緊迫してきた国際関係2
読んで頂いてありがとうございます。
俺は、その総務省の部屋で、メモリーに入っていた動画を画面を映して出席者に見せた。最初はロシア大使館の中で、大使を尋問した様子である。これは、ロシア大使も英語は出来るので英語のやり取りを行っている。
ロシア大使館へは、いきなり大使公室の秘書のいる前室にロリアと一緒に転移して、秘書を俺が威圧して精神的に麻痺状態にして、その状態からロリアが2人の大事な客が来た如く思いこませる。公室に入ってからは同じ操作で、大使には本国から大物の査察官が来たと思わせて聞き取りを行った。
聞き取りの時間としては30分足らずなので、秘書が人を公室に入れないようにするのは簡単だった。俺はヘッドバンドで取り憑けたカメラで大使のしゃべる様子を記録したので、それを首相以下の閣僚に200インチの画面で見せているのだ。
彼の話の内容的には、まずロシア側からアメリカに話を持ち掛けてこの件は始まったと言う。元々、AEE発電の登場で、世界の石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料への依存が年々落ち込んでいる。その中で、天然ガスと石油に収入に大きく頼ってきたロシアの経済力はますます衰えている。
とは言え、広大なロシアであるから人口の割に豊かな資源はあるので、国民の質と効率的な国家運営を行えば豊かな生活は送れるはずである。しかし、ロシアは“共産主義のくびき”により、個々にしみついた上位下達の精神により人材を生かせない、さらに構造的な腐敗体質という社会システムによって経済効率が悪い。このため、ロシアは巨大なアメリカの経済力を背景にした軍事力には抗しきれなくなっている。
一方で、重要な技術を握った日本は、それをうまく使って経済の高度成長を続けている。GDPはすでにアメリカの半分に達して、C国が多くの中進国に別れた結果として、再度世界2位になっている。さらに、ECC発電、反重力エンジン、EXバッテリーなどは軍事技術を根底から変えてしまっており、ロシアのみならず米などが持つ巨大な軍事ストックを一気に陳腐化してしまった。
当然、これらの技術の先駆者として日本の自衛軍は元々の蓄積が小さかったこと、さらに調達コストが低いこもあって、一気に世代交代を進めている。このことは、世界の経済・軍事専門家をして、近い将来には日本が経済的にも軍事的にもアメリカを凌駕する事がありうると言わしめている。
そして、ロシアは軍事力を含めた日本との力の差が逆転されることに焦りを強めつつ、一方でこのことをアメリカに近づくチャンス見ていた。そして、実際に接触して様々な交渉をしている段階であったのだ。だからウラジミール・ドリトフ大統領の命に、すぐさまアメリカに話を持ち掛け、彼らも積極的に乗ってきたという。
背景を問われたセルバノフ大使は、すらすらとそのような経緯を述べた。そして、肝心のその中身であるが概説すると以下のようなものである。
宇宙平和軍の構想として、核廃絶を最大の餌に、安全保障を主軸として、宇宙の共同管理を謳って国際組織を作る。これには、米ロ日は無論、欧州の核保有国に加えてドイツ、オーストラリア、インド等を加えた。この構想を核の全面廃棄を条件に持ち掛けて、まず日本からそれを世界に向けて公表させる。
そのうえで、それに加わる核保有国の条件が、最初から異次元ゲートの共同管理、AEE発電・重力エンジンの全ノウハウの公開であったと主張してそれを迫る訳だ。幸い、首相の仁科は核発絶という言葉に舞い上がって、よく裏を詰めないままに得意満面で世界に向けて公表した。
後は、宇宙平和軍の立ち上げで、文としては残していないが、日本がその“条件”を飲んだ上で立ち上げに承知したということで追及すればよい。実のところこの企みを承知しているのは、米ロのみであるが、他国も自分にメリットが大きいこの話には一緒になって日本を追及するだろう。
日本は多分拒否しようとするだろうが、日本の自分勝手な拒否のために、核の全面廃棄がご破算になるということで更に攻め立てれば、世界中から非難されることが間違いない。その上に、反核勢力の強い国内からも厳しい非難にさらされ、耐えられなくなるだろう。
もし、日本が最終的に拒否を貫けば、日本を激しく非難したうえで本当に宇宙平和軍の構想は取りやめて、日本の立場を悪くしてやれば良いのだ。そのことで、混乱した日本で政権交代が起きて、次代の政府は要求を呑むかもしれない。
また、結果的に日本は要求を呑むかもしれない。その場合は、共同管理から自国に取り込んで最終的に独占を図れば良い。すでに機能していない核弾頭ミサイルの数は多いので、それらを派手に廃棄してやれば良い。
アメリカのことは知らないが、彼らも多分同じことをするとセルバノフ大使は言った。その点で、イギルス、フランスは多分重荷であるそれらを本当に廃棄するだろうが、インドは多分いくつかは隠すだろうと更に言う。他にもイスラエル、分割したC国から派生した3ヵ国が核を持っているが、これらは宇宙からの重力爆撃で脅せば手放すだろうと想定している。
この構想が成功すれば、異次元ゲートと核の組み合わせはもはや無敵であり、少なくともロシアは将来の覇者の一画を占めることが可能になる。この作戦の背景は、両国ともに“門”について管理をするのが俺しかできないという日本政府の説明を全く信じていなかったことがある。
だから、日本政府が同意すればそれが可能であり、それを公開しないのは、最終的に世界を牛耳る立場になろうとしてだと深く憤っていた。そして、日本に対して工作を掛けるのは当然の権利と考えていた。
ロシア大使から語られるこうした話に、輪郭は既に知っていたとしても首相を始め閣僚に驚きと怒りの表情が浮かんだ。セルバノフ大使の映像が消えた所で俺は言った。
「ロシア側はこのような構想ですな。ロシアとアメリカの日本大使館では、お互いの意思疎通と日本への対処から、かなり詳しく内容を把握しています。実際、セルバノフ大使はロシア政府内でもかなりの大物であり、綿密に本国と連絡を取っていたようですね。
次にアメリカ大使のスマート大使からも話を録画していますのでお見せします。あらかじめ言っておきますが、大同小異の話です。ただ、こちらは、わが国が要求に応じた場合においては、国として核を実際に廃絶するかどうかは状況次第だという態度ですな。
ただ、彼らはロシアがゲートを管理するのは断固阻止する方向のようですね。彼等もロシアに持たせた場合の危険性は承知しているということです」
俺が言うのに、仁科首相がしっかり俺の目を見て言葉を返す。
「うむ、いずれにせよ、三嶋さんが折角手に入れたくれた情報だ。20分足らずのものだそうだから、見させて頂いて話をしよう」
既に首相の腹は決まっているようだが、はてどのような決断か判らんが、いずれにせよ俺としては技術の全面開示とゲートの使用の権利は譲れない。
同じように、出席者はアメリカ大使の話の映像と音声を視聴したが、内容に余り差が無かったために出席者からの反応は少々薄かった。だが、仮想敵国でいわば落ち目のロシアと違って、最近まで密接な同盟国であり世界最強の国が明らかに日本に対して、悪意を持って仕掛けてきたことにショックは隠せない。
映像が消えた所で、最年長の財務大臣吉田が慨嘆する。
「アメリカという国は、本当に自分の立場を脅かす存在は許さないのだなあ。別段、日本はアメリカにとって代わろうとは思っていないのにな。あんなに、莫大な負担をして自分らの正義を押し付けて、挙句に憎まれるような役目は御免というものだよね。なあ、皆さん?」
そう言って、ひょうきんに笑う禿茶瓶の吉田に、出席者も薄く笑う者もいるが、問題の深刻さに同調の声は出ない。それに対して、防衛大臣の二宮が深刻な顔をして言う。
「ロシアという国は、極めて信用ならない相手です。未だに、自分の我を通すために軍事的な措置を当然のごとく取りますし、執行政府がそれをするのを止める内的なストッパーがありません。軍事的な行動に出るのはアメリカも同様ではありますが、こちらは内的にそれなりに合意がないと動けません。
つまり、何を言いたいかと言うと、その両国ともできれば、自らの覇権を脅かす日本に対して軍事的オプションを取りたいと考えているのだと私は思います。しかし、アメリカは国内向けに考えると難しい。そこで、ロシアがということは十分あり得ます。
それを、アメリカが支持するという内約があってもおかしくないでしょう。先ほどの、セルバノフ大使の話にそれらしい言葉がありましたよね?」
「うーむ、二宮さん。仮にロシアが我が国に対して軍事的なオプションを取るとして、どういう形があるでしょうか?そしてそれを我が国が対処できるかどうか、どうでしょうね?」
木村官房長官が二宮の言葉に応じて聞く。
「はい、まあ上陸などということはあり得ません。そのためには十分な戦力を対岸に集める必要があるわけで、すぐにわかりますし、かの国の極東にそんな戦力を集める力はありません。
現実的には、中距離ミサイルですね。弾道弾は高空に登るので、我が国を狙った場合には、“さきもり”の守りを突破することは無理です。“さきもり”は現在8機ありますから、4機常駐体制を取ることが出来ますからね。
しかし、極東のナホトカからなら、東京まで千㎞ですから、極超音速ミサイルのアバンガルドなら高度数万mの高さで飛行して十分狙えます。これは弾道ミサイルより日本に着弾する可能性は高いですが、逆にその高度なら戦闘機の雷光に新型の空対空ミサイルが配備されていますから、アバンガルドでも十分対処できます。
まあ、絶対という言葉は言えませんが、ロシアも例えば不意打ちに日本に核を撃ちこんで、多数の国民を殺して、都市を破壊してもメリットはないのです。まして、今の日本は嘗てのように報復手段がないわけではありませんし、すでにそれは実証しています。
だから、それは先ずはプラフか又は限定的な軍事行動で、何らかの妥協を得ようとする行動であるはずです。だから、不意打ちでの行動はあるとすれば、限定的な被害を与えるような性質のものだと判断しています」
二宮の言葉に、法務大臣の菅野が頷きながらも聞く。
「しかし、ロシア軍は極東に多数の爆撃機を配備しますよね。その辺は大丈夫ですか?」
「ええ、その点は大丈夫です。はっきり言って、すでにロシアの戦闘機や爆撃機はすでに時代遅れなのですよ。我が自衛軍には、コストが低いこともあって雷光800機が配備されていますが、雷光は亜宇宙を行動範囲にしています。
マジックバッグを持ったものもありますから、いわゆる弾切れということがほとんど無いのです。まあ、加速では負けていますが、最高速では遥かに勝っていますし、自衛軍の空対空ミサイルの性能はすでに米軍を凌駕していますから、出て来てもすでに単なる的ですな」
「ほお、自衛隊の戦力はそれほどですか。確かに日本は軍事力ランキングで、米軍に続いて2位にしている研究機関も多いようですからね」
菅野が返すのに二宮が真面目に応じる。
「ええ、現在の日本には他国から見て宝が多いのです。だから、それに相応する守りは必要です」
その会議の後、仁科首相はすぐさま行動に移った。
2日後に記者会見を開いたのだ。これは、マスコミでも様々に騒がれている宇宙平和軍について説明するということでの会見である。
その中で、彼は核廃絶が伴うこということ、米ロという核大国がその中に入っていることの意義を強調した。しかし、その中で次のように言っている。
「このように、宇宙平和軍の構想は誠に素晴らしいものであります。しかし、まだその組織のあり方、それぞれの負担、責務などについては固まっている訳ではありません。その中に、我々がつかんでいる情報では、その一翼を担う我が日本政府に対して過度な要求があるという話があります。
さらには、核廃絶の実行に関しては、その実際を担保することが困難であるということも懸念されています。先ほどの過度な要求というのは、わが国は参加各国に異次元ゲートの使用権を与えること、更に重力エンジンとAEE発電の技術の完全な解放という話です。
その点については、我が国政府の立場は何度も説明した通りです。すなわち、ゲートについては政府に管理する権限というか、力はなく当然その使用権を譲るなどのことはできません。
さらに俎上に上がっている技術は民間企業が有するもので、現在出来るだけの開示はお願いした結果、それらの設備の大部分が他国でも製造できるようになっています。これ以上といいますか、完全な開示は政府がお願いすべきでもないと思いますし強制も出来ません。
だから、仮にそういう要求がされても我が国政府としては応じようがないのです。ですから、私は他の7か国がそのような要求などをせずに、宇宙平和軍の構成員になって頂けると信じています。ちなみに、核の廃棄の検証については、わが国には核分裂物質、特に核兵器に仕えるような高濃度のものは検知する方法がありますので、結果の検証について心配は要りません」
さらに、彼は更なる構想を打ちあげている。
「私は、実のところ宇宙平和軍、つまり汎地球平和軍には現在の8か国のみならず、本質的には地球人全てが加わるべきだと思っています。そこで、いくつかの国の首脳、特に核兵器を持っていない国の首脳に話をして、参加の意向を聞きました。
その結果、全員から非常に積極的な回答を得ましたので、その方向で動こうと思っています。ある意味、宇宙に自由に行き来できるという能力は、軍事的に非常に重大かつ危険なことであります。そこに、最終的には世界のあらゆる人々がコミットできるようにするというのは、重要なことだと思っております」
俺は、その画面を見ながら、シャイラと彼女の手料理で晩酌をしていたが、『なかなかうまく捌いたな』と感心してその言葉を聞いた。ちなみに、核兵器の検知装置はすでに自衛軍では実用化していて、世界の一定量以上の核分裂物質はすでにマッピングされている。むろん、バトラ謹製だよ。
2025年、12/20文章修正。




