第109話 メイド長の新しい靴
第109話 メイド長の新しい靴
メイド長は執務室に居た。
ガーネットと書類の整理をやっている。
「メイド長、俺達また新しい靴を作ったんだけどまた試してくれないかな?」
「はぁ」
メイド長は若干戸惑った様子だった。
「しかし、前回頂きましたし……」
「折角のご好意じゃない。履いてあげたら?」
と、ガーネット。
こいつもたまにはいいことを言うな。
また庭で試すことになった。
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昼さがりの庭。
庭には、メイド長と、ガーネット、ルナリア、ついでにハウ。俺と、ムトーさんがいる。
「メイド長、これをお願いします」
まずはムトーさんが渡す。
「これは……!」
白い羽うさぎの夫婦だった。
全体がぴかぴかで象牙のような光沢がある。
「ドラゴンの骨を削り出して羽根うさぎの夫婦を再現してみたんだ。メイド長が大切にしていた靴になるべくにせたけど、僕が彫ったからそっくりそのままとはいかないけどね」
「ありがとうございます。ムトー様」
メイド長はドラゴン骨の羽根うさぎの夫婦を履く。
「では……」
緊張する俺とムトーさん。
固唾を呑むという奴だ。
メイド長が靴を揃え、その場でジャンプした。
メイド長の体が消えた。
30メートルくらい跳び上がった。デパートか高層マンションの屋上くらいまで一気に跳んだんじゃないだろうか?
すごい!
成功だ。
メイド服のロングスカートをぶわっと翻し、着地するメイド長。
ずさっ!
片膝を立てて、片膝、片手はグーで地面にどん!
いわゆるスーパーヒーロー着地をするメイド長。
「どうだいメイド長」
と、俺。
「……」
と、無表情のメイド長。
しゅばばばばばばばば……!
次の瞬間、メイド長の体が3つに分身した。
「「ええっ」」
っと、驚く俺とムトーさん。
反復横とび?
すごい速さで反復横とびをしてるの?
あまりにも速いからメイド長の体が分身して見えるのか……。
メイド長の体が元に戻る。
「ありがとうございます。羽根うさぎの夫婦。完全復活です」
と、メイド長。
ぱしぃぃぃん!
思わずハイタッチをする俺とムトーさん。
「やったわね! メイド長。ありがとうございます! ムトー様」
と、ガーネット。
「ええ」
と、メイド長。笑顔だ。
やった。
俺達はこの笑顔が見たかったのだ。
「これでまた、このお屋敷のために力を尽くすことができます……」
と、メイド長。
その目がうっすら潤んでいた。
「待ってくれメイド長。俺の作った奴も履いて欲しい」
俺の羽根うさぎの夫婦を差し出した。
「これは……」
ピンク色の羽根うさぎの夫婦だった。
ドラゴンの血とヒヒイロカネの赤と、ミスリルとドラゴンの骨の粉末の白が混ざり合い、ピンク色になった。
「こっちは初代羽根うさぎの夫婦を型取りして作ったから形はそっくりだと思う。でも磨くときに俺のアレンジが入っちゃってるから、これもそっくりそのままとはいかないけどね。名づけてピンク羽根うさぎの夫婦だ」
ピンクの羽根うさぎの夫婦に履きかえるメイド長。
「では……」
緊張する俺。
「大丈夫だよ。あれだけ丹精込めて作ったんだ。きっとうまくいくさ」
と、ムトーさん。
メイド長が靴を揃え、その場でジャンプした。
メイド長の体が校舎みたいな屋敷の屋根の高さまで一気に跳び上がった。
うーん。ジャンプの高度はそんなに出なかったか。
残念。
……。
……。
あれ? どうしたんだろう?
メイド長が降りてこない?
メイド長の体が……。
メイド長の体が浮いてる!?
『ええええーっ』
と、驚く全員!
「これは……、浮遊特性!?」
と、メイド長。
すごい!
実物の羽根うさぎは、耳で空を飛んでたんだけど、その特性が再現されてしまったのか!
すごいな。
というか俺すごくない?
いやーしかし……。
メイド長のパンツは本当にすごいな。
すごいデザインだ。
下から覗くと、スカートの中身がばっちり見える。
中学生男子が見たらその場で股間を押さえてトイレに駆け込むと思う。
ああいうの、どこで買ってくるんだろう。
ガッ。
痛い。
俺の頭が掴まれて、地面に向けられる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
俺に背中側から、関節技を掛けた奴がいるぞ。
コブラツイストだこれ。
「メイド長! いますぐスカートを手で押さえて! カラスマが覗いてるから!!」
と、ガーネット。
マジで痛い。マジで痛いから。
「ルナリアいるか? すぐにこいつをはがせ……!」
ばきっ。
「おほお……」
殴ったね。親にもぶたれたことないのに?
え? 誰? 誰が殴ったの。
「すみません、カラスマさま。なんだか、つい……」
ルナリア……。
お前は俺の味方じゃなかったのか。
ええ……。
ああ……。
ショックで呆然としている俺。
メイド長は階段を下りるように、空中を踏みしめて降りてくる。
「ありがとうカラスマ。この靴はありがたく頂戴します」
とメイド長。
「それと……」
ぼふっ。
おうふ……。
膝!?
膝がみぞおちに……。
膝がみぞおちに入った。
「みんな、仲がいいんだねぇ」
と、笑っているムトーさん。
ここ、笑うところじゃないと思います……。
「メイド長さん」
と、ムトーさん。
「はい」
「最後にもう一足試して欲しい」
「ええ?」
「ドラゴンの素材がたくさん手に入ったからね。これを生かさない手はないと思って、もう僕の趣味全開で作ったやつなんだが……」
もう一足、靴を差し出すムトーさん。
これは!?
羽根うさぎの夫婦。
それが、ドラゴンの鎧を着込んだような姿をしている靴だ。
もうハイヒールじゃなくて鎧の靴みたいにゴテゴテしてるけど。
「これは見るからに魔力を感じます。すごいですね……」
と、メイド長。
ドラゴンうさぎの夫婦に履きかえるメイド長。
その場で空を蹴る。
ごばあああああああああああああああーッ!
その途端、ドラゴンうさぎの口が、炎を吐き出した。
「うおおおお!?」
熱い!
超熱い!
「これはドラゴンの特性が出るなと思ったけど、こんな感じになるとは……」
と、ムトーさん。
ブレスを止めるメイド長。
「ハッ!」
ローリングソバットをその場で決めるメイド長。
ゴアッ!
その時、ドラゴンのオーラが! 闘気で出来たドラゴンの輪郭が、メイド長の蹴りを包むこむ。
すごいや、格闘ゲームの必殺技みたい!
メイド長が、伸ばした足を振り下ろすと、ドラゴンのオーラが発射される。
ドラゴンのオーラはガーネットが置いていた訓練用の案山子(どことなく俺に似ている)に激突し、
案山子が爆発四散した。
すごい!
なんだこの技は……!
シュッ!
シュ!
バシッ!
ドラゴンの闘気を体に纏わせ、蹴り技を披露するメイド長。
演舞を一通り終えて、背筋を伸ばしたメイドポーズをとりなおす……。
「ありがとうございます。ムトー様。カラスマ」
その場で俺達に向かって、メイドお辞儀をする。
「このお二人の新しい靴。大事にさせていただきます」
「うん」
「ああ」
いいんだが……。
それはとてもいいんだが。
片足にドラゴン、片足にピンクのうさぎを履くメイド長。
空中を浮かぶメイド長が、空にドラゴンのオーラを広げる。
メイド長の背中に、透明な巨大ドラゴンのシルエットが……。
俺はある特撮ヒーローの必殺技を思い浮かべていた……。
あれそのまんま流星キックをやると、地面に巨大なクレーターをボコォッって作るやつなんじゃないだろうか……。
「すごいわメイド長!」
「かっこいいですメイド長!」
「全然わからん!」
「なぁカラスマくん」
「はいムトーさん」
「僕らは……ちょっと。ちょっとだけやりすぎてしまったかも知れないね」
「ええ、メイド長の笑顔が見たかっただけなんですが……とんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれません」
「僕らはメイド長さんを何にしたかったんだろうねぇ」
「……」
「……」
「まあいいか、メイド長さん喜んでいるみたいだし」
「そうですね。もう作っちゃったものはしょうがないし」
「「HAHAHAHA!」」
そういうことになった。
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メイド長は自室で目を覚ました。
ベッドのヘッドボードには、ガーネットやルナリア、ハウ達、屋敷の人間達と写った写真が飾ってある。
写真の中、メイド長の隣に立つ人物は、先代当主のオー・ウル・ベルンだ。
「おはようございます。お館様」
写真の中の先代に挨拶をする。それが彼女の朝の日課だった。
写真の横に揃えて置いてあるのは、靴型ゴウレム、羽根うさぎの夫婦だ。
破損したままの羽根うさぎの夫婦だったが、今は専用の台座の上、トールケースに飾られている。
カラスマとムトーが贈ったものだった。
「お館様。本日も、お勤めを果たして参ります」
今日も着替えを終えたメイド長は、写真の中の先代にもう一度挨拶し、うさぎの靴ケースを撫でて職務を始めるのだった。
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