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74 おつかれな部下

「ディートヘルムに稽古をつけてもらってるのですか?」


 合鍵を渡しているので自宅で先に待っていたエステルが、疲労の色が濃いヴィルフリートの顔を見てちょっと心配そうに声をかけた。

 そんなに分かりやすかったかな、と苦笑してコートを脱いでクローゼットにしまう。


「ええ、指導してもらってます。といっても勤務時間外の空いた時間を割いていただいてるので申し訳ないのですが」


 エステルに先に自宅へ向かわせたのは、エステルの指摘通りの事をしていたからだ。

 先日会った際何か企んでいるな、とは何となく思ったものの、実際に訓練室に引っ張られるまでまさか自ら教えてくれるとは全く思っていなかった。


 ディートヘルムも多忙だろうに時間を割くのは、おそらくタイムリミット(イオニアスの体調)があるからだろう。

 やはりというかイオニアスの体調は思わしくないので、寿命が尽きる前に強制的に代替わりさせる、そのための準備をしているのだ。イオニアス本人のため、そして何よりエステルのために。


「それだけ期待されているという事ですよ。ディートヘルムは見込みない人には全く見向きもしませんから」

「見込まれているのは有り難いですが、やはり手厳しいですね。いえ、とても充足感は感じていますが、肉体的な疲労は免れませんから」

「どうですか、手応えありますか」

「そりゃあまあ。閣下は教えるのが上手いですね。若干スパルタですが」


 私的時間をこちらに割いてもらっているのはありがたい限りなのだが、その分時間を無駄にする気はないらしく徹底的に教え込もうとしている。


 もちろん彼の教え方が上手いのでヴィルフリートも学びやすいのだが、教育方針が肉体に刻み込む、という方向なので、とにかく実践、検証、再試行。出来なければどうして駄目なのか考えさせた上で繰り返す。

 手取り足取り教える訳ではなくて感覚をつかませるように誘導していくのだ。時おり物理的に痛い目に遭うが、これはしかたない。


 かつてディートヘルムに師事していたエステルも心当たりはあったのかくすくすと笑って「まあディートヘルムなりの激励なんだと思いますよ」と感想を述べる。


「いわゆる愛の裏返しですね」

「師弟愛って素晴らしいですね、はは」

「何でそんな虚ろな瞳を」

「いえ、エステルへの愛ゆえの力の入りようだな、と」


 ディートヘルムに気に入られている自覚はそこそこにあるが、あくまでエステルを大事にするがゆえにこっちも気にかけてもらっている、というのが強い。

 可愛い娘の側に置く男は優秀でなくてはならない。公私合わせてエステルを支えられるように。


「ディートヘルムはヴィルのためにもやってますよ、私のためである事も否定はしませんが」

「まあ気にかけていただいているのは自覚ありますから。俺は恵まれてるのでしょうね」


 若くして筆頭魔導師補佐官までのぼりつめ、そして筆頭魔導師を支え続けてきた彼は、ヴィルフリートよりもずっと強い。

 魔力量や感応能力だけでいえば、ディートヘルムを上回っている。しかし経験や技術は圧倒的に彼が上だ。魔力の扱い方、魔法の使い方、判断力、それらは一朝一夕では身に付かないものであり、彼の足元にも及ばない。


 それらを含めた実力をなんとしてでも身に付けるべく師事しているのだが、簡単に会得できるものでもないのだ。


「……何だかヴィルに負担かけてる気がします」

「いえ、俺が望んでした事ですので、いいのですよ。充足感がありますし、何より、俺は結構何かに励む事が好きですから」

「ヴィルって勤勉ですものね」

「勤勉かどうかはともかく、実力がついていくって実感がありますから、意欲もわきますよ」


 昔から勉強は好きであったし、鍛練も好んでしていた。実家の手伝いがない時は自ら魔法を練習していたので、ディートヘルムとの訓練そのものは精神的には苦ではない。


 しかし体は疲れているので、今日は湯船でゆったりと休みたいところだ。


「さ、それはさておきご飯を作りましょうか。さくさく作ってさくさく食べて、湯船で体をほぐしたいですし」

「やっぱり疲れてますよね。ご飯作ってもらってごめんなさい」

「いえ、俺も食べますし、あなたの笑顔で充分に癒されますから。幸い怪我はしてませんので、風呂と睡眠で翌日に持ち越さない程度の疲労ですよ」


 エステルとしては疲れているヴィルフリートに更に疲労を重ねさせるのが申し訳ないらしいが、もはや日課なので苦でもない。

 そもそもある程度朝に仕込んだりしているので、さほど手間がかかるものでもないのだ。動けないほどの疲労ではなく、心地よい気だるさ、と言ったらよいのか。


「……うー。その、あとで癒してあげますから!」

「具体的には?」

「……肩揉んだり、ぎゅーしたり? 膝枕でも可です!」

「それはそれは。楽しみにしておきますよ」


 エステルなりに精一杯甘やかそうとしてくれているらしく、張り切った様子。

 拒むつもりもなかったし、ここ最近忙しくてエステルとの触れ合いも足りなかったかな、と思っていた頃なので、丁度よかった。エステルとしてもヴィルフリート成分なるものの補給になるだろう。


 ありがたく厚意は受けとる事にして、ヴィルフリートはエステルの頭を撫でてからキッチンに向かった。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。今年中に完結させるつもりでしたが無理ですねこれ(確信)

今年度中に完結出来るように頑張ります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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