閑話
四ヶ月以上放置して誠に申し訳ありません……!
「……エステル、何をやっているので?」
休日、エステルの昼食を作ろうとしたら、見慣れた薄桃色の髪を一つに束ねたエステルがエプロンを着けて厨房に立っていた。
そういえば数十分前からエステルの姿を見ないなとは思っていたのだが、こんな所に、それもエプロンを身に着けて居るとは思うまい。
基本的にエステルは食べる専であるし、料理しているところなんてほとんど、というか全く見ない。出来るとも思っていない。
ヴィルフリートの言葉にエステルは少し慌てたように視線を泳がせたが、意を決したのか恐る恐る口を開く。
「その、いつもヴィルにご飯作ってもらっているから……たまには私もしたらどうだって、お兄様が」
「イオニアス様が?」
「たまには作り手の苦労を知ればどうだい、って。確かに私も作ってもらってばかりですし、大変そうなので、少しでもヴィルの気持ちを理解できたらなって……」
イオニアスの提案は悪いものではないが、彼はおそらく面白半分で唆したに違いない。
ヴィルフリートとしては、どんな事がきっかけであれ、エステルが料理に興味を持ってくれた事は嬉しい。
ただ、するならヴィルフリートの目の届く所でしてほしいものである。
「そのお気持ちはとても嬉しいですが、出来れば俺の居るところでして欲しいものですね。周りのシェフも急な事で困っていらっしゃいますし」
「う……」
ちらりと周囲のシェフを見れば、ヴィルフリートが来たので一応下がったものの彼らは忙しそうにしつつこちらをちらちら見ている。厨房で何かしでかさないか不安なのだろう。
「とりあえず、端をお借りして一緒に料理をしてみましょうか」
「迷惑とかでは……」
「あなたのする事を迷惑だとは思いませんよ。事前に相談してほしくはありましたが」
「……ヴィルをびっくりさせたいなって。日頃の感謝も込めて、作りたかったんです」
「……ありがとうございます、お気持ちはとても嬉しいですよ。でも、今日は一緒に作りましょうね。お怪我をさせる訳にもいきませんから」
エステルの愛情を確認出来てじわりと胸が温かくなるが、それはそれ、これはこれ。
シェフ達の手を煩わせる訳にもいかないので、ここは手取り足取り教えるべきだろう。
はにかみを見せるエステルを抱き締めたい気持ちを抑えつつ手を取れば、はにかみは喜びの色を強くにじませた。
結果から言えば、大惨事は未然に防がれた。というか防いだ。
彼女に包丁を使わせれば厨房に鮮烈な赤色がお目見えしそうだったので焼くや炒める料理に限定させたのが功を奏したのだろう。
目を離さないようにして逐一アドバイスという名の軌道修正を図ったので、被害というような結果にはならなかったのだ。
ただまあ、慣れた人間が作ったように、綺麗なものが出来るかと言えばそうではないが。
「……うー、あんまり美味しくなさそうです」
折角晴れているのでテラスで食べようという事でテラスにあるテーブルに先程作った料理を並べたのだが、エステルは分かりやすく肩を落としていた。
皿に盛られているのは、形が崩れた目玉焼きにカリカリを通り越してやや黒ずんだベーコン、細かくちぎられ過ぎたレタスのサラダに軽く焼き色をつけるつもりがきつね色をオーバーした焼き色のパン。ずぶの初心者が出来るようなメニューを選んだのだが、それでも失敗はちょこちょこ起こっていた。
がっかりした様子で隣に座るエステルに、ヴィルフリートも料理を始めたての頃を思い出して苦笑い。
「はじめてはこんなものですから」
「でも、ヴィルに美味しくないものを食べさせてしまうのは」
「そうでもないですよ。多少見かけが悪くても、味付けは一緒にしたのですから」
焼き加減は正直言えばきついが、味付け自体はヴィルフリート指導の下行ったので普通の味付けだ。焦げた味はするかもしれないが、まずいというものではないだろう。
それでも、エステルとしては複雑なのか「……うー」と唸り声をあげている。
ちょっぴり拗ねた様子のエステルに、ヴィルフリートは薄桃色の髪をゆっくりと撫でる。
「では、最後にエステルからスパイスでもかけてもらいましょう」
「……スパイス?」
「ええ。まあ、なんというか……食べさせてもらったら、なおの事美味しく感じるのではないかと思いまして」
言っていて恥ずかしくなるのだが、あーん、というのは気分的に美味しくなる、気がする。
ヴィルフリートの躊躇いがちな提案に、エステルは目を丸くしたあとぱあっと輝かせ、フォークにガリガリのベーコンを刺して、ヴィルフリートに差し出す。
躊躇いもなく口にすれば、やはりベーコンは固くなっているし旨味も多少逃げていたが、エステルが頑張って作ったという努力がまた別の旨味を付与しているように感じた。
「……美味しいですか?」
「美味しいですよ」
「お世辞八割くらいでは?」
「……三割ですかね」
「やっぱり」
「すみません。でも、愛する人が作った料理は美味しく感じるものですよ」
「消し炭でも?」
「消し炭は料理にカウントするか審議が必要ですね。……俺が居る限り、そうはさせませんよ」
「えへへ、はぁい」
鼻を小突くとくすぐったそうに笑って、エステルは隣に座るヴィルフリートの二の腕辺りに額を押し付けるようにくっつく。
幾ら敷地内とはいえ外で身を寄せあって過ごすのはどうかと思ったが、エステルが幸せそうに笑っているので、窘めるのはやめた。
代わりに、側にある手を握る。
「……いつか、私も美味しいって言わせて見せますからね」
小さく囁かれた言葉に「期待してますよ」と返して、ヴィルフリートは小さな手に指を絡めた。
四ヶ月も放置してすみませんでしたぁぁぁぁぁぁ(土下座)
更新停滞した挙げ句報告まで遅れてしまって申し訳ない限りです……!
お知らせが大変遅れましたが、この腹ぺこがカドカワBOOKS様から5/10に発売いたします! もうすぐですねはい! 既に店舗にならんでいる書店もあるそうです。ご報告が遅れてすみません!
イラストレーターは朝日川日和先生です。
既に書影は活動報告にアップしておりますのでよろしければご覧下さい!
特典情報ですが
ゲーマーズ様 SSペーパー
メロンブックス様 SSリーフレット
ワンダーグー様 ポストカード
TSUTAYA BOOKS様 SSペーパー
となっております!
ご興味のある方はお手にとっていただければ幸いです。
ちなみに書籍版腹ぺこですが、基本筋は変わりませんが書き下ろしが割とあったりイオニアスの出番が増えたりしています!
イオ兄さんのやさぐれモードが健在の貴重な時期のシーンが増えました。あとエステルがかわいいです。ここ重要です。イラスト見たらわかりますがエステルがかわいいです。現場からは以上です。
これからはなるべく更新出来たらと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします……!




