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第117話 立ち込める暗雲

これより第1部最終エピソードに入ります。ちょっとシリアス比率が増えます。

第117話 立ち込める暗雲


 公爵邸。


 地下牢。


 かつかつ、かつかつ。


「悪趣味だねぇ。これだからお貴族様は」

 と、ハングドマンはうそぶく。


 地下牢に続く、長い長い階段をハングドマンは降りてゆく。


 こんなに深く、大げさに作らなくともいいだろうに。


 ようやく、牢屋が並ぶ廊下にたどり着く。


 看守が二人、カードで遊んでいた。


「トランプ? じゃないな、なんだそれ?」


「はい、ハングドマンさん。これは(中略)っていう異界のカードゲームです」


「デッキを作って遊ぶんですよ」


「異界かぶれもほどほどにな」


 異界から流れ着くものにハマるこの地の民は多い。流れ着くものが集まる市場があるデニアの街は余計にだ。


「お前達、ここは俺が見ておこう。これで酒でも買って来い。台所番が売ってくれる」


「さっすがハングドマンさん! 話がわかるー」


「あの異界の缶の酒はやめてくれ。俺のはミードで頼むぞ」


 二人の看守は意気揚々と廊下を駆けて行った。


 さて。


 牢屋の中を覗く。


「悪趣味だねぇ……お貴族様は。親子揃って」


 中の光景を見たハングドマンはもう一度うそぶく。


「姐さん、起きてるかい?」


 牢屋の中に呼びかける。


 返事はない。


「姐さん」


「う……ぐぅ」


「起きたか」


 牢屋の中には、白い虎の獣人が磔にされていた。


 白かったその毛並みは、赤黒く地に汚れ、露にされた乳房は傷だらけで痛々しい。


 シ・ビャッコ。


 デン侯爵の護衛を勤めていた流れ者の傭兵だ。


 野性味あふれる美貌の持ち主だが額から頬にかけて大きな古傷がある。


「聞こえてるよ、ハングドマン。わめくんじゃないよ……傷にしみちまう」


「そんだけ吼えられりゃあ、たいしたモンだ」


 シ・ビャッコはデン侯爵の護衛を放棄し、逃げ出した罪で公爵家に捕まり、拷問を受けていた。


 実際にはそうではないのだが。


「このアタイが、イモを引いちまったもんさ。潮時かねぇ……」


 弱音を吐く同僚の姿は初めて見た。


「オイオイオイオイ。何を言い出すんだ姐さん、らしくねえ。らしくねぇよ」


「やりたいことはだいたいやったさ。……心残りはこのアタイの爪で、あの裏切り者を始末できなかったことかねぇ。まさかあのボンボンが目の前で潰しちまうとはさ」


「はぁ? ああ。血の雨のことか」


「あぁ……?」


「血の雨。あいつだったらピンピンしてるぜ? あの男爵の屋敷で毎日食っちゃ寝してる」


「なん……だと……!?」


 がきん。


 シ・ビャッコを拘束していた鎖が激しく鳴った。


「なんだとぉ!!!」


「そう吼えるなよ姐さん。まぁ元気が出たようで何よりだ」


 シ・ビャッコの体をもぞもぞと登ってくるものがある。


 かかしのようなゴウレム、小人サイズのゴウレムだ。


 小人ゴウレムはシ・ビャッコの乳房の上に立つと、その姿を変化させた。


 鍵だ。


 鍵をくわえるシ・ビャッコ。


「あいつら、戻ってきたな……じゃあ、あとはうまくやってくれ」


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 公爵邸。


 謁見の間。そう屋敷の連中が呼んでいる広間にハングドマンは入る。


 広間の最奥の壁には本来の、現在の任務の主人、パトロンが豪奢な椅子にかけていた。


「だあ、だあだあ……」


 隣には主従ごっこをしていた旦那、デン侯爵が床にぺたりと座っている。


 謁見の間に居るのは主人と、その息子だけではなかった。


 4人の先客が居た。まず見知った顔が3人。


 エンプレス。ローブの下にゴシックロリータの衣装が覗く。


 ハーミット。今日はマオカラーのスーツを着ている。


 ラヴァーズ。ダブルのスーツを着て刀を下げた異界人。


 いずれも所属する組織の同僚だ。皆異界の衣装を着ている。かくいう自分も今日はアロハシャツにバミューダを着けた。同僚のジャッジメントからの快気祝いだ。ドレスコードはいいのかこれ?


 まぁいいかウチの組織の気質だ。魂のままに自由。


 ……だが、ラヴァーズ。さすがに壁に背をつけて腕を組んでいるのはどうなんだ? 相手は公爵サマだぜ?


 そして、先客はもう一人。


「……」


 主人が、マエストロと呼ぶゴーレムマイスターだ。何度か顔を見ている。


「ハングドマン、ただいまより現場に復帰いたします」


 主人に向かって、ひざまづくハングドマン。


「良い。そう、かしこまらなくとも良い。ハングドマン。本来我らは同士であり、対等なのだ」


「そうもまいりません」


「貴殿の居ない間、引継ぎを用意してくれた大いなるアルカナには謝意を示そう。エンプレス、ハーミット、ラヴァーズよ」


「もったいなきお言葉にございますのじゃ」

 と、エンプレス。


「あうー、だあだあ」


 デン侯爵がハングドマンの顔、懐かしい顔を見て声を上げた。手をハングドマンに伸ばしている。


「ハングドマンよ。我が子の命。我が子の命だけでも助けてくれた貴殿には感謝しかない」

 

「いいえ、ご子息を危険に晒したのは、このハングドマンの不徳のかぎりでございます」


「ふむ……。……。」


「……」

 

 なんだよ……今の間はよぉ?


「では、ハングドマンよ。早速だが、我が孫に胸を貸してやってくれぬか?」


 孫?


 公爵の孫?


 つまり、息子がデン侯爵=旦那だから、そのまた息子ってことか?


「此度デン侯爵家を継がせることとなった。その孫に稽古をつけてやってくれ。貴族の当主たるもの武芸には強くなくてはな……のぅ、特・大隊長級、いや連隊長級のマスターどの?」


「……。……そういうことでしたら、このハングドマンにお任せを……」


 嫌な予感しかしねえ。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 公爵家、巨大地下闘技場。


 ハングドマンの2000体のゴウレム。


 自ら使役するハングドマンズ連隊が、次々と撃破されてゆく。


 それもたった一体のゴウレムによってだ。


「ぐ、がはあ……」


 稽古の相手になすすべなく叩きのめされ、ハングドマンは地面を舐めた。


「エンプレス、ハーミット、ラヴァーズ……手前ら……」


 それでも立ち上がるのは、己のプライド。大いなるアルカナに所属する魔術師としての意地だろうか。


「俺の居ない間に、なんて化け物をつくりやがった……なんてものを、手前ら……」


「作ったのは我らではないぞ……育てたのは我らだがの」

 と、エンプレス。


「御託はよせ……」


 公爵の孫の操るゴウレムが、ハングドマンに迫る。


「ひぃッ!」


「そこまで!」


 声が響いた、ラヴァーズの声だ。


 そして拍手の音が二つ。


 ハーミットと、エンプレスが、公爵の孫の健闘を称えたものだ。


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 その様子を見ていた公爵は、満足げに笑みを浮かべる。手にした異界のワインを舐める。


「あうー、だあだあ」


「我が息子よ、見ているがいい、我が孫がきっとそなたの仇を討つであろうよ……のう? マエストロ殿」


「……」


 マエストロは何も答えず、ただ缶コーヒーを傾けた。 

 拙作はいかがだったでしょうか?

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