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俺の冒険  作者: 黄昏人
第7章 変革する地球世界と異世界
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支持が広がる仁科首相の構想

読んで頂いてありがとうございます。

 無論、仁科首相の記者会見での話は、米ロから猛烈に反論された。


「日本が言うように、次元ゲートという技術はある意味で極めて危険なものであり、日本のみ、または日本政府の言うように特定の個人が、その利用を独占して良いものではありません。さらには、それは日本がすでに進めているように豊かな資源と土地に恵まれた異世界への門を開くものでもあります。

 また、重力エンジンとAEE発電については、すでに猛烈な普及を始めているように極めて重要な技術であります。そして、その原理を理解してその派生を生み、応用を行えるのは日本のみであります。聞くとこれらも次元ゲートと同様に、特定の日本人が偶然貰ったものであると言います。


 その面からも、次元ゲートと言い、重力エンジン、AEE発電の技術と言い、日本のみが独占するのは余りに不公平というものでしょう。我が国は日本に対して、次元ゲートの共用使用、重力エンジン、AEE発電の技術の完全公開を求めるものであります。

 我々は、これらが人類の共通の財産として使われるべきであると信じるものであります。従いまして、もし日本が今後のこれらの要請に一切答えないという態度を取るなら、わが国は日本に対して、貿易や通商の面で何らかの断固たる措置を取らざるを得ないと考えています。

 我が国は、世界の国々に対して我々に同調して、声を揃えて日本を非難することを望むものです」

 アメリカ政府の国務長官の言葉である。


「日本の仁科首相の言葉は、極めて我が国に対して無礼なものである。彼は、あたかも我が国が核兵器の廃棄に関して騙そうとしたかの如く言った。我が国は日本が次元ゲートの共同使用を認めるなら、事実核を廃棄するつもりであった。核兵器の存在を検証できるなどと嘘をついているのは、我が国を信じていない証拠である。

 我々は確かに大量の核兵器を持っている。それは日本などを何度も滅ぼせるほどの性能であり、絶大な威力のものである。一方で、日本は宇宙からの攻撃能力を持っており、これは軍事利用をしない場であるはずの宇宙空間を不法に使ったものである。


 世界が知っているように、宇宙に初めて人を送り込んだのは我が国であり、我々はその後も長く宇宙への挑戦を続けて来ている。宇宙に関しては最も新参の日本が、このように宇宙を利用して、わが国の安全を脅かす力を持ったことに最大の非難をするものである。

 一方で、日本のみが次元ゲートを利用でき、重力エンジン・AEE発電の技術を保有しているのは、公平の観点から見て不法なものである。わがロシアは強く日本政府の抗議し、これを改めないならば断固たる行動を取ることを宣言する」

 これは、ロシアの外務大臣である、シレコフの政府発表の形での会見の話である。


 両者の反応から、いみじくも俺が調べた結果が米ロが仁科を嵌めようとする策略が正しいということは判ったし、日本が要求に応じない以上宇宙平和軍を続ける意思のないことも明らかになった。その意味で、他の5か国については微妙に反応が違っている。


 まず、核保有国であるイギリスとフランス、インドは結束を乱したということで日本への腰の引けた非難のコメントを行った。一方で、核を持っていないドイツ・オーストラリアは、仁科首相の言葉に戸惑った感じのコメントであったが、本音で宇宙平和軍を続けたい意思を改めて表明している。


 そして、米ロの反応から核廃絶が無さそうだということには匂わして、極めて残念がっているという論調であった。この両国から日本への非難のコメントは出なかった。また、汎地球平和軍構想として、宇宙からの安全保障システムの構築という日本の話は、ある程度の規模の国にはすでに話がされており、仁科の言う通り殆どが大歓迎したのは確かである。


 そして、その条件は核兵器を持たないことということになっているので、核兵器を持っていない国は全て積極的に賛同している。これは当然だろう。AEE発電のお陰で最も懸念されていた、エネルギー資源の心配はなくなったが、地球上の様々な資源の枯渇の流れは待ったなしの状態になっている。

 

 その意味で、現状では月と火星がターゲットの宇宙の資源開発は魅力的であるが、大部分の国にとって手の出ない話である。ただ、宇宙よりはるかに魅力的なターゲットがある。それは今のところハウリンガのみが知られている異世界である。すでにハウリンガの情報は世界に伝わっており、そこには知的種族が住んではいるが、文明段階が地球の数百年前の状態で、広大な処女地と資源があることが判っている。


 そして、どちらも日本が握って実際に開発を進めているのだ。当面は宇宙に係わる活動の呼びかけであるが、その日本と関係を深めることは異世界への進出の足掛かりになると思うのは当然である。一方で宇宙に関しては、そのキーパーツである重力エンジン駆動の宇宙機を日本はすでに多数運用している。


 その重力エンジン機は、ある程度EXバッテリーを多数積んで気密にすれば即ち宇宙機になるのだ。その点で、莫大な燃料が必要で多段式にせざるを得なかった従来のロケット方式とは、コストを考えると次元が異なると言ってよい。

 ただ、無論バッテリーの補給、中継基地、運用のノウハウなど単に“宇宙に行ってくる”のと実際に資源開発を行う、または軍事活動を行うのは異なっており、後者のために大きな投資が必要になる。


 とは言え、只の重力エンジン戦闘機でも、気密を強化しておけば月に行くのは無理でも、高度数千㎞の亜宇宙にも入り込むことが出来るし、加速を続けて軌道速度に達して地球の周回をすることだって可能である。実際に日本から重力エンジン戦闘機を買った国の中には、そのようなことを実行した実績もある。


 しかし、気密が十分でなくパイロットが失神した結果、墜落したという事故もすでに3件起きて、地上に落下して大きな被害を出した例もあり、日本としては誤った使い方として生産国として強く抗議している。とは言え、宇宙という地表からすれば遥かな高空は、地上に比べて極めて高いポテンシャルを持っている。


 だから物を地球に落とすのみで、地上に大被害を与えることができる。それを実証したのは日本の宇宙自衛軍による興山基地の重力爆撃である。世界は、長く核兵器の存在を認識しながら暮らしてきたが、それを種に他を脅して金を獲ろうとする集団に初めて出会った。


 そして、その集団は日本の自衛軍による、宇宙から岩石を落とすという単純かつ効果的で安価な方法で滅ぼされた。世界は新たな戦争手段を知ったのだ。また、それが日本によって成されたという点が世界にとっては大きな衝撃であった。


 世界で唯一核兵器によって攻撃を受けて多数の市民が殺されたのは日本である。その兵器の残虐さもさることながら、長く尾を引く放射能による障害が、あのソ連ですらそれを使うことをためらわせた。しかし、宇宙からの爆撃は唯一の被爆国日本が実行したということは、それだけハードルが低いことを意味する。


 加えて重力エンジンのある今では、単に月の岩を適当に運搬し誘導すれば良いので、コストが極めて低い上に、地上からそれを防衛することは極めて困難である。無論、そのために月にそれなりの基地を設け、運搬システムを構築し、AIによる精密な誘導の技術が必要である。


 そのシステムを使える状態で持つ今のところ唯一の国が、そのシステムを共用しようと呼びかけて来ているのだ。日本からの呼びかけを受けた国の指導者が、自国の安全保障のためにも加わらないという選択肢はない。そして、その条件が核兵器の放棄であるから、元々核を持っていない国にとっての障害は無い。


 勿論、費用負担などの必要は生じるであろうが、すでに構築されているそれの負担がそれほど大きいはずはない。なにより、自国の兵士がそのシステムの運用に係われるのであれば、自国に向けてそれが行使されることはあり得ない。


 更には、そうして日本と一緒に宇宙への活動をやって行けば、すでに重力エンジンやAEE発電のより深いノウハウだって手に入れられるだろう。そしてすでに日本が段階的に受け入れると言っている、ハウリンガへの移民の枠だって取得に有利になるはずである。


 そのような目論見を持った国々は、今回の騒動に対しては日本を非難するわけはない。そのようなことで、米ロの日本への非難は殆ど共感を得られない状態である。それどころか、当初は日本に対して非難めいたことを言っていた核保有国である英仏も、核を放棄して日本の主導するグループに入るべきという世論が主流になってきている。


 ちなみに、C国が分裂した国々のうち、3ヵ国が核兵器を持っているが、巨大であったC国と違って彼らに核兵器を持つ必然性が低い。そのため、元の首都があった国以外は、早々に日本に対して汎地球平和軍構想への参加を表明している。


 ところで、これにいちゃもんをつけたのは国連である。現在の国連事務総長は、ヨーロッパの小国出身の首相経験者あるが、米ロからの日本非難の言明があった後に、このような演説を行っている。


「宇宙からの爆撃という行動を実施して、地球に新たな危険をもたらした日本が、世界の大国からの呼びかけでそのシステムの協同運用に同意した。その引き換えは核の廃棄であり、これは我が国連のみならず世界の人々の悲願である。

 そこにおいて、どのような約束があったのかを私は知らない。だが、日本の指導者は改めで世界から要求されてきた、次元ゲートの使用の独占と、すでに世界にとって必須になったAEE発電と重力エンジンの技術の独占を諦めるつもりはないと言明した。


 また同時に、彼は世界の多くの国々に対して、宇宙空間の軍事利用を共同で行うことを呼びかけて全てから賛同を得たと言う。そして、その条件は核兵器の放棄であるとされている。確かに、非人道的な核兵器は廃棄されなければならない。

 一方で、新たに加わった人類にとっての脅威である、宇宙からの爆撃という宇宙の軍事利用に対処する必要がある訳であるが、それを世界の国々が共同で管理するという呼びかけは悪くはない。そして、その代替が核の放棄というのは極めて望ましいことだ。


 しかし、日本は世界の国々を取りまとめて何かを成し遂げることの困難さを、甘く見過ぎているように思われる。私は国連の事務総長として、個人的には日本の仁科首相の汎地球平和軍構想というアイデイアには賛成である。しかし、これは我が国連が主導すべきものであると考える。

 また、一方で次元ゲートの利用と、先ほど言った2つの技術の独占は徐々にでも解除してほしいとも考えている。日本政府の賢明な判断を期待するものである」


 要は、『俺にも一口かませろや!ボケ!』ということだが、確かに汎地球ということになると、すでにある国連の枠組みを利用することは大いに手間を省ける可能性が高い。一方で、官僚化して、生活の手段として組織に寄生しているその職員に、主導権を取られることは避けなければならない。


 ちなみに日本国内であるが、8か国連合宇宙平和軍転じて、汎地球宇宙平和軍という構想をぶち上げた仁科首相に対して最初は戸惑いがあった。しかし、仁科の記者会見の内容は世界的に極めて大きな反響を呼んだことは事実である。近年では何かと日本の出来事が世界の話題になることが多かったが、その中でも今回の話は特大である。


 米ロは報復措置も口にして強く日本を非難したが、8ヵ国の一員であり核保有国である英仏印は、必ずしも日本を非難していない。また非核国で8ヵ国の一員である独豪は日本の立場に理解を示している。そして、8か国以外の国々は仁科を絶賛して、汎地球平和軍に加わる気満々である。


 更に国連の事務総長は、国連をスルーしたことに関しては、苦情を言っているが、構想そのものについては称賛している。そもそも、日本国民はロシアを殆ど信用しておらず、基本的には嫌っている。だから、ロシアから非難されるならむしろ正しいことだという意識がある


 アメリカに関しては、近隣に嘗てはソ連、近代においてはC国と、実際に侵略をしかねない国があって、従来はアメリカの武力に頼らざるを得なかったから、かの国の言うことに従ってきた。しかし、日本発の技術が世界を席巻したこと、宇宙と異世界を日本がすでに開発を行っていることは日本の人々に大きな自信を持たせることになった。


 そのように日本国民は、すでに時代は変わったと考えている。にも関わらず、アメリカが従来と同様に様々な要求を突き付けるという、日本に対する傲慢な態度には怒りを覚えている人々が多い。だから、アメリカの今回の非難は国民にとってはむしろ仁科の支持を高める結果になった。


 勿論、支持率10%足らずの革新系の野党は口を極めて仁科を非難した。

「仁科首相は、核廃絶という米ロの口車に乗って、平和宇宙軍などという荒唐無稽の組織に加わると得意満面で公表しました。しかし、その僅か1ヶ月も経たないうちに、その言葉を翻したのです。多分、米ロの核放棄という約束が当てにならないと思ったのでしょう。

 さらには、次元ゲートと、AEE発電や重力エンジンという日本の重要な技術を奪われかねないと恐れたのでしょう。そのため、汎地球平和軍なるこれまた突拍子もないことを言い出して、多くの国の首脳に呼び掛けたようです。

 結果として各国からは良い反応を得ているようですが、国会にも諮らず、短時間ででっちあげた計画がうまくいくはずはありません。さらに、この計画は本来国連を通して行うべきものであるにも関わらす、功を焦って独断で早々に発表したものです。我々はこの首相の軽率な行動を断固として糾弾する」


 最大野党、民主党の党首である影山慎太は記者会見でこのように言ったが、仁科の行動の真実を見事に言い当てているが、例によって国民からは全く支持されなかった。


 仁科の構想の発表の後1ヶ月の内閣支持率は70%にもなったのだ。8ヵ国の平和宇宙軍構想の発表の時には40%の支持率が55%まで上がったのだが、さらにそれから15%も上がったことになる。そして、その支持の理由の大部分が彼の汎地球平和軍構想である。


 仁科が米ロの罠に嵌まった結果、苦し紛れに打ち出した策が今や世界を揺るがす話題になっており、嫌がおうにも具体的な動きを始めることになった。


2025年、12/20文章修正。

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