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第106話 バルムンクの慟哭

第106話 バルムンクの慟哭


 洞窟内。


「カ、カラスマくん! も、もうその辺にするんだ! それ以上は…、それ以上はハウさんが壊れてしまう!」

 あわあわするムトーさん。


「ふえあぁぁ……ッ」


 ハウは太ももをがくがくと震わせたのち、全身を痙攣させて倒れた。


 びくんッ、びくんびくん。


「な、な、な、な、な……!」


 俺の背中で声がした。


 村人エルフだ。いや、ドラゴンの変身体か。


 ドラゴンエルフは、呆気にとられている。


 洞窟に入ってきて、俺がハウから元気をもらう様子を見てたのか……。


「何をしておるのだ! 貴様はーッ!」


「お前を倒すための元気の充電だーッ!」


「なんだとぼへァァアアアアーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 エルフドラゴンの声が遠ざかる。


 全力で飛び出した疾風のタックルを腹に受け、くの字になってふっとんでいったのだ。


 エルフドラゴンは、そのまま洞窟の入り口まで押し出され、洞窟の外へ飛び出す!


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 視界がぱっと明るくなった。


 くの字になったエルフドラゴンの腹をなおも押し続ける疾風=俺!


 体を浮かして吹っ飛びつづけるエルフドラゴン。


「くそおおおおおおおおーッ!」


 エルフドラゴンの体が急に重くなる。


『グオオオオオオオー、ふざけおってえええ!!!』


 エルフドラゴンの体が何倍にも膨れあがり、ドラゴンの姿に戻った。


 疾風の突進も流石にこの観光バス4台分の巨体の前には、歯が立たないか。


『消し飛べーッ!』


 ボアアアアアアアアアアアアアアアアーッ


 疾風に向かってブレスを吹きかけるドラゴン!


 当たるかそんなもん!


 俺=疾風は、ブレスを避けてドラゴンの背中側へ飛びぬける。


 背中側へ飛びぬけた疾風は両手に日本刀を頭の上、二刀流を大上段、天に向かって構える! そして、その場できりもみ回転を始め、疾風の体は一つのドリルとなった!


 くらえ! チェストバスター!


 がりがりがりがりーッ


 疾風のドリルが、ドラゴンの背中のウロコにぶちあたり、穴をうがって、そのまま肉をえぐってドラゴンの体の中を進んでいく!


 ふきだす竜の血!


『ぐわああああああああああああーッ!』


 うわ……痛そう!


 だが、回転はやめない。


『ぬううん!』


 だが、ドラゴンの筋肉が膨れ上がる!


 ぎちぎち!


 なに!


 疾風の回転が止まった!


 日本刀が、そして疾風の体が、張り出した筋肉の壁に押し出され、ぽんっと、体外へはじきだされた。


 ぶっしゅぅぅぅぅ!


 噴出す竜の血。


 すごいなドラゴン。


『小癪な人間どもよ! 貴様らを食うのはやめだ! 今からその洞窟ごと潰してくれる!』


 なんと……だから最初から洞窟を潰さなかったのか……こいつが食い意地が張ってて助かった……。


 だが、できるかな?


 俺は疾風に集中していた意識を、1/12ガーネットにシフトする!


 1/12ガーネットは、ドラゴンの背中に立っていた。


 そう、1/12ガーネットは疾風の背中におぶさって、一緒に飛んでいたのだ。


 そして、疾風がドラゴンの背中側に飛びぬけた瞬間に、ドラゴンの背中に飛び乗っていたのだ。


 両足のアウトリガーが、深々とドラゴンの背中のウロコに突き刺さっている。


 そして光り輝く聖剣バルムンク、その剣先を真下に向けて構えている1/12ガーネット!


 バルムンクの慟哭の発射準備はすでに完了していた。


 喰らえ! バルムンクの慟哭、0距離発射ッ!


 1/12ガーネットが、まばゆく光る剣をドラゴンの背中に突き刺す。


 剣から生まれた光の柱が、ドラゴンの背中を突き破って、胸から飛び出した!


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオーッ!!』


 背中から肩へ向かって、剣先を振り上げる1/12ガーネット


 貫通した光の柱がドラゴンの胸から肩へ走りぬけた!


『お、が……あああ……』


 ずしんと、地響きを立てて前に倒れこむドラゴン。


『……バカな、あのゴウレムは我がブレスが消し飛ばしたはずでは……』


 耐えられちゃったんですよね。あれ。 


『ぐ……うううう……』


 うめき声を上げるドラゴン。


 ドラゴンの体には、肩口から胸にかけて巨大な切れ込みが入っていた。


 べろーんと、なっていて実に痛々しい。


 なんというか……。


 勢いでそのまま戦っちゃったけど……。


 ドラゴンて、知能というか、人格があったんだね。


 ましてや人間の姿に変身するし。


 よくあるファンタジー異世界もののドラゴンて、喋る知能があるタイプと、そうでないモンスターのタイプがあるけど、


 戦ったこいつは、前者だった。人間の言葉を話して、意思疎通ができた……。


 俺……、今の段階になって……自分のしたことに罪悪感が生まれてきちゃったな。


 俺がやった行為って、人間に大怪我をさせたのと同じじゃないだろうか……。


 たとえ、それが正当防衛だったとしても。


『ぐぐぐ……』


 うめき声を上げるドラゴン。


 でも、どうしよう。退治しないといけないんだよなこいつ。放置すると村を襲い続けるだろうし。


 ズーランはどうしてたんだろう?


 あいつはこの世界の人間だ。価値観が違うか。殺してしまっていたのだろうか。


『助けてくれ……』

 

 ドラゴンが喋った。


『我の負けだ、人間の勇者よ』


 いや、勇者じゃなくて原型師なんだけどね。 


『この領地なわばりを放棄すると約束する……どうか命ばかりは助けてくれ……』


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


「と、言ってるんですがムトーさん」


「ぼくも(中略)の視点でモニターしてるから、聞こえてるよ」


 (中略)先生が、ずりずり足を引きずりながら、ドラゴンに近づいてくる。


『洞窟から出てきてくれ……話がしたい』


「出た途端にブレスをかけられたらおしまいだよね」


「あのビームはもう一発撃てます。変な様子を見せたら次は心臓を狙って撃ちますよ」


「ここに篭っていても仕方ない。覚悟を決めようか」


□□□□■□□□□◆□□□□■□□□□◆


 俺とムトーさん、ハウは洞窟の入り口に出た。


 ドラゴンは、洞窟の入り口に立っていた。


 斬られた肩がぶらーんと垂れ下がっている。


『グウウウ……』


 胴体側の切断面の肉がもぞもぞと動き出し、中から肉が盛り上がっていく。


「「えっ!」」


 新しい腕が生えた。 


 垂れ下がっていた肩と腕が、押し出されて、ずしんと、地面に落ちる。


 どんと、地面が揺れた。


「すごいですねドラゴン……」


「まぁ、体の大きさ変えられるみたいだし……あのくらいはできちゃうのかな……」


『あの攻撃。手加減をしたな?』

 と、ドラゴン。命乞いしてるのに、偉そうだなこいつ。


「……」


『何故首を落とさなかったのだ?』


「ドラゴンて、喋るし、人間みたいだから。抵抗があったというか……」


 思ったままを話した。


『人を食べるドラゴンでもか?』


「……」

 答えにつまる。


「俺には出来なかった」


『我はお前達を焼き殺そうともしたのだぞ?』


「俺は原型師であって、殺し屋じゃない。村の処女さんと材料のために倒しはしたかったけど、殺したくはなかった」


『……』

 ドラゴンは何も言わなかった。


『ウロコを欲しがっていたな? こいつを持って行くといい』


 ドラゴンは、地面に落ちた肩のついた腕を咥えて、俺達の前に置き直す。


 どんと、地面が揺れた。


『肉も粗末にするなよ』


 ドラゴンは翼を広げた。


 太陽光が遮られてあたりが真っ暗になる。


 はばたく。


 巨体が揚力を得るために、台風のような突風が巻き起こり、俺達は立っていられない。


 ドラゴンの姿は、みるみるうちに空の彼方へ消えていった。


「行った?」

 と、ムトーさん。


「ええ、引き返してはこないと思います」

 と、俺。


 上空から、1/12ガーネットを抱えた疾風が戻ってきた。


 ドラゴンの反撃にそなえて、バルムンクの慟哭の2射目を撃てるようにドラゴンの背中に張り付けたままだったのだ。


 とにかく。


「はー」

 と、倒れこむ俺。


 洞窟を転がったりして、体中を怪我してる。


 戻ってきた疾風を手でつかむ。


 返り血でどろどろだ……。すぐ中性洗剤で洗わないと色が残るかもな……。


「勢いでドラゴン狩りに来ちゃったけど……、勢いでするもんじゃなかったねぇ」

 

 同じくボロボロのムトーさんも、流石にしゃがみこんだ。


「ここ。ゲームみたいな世界だけどさ、ここに住んでるのはゲームのキャラクターじゃないだよね……」

 と、ムトーさん。


「そうですね……そうなんですよね。ドラゴンを倒せると思ったから、退治の依頼は引き受けたけど……」


「大いなる力には、大いなる責任が伴うってやつだなぁ」


「アメコミのヒーローのセリフでしたっけ?」


「ああ。そのフィギュア、仕事で作ったことがあってさ」


「そうなんですか」


「ごはん」

 と、ハウ。


「……腹減ったなぁ」


「僕もぺこぺこだ。……帰ろうか」


 そういうことになった。


 拙作はいかがだったでしょうか?

 続きは頑張って書きたいのですが、書く力を得続けるには、ポイントの力が必要です!!!


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