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俺の冒険  作者: 黄昏人
第7章 変革する地球世界と異世界
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ロシアの日本への威嚇

読んで頂いてありがとうございます。

 ロシアは、日本にどう嫌がらせをするか必死で考えたらしい。しかし、経済において日本に大きく劣っていて、その差が未だどんどん広がっているロシアに、日本に嫌がらせをする種は殆どない。日本は、かつてはサハリンからの石油、天然ガスの輸入が全体の10%以上あったが、これは調達先の多様化という意味が強かった。


 だから、AEE発電がすでに100%に近づいている現在において、石油は化学原料であり、エネルギー資源ではなくなっているので、消費量も大きく減ってロシアから輸入する必然性はない。天然ガスは排ガスがクリーンであるため、殆ど燃料として使われていたので、逆に今では活用されなくなっている。


 そして、石油については、アネルギー資源としての価値を失ったために世界の消費量は1/3程度に大きく減っている。さらに、その精製過程で生じる、ガソリンや軽油、重油などの用途がなくなっているために、ほとんどを化学原料として使うことになって石油精製工場は大きく構造を変えている。


 その意味で、現状では石炭が化学原料としてより有用であることになって重宝され始めている。これは、石炭・石油を液体燃料を必要としない純粋な化学原料と見た場合には、石炭の方が比重も大きくより多くの化学原料となる。


 無論、加工に要するエネルギー消費は石炭の方が高いが、AEE発電のある現在で、この点は余り問題にならない。そして石炭の埋蔵量は石油より多く、その埋蔵の分布は遥かに普遍的である。いずれにせよ、外貨の獲得の多くを天然ガスと石油に頼って来たロシアは現在苦境にある。


 ソ連邦華かりし頃、ソ連は世界有数の工業国であり、進んだ工業基盤を持っていたが、教条的な共産主義の限界からであろう、完全に世界の技術革新において行かれた。そして、ソ連崩壊を経てロシアは近年では資源の輸出に頼らざるを得なくなっていて、開発途上国の貿易構造になっている。

 そしてそれさえも大きく落ち込んでいるのだから、現在GDPが世界の15位を下回ったロシアの経済力は今後もこの漸減傾向が続くと見られている。


 経済がすでに世界の中位国になっているロシアの威信は、現状のところは軍事力にあるが、それもアメリカに次ぐ核戦力が大きな比重を占めている。そして軍事力が国力即ち経済力に依然することは明らかであり、ソ連邦がアメリカに経済力で敗れた結果、軍事力でも劣位になったことは歴史的な事実である。


 そして、その被害の極端な大きさと後に残る放射能の重大な弊害から、多くの国民を代表する国として核兵器は実質使えないようになっている。その核兵器がロシアの力の源泉になっているということは、非人道的な国家とみられての仕方がない。そこに宇宙のからの重量爆弾という、防ぐことが困難であり、かつ核に比べると“きれいな”兵器体系が加わり、核兵器所有の意味を大きく損なうようになった訳だ。


 ロシアのウラジミール・ドリトフ大統領は、躍起になって大ロシアの復活を唱えているが、この状況ではそれは全くの夢であり、今後もロシアの国際的地位の低落は避けられない。だからこそ、ドリトフ大統領が余計に感情的になる訳であるが、日本に関してはロシアに有利な点が一つある。


 それは、アメリカが日本に敵対的であるということである。今回の“宇宙平和軍”騒ぎではアメリカは基本的にロシアと同調しており、ロシアが少々乱暴なことをしても口を出さないという密約がある。無論、日本の都市にいきなり核を打ち込むなどの事は出来ないしメリットもない。


 なによりそのようなことをすれば、日本の宇宙軍から反撃を受けるだろうから、ロシアとしては日本を本気にさせない程度の嫌がらせをしたいわけだ。まずロシアは、北方領土周辺のコンブ漁の漁船に、ロシアの警備船が割り込んで2隻を拿捕して6人を拘束した。


 とは言え、根室の漁師はすでに半数ほどがハウリンガに移住して漁を行っており、大きな漁獲高を得て高収入が得られることが知られているので、近いうちに大部分がそちらに移る予定になっている。拿捕された漁船は、ライバルが減って無理をする必要がないので、全く操業違反はしていないのである。


 だが、なにしろロシアはいちゃもんを付けるための行動だから、そんなことはお構いなしである。さらには、ロシアは北海道から僅か40㎞の国後島の北端に1万2千の軍を集め、上陸用舟艇を準備している。 無論、日本は遺憾の意を表して、強く抗議した。


 だが、面の皮の厚いロシアがそんなことを歯牙にもかけるはずがない。全く無視して、更に日本周辺のロケットの試験飛行をすると宣言した。そして、樺太島中部のホルムスクから日本列島に向けてミサイルを発射した。


 その時点では、日本は滞宙型防衛機“さきもり”を北海道上空500~700㎞に3機、さらに宇宙戦艦“ふじ”と“ふじ”を母艦とした“そら”型宙航機が10機配備されている。ロシアが何らかの行動を起こすのは予想されたことであったのだ。


 ロシアのレーダー網は日米に比べて遅れてはいるが、それでも3千㎞程度の探知能力はあるため、当然“さきもり”と“ふじ”の亜宇宙配備は掴んでいるだろう。“ふじ”には、アメリカ離れをして日本が開発した宙超型レーダーにその探知結果を元にした管制システムが積まれている。なので、ロシア極東のミサイルは無論、航空機の動きは全てフォローしている。


 また、実のところ日本は、ロシアもそうだが、アメリカも含めて世界の核弾頭の所在はすでに掴んでおり、極東にも6か所にそれがあることが判っている。これを掴むために、日本は資源探査衛星と称する衛星を地球上1千㎞の上空を隈なく周回させたのだ。


 だから、サハリンのホルムスクから発射されたロシアのロケットはすぐさま探知されたし、それが核弾頭を積んでいないこともすぐに判った。そして、上空5千㎞に上昇したそれが、水平飛行に入った時に最新型のSN-20N型で極超音速ミサイルと呼ばれるものであることも判った。そしてそれが日本列島縦断の飛行コースに入っていることも。


 ミサイルが水平飛行に入った時点で、日本政府は緊急放送チャンネルから国民とロシア政府に向けて発表した。

「国民の皆さんに発表します。12分前にロシアがサハリン州樺太島のホルムスク・ミサイル基地から極超音速ミサイルと思われる物体を発射しました。

 これは我が日本列島を縦断するコースを飛んでくるものと推定されますが、核弾頭を積んでいないことは解っております。現状の高度は5千㎞であります。ロシアはこれをロケットの実験などと言っておりましたが、このミサイルが日本の領空を超えた段階で撃墜しますので、国民の皆さんはご安心ください。

 その後、ロシアがミサイルを撃ってくる可能性はありますが、現在北海道上空の亜宇宙には、ロシアのいかなる攻撃にも対処できる戦力を配置していますのでご安心下さい。


 さて、ロシア政府に警告します。現在、すでに貴国から根室の漁船が2隻不当に拿捕され、6人の方が拘束されています。これは貴国が我が国との覚書を破った所業であり、断じて許すことはできません。これに対して日本政府は最大限の抗議をします。ただちに、わが国民を返し、生じた損害を補償しなさい。

 さらに、貴国は不当に占領している択捉島に1万2千の兵力を展開して、北海道に上陸の構えを見せています。しかし、これらの兵力で、我が国に上陸などと言うことは不可能であることを警告し、これらが何らかの動きを見せたら断固として反撃します。そして、それに際して択捉島は我が国の領土であり、自由に行動できる領土であることを付け加えておきます。


 さらに、先の2点に加えて、貴国は今般の我が国に向けてのミサイル発射を行いました。これは、もはや貴国からの我が国への戦争行為であると、わが国は判断しています。先ほど言ったように、今刻々と近づいているミサイルは我々の自衛軍の手で撃墜します。その後、何らかの敵対行為を起こすのであれば、わが国は最も効果的で、かつ無制限の反撃を行うことを宣言します」


 その日本政府の放送が終わった2分後に、ミサイルは高度5080kmで日本領空の線を越えた。そして、1分後に秒速3㎞で飛ぶそのミサイルは、追尾していた“そら”型宙航機2機からの宙空型ミサイルの攻撃を受けて撃破された。


 ほぼ同速度で追う宇宙戦闘機からのミサイルが外れる訳はなく、撃たれた2発のミサイルが同時に着弾して、総重量1200㎏のミサイルをバラバラに破壊した。この残骸は地表へ落下したが、大部分が燃え尽きたものの残存部は三陸沖の海上に落下した。被害は生じなかったが、2隻の漁船から落下する火炎を見たという目撃情報が寄せられた。


 このように相対速度が秒速3㎞にもなると、正確な迎撃は期し難く自衛軍の最新の宙空型ミサイルA-005 でも、撃破の確率が30%程度になると見られている。これが極超音速ミサイルの厄介な点であるが、相対速度を小さくすれば、正確な迎撃が可能になることは当然である。


 だから、加速性能を3Gまで特に高めた“そら特型”が、ミサイル発射の準備を始めた樺太島の上空に移動してミサイルの動きに同調して追っていたのだ。“そら特型”が秒速3㎞に達するのは、150秒足らずであるが、全力加速すると20分しかバッテリーが保たないので、周辺にサポート部隊があることが望ましい。


 この撃破は、リアルタイムで防衛省から国民に向けて発表されたが、あっさり最強かつ最新型ミサイルを撃墜されたロシアは狼狽えながらも、その場合に予定された行動に移った。まず、外務省から日本の宣言に対する反論があった。


「わがロシアは、日本政府に対して断固として抗議する。漁民を拿捕したのは我が国の法に従った行為であり正当である。また、択捉島への軍の配備は演習でもあり、日本の先日の無礼な言動への懲罰でもある。さらに、わが国の実験用ロケットを撃墜したことは我が国への戦争行為とみなす。

 高度5千㎞はすでに宇宙空間であり、人類共通誰でも何時で使える空間である。そこを飛行させた我が国のロケットを不当に破壊した行為を我が国に対する戦争行為として捉える。我が国は、これに対して断固とした行為を取る決意をした。これから起こる事態の責任は全て日本政府にあることを宣言する」

 

 出ました。独裁・共産主義政権お得意の“全部お前のせい”宣言である。ロシアは、その宣言の直後、サハリンを含むロシア極東の5基地から100発以上のミサイルを北海道の都市部へ発射する予定であったらしい。ただ、これは弾頭を抜いたものであったらしいが、極超音速ミサイルも含まれていたので、何発かは陸に着弾した可能性があった。その場合ミサイルの質量と残存燃料で被害が生じたであろう。


 しかし、それらのロケットは発射されることはなかった。ロシア極東軍参謀長のウラジミール・アジゾフ中将率いる部隊が軍を掌握して、ミーヤイ・アラノフ司令官以下のモスクワの意を受けた幹部を拘束したのだ。アジゾフはミサイル部隊も掌握して発射を止めさせた。


 これは、ロシア極東連邦管区の中心都市であるハバロフスク市に駐在する、サビライ・サリミカヤ極東連邦管区長の意を受けたもので、時を合わせてサビライはモスクワに忠実な幹部連を拘束している。

 サリミカヤは、55歳で容貌は東洋系に近く、650万人ほどの人口の極東連邦管区の6割を占める原住の人々との混血である。その意味ではアジゾフ中将も同じ混血であるが、彼はロシア人に近い容貌である。


 彼らは、純粋のロシア人からは露骨ではないが明確に差別を受けており、よほど優秀でないと幹部になるのは難しい。その意味で、サリミカヤは極東の最高権力者になったのであるから極めて優秀であったということになる。

 彼は、ロシアの共産主義の伝統を強く受け継いでいるロシアの社会及び政治体制に漬かってはいるが、ロシアという国がどんどん相対的に地位を落とし、今後回復の余地がないこことを自覚していた。


 そして、人口1億5千万を超えるロシアの内の、極東地区の立場の小ささも良く自覚している。しかし、同時に寒冷ではあっても広大な極東地区のキャバシティも信じている。率直に言って、極東地区の役割はロシアの資源供給基地であって、資源を効率よく採取して中央に送るのみで、それ以上ではない。


 だから、極東に住む住民は資源採取して送り出すのみのために存在するわけで、予算の配分も結局そのためのみであって、将来のために産業を興すなどのことを行う余地がない。だから、彼は主として日本と接触して商社などを招き投資を促してきたが、それなりの成果が出はじめた所だ。


 そのような日本人との付き合いの中で、日本政府から彼の元に使者がやってきてあるデータを示した。極東地区の資源データである。それは。日本が衛星によって集めたデータを解析して作った資源分布マップであった。集めたデータが今までと異なるのは、地表面のみのデータではなくある程度の地下も探った結果であることだ。


 日本は資源探査と称して核弾頭の在り処を探っていたが、資源探査もちゃんとやっていたわけだ。この資源探査は、表層の反射光のみでなくバトラによって提供された技術で、魔力を使った分析ができる。このために、地表100m程度地下、あるいは水面下300mほどの資源の探知が可能であるので、結果は大違いだ。


 そして、それはマスとして捉えるので、反射光によって分析する方法より鉱脈を見つけるのに遥かに精度が高い。彼は、その結果を使って実際に掘削して調べた結果、実際に大規模な銅鉱山を見つけて、採掘の準備を整えているところであるので、日本のデータを疑っていない。


 日本政府は、ロシアが早晩行き詰まると見ていた。また、その場合にはロシアにとって現状の極東地区は錘になって、更に苦境に立ちいずれは日本に助けを求めてくると予想していた。その時点では、北方領土の返還はできるだろうが、今やあのような北方の貧しい島には未練がないというのが正直なところだ。


 とは言え、北海道から僅か40㎞の所にあのロシアの領土があるというのは嫌だ。一方で、生産性の低い共産主義に染まったロシアを援助しても、極東地区の資源が魅力であるが非効率さに苦労するのは見えている。そうであれば、むしろ極東地区を独立させて友好国とすれば良い。


 ダメもとでやってみようという試みだが、サリミカヤは自分のロシアに対する判断から、早々に日本の話に乗っても良いと思った。それが決定的になったのは、日本の宇宙防衛軍の興山基地の重力爆撃である。サリミカヤは、ロシア軍の核戦力の7割がもはや機能してないことを知っていた。


 だが、それでも、機能するものだけでも危険なものであることを理解していた。しかし、日本が導入した宇宙から岩を降らせるという攻撃方法から身を守る方法をロシアは持っていない。そして、亜宇宙に迎撃ステーションを持つ日本は、実質ロシアの大陸間弾道弾を無力化している。


 極超音速ミサイルは日本の守りを突破できるかも知れないが、数が知れている。さらに、日本に核を落とした場合には、日本は報復にロシアの都市部を滅ぼすことができるし、するだろう。だから、日本に核を落とすなどということが出来る訳がない。


 サリミカヤは精力的に行動し始めた。極めて優秀な彼は短期間に極東地区のキーになる人材をまとめていった。しかし、8か国の宇宙平和軍構想が出来た時には戸惑った。しかし、すぐに自分の知っているロシアのドリトフ大統領が核を手放す訳がないと断じ、早晩この話は崩れると見た。


 そしてその判断の通りになり、ロシアが日本に敵対行動を取り始めてこれが最高のチャンスと見た。 ロシアが極東で始めた日本への敵対措置を、当然サリミカヤは知っていたが、準備は万端整えて静観している。なぜなら、ロシアが行動するほどに日本が取れるオプションが多くなるのだ。


 しかし、ミサイルの北海道への飽和攻撃時点で、アジゾフ中将にそれを止めるように命じていた。極超音速ミサイルが交じっているので、日本で死者が出ると面倒と思ったのだ。サリミカヤは直ちに独立宣言を発し、ハバロフスク市に、1万人の市民を集めて祝っている中で演説して世界に配信したのだ。


 その時点で、日本は宇宙防衛軍を動員し、宇宙戦艦3艦と“そら”型宙航機10機をロシア上空に配置していた。首都モスクワ、サンクトペテルブルクなど大都市に加えて、極東地区との境になる都市であるイルクーツクのほかに、大陸弾道弾のミサイル基地に睨みを効かす位置である。決定的な行動を取ると宣言したロシア政府の公式発表の後であるから、防衛活動と宣言しての行動である。


2025年、12/20文章修正。

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