第108話 羽うさぎの夫婦 複製リベンジ!
第108話 羽うさぎの夫婦 複製リベンジ!
翌日のベルン男爵邸。
見本はある。素材は揃った。
あとは作るだけだ。
メイド長の靴の複製。そのリベンジを行うべく、俺とムトーさんは再び工房に居た。
まず、見本となる羽うさぎを二匹、工房の机に置く。
ふむふむ。こういう体のつくりをしてるんだな。
庭に生えていた食べると眠くなる薬草をにんじんと一緒に食わせたので良く寝ている。
あと、動きを観察するために一匹は元気な状態で籠の中にいれてあるのだが、
ばすん。ばすんばすん。
工房の隅に置いた籠。中のうさぎがジャンプするたび、その籠が1メートルはとびあがる。
非常にうるさい。
「なんかすごいですねファンタジー異世界」
と俺。
「すごいよねファンタジー異世界」
とムトーさん。
前回は一足だけだったが、今回は万全を期すために2足つくることにした。
俺の担当分と、ムトーさんの担当分。
今回は2人が共作するのではなく、競作。それぞれ個別に最後まで作ることになったのだ。
シリコン型は前回つくったので、レジンを注いで注型品を作るのだが……。
「前回はミスリルの粉だけだったけど、今回は素材にもこだわってみよう」
机の上にはドラゴンのウロコ、爪、骨、皮、毛、血がある。
そしてさらにムトーさんがアーム工房から持ってきた金属の粉末群。
ミスリルの粉。アダマンチウムの粉。オリハルコンの粉。ヒヒイロカネの粉。このアンオブタニウムっていうのは初耳だな。
「この辺はお客さんの依頼でも滅多に出さないんだけど、今回は特別だ。我がスタジオアームの総力を出すよ」
素材は自由に使っていいとのことだった。
この辺、高いんだろうなぁ。オリハルコンとか有名な奴だし。値段は聞かないでおこう。
とにかく、ムトーさんは本気だった。
「俺もがんばります」
俺も既に本気だ。
とりあえずレジンに混ぜるものを用意していくか、ドラゴンの骨を粉末にする。
できない。
硬すぎて削れないのだ。ミスリルのヤスリを貸してもらったが、ヤスリの目の方が潰れてしまう。
「1/12ガーネット、ジークフリートアーマー! 【英雄武装】、リンクアップ!!」
バルムンクソードを、1/12ガーネットに持たせて削る。
うん、いける。
メイド長からもう一度借りた羽うさぎの夫婦を手に持ってじっと見ているムトーさん。
かれこれもう1時間くらい見ているだろうか。
ムトーさんにはムトーさんの構想があるんだろう。邪魔をしないようにするか。
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とりあえずレジンと別の素材を混ぜてそれを固めるのだが、別の素材を加えすぎるとレジンの固まる力と、型に流れ込む流動性が損なわれてしまう。
まずはお試し。レジンのA液とB液をちょっとだけ取って混ぜ合わせ、それに混ぜ込む素材を入れて固まり方を見る。
入れすぎるとそもそも固まらなくなるし、気泡の入り方もひどくなる。
ぎりぎりで固まる。その配合のバランスを見極めるには、何度も試して調べるしかない。
5回。10回と試す。それで駄目なら20回。
地味だけど大事な作業だ。
トライ&エラーを繰り返そう。
こういう作業苦手なんだけど……。
メイド長の笑顔がまた見たいからな。
ムトーさんは、今度は籠に入れた羽うさぎをじっと観察しはじめた。
あばれるので、たまににんじんをあげている。
ムトーさんにはムトーさんの構想があるんだろう。邪魔をしないようにするか。
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数時間後。
時計などはもはや見ていない。
レジン液と混ぜ込む素材。混ぜ込む素材を出来るだけ入れて、ぎりぎりで固まる比率。
納得のいく配合比率がようやく見つかった。
メインに混ぜ込む素材は色々試した結果、ドラゴンの骨と血、それとミスリルとヒヒイロカネにした。
ミスリルとドラゴンの骨が白と銀。ヒヒイロカネと血が赤いので、混ぜるとピンクになる。
色合い的にも丁度いいんじゃないかな。
ピンク色はメイド長に似合うかなあ。
あの人髪の毛は、青とか紫っぽいからそっちに合わせるべきかもしれないが、もう作りたくて手がうずうずしている。
この配合で、レジン液を作り、注型品を作るとしよう。
ムトーさんは、ドラゴンの骨をレンガくらいの大きさに切ったものをじっと見ていた。
ムトーさんにはムトーさんの構想があるんだろう。邪魔をしないようにするか。
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シリコン型に慎重にレジン液を注ぐ。
今回は、レジンに混ぜ物をしたので固まるまで時間がかかる。
根を詰めすぎたので、ちょっと外にでて散歩でもするかな。
庭にはルナリアが居て、シリコンスライムと遊んでいた。
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しばらくして工房に戻ると、ムトーさんは、ドラゴンの骨ブロックに彫刻刀を当てている。
ブロックは、既に靴の形が見えている。
なるほど。
注型品じゃなくて、同じモノを削り出して再現しようということか。
俺も頑張ろう。
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レジンが固まった。
シリコン型をべりっとはがして、複製したレジン製の羽うさぎの夫婦を取り出す。
今回はピンク色の整形色になった。
こいつをこれから、元通りに修理する。
片方はヒール部分を直し、もう片方はべきっと曲がってるのを元に戻す。
今回べきっと曲がったのを元通りにするのに、パテを使わずにレジン液を筆で塗ってつなぐ素材にしてみるか。
時間はかかるが、やってみよう。
補強用にエポキシパテも使うが、レジンと同じ比率でドラゴンの骨と血、伝説の金属を混ぜ込んで使ってみる。
だいたいの形はできた。あとは、形を整えるために磨くだけだ。
羽うさぎのすがたを見ながら、頭にあのびゅんびゅん飛んでた群れの様子を思い浮かべながら、磨いて形を整形していく。
地道な作業だが、頑張るぞ。
と、思っていたら強烈な眠気に襲われた。
これは夢から目が覚めるやつだ。
ムトーさんに挨拶して寝室に向かう。
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寝むい。
自分の部屋に戻ると何故かガーネットが居た。
何やってたんだろうこいつ。
エロ本ならないぞ? そういうのはタブレットにたっぷり入っている。
とにかく眠い。
寝る。
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起きた。
現実世界の千葉の病院から、この異世界に戻ってくる。
現実世界では1日起きていたのだが、こっちでは数日経っていたようだ。
今回もタイムラグがあるな。
ムトーさんは削り出しの最終工程に入っているようだった。
羽うさぎの夫婦がもう一つある。
俺もピンクの靴の仕上げを頑張ろう。
地道に磨く。ひたすら磨く。
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二日後。
俺の羽うさぎの夫婦と、ムトーさんの羽うさぎの夫婦が完成した。
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