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俺の冒険  作者: 黄昏人
第8章 終章、俺は地球世界と異世界を変えてしまった
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イミーデル王国、その後

読んで頂いてありがとうございます。

 ジャラシンが俺の顔を見ながら言う。

「実のところ、ジャーラル帝国が急速に変わっていることは、イミーデル王国は無論、周辺諸国もよく承知している。新聞が大陸中に広がっているからな。このシーダルイとカロンを中心とした、イミーデル王国から帝国に鞍替えした旧イミーデル領は、今では帝国で新南東領群と呼ばれている。そして、実質的にその変革の先どりをしているのはこの新南東領群ということも知られている。

 実質帝国の支配下にあったが、まだ独立を保っていた国や公国が、続々と帝国への統合を求めてきているそうだ。なにしろ、自分達の豊かさは良くて横ばいなのに、我が南東領群は無論、帝国もどんどん豊かになっていっている。


 5年前から、帝国では国の総生産という数字を出すようになったよね。あれで、去年は4年目にしてすでに帝国全体として3割総生産高が上がっている。また、新南東領群に限ると概ね4年間の生産高の増加は4割を超えている。

 一方で、残ったイミーデル王国も、我が領から知恵というか、生産方法が伝わっているから、経済は伸びてはいる。だけど、積極的に変わろうとするところと旧態依然の領で差が大きくなっているようだね。だから、逆に領同士の反目がひどくなっているが、王家にそれを調整する能力が無くなっているようだ。


 ミザラス公爵亡き今は、国にきちんとかじ取りをする者はいない訳だ。だから、王国でも我が新南東領群に近い領は、殆ど国境を閉じずに取引を継続しているし、領民の我が領への出稼ぎ、移住にも寛大だ。だから、新南東領群が帝国に併合された7年前の人口は55万人だったが、今では100万人に近くなっている。これら増えた人口の多くが、王国から来た連中だ」


「ほお、王国はそんなふうになっているのだな。であれば時間はかかっても、いずれは王国全体が帝国に併合を申し出ることになるだろうな。つまり、イミーデル王国の国全体の領主連中がシーダルイ領でやって来た開発を真似てやっていくなら、そのまま王国の体制を保ってもそれなりに経済成長はできる。

 しかし、それに抵抗する者がいて、それを国として排除できないということなら、結局王国は帝国の経済成長に大きく遅れることなる。だから、うまくやっている連中は王国にいる意義を見いだせずに、帝国に併合を求めることになる」


「うん、ケンジの言う通りで、実際に俺の方にそういう話を持ってきている領主が相当いるが、その場合には帝国は受けるのかな?俺も帝国政府にこのことを報告を入れてはいるが、どうもはっきりしない」


「俺の掴んだ感触では、帝国は基本的には積極的はないが受けざるを得ないと考えているようだな。この点は、ハウリンガ通商の帝都支店に確認させているので多分間違いないと思う。帝国の開発計画については、日本政府が関わっていて、専門家を送り込んで帝国の経済成長10か年計画に協力させたのは知っているだろう?」


「ああ、聞いている。10か年計画については我々領持ち貴族には渡されており、各領への説明会も開かれて、領ごとの10か年計画を立てることを求められた。我がシーダルイ領やカロン領については、自分なりの計画があったから楽だったけどな。

 しかし、あの10か年計画というのは何なんだ。我がシーダルイ領はすでに基盤があったからよかったけど、農業改革から始まって、漁業基地と船団建設、製鉄・製鋼所の建設、我が領の石油からの化学工場や繊維織物工場の建設、それに鉱山の開発などがあるよな。


 それに加えて交通手段の改善として、道路の拡張・新設にあの鉄道の建設、港の大改修に加えて、自動車工場、機関車・客車・貨物車などの工場に、造船所の建設も入っている。殆どの原資は帝国政府の持っているきんで賄うらしいが、それにしても帝国政府は莫大な金を持っていたものだな」


「ああ、貯えていた金は5千トン程度でたいしたことはないらしいが、帝国は凄い金鉱山を持っている。その採掘を早めるための設備投資を最優先にするから、ほとんどの開発費はその金で賄えるというな。借金なしに、あれだけの投資が出来るのだから羨ましいよ」

 俺が言うのにジャラシンが怪訝な顔で聞く。

「しかし、それほど金を使ったら、今後金貨を作るのに困るだろう?」


「いや、もう金貨は必要ないよ。紙幣を出す準備をしていると聞いている。チキュウでは今どき金貨などは記念品しかなくて、少額の硬貨を除き通貨は紙幣で賄われているし、大きな取引はその紙幣すら使われずに銀行間の信号のやり取りで終わりだ。まあ、そこまでは時間がかかるけどね。

 紙幣は発行元に十分な信用があれば混乱なく通用するよ。そして、ジャーラル帝国には十分な資産があり信用がある。だから、開発のためにきんを使ってしまっても全く問題はない。そして、その金を投じて作った設備や、インフラ、そして導入した新規の仕組みは投じた資金の何倍もの富を生む。帝国の将来は明るいよね」


 そう言う俺にジャラシンが話を戻す。

「まあ、我が新南東領群はすでに帝国を選んだのだからいいのだけど、問題はイミーデル王国の事だよ。放っておいても、ジャーラル帝国の領土になった我が領を攻められることはないけど、苦労している領主の息子・娘連中に結構知り合いがいるんだよね。何とかしてやりたいんだ、」


「ふーん。ジャラシンも人がいいことだな。まあ、そういうのは嫌いじゃないよ。ところで、ピエール王太子だったが、今は国王だよね?」


「ああ、その通り、ピエール陛下は暗愚ではないのだけど、人に引きずられ易いのだな。で、ミザラス公爵亡きあとは宰相のカーモフ侯爵が国政を牛耳っている。とは言えミザラス公爵ほどの抑えは効かないな。そのミザラス公爵は死ぬ前にジャーラル帝国に加わるように言ったらしいのだけど、王都周辺と東方面の領持ち貴族、領を持たない法衣貴族は殆どが帝国に加わるのを猛反対だ」


「まず帝国は、軍を使って併合を促すというのはやらないぞ。正直に言って、自国の開発で戦争どころじゃないだろうし、イミーデル王国などにそれほどの値打ちがあるとは思っていないよ。南東領群の場合は何と言っても発展著しくさらに石油があるシーダルイ領があったし、商工業都市であるカロンも魅力的だったからね。

 だから、君らは王国時代と同じという破格の爵位で移れたのだよな。だから、イミーデル王国が帝国に併合を求めても帝国が提供する待遇に王国側の貴族が満足するとは思いにくい。変にそこにジャラシンが絡むと王国側から逆に恨まれるぞ。まあ、王国の東側でその新南東領群の隣接の領は引き込むのは出来るだろうし、数はそれなりに多いのだろう?」


「ああ、そうだな。かなり反対派の領も挟まっているけど、こっち側の領と協力すればまとまって何とか出来るだろうな。近隣の領と自由に取引きできるとこっちも都合が良い。そうすると必然的に、そうした領が栄えるから王国に残った領は不満をもつよな。王国もそう長くは意地を張ってはいけないだろうよ」


「時間はかかるが、そう持っていくのが無難だと思うぞ。俺の方から日本政府と「ハ」世界開発機構には話を通しておくよ。だけど、王国側が軍事的に暴発することはないかな?現実を見ることのできない馬鹿は結構いるからな」


「ああ、やりそうな連中はいるが、もしそうなってもうちとカロンの軍で十分対処できる。俺たちの南東領群は辺境領として以前通りの軍を持つことが許されているからな。とは言え、面倒くさいからドンパチはやりたくはないよ。だから、金を使って抑えるようにしている」


「はは。それにしてもシーダルイ領は石油でウハウハだろう。利益の半分は帝国政府に持っていかれているが、半分と言っても帝国貴族領でも最大の収入になるだろう。使い道に困っているのじゃないか?」


「ああ、ケンジは知っているから言うが、今のところ石油の産出は50万kl程度だけど、日本との契約がまとまったので5年後には5倍以上になる。だから、今のところ領の石油による収入は4割だが、5年後には6割になると予測している。

 その石油収入は、確かに余剰になるので、領内のインフラ、農地開発、工場や産業基盤の整備にガンガンつぎこんでいる。この城の大改修もその一環だな。だから、その投資のお陰で5年後には石油以外の税、領直轄産業による領の収入は今の3倍を超えると見ている。そのうえでの石油が6割になるわけだ。

 元々我がシーダルイ領は、辺境ということで王国全体の3割以上の面積があったが、殆ど未開の土地ばかりであったのでいくらでも開発の余地はあるんだ。だから、5年後の人口は2百万を超えるという予測もある」


「おい、おい。それじゃあ。大変だろう。お前は休みが取れんのじゃないか?」

「いやいや、そんなことはない。このあたりの計画は、開発機構を通じて雇っている日本人の専門家に線を引いてもらってやっているし、その監理は、日本政府からベテランを派遣してもらっている。

 また、仕事のやり方は、地球世界のやり方でコンピュータを使って効率化しているので、夜を徹してなどということはない。俺の仕事は、全体の掌握と意思決定のみなんで、忙しいには忙しいが、週休2日で夕刻には家に帰っているぞ。なあ、アデリーナ。俺は休みもちゃんと取っているし帰りも早いよな?」


 ジャラシンは亭主の話はそっちのけで、女同士の話に華を咲かせていた夫人のアデリーナに話しかける。途中でシャイラは、アデリーナに連れられて幼いマリアンヌを見に席を一旦外していたが、帰ってきたところだ。そして、その時5歳の嫡男ミーライは下がらせている。


「え、ええ。そうね。たまに遅いこともあるけど、夕食には帰ってきてミーライやマリアンヌとも遊んでくれるわ。でも、お休みは確かに取ってはいますけど『お付き合い』という名のお出かけが多いわね。でも、私のお父様に比べると、ずっと家庭にかまって頂ける旦那様だと思いますよ」


 アデリーナは優雅に笑って言うが、実際に彼女は高位の貴族の令嬢として、夫が勝手をするのは当然という姿を見聞きしてきた。父にしても、品行方正と言われていたが、正妻の母の他に側妾を2人抱えていたし、共に食事をすることはまれであった。


 その意味では、ジャラシンは高位貴族の嫡男としては変わっていると言う声は聞こえていたが、行動力がある割に少なくとも女性関係の話は聞かなかった。それに、婚約時代に会った時の彼はすこしぎごちない点は感じたが、大事に思ってくれているということは判ってむしろ好感が持てた。


 結婚してからは、シーダルイ城での生活は、仮の設置であったが電気も使えて地球の製品に囲まれており、更に食も日本からほぼ全面的に取り入れているので、極めて快適な生活であった。またジャラシンも、自分を愛していることは実感できたし、優しく思いやりを持って接してくれているので、不満などはなかった。


 とは言え、彼女は結婚前からジャラシンに与えられた地球製のドラマなどを視聴して、イミーデル王国の常識と違う世界に触れてきたわけであるが、ジャラシンがその常識に相当染まっているのだと思う。そして、そのことは少なくともハウリンガ世界の女性にとっては幸せなことだとも思うのだ。


 彼女は話を続ける。

「多分夫のジャラシンは、私にとっては有難い方向でミシマさんの世界の常識に影響されていると思います。それは私にとっても、まだ幼い娘のマリアンヌにとっても、全てのこの世界の女性にとって良いことだと思います。

 それだけでなく、最近まで食べることも十分できなかった平民の貧しい者達が、美味しいものを選んで食べれるようになる。また、整った家に住むことが出来、きちんとした綺麗な服を着ることができる。さらには、働いてばかりでなく、休みを取ることもできるという生活ができる領を夫は作ろうとしています。これはミシマ様がもたらして下さったものです。その意味で、私はミシマ様に大変感謝しています」

 そう言われて、照れちゃった俺だった。


 その晩は少し遅くまで歓談して、そのまま城に泊まり、翌朝ロリヤーク領に向かった俺とシャイラだった。むろん使うのは飛翔機であるが、これは目的地をセットすると自動的に飛ぶ自動操縦によっている。飛翔機の場合には、地球にいても一定以上の高度を飛べば、地上を走るのに比べ障害物が少ない。


 だから、自動操縦とすることは非常に楽で安全性も高い。とは言え、地球では他の飛翔機も多く飛んでいるし、背の高い構造物などそれなりの障害物もあるが、ハウリンガ世界では基本的になにもない。とは言え、時々ワイバーンが襲ってくるので注意が必要ではあるが、ワイバーンを探知し避けるシステムは備えている。


「ねえ、前にロリヤーク領に行ったときは地上で強盗が出たわね。アデリーナに聞いたけど、少なくとも新南東領群では強盗団は全くいなくなったようね」

 彼女の話に俺は応じた。


「ああ、今では遠出の車は無線機を持っているし、警備隊が飛翔機を持っている。だから襲っても捉まっちゃうし、空からの哨戒飛行をしているから、強盗は存在できないだろう。それに、そんな危ない仕事をしなくても仕事はいくらもあるから、そりゃあいないだろうな。でもイミーデル王国には結構いるみたいだね」


 空から見る、ロリヤーク領は結構様変わりしていた。山頂から片流れの緩やかな斜面に広がる開けた土地という地形は変わっていないが、最下部の平地の緑に包まれた風景に溶け込んだ、2階建ての住み心地のよさそうな領主館が目に入る。建て直されたシャイラの実家であり、離れのこじんまりした家は俺とシャイラの家だ。


 領主館から300mほど離れた位置から、500軒ほどの街と呼べる集落が始まっている。碁盤目の道路に沿って中心部に大きなマーケットがあり、アパートのような建物、庭付きの家々が並んでいる。それらは、いずれも新しく整った建物である。


 領主館は無論、家々の周辺には、まだハウリンガ世界には少ないトラックと貨物車、乗用車が相当数止まっているのでこの領の豊かさがわかる。その周囲には整然と耕された広大な農場が広がっており、何台かのトラクターが動いており、大規模な畜舎も見えている。


 さらに、街から500mほど離れて大きな3棟の工場の建物、隣接して貯木場があり、工場の煙突から白煙が出ている。豊かな森林資源を活用した製紙工場と、家具工場に、小麦と根菜類の処理場である。さらに、数㎞離れた所に別の集落の屋根が見える。


 領主館、街とそれらの工場や別の街を結ぶ道路はきちんと舗装されて、何台かの自動車も走っている。

「懐かしいわ。でも、館も新しくなったし、村も大きくなって商店もできて建物が奇麗になったわね。それにあんなに工場ができて、農場も何倍にもなったわ。前は、わが家も似たようなものだったけど、家々はぼろぼろで、道路は踏み分け道みたいなもので雨が降るとドロドロだった。

 でも、それだけが私の世界で、お父様、お母さまに可愛がっていただいたわ。何もなかったけど弟、妹、それに近所の友達と野山で遊んで、イチゴや色んな野山の果物など取って結構楽しかったのよ」


 俺が飛翔機で領の上空をゆっくりと飛ぶと、シャイラが窓のガラスに額を当てて外を見ながら懐かしげに言う。それに俺も応じる。

「まあ、故郷は誰にとっても特別なものだものな。そこが発展すると景観も人々も大きく変ってしまうから、発展も良し悪しではあるよな」


「いえ、変わったのはよかったのよ。なにせ、私たちは少なくとも食事が単調ということはあっても飢えることはなかったけれど、領民の皆は結構厳しかったものね。家なんかまさにあばら屋だった。その意味で、皆本当に喜んでいるのだから。まあ、降りましょう。カミールとメランダも帰っているし」


 気を使ってシャイラのその声に応じて、すでに2機の飛翔機が駐機している領主館の前庭に飛翔機を下す。待ち構えていた、シャイラの両親、弟のカミールに妹のメランダが、口々に歓迎の言葉を浴びせながら玄関に出迎えた。


2025年、12/20文章修正。

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