは俺なりのノックと、宣戦布告だ」
手にした決闘状の返事を、のじゃロリに渡した。
「宣戦布告じゃと……?」
「デン侯爵に伝えろ。今度の決闘。俺が全力でセコンドに付く。そしてガーネットとルナリアを絶対に傷つけさせない。無傷で勝たせる!」
そう宣言した。
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