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俺の冒険  作者: 黄昏人
第8章 終章、俺は地球世界と異世界を変えてしまった
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ロリヤーク領、哀れな強盗団

読んで頂いてありがとうございます。

 ギザン・スラムは赤の盗賊団の団長である。赤の盗賊団は、かつてカロンとシーダルイ領の間に巣くっていた盗賊団の残党に、ミザラス公爵家の領軍から落ちこぼれたもの達が集まったもので、150人もの戦闘員がおり、女や下働きの者も50人を超える。


 スラムは、ミザラス領軍の隊長クラスであり、3千人の領軍の中でも魔法を織り交ぜた槍の腕は3本指に入るほどであったが、粗暴な振る舞いが多かった。このため、ミザラス家が伯爵へ降爵されると共に整理された領軍の一員であったのだ。


 その時に連れて出た部下と共に、暁の盗賊団と名のって活動していた盗賊団を乗っ取り、ミザラス領軍のシンボルカラーであった赤を入れて赤の盗賊団と名のることにしたのだ。彼らの本拠は、新たに出来たジャーラル帝国の新南西領群との国境に接しているある男爵領であり、領主のコロマイ男爵を抱き込んでいる。


「では、団長。次はカロンの近くのロリヤーク領を襲う訳ですね?」

 副団長のパイルが聞く。


「おお、あそこは新南西領群の中でも小さいところでは際立って景気が良い。まあ、シーダルイやカロンは流石に軍でないと相手に出来んからな。森林の近くで城壁もないし、領軍も100人足らずだ。街にはマーケットと言う大きな商店があるし、領民も豊かだから略奪するものがいくらでもある。

 さらには、異世界から伝わった飛翔機や自動車、畑を耕す機械などがあるから、これらが2~3台手に入れば大金になるぞ。それに、ロリヤーク男爵家には金が唸っていると言う」


「しかし、団長。いままで、あそこは何度か襲われそうになったようですが、あっさり退けていうと聞いています。それに、飛翔機は確かにとんでもない御宝ですが、あそこの領軍はそれを使っているようですよ。甘く見ない方がいいと思いますがね」


 盗賊団の5つの小隊の第2小隊の隊長のカメルが言う。

「甘く見るつもりはないぞ。金持ちは守りも堅いものだ。今回は無論深夜に攻め込み全力で行く。まず領軍を無力化するぞ。実はいい物が手に入ったのだ」


 スラムは応え、足元にあった箱から握り拳ほどの金属の塊を見せる。

「これは手榴弾という爆発するものだ。これを引き抜いて相手に投げつければ爆発する。カリューム侯爵家の領軍から盗みだしたものだ。20発ある。大分金を使ったがな。連中の銃は残念ながら手に入らなかった」


「ふーん。団長がそこまで言うならやりましょう。銃は人数分を手に入っているのですな?」

「ああ、残念ながら連中が持っているものに比べると劣るがな。火縄銃と言う奴で、帝国から旧式銃として流れてきたものだ。それでも、弓よりはずっと良い」


 かくして、赤の盗賊団は戦闘要員の150人全員と、食料や弾薬などの貨物輸送や雑務の20人によって国境を超えてロリヤーク領を目指した。国境と言っても、それなりの道路や人家のある地域以外には柵や門はないので、超えることは難しくなない。


 軍団が勇ましくと言いたいところであるが、服装はばらばら、ぼろを着た者も多い。刀や槍、銃を肩にかけているので戦闘集団ではあることは間違いないが、落ち武者に近い様子だ。進む戦闘要員の内、馬に乗った者は30人であり、残りは徒歩である。


 彼らは出来るだけ人影が少ない地域を歩いている。イミーデル王国は面積の割に人口は少ないので、人口が希薄なところは多く、そうしたところを縫って通るのは難しくはない。ただ踏み分け道を主として通るので馬車については、通行に苦労している。


 5日の行程で、ようやくロリヤーク領の境の伐採後の森林に近づき、大休止をとる。そこは、ロリヤーク領の製紙、木工のために伐採したところで、伐採後に植樹されてそれは5mほどまで育っている。このエリアは作業車も通るので、割に歩きやすく馬車が通るスペースも確保されている。


 そこから領主館とその近隣のロリヤーク中央町まで約5㎞であるため、暗くなって出発しても2時間はかからない。領軍は領主館から少し離れた所に駐屯地があり、宿舎と事務棟や演習場があってそこに要員の多くは暮らしているが、家庭持ちは中央町で暮らしている。


 戦闘隊員102人の彼らの戦闘輸送機材は、飛翔機が2機、ランドクルーザーが2台、ピックトラック改造の戦闘車3台、トラックが8台であり全員が自動小銃、ピストルを持ち戦闘時には手榴弾を各自2発持っている。さらに、無反動砲を5基もっていて、戦闘車には重機関銃が積んでいる。


 だからロリヤーク領軍は、全員が車で移動できる機動戦闘団であり、ハウリンガ世界であれば、数千人の相手に戦える構成である。そして、彼らの銃器は地球でも新しいもので、銃器のレベルが制限されているシーダルイ領軍ですら持っていないものだ。これらは、俺が密かに調達して供給したものだ。


 また、装備は備えても使いこなしが出来ないと意味がないが、その点は俺が費用を負担して、地球から傭兵団のインストラクターを3人雇って2年間訓練している。しかも、その一人が地元の女性と結婚して領軍の将校として勤務している。


 赤の盗賊団は、当然密偵を送りこんでこうしたロリヤーク領の地理及び、領軍の駐屯地等は調べていたが、秘密にされている装備については表面的なことしかわかっていない。彼らが知っているのは、領軍が少なくとも1機の飛翔機を持ち、トラックなどの車両を運用していること、さらに各兵が小銃を装備していること程度であり、その小銃が自動小銃であることも知らない。


 彼らには、兵の全てが車両によって移動でき、各兵が自動小銃を持って、かつ無反動砲も使えて、車両の数台が機関銃を備えた戦闘車であるという意味が理解できる訳はない。とは言っても、無論どのような精強な軍であっても不意を突かれ、攻撃を受けた場合には大きな損害を受けることは間違いない。


 赤の盗賊団はその点に重きをおいて深夜の攻撃を選んだのであるが、一方でロリヤーク領へ移動し進入するのに人里を通る必要がないということは彼らに有利な点でもあった。

 赤の盗賊団からは、日没後暗くなってから2人にベテランを偵察に送り出した。出来るだけ村人に似せた服装で、普段ははやしている無精ひげもちゃんと剃って出かけている。中央街の主要道路には街灯があるが、中でも商店街の100mほどにはアーケードがあって明るく照らされており人通りも多い。


 彼らは、真っ暗な伐採された森を抜けて、街灯がある街並みに入るが、明るい商店街は避けて街灯に照らされた裏通りを歩いて、領軍の駐屯地に向かう。途中ぼつぼつと通行人とすれ違うが、特に彼らに注意を向ける者達はいない。


 駐屯地の正門や塀の前をさりげなく通り過ぎるが、家庭持ちはすでに自宅に帰った時間であり、本部棟の玄関には灯りはついているものの人影はない。一方で、同じ敷地の2階建ての兵の宿舎では各部屋のカラス窓に明かりが映っていて、兵は宿舎に帰っているようだ。


 さらに領主館には明かりがついているが、外に人影は見えず、何も警戒していない様子だ。偵察を任された賊のひとり、ズキムは相棒のペールムに囁く。

「おい、ペールム、何も警戒していないな。こりゃあ楽だ。すぐ帰るぞ!」


「馬鹿、慌てて帰っても意味がないぞ。どのみち、本隊が攻めるのは人通りが途切れてからだから、あの三日月が中天に昇ってからだ。真夜中だな。その頃にはあの宿舎も寝静まっているはずだ。ゆっくり帰るぞ」


 2人の報告に団長のギザン・スラムは大いに満足し、得意げに周りに集まっている小隊長を見回した。

「そら見ろ。気が付かれていなにぞ」

 それを聞きながら、第2小隊長のカメルが尚も聞く。

「ふーん。お前らが怪しまれることはなかったんだな。何人くらいとすれ違った?」


「ああ、そうだな。10人位はすれ違ったが、2人は後ろから抜いたぞ。俺らは普通に歩いていたが、そいつらはゆっくり歩いていたのでね。半分ほどは一応こっちを見たが、興味はなさそうでしたぜ」


「それで、領軍の駐屯地内で外に人影はなかったんだな?」

「ああ、中が覗ける正門から見えた本部棟というのかね。その建物の玄関、それと通用門から見えた宿舎の外には人は見えなかったぜ。しかし、塀で隠されたところに、人はいたかもしれんがな」


「ふーむ。そうであれば、連中は俺らに気付いていないと思っていいかな」

 そう言うカメルにスラムが言う。

「ああ、カメルももういいじゃないか。まあ、お前くらい慎重な者も一人くらいも居なくてはな。じゃあ。そうだな。月があの木にかかったら出発だ。それまでに、銃の手入れと、弾の準備、それに刀や槍をちゃんと準備しておけ。カーゼイラ、弓班はいいか、当分は銃が撃てんから、出会った奴は弓で片付けるぞ。いいな!」


「「「「「おお!」」」」」

 控えめな声があがる。

 そこは、森の中のくぼ地で、藪を切り開いた場所であり、焚火をしても外からは見えないところであり、そこに盗賊団は焚火を囲んで敷物の上に座り込んでいる。持ってきた馬車はそこに留める予定であり、積んできた武器・弾薬や食料を下ろし、帰りには略奪品を積んで帰る予定だ。


「まあ、帰りは連中のトラックというのを分捕るぞ。それに頂いた物は積めるから馬車は不要かも知れんな。ガハハハ!」

 馬車に関してそう言って笑ったスラムであった。


「時間だ、野郎ども、行くぞ」

 月が予定の位置に昇ったのを見て、スラムが立ち上がり言うと、待ち構えていた盗賊共が一斉に無言で立ち上がる。盗賊たちが銃を担いで、ぞろぞろ歩き始める中を隊長クラスが騎馬で交じる。馬はいななかないように人家のあるところでは、口にハミを噛ませることにしている。


 団長のスラムは先頭の馬上にあって、これからの事を思ってわくわくしていた。まず彼らは領軍の駐屯地までたどり着くことが第一である。それから、魔法使いに正門を突破させて、全員が銃を構えて駐屯地になだれ込むのだ。


 領軍の本部棟は殆ど空のはずで、大部分の兵は宿舎にいるので、魔法使いに火事を起こさせて、逃げ出してくる連中を片っ端から的にする。何人かの兵は捕まえて駐屯地にある自動車や飛翔機を分捕り、次は領主館、それから街を焼いて略奪する。銃を持ったこれほどの兵がいれば、抵抗する奴がいても問題ない。どれほどのお宝が手に入るか本当に楽しみだ。


 などと妄想にふけるスラムであった。だが、彼の兵団は、上空からドローンで見張られていることに気付かなかった。そもそもロイヤーク領は、雇ったインストラクターの提言で、外務からの勢力が進入可能な地域には集音器とカメラが仕掛けられている。だから、赤の盗賊団は領の境付近に来た時から補足されていたのだ。


 侵入者を検知してからの監視方法として、反重力ドローンを使っている。これは全く音がしないため、まず見張っている対象から気付かれることはない。盗賊団によるズキムとペールムの領内の偵察も、ずっと上空から監視されていたのだ。


 そして、赤の盗賊団の接近の検知は領主に連絡が行き、当然領軍は第1級の警戒態勢に入る。だから領軍の駐屯地においても、領軍の幹部と兵全てが本部棟と体育館に詰めて残っており、2人が偵察に来た時点では出動態勢を整えていたのだ。


「ふーむ、まあどうせ深夜攻撃するつもりだろう。彼らの潜んでいる場所から、街並みまで2㎞ほどある。あいつらが出てきて、こっちに向かい始めたら街までの間でせん滅するぞ。途中の家の3軒の住民は避難させろ」

 ゼンダ・デラ・ロリヤーク男爵が、領軍事務所で領軍隊長のウェルス・カーチスルに命じる。


「はい、男爵閣下。その方向で作戦を立てます。彼らの輜重隊は捕虜にしようと思いますが、戦闘員の捕虜は取らなくても良いですな?」


「うむ、盗賊は強奪、殺人、強姦と碌なことはしておらん。そのような生活をしたものはもはや信用ならん。とは言え、武器を捨てて降伏を申し出たものは、こっちの安全を確保できれば捕虜にしても良い。輜重隊の者はまあ、攻撃から通り残されているから、捕虜にするのも難しくはないだろう」


 この領軍司令官である男爵の命令に、カーチスルは応じ、副隊長のミッチェル・ドノバンなどと相談して具体的な作戦を組み立てる。なお、カーチスルは古くからのロリヤーク家の家臣で、貧しい時代を男爵と共に潜り抜けてきた忠臣である。


 一方、ドノバンは国籍はイギリスである。彼は軍事インストラクターとして雇われて仕事をするうちに、領主館のメイドであった女性と恋仲になって、ロリヤーク領へ住み付くようになった人物だ。だから、領としては、地球人として教育を受け、近代兵器による戦闘経験もある彼の存在は非常に心強い。


 先頭を行くスラムは、暗い中でも三日月でぼんやり見える前方に、黒々とうずくまる何かに気付いた。そこは、ようやく伐採された森の跡を抜けて道の両側が広くなっている場所であるが、月の光を反射してつやつやしている。


 彼は自分の第1小隊の30人を率いて、馬に乗っているので、見晴らしが良く視線が高い。

「おい、レクス。あれは何だ?」

 傍にいた古手の部下に聞くと、レクスが唸るように応じる。

「分からん、しかし、何かやばいものだ。おい、あれはやばいぞ。聞くと、ここの領軍は、王国にはほとんどない自動車というのを使っているらしいじゃないか。あれは、ひょっとしたら……」


 まさに、古手の盗賊の勘は的を得ていた。彼が言い終わらない内に、そのうずくまっていた物がカッと光を放った。

「「「「うわー!」」」」


 盗賊たちは悲鳴を上げた。暗い中で精いっぱい目を見張っていた彼らは、正面からの強い光に一気に視界を奪われてしまった。距離にして200mほどだろう。それらはウオーンというエンジン音を立てて一斉に前進し始め、しかも連続した光の矢を瞬間後のドンドンドンという連続音と共に放った。


 先頭にいたレクスとレクスは、それぞれ旨と胴に熱い塊を受けて、自分の体のそこが弾けるのを感じたが、苦しむ間もなく意識を失った。胴体に径十㎝もの大きさの穴を明けられては人は死ぬしかない。3台のセミトラックは荷台に据え付けた重機関銃を乱射しながら、進んでくる盗賊団に向かって走っていく。


 射程が5千mに達する重機関銃弾は、幅3m余りで殆ど直線に並んでいた盗賊たちの2人から3人を打ち抜いてようやくその運動エネルギーを消費し尽くした。150人盗賊の戦闘団が壊滅したのはわずか5分足らずの後であり、結局車載の重機関銃によるものだった。


 その知らせを聞いたのは、俺とシャイラがロリヤーク領への里帰りから、日本へ帰って10日後のことだった。

「うーん。可哀そうな盗賊たちよね。今のロリヤーク領を侵略するのは、シーダルイ家が全力でも難しいのにね。でも、後始末が大半だったらしいわ。100人以上の人と30頭の馬の残骸でしょう」


 顔を顰めるシャイラの言葉に俺は応じた。

「まあ、でも過剰なくらいの警備をしていてよかったね。まあ、これでロリヤーク領を襲おうなんて奴らは出ないだろうよ。でも、無知は怖いね」


2025年、12/20文章修正。

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