リクエストSS:王様げぇむ
pocket様リクエスト『雪山トリオ+マリエラがゲームで勝負するお話』です。
リクエストありがとうございました!
マリエラ、さすがは主人公。つよい。
※王様ゲームとは
飲み会などで定番のレクリエーションゲームの一種。
ランダムに決まった「王様」が出した命令(罰ゲーム)を、ランダムに決まった参加者が行うレクリエーションである。(wikiより)
「王様ゲーム? なにそれ、すっごい名前だね?」
「帝都の若者たちの間ではやりのワクワクドキドキ親密度アーップなパーティーゲームさ!」
「帝都ではやり!」
『ヤグーの跳ね橋亭』でいきなりエドガンがぶっこんできた。
また振られたとか、二股したとかされたとか、そもそも付き合っていないとか、エドガンにとっては日常茶飯事過ぎて最早どうでもいいのだけれど、常時出会いを絶賛募集中のエドガンのでっかい釣り針に、なぜかマリエラがかかってしまった。
“帝都ではやり”なんて単語に惑わされるとは、人間、急にお金を持つとトチ狂ってしまうのは、マリエラも同じらしい。
マリエラを守るのは護衛である自分の仕事だとジークが参戦を表明し、ジークばかりにいい格好はさせられないとリンクスもこれまた参戦だ。
「そこのオネーサンたちも一緒に遊ぼうぜ!」
「私たちは見てるわ。かっこいいところを見せてね、エドガン」
ジークにリンクス、そしてサル。男性側のメンツの内、2人は飲食以外の金を落とさないことを『ヤグーの跳ね橋亭』の女性たちは知っているから、こんな遊びに参加するはずもない。迷宮都市の女性はみんな強かなのだ。
マリエラが釣れた時点でエドガンの負けは確定していたのだけれど、気付いてないのかめげないだけか、「えー?」とか若干不満そうな声をあげながらも、男3女1の王様ゲームは『ヤグーの跳ね橋亭』の客と店員たちの好奇の目を集めながら始まった。
「王様だーれだ?」
「俺だな。じゃあ最初は無難に、1は語尾に“ピョン”を付ける! 1誰?」
「……俺だ」
「“ピョン”つけろよ、ジーク」
「…………俺ピョン」
「よっし、次々―。どんどん行くぞー」
最初に王様を引いたのはリンクスで、最初の犠牲者はやはりというかジークだった。
ウサギは鳴かない動物だから寡黙なジークにあっているのかいないのか、少なくとも“なるほどこれが王様ゲームというやつか!”という顔をしているマリエラには“違うぞ”と言いたいところだが、王様ゲームは待ってはくれない。
「王様だーれだ?」
「私、私! 2は自分のことを“おいどん”っていう! 2は誰? 誰?」
「……おいどんピョン」
「ぶっは、ジークまたか」
もはやセリフから誰か判別できないというか、逆に分かりやすくなったというか。王様ゲームというよりはお子様ゲームのような稚拙さを払拭したのは、次なる王の降臨だった。
「王様だーれだ?」
「うっひょう、オッレー。王様ゲームってのは、こういうやつなんだよ! 1が2にちゅ……」
ギロリ。
ジークの隻眼が光りリンクスの影使いの能力がエドガンの動きを阻害する。
“男女比分かってんのか、テメェ……”
恐るべき無言の圧力に、この場で一番強い戦闘力を持つはずのエドガンが思わずたじろぐ。
「…………あくしゅ。1と2は握手」
ガッシ。
1と2はやはりジークとリンクスだったらしい。
“エドガンを潰そう”
無言で手を握り合う二人の意思は今確認され、ここにエドガン王政打倒に向けた反乱軍が結成された。
「王様だーれだ?」
「俺。えっとー、さ……2は手持ちのドリンク一気飲み」
「えー、オレじゃーん。……ゴッゴッゴ、プハー。ちゅぎちゅぎぃ~!」
エドガンを潰したいなら酒を飲ませるだけでいい。2,3杯飲ませればエドガンなど簡単に潰せるのだ。マリエラは幸いソフトドリンクだから潰れる恐れはないだろう。
けれど問題なのはこのゲーム、運の要素が非常に強い。リンクスとジークは“エドガン潰そう協定”を結んでいるから、リンクス王はジークの表情を読んで2択でエドガンを指名できるが、ジークは全然王様を引かない。そして何よりマリエラが王様を引きまくるのだ。
“王様ゲーム”をイマイチ理解していないマリエラのお陰で、エドガンが1杯酒を飲む前に、ジークの自己紹介は「おいどんは、ジー子なのですニャー、ピョン(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」になっている。思わぬ伏兵だ。そしてジークが弱すぎる。
「王様だーれだ?」
「オレェ~。ひゃは! 3は~、なんか一枚脱ぐ!」
ゴン。右足の靴を脱ぎ、無言で床に置くジー子。
酒の入ったエドガンがついにエロガンに変貌した。1杯しか酒を飲んでいないのに男女比を理解できていないとは、知能はすでにサル並みか。
マリエラほどではないが、エドガンもなかなか強いのだ。ジー子軍、というよりジー子一人が大ピンチである。前衛タンク並みの被弾率だというのに、ジー子の装甲は薄いのだ。せめてバジリスク革の鎧を着ていればよかったのだが、普段のジー子はシンプルな装いでそう何枚も着ていない。
だがしかし、全然王様を引けなくたってジー子はマリエラの護衛――、いうなれば騎士なのだ。マリエラを守るためなら何枚だって脱ごうじゃないか。
そんな決意を滲ませるジー子のお姫様ことマリエラは、靴を脱いだジー子の様子に“閃いちゃった!”とばかりに目を輝かせていた。絶対に、ろくなことを思いついていない。
ジー子は思い出した方がいい。マリエラは運だけは強いのだ。
戦闘力、特に筋力が高い様子を動物に例えることはままあるが、その尺度を拝借するならマリエラの運はゴリラ並みだと言っていい。だから運が支配する王様ゲームの世界では薄幸のジー子こそが姫君で、豪運ゴリラのマリエラが守ってあげるべきなのだけれど、その状況に気付くどころかマリエラの攻撃のほぼ大半がジー子に着弾してしまっている。
そしてまた、“思いついちゃった”ゴリエラの新たな攻撃がジー子とエドガンに着弾だ。
「王様だーれだ?」
「私! 2は3を足つぼマッサージ!」
「おいどん、マッサージするですニャー、ピョン(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
「ぎゃー、いてぇ! いてぇよ、ジーク!」
「ぐはっ、エドガンの足くさすぎるですニャー、ピョン(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
「ギャハハハ、いいぞー、もっとやれ!」
いつの間にか、ギャラリーまでも集まってきた。それもエドガンが来て欲しい店のオネーサンたちではなく、酔っぱらったむさくるしい冒険者ばかり。体を張った芸人のライブのような有様だ。
男3女1という構成に初めはマリエラに下種な目を向けていたオッサンも、豪運ゴリラの華麗な攻撃に今では少年のようなキラキラした視線で足つぼコールを送っている。
「いち……じゃなくて3は一気飲み! ってマリエラかよー」「飲むねー、ごくごく……」「イッキ、イッキ、イッキ、イッキ!」
「1は3に足つぼマッサージ!」「アーシツボ! アーシツボ!」「ギャアアアア!」
「1はなんか脱ぐ!」「またおいどんですニャー、ピョン(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
「3は1に足つぼマッサージ!」「アーシツボ! アーシツボ!」「ギャアアアア!」
「2はなんか脱ぐ!」「エドガン、いいかげんそれやめろ! ですニャー、ピョン(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
「2は3に足つぼマッサージ!」「アーシツボ! アーシツボ!」「ギャアアアア!」
「に……じゃなくて1は一気飲み!」「イッキ、イッキ、イッキ、イッキ!」「うべぁー」
「1は2に足つぼマッサージ!」「アーシツボ! アーシツボ!」「ギャアアアア!」
「3はなんか脱ぐ! ってまたジー子かよぅ!?」「あああああ! もってけドロボーですニャー、ピョンー!!(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
「王様だーれだ? ……うおぉ! やった、やったぞ! 王様は服を着る! ですニャー、ピョンー!!(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」「えー、ぬいじゃえよー」「ブーブー」
今夜の『ヤグーの跳ね橋亭』はもはや興奮のるつぼ状態だ。客も店員も一体となった盛り上がり様で、足つぼに至ってはツボ押し棒なる凶器まで登場する始末だ。
少なくとも、王様ゲームの雰囲気では決してない。そのことにようやく気付いたエドガンが吠えた。
「こんなの、王様ゲームじゃねぇぇぇぇ!!!」
「え? そうなの???」
王様のくじを手にコテンと首をかしげる王者マリエラに、平民エドガンが直談判だ。
「そーだよ。マリエラちゃん、さっきから足つぼばっかじゃん! もっとさ、王様らしい命令しようぜ。王様なんだから、もっとこうゴーマンなやつ。ほら、アタシが女王様よーんみたいなの!」
「女王様……」
「そう、女王様! ビシビシバシバシみたいなの!」
「エド兄! マリエラに変なこと教えんな!」
「そうですニャー、ピョンッ!(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」
さすがはエドガン。ろくなことを教えない。今は酒が入っているから、特にどうしようもない。
対するマリエラも、店中が一体となった興奮に気持ちが大きくなっているようだ。
「ビシバシの女王様……」とつぶやいた後、ウンとばかり頷くと腰に手を当て、せいいっぱいふんぞり返って王様もとい女王様の命令を下した。
「ジークはそこに四つん這い!」「マッ、マリエラ!? ですニャー、ピョン?(両手でうさ耳ジェスチャー付き)」「おぉ……!!」
これはなかなか女王様らしいかもしれないと、新たな展開に固唾を飲むギャラリー。
「エドガンさんはその隣に四つん這い!」「へ? オレも?」「おぉ……!?」
どうやらマリエラ女王は、全員に命令を下すようだ。ゴーマンだ。実に女王様らしい。
「二人の上にリンクスが四つん這い!」「……いいけど、マリエラ落ちんなよ?」「おぉー……??」
3人もの男たちを這いつくばらせ、ゴーマンな女王マリエラはうんしょうんしょとその上に昇る。
ぱぱーん。
そんな効果音が聞こえそうなドヤ顔で、両手を上げて岩山のゴリラよろしく頂点に君臨するマリエラ。万歳をするマリエラに店の客たちも「おー!」「おー!」と歓声と惜しみない拍手を送ってくれる。
カンペキだ。ちょっとフラフラしているが、今のマリエラは間違いなく女王様に違いない。
「……マリエラちゃん、それ、女王様じゃなくて組体操」
「へ?」
「……マリエラ、危ないからおりような」
「……あぁ、王様ゲームもこの辺でお開きにするか」
「……そうだな。いい感じに決まったみてーだし」
アンバーさんの温かい忠告と、生暖かい眼差しで我に返ったマリエラたちは、客たちの声援になんだか居心地が悪くなって早々に『ヤグーの跳ね橋亭』を後にした。
「あー、なんか、すっげぇ体の調子いいんだけど。エド兄どうよ?」
「オレも。足つぼマッサージすげーな……」
翌朝、ジーク、エドガン、リンクスの3人には足つぼマッサージの効果で爽やかな目覚めが訪れたので、マリエラ女王はもしかしたら名君だったのかもしれない。




