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俺の冒険  作者: 黄昏人
第7章 変革する地球世界と異世界
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日本国宇宙自衛軍出動

読んで頂いてありがとうございます。

 そのように、アメリカ基地とじゃれあいめいた交流をしつつ訓練に励む宇宙自衛軍月基地のメンバーであるが、彼らに命令が下った。これは地球からのテレビ、ネットでも大騒ぎになっている案件で、基地司令の山瀬2佐も出動命令が下るのではないかと思ってはいた。


 C国が解体してできた国のひとつ中央西中華国(略称中西国)の、湖北省の興山県の山間にC国第2砲兵隊、つまり核ミサイル隊の興山基地がある。この基地には大陸間弾道弾5基と、中距離ミサイル10基が設置されており、管理は中西国に引き継がれている。


 しかし、この基地は嘗ての巨大国であったC国であれば、強面でふるまう道具として重宝していた。だが、人口こそ3億5千万の巨大国であるが、軍事力・経済力で言えば中規模国である中西国には核ミサイル基地は過ぎたものである。しかも核ミサイルは常時弾頭の核爆弾の冷却をする必要があり、ミサイル本体に精密な誘導システムを常時メンテナンスしていく必要があるなど、大変な金食い虫なのだ。


 そこで、中西国は最初の数年は、態度を決めかねて予算を必要分振り分けたが、今年から興山基地の予算をドラスチックに削減した。つまり、朽ちるに任せるという決断をしたわけだ。

 どのみち、核兵器は脅しには使えるが、威力が大きすぎて実際は使えない兵器なのだ。それを使うことで、数万、数十万の死者が発生したら、使ったものは決して許されないだろう。ある国が、その被害の悲惨さで脅して、何らかのものを得ても何倍もの報復をされることは疑いない。


 予算の大幅削減に対して、中西軍砲兵分隊の興山基地司令官である白クチョン上佐は来るものが来たと冷笑した。彼は、たたき上げの士官であって、すでに15年以上にわたって同基地に勤務し、一担当士官から司令に上り詰めた人物である。職務には熱心で、技術にも非常に明るい彼は興山基地及びその兵器について隅々まで理解し掌握している。


 そのように優秀な士官ではあるが、上に対して従順な方ではなく、狷介かつ内にこもる性格で思い込みが激しい。そして上に対しての反抗は表立ってはしないが、命じられたこと違うやり方でやって黙らせるという風であった。部下に関して彼を慕うものは少数だが、従わざるを得ない存在として見られている。


 優秀な彼は、基地に勤務する部下のことはよく理解していた。だから、様々なことで恩に着せて、彼のいうことには逆らわない幹部は10人以上いる。副司令官の黄中佐もその一人である。黄は、頭脳は優秀だがとにかく怠惰であり、とにかく楽をすることを望む。


 それが、任務を遂行するためであれば、本当の意味で優秀な士官になれるが、彼にはそんな殊勝な気持ちはさらさらなくて、隙があれば私服を肥やすような男だ。彼については、白は補給品の調達で中抜きをしているのに気が付いて、証拠を握った上で逆らえないように締め上げている。


 実のところ、白はいずれ基地が閉されることは見通していた。日本が反重力エンジンを実用化して、亜宇宙の定点基地を配置した時点で、弾道弾はそのアドバンテージを失ったことは明らかであった。日本列島の500㎞の上空にとどまるそれ(さきもり)は、自分の基地から撃つ中距離ミサイルを100%迎撃できる。


 なにしろ、“さきもり”はマジックバッグを持っていて、中距離、短距離迎撃ミサイルを百発以上持っているというのだ。そして、空気抵抗のない亜宇宙、かつすでに重力の井戸の上に上がっているミサイルは、射程距離が地上の何倍にも伸びることは明らかである。


 また“さきもり”は、基本的に日本を守るべく配置されているのであるから、そこに隙があるとは考えられない。そればかりか、アメリカに向かうものでも有効であると考えられていて、その防衛範囲を潜り抜けるかどうかは相当に怪しいと見られている。


 白は日本の“さきもり”のことを聞いた時には、思わず笑ってしまったものだ。彼も核ミサイルは単なる脅しの道具とは割り切っていた。世界中がリアルタイムで繋がっているこの時代に、人々が住んでいるところに核ミサイルを撃ち込めるわけはないのだ。その瞬間にそれを実行した国は終わる。


 “さきもり”のお陰で莫大な国費を投じて建設してきた核ミサイル体系は、半分は無力化したと言ってもよいだろう。少なくとも経済大国であって、まだまだ何かと繋がりが必要な隣国日本に脅しが効かなくなったことは大きい。さらに日本は、重力エンジンを使って宇宙へ進出しようとしている。


 このことは、逆に自分の国が脅される番になるわけだ。なにしろ、頭上を自由に動き回れる相手はそれだけで、軍事的に大変なアドバンテージを持っていることになる。仮に1トンの岩を千㎞の軌道から落とせば、下手な核爆弾程度の威力になる。それに核に比べて放射能が出ない点で“綺麗”だから、使うにあたっての縛りが少ない。


 白は考えた。たしかに核ミサイルは跳ぶ距離が長くて時間がかかれば、迎撃が容易になる。しかし、近ければどうだ。早い話が国内や東南アジアなどであり、K国も多分大丈夫だろう。そして、C国が解体して、基地が中西国になった時点で基地の廃棄が近づいたと判断した。


 だからその日に備えて、550人の部下の半数ほどを手なづけてきたのだ。彼の構想は核で周りを脅して、当分基地を存続させることだ。個人には国のような縛りはないし、彼には実際に使う覚悟があった。勿論そのようなものが長続きするはずもないから、脅すなかで大金をせしめて逃げようということだ。


 だから、国と対立するのであるから、補給ルートを確保しなければならない。それに必要なのは金である。彼は、長い間に築きあげてきたネットワークを生かして、地元の金持ちを調べ上げてきた。C国には、権力を生かして蓄財した途方もない金持ちがいるが、彼らは当局が管理している銀行ネットワークを信じていない。


 そして、絶賛価値の暴落が止まらない人民元も元より信じていない。だから、ドルやユーロの現金または金塊を自宅に隠しているのだ。白は20人の部隊を作って、それを自ら率い3夜で5人の金持の家を襲って、2千万ドルに相当するドルとユーロの現金と2トンの金塊を入手した。


 無論金持ちは、監視カメラ付きの厳重な屋敷に私兵も雇って警備をしていたが、核施設を守る無反動砲を含む一線級の装備で訓練の行き届いた部隊に敵う訳もない。あっさり門を爆破され、重機関銃を含む重機で蹂躙されて皆殺しになっている。それは女子供も区別ない容赦のないものであった。目撃者を残さないということだ。


 その上で、基地の従わない半数の要員を追いだした上で、国に対して興山自治政府の設立を宣言した。無論軍の上層部と国は、基地の解放と核ミサイルの引き渡しを要求してきたが、にべもなく拒否をすると、彼らは百万ドル相当の報酬を提示してきた。3桁足りないと彼がそれも拒否すると、国は戦車を含めた1万人を超える軍を出動させた。


 そのあたりは、金で雇った連中の情報と、マスコミが大騒ぎしてくれるので丸わかりであり、さらにはC国の偵察衛星の画像をハッキングして状況は掴んでいる。白も簡単に相手が引っ込むとは思っていないから、中距離ミサイルを軍の進軍路に当たる人家のない地点に発射した。


 それには100キロトンの弾頭が積まれており、なにしろTNT火薬10万トンの爆発であるので、きのこ雲を巻き上げて、狭い範囲であるが雨を降らせた。黒い雨である。後の調査で爆発に巻き込まれて2人が死亡、10人が重度の火傷を負い、270人が放射能障害を負ったことが判った。


 そのうえで、白は中西国政府に告げた。

「興山自治政府主席の白だ。今回の核ミサイルは単なる警告である。今度我が国に軍を向けたら、武漢市、広州市、南京市、または上海に核を落とす。今度の弾頭は1メガトンであるから、今日のものの10倍の威力だ。平和裏に共存しようという我が国の好意を踏みにじったのであるから、その賠償を要求するわけだ。

 1億ドルの現金を1週間以内に我が国に届けよ。さもなくば、今日と同じミサイルを発射する。今度は今日のように無人の地を選ぶことはないぞ。なお、もし我が国を攻撃する兆候が見えたら、我々は直ちに先に告げた大都市を攻撃する」


 この話は伏せられたが、核兵器が使われたことは世界に広まり大騒ぎになった。幸い犠牲者は少ないが、実に80年ぶりに兵器による核爆発で死傷者が生じたのだ。それに加えて、白は中西国のみならず東北中華国、中央東中華国、南西中華国、中央平原国さらに台湾にまで脅しをかけた。


 これらの被害(?)国のうち旧C国だった国は、自分が脅された以上、中西国が脅されないはずはないということで中西国に問い合わせて脅迫の範囲が判明した。しかし、台湾については、同政府が世界に向けて発表することで、興山自治政府と称する集団に脅されたことを発表してその事実が判明した。


 そのため、旧C国の国々が脅されていないのであれば、グルじゃないかという議論もあって、これらの国々も発表せざるを得なかった。そうなると、さてどうするかであるが、曲がりなりにも国家であれば、そのような脅しは恥ずかしくてできない。だが、強盗集団であれば別であり、さらにそのようなもの達であれば都市に核を使いかねない。


 その時点で、湖北省で起きた5件の強盗事件は、すでに白以下がやったことと信じられているので、公然と彼らは興山強盗集団と呼ばれるようになった。そして、中西国では脅迫された金を払うつもりだったらしい。1億ドルは国にとってはさほど大きい金額ではないし、基地は国内にあるのだから、急襲して取り戻せば良いということだ。

 ところが、他にも脅されている相手がいるとなると、そうもいかなくなった訳だ。白は混乱させるために周辺国を脅したのだが裏目に出たことになる。これらの国々は、上海に急遽集まって会議を開いた。


 旧C国は核ミサイルなどの打撃力は熱心に整備したが、比較すると守る方はおろそかにしている。まずはレーダーの精度が低くて、ロフテッド機動で飛んでくるミサイルはまず的確な迎撃ができない。だから、旧C国だった国は迎撃には自信がない。その点では、アメリカ製のレーダーと迎撃システムを持つ台湾が最も可能性がある。


 議論の中で、日本の“さきもり”の派遣の要請、爆撃機による攻撃などの話が出た。このうち、日本への要請は多数の人命にかかわるだけに受けいれられて、さきもりX8号が3日以内に興山基地の上空500㎞に占位することになった。


 このことで、ミサイルが高空に上昇するロフテッド軌道を取るなら飛行に時間がかかるのでまず迎撃ができるが、低軌道を取ると近い都市は守り切れない可能性が高い。その意味では、距離のある東北中華国や中央平原国はまず安全である。


 だが、守れない近隣に数千万の人口の大都市が多数ある以上は、興山基地の無力化が必要である。しかし、最も容易な爆撃は核ミサイルの弾頭が連鎖反応を起こして、大規模な核爆発が起きることになるので、不可能ということになった。


 その意味では核攻撃を行えば、核の爆発による高温で弾頭の核分裂物質が蒸発するので核爆発は起きないが、レーダーで探知されると報復するであろう。さらに、彼らは旧C国軍のなかにスパイを持っている可能性が高いので、発射の前に発射基地を攻撃する可能性が高い。


 そのようなことで、会議は日本への“さきもり”の派遣の依頼のみを決議して終わった。しかし、日本に太いパイプを持つ東北中華国や中央平原国に台湾は別途話し合って、直ちに日本に話を持って行った。彼らは宇宙からの攻撃に解決の能性があると考えたのである。


 さらに、3国のみで話をしたのは、会議に諮った場合に興山基地に情報が洩れることがないか信用しきれないからである。日本側も検討の結果、可能という結論をだした。


「だから、3千㎞程度の高度から、岩石を降らせれば温度が6千度くらいになりますから、ウランでもプルトニウムでも蒸発します。だから、核爆発は起こりませんよ。ただ、半径1㎞位は核汚染されますけどね。まあ、興山基地のミサイルサイロは比較的固まっていますから、直径が1m程度の岩を合計で100トンくらい落とせば綺麗に更地になりますよ」

 防衛省の会議の席で、防衛研究所の三春専門研究員が気楽な調子で言う。


「ふーん。技術的には可能ということですね。上池2佐、月基地の方の実施は大丈夫でしょうね?」

 制服組の司会役の幕僚本部の斎藤2佐が、三春の言葉を受けて宇宙軍の上池に聞く。


「ええ、相応の岩石は備蓄していますし、十分シミュレーションをしていて、秘密裏に南極付近で訓練もやっていますから、100m程度の精度で落とせます。大丈夫ですよ。しかし、核爆発ほどではないにせよ、地震もおきるし、後に核物質が散って汚染もあるし中西国の了承は必要でしょう?」


「ああ、単一の100トンの岩だと地震も半端じゃないけど、3トン程度の岩の落下では岩も半ば融けている状態ですので5kmで震度2というところですね」

 またも三春の気楽に聞こえる答えに、外務省の南が続く。

「中西国の大統領府には、わが国と東北中華国の密使が飛びますから了承はもらえます」


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 そのような経緯で月基地では、慌ただしく出動準備がされているが、出動するのはさきもり型改2機である。重量物を軌道から落下させるために落下のシミュレーション機能があって、それに連動したマジックバッグと合体した射出設備があるのはさきもり型のみである。


 指揮官はベテランたたき上げの金森昭1尉であり、1号機には金森の他に2名、2号機には西野さつき2尉が乗って他2名の指揮を執る

「こちら、山瀬2佐、1号機、2号機の諸君。これは宇宙自衛軍初めての実戦だ。しかし、気負うことなく、今まで費やした膨大な時間のシミュレーションを含む訓練の成果をいかんなく発揮してくれ。これからのミッションは嘗て例のない種類のものだが、君たちなら出来る。それを信じて頑張ってくれ」

 

 スクリーンに顔が映った司令官の訓示に、2機の“さきもり”の隊員は「は!与えられた任務を全うします!」と一斉に敬礼して応える。


 AI主導のコントロールで、狙った軌道に乗るのはもはや慣れ切ったルーチンである。当然機は軌道速度とはせずに、地球の自転速度に合わせて地球の周回をしているので、位置はほぼ興山基地の真上である。地球の自転と同調させているので、基本的には真上から落とせばよいが、大気の影響を考えて微妙に位置を調整する。


「よし、1号機射出!」

 AIの指示に従って、意力でジックバッグから一斉に内容物を真下に投射する。2号機にも同じ100トンほどの岩石が乗っているが、2号機のものは予備である。千㎞の高度から放たれた岩石は始めゆっくりだが広がりながらどんどん加速していき、すぐに肉眼では見えなくなっている。


 しかし、機内ではレーダーで3次元の位置を把握しており、画面上では赤で示された予定の線からずれなく落下を続けている。問題は大気圏に入ってからであるが、幸い大気の乱れは極少なく落下に乱れはない。


 興山基地で主席の白は、指令室に置いた専用の豪華なダイニングチェアに座って目をつむっていた。今のところどこからも返事がない。彼としては、実際にそれなりの都市にミサイルを撃ち込んで被害を出さないと事態は動かないと見ていた。だから、あと1日の期限が過ぎたら、50㎞ほど離れた人口1万の田舎町に100キロトンの核を打ち込むつもりであった。


 旧C国軍の縁で情報を寄せてくれるものから、日本の“さきもり”が上空に位置についたという情報はあるが、その他のこの基地への攻撃の情報は入っていない。“さきもり”は厄介ではあるがロフテッド軌道を選ばなければ、千㎞以内程度の距離の都市を狙ったミサイルの迎撃は難しいだろう。


「白主席殿、なにか来ます!」レーダー係り士官が叫ぶ。

「何か?何かとは何だ?そして方向は?」

「なにかの集まりのようです。方向は真上です。距離50㎞、凄い速さです」


 それはそれから4秒で着弾した。

 司令官の白も、基地にいた250人余も、何も感じる暇がなかった。

「着弾です、ドンピシャですね。大体直径500mの範囲に広がったようです。地表は蒸発していますね」

 観測士官が冷静に言う言葉は月基地でも聞こえ、地表の映像は防衛省でも見えている。


「ひゃーあ、凄いなあ。丸くほこりか煙が舞い上がって中は白熱しているようだから、何も残っていないな。誘爆は起きなかったから良かったですね!」

 映像を見ていた三春専門研究員は、叫ぶように言った。


よろしかったら新連載の「異世界に根付くニホン文明」も読んでください。

2025年、12/20文章修正。

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