第106話 バルムンクの慟哭
第106話 バルムンクの慟哭
洞窟内。
「カ、カラスマくん! も、もうその辺にするんだ! それ以上は…、それ以上はハウさんが壊れてしまう!」
あわあわするムトーさん。
「ふえあぁぁ……ッ」
ハウは太ももをがくがくと震わせたのち、全身を痙攣させて倒れた。
びくんッ、びくんびくん。
「な、な、な、な、な……!」
俺の背中で声がした。
村人エルフだ。いや、ドラゴンの変身体か。
ドラゴンエルフは、呆気にとられている。
洞窟に入ってきて、俺がハウから元気をもらう様子を見てたのか……。
「何をしておるのだ! 貴様はーッ!」
「お前を倒すための元気の充電だーッ!」
「なんだとぼへァァアアアアーーーーーーーーーーーーー!?」
エルフドラゴンの声が遠ざかる。
全力で飛び出した疾風のタックルを腹に受け、くの字になってふっとんでいったのだ。
エルフドラゴンは、そのまま洞窟の入り口まで押し出され、洞窟の外へ飛び出す!
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視界がぱっと明るくなった。
くの字になったエルフドラゴンの腹をなおも押し続ける疾風=俺!
体を浮かして吹っ飛びつづけるエルフドラゴン。
「くそおおおおおおおおーッ!」
エルフドラゴンの体が急に重くなる。
『グオオオオオオオー、ふざけおってえええ!!!』
エルフドラゴンの体が何倍にも膨れあがり、ドラゴンの姿に戻った。
疾風の突進も流石にこの観光バス4台分の巨体の前には、歯が立たないか。
『消し飛べーッ!』
ボアアアアアアアアアアアアアアアアーッ
疾風に向かってブレスを吹きかけるドラゴン!
当たるかそんなもん!
俺=疾風は、ブレスを避けてドラゴンの背中側へ飛びぬける。
背中側へ飛びぬけた疾風は両手に日本刀を頭の上、二刀流を大上段、天に向かって構える! そして、その場できりもみ回転を始め、疾風の体は一つのドリルとなった!
くらえ! チェストバスター!
がりがりがりがりーッ
疾風のドリルが、ドラゴンの背中のウロコにぶちあたり、穴をうがって、そのまま肉をえぐってドラゴンの体の中を進んでいく!
ふきだす竜の血!
『ぐわああああああああああああーッ!』
うわ……痛そう!
だが、回転はやめない。
『ぬううん!』
だが、ドラゴンの筋肉が膨れ上がる!
ぎちぎち!
なに!
疾風の回転が止まった!
日本刀が、そして疾風の体が、張り出した筋肉の壁に押し出され、ぽんっと、体外へはじきだされた。
ぶっしゅぅぅぅぅ!
噴出す竜の血。
すごいなドラゴン。
『小癪な人間どもよ! 貴様らを食うのはやめだ! 今からその洞窟ごと潰してくれる!』
なんと……だから最初から洞窟を潰さなかったのか……こいつが食い意地が張ってて助かった……。
だが、できるかな?
俺は疾風に集中していた意識を、1/12ガーネットにシフトする!
1/12ガーネットは、ドラゴンの背中に立っていた。
そう、1/12ガーネットは疾風の背中におぶさって、一緒に飛んでいたのだ。
そして、疾風がドラゴンの背中側に飛びぬけた瞬間に、ドラゴンの背中に飛び乗っていたのだ。
両足のアウトリガーが、深々とドラゴンの背中のウロコに突き刺さっている。
そして光り輝く聖剣バルムンク、その剣先を真下に向けて構えている1/12ガーネット!
バルムンクの慟哭の発射準備はすでに完了していた。
喰らえ! バルムンクの慟哭、0距離発射ッ!
1/12ガーネットが、まばゆく光る剣をドラゴンの背中に突き刺す。
剣から生まれた光の柱が、ドラゴンの背中を突き破って、胸から飛び出した!
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオーッ!!』
背中から肩へ向かって、剣先を振り上げる1/12ガーネット
貫通した光の柱がドラゴンの胸から肩へ走りぬけた!
『お、が……あああ……』
ずしんと、地響きを立てて前に倒れこむドラゴン。
『……バカな、あのゴウレムは我がブレスが消し飛ばしたはずでは……』
耐えられちゃったんですよね。あれ。
『ぐ……うううう……』
うめき声を上げるドラゴン。
ドラゴンの体には、肩口から胸にかけて巨大な切れ込みが入っていた。
べろーんと、なっていて実に痛々しい。
なんというか……。
勢いでそのまま戦っちゃったけど……。
ドラゴンて、知能というか、人格があったんだね。
ましてや人間の姿に変身するし。
よくあるファンタジー異世界もののドラゴンて、喋る知能があるタイプと、そうでないモンスターのタイプがあるけど、
戦ったこいつは、前者だった。人間の言葉を話して、意思疎通ができた……。
俺……、今の段階になって……自分のしたことに罪悪感が生まれてきちゃったな。
俺がやった行為って、人間に大怪我をさせたのと同じじゃないだろうか……。
たとえ、それが正当防衛だったとしても。
『ぐぐぐ……』
うめき声を上げるドラゴン。
でも、どうしよう。退治しないといけないんだよなこいつ。放置すると村を襲い続けるだろうし。
ズーランはどうしてたんだろう?
あいつはこの世界の人間だ。価値観が違うか。殺してしまっていたのだろうか。
『助けてくれ……』
ドラゴンが喋った。
『我の負けだ、人間の勇者よ』
いや、勇者じゃなくて原型師なんだけどね。
『この領地を放棄すると約束する……どうか命ばかりは助けてくれ……』
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「と、言ってるんですがムトーさん」
「ぼくも(中略)の視点でモニターしてるから、聞こえてるよ」
(中略)先生が、ずりずり足を引きずりながら、ドラゴンに近づいてくる。
『洞窟から出てきてくれ……話がしたい』
「出た途端にブレスをかけられたらおしまいだよね」
「あのビームはもう一発撃てます。変な様子を見せたら次は心臓を狙って撃ちますよ」
「ここに篭っていても仕方ない。覚悟を決めようか」
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俺とムトーさん、ハウは洞窟の入り口に出た。
ドラゴンは、洞窟の入り口に立っていた。
斬られた肩がぶらーんと垂れ下がっている。
『グウウウ……』
胴体側の切断面の肉がもぞもぞと動き出し、中から肉が盛り上がっていく。
「「えっ!」」
新しい腕が生えた。
垂れ下がっていた肩と腕が、押し出されて、ずしんと、地面に落ちる。
どんと、地面が揺れた。
「すごいですねドラゴン……」
「まぁ、体の大きさ変えられるみたいだし……あのくらいはできちゃうのかな……」
『あの攻撃。手加減をしたな?』
と、ドラゴン。命乞いしてるのに、偉そうだなこいつ。
「……」
『何故首を落とさなかったのだ?』
「ドラゴンて、喋るし、人間みたいだから。抵抗があったというか……」
思ったままを話した。
『人を食べるドラゴンでもか?』
「……」
答えにつまる。
「俺には出来なかった」
『我はお前達を焼き殺そうともしたのだぞ?』
「俺は原型師であって、殺し屋じゃない。村の処女さんと材料のために倒しはしたかったけど、殺したくはなかった」
『……』
ドラゴンは何も言わなかった。
『ウロコを欲しがっていたな? こいつを持って行くといい』
ドラゴンは、地面に落ちた肩のついた腕を咥えて、俺達の前に置き直す。
どんと、地面が揺れた。
『肉も粗末にするなよ』
ドラゴンは翼を広げた。
太陽光が遮られてあたりが真っ暗になる。
はばたく。
巨体が揚力を得るために、台風のような突風が巻き起こり、俺達は立っていられない。
ドラゴンの姿は、みるみるうちに空の彼方へ消えていった。
「行った?」
と、ムトーさん。
「ええ、引き返してはこないと思います」
と、俺。
上空から、1/12ガーネットを抱えた疾風が戻ってきた。
ドラゴンの反撃にそなえて、バルムンクの慟哭の2射目を撃てるようにドラゴンの背中に張り付けたままだったのだ。
とにかく。
「はー」
と、倒れこむ俺。
洞窟を転がったりして、体中を怪我してる。
戻ってきた疾風を手でつかむ。
返り血でどろどろだ……。すぐ中性洗剤で洗わないと色が残るかもな……。
「勢いでドラゴン狩りに来ちゃったけど……、勢いでするもんじゃなかったねぇ」
同じくボロボロのムトーさんも、流石にしゃがみこんだ。
「ここ。ゲームみたいな世界だけどさ、ここに住んでるのはゲームのキャラクターじゃないだよね……」
と、ムトーさん。
「そうですね……そうなんですよね。ドラゴンを倒せると思ったから、退治の依頼は引き受けたけど……」
「大いなる力には、大いなる責任が伴うってやつだなぁ」
「アメコミのヒーローのセリフでしたっけ?」
「ああ。そのフィギュア、仕事で作ったことがあってさ」
「そうなんですか」
「ごはん」
と、ハウ。
「……腹減ったなぁ」
「僕もぺこぺこだ。……帰ろうか」
そういうことになった。
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