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俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
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ムラン大陸開発地における生活1

読んで頂いて有難うございます。


 西野みずきが、このミノリ市に引っ越してきたのは1年前で、中学1年生の入学の時期であった。ミノリ市は惑星ハウリンガの温帯に位置しており、地軸の傾きが9度ほどしかないので季節の変化は小さい。さらに公転周期は600日以上あるので、季節変動は気にせずムラン大陸の暦は日本に合わせている。


 西野一家にとってもハウリンガ世界への移住への決断は重いものであった。幸い自衛隊出身でこの世界の軍隊と言える防衛隊に移籍が決まっている父と、看護師として現役である母は職には困らない。

 またハウリンガのムラン大陸は基本的に日本内地と同じ扱いであり、教育制度は同じで大学までの教育設備は整えられることになっている。また、大学については内地へ入学は普通にできるので、みずきの教育には問題はない。


 父の良一はハウリンガ世界開発機構へ移籍することでも分るように、新しいことにチャレンジすることを好み、妻もそれに同調する性格である。彼らは、未知の地球とも言えるハウリンガ世界に魅了されたのだが、その映像や資料を漁っているうちにみずきも加わっていた。


 だから、自衛隊からの開発機構の警備隊への移籍も、みずきの教育に問題がないことが判ってからは西野家の家庭内ではすんなり決まった。みずき自身も父の赴任地であるミノリ町が市街地の建設途中にも関わらず市に変更され、小中高と学校も建設されることを知り、中学校への進学を機に移住することを希望した。


 単身にてハウリンガ世界で働いていた西野父の留守宅は、習志野駐屯地の官舎であり、母は駐屯地の病院に勤務していたが、移住に伴って新しく建設されたミノリ市の市民病院にすんなり職を得ている。みずきが日本で住んでいた町は、自衛隊の街であり特殊であると言える。


 そして、ハウリンガに移住する、という彼女に対しての学校の級友の態度は二分された。2割くらいは羨ましがり、5割は『物好きな』というあきれた態度で、3割はどちらでもないというもので、3割くらいは熱心に彼女の移住先に訪問を希望した。


 移住に先立って、みずきは母と共に、休暇で帰った父と共にまだ市政が布かれていないミノリ町に下見に来ている。その時点で、日本からミラン大陸に繋がるゲートは、大陸の中央部に近いムラン中央市のみにある。この都市は、将来の首都として真珠湖と名つけられた巨大な湖のほとりに建設されつつあり、他とは違って従来からムラン人の住居が無い地点に建設されている。


 日本側の朝霞駐屯地と、ムラン大陸側の中央市に、人と貨物の移転用にゲートは設置されていて、人はバスを使う。これはハウリンガ世界の方の気圧が20~30hPaほど高いため、日本側に強い風が通りぬけるのでバスを使うことにしているのだ。みずき達がゲートを潜った時は、日本側は午後3時であったが、中央市は朝の10時である。


 月日は日本に合わせているが、ハウリンガ世界の1日は24時間に15分足りないので、経度の違いによる時差に加えて、毎日15分ずつ地球とはずれていく。ハウリンガでは時計はその1日を24で割った時間に合わせて使っている。人間の感覚では、1日15分程度のずれは感じることはできないので日常に不都合はない。


 ムラン中央市と言ってもまだ建設中であるが、多数の大型ブロック構造の3階建ての建物が一部出来上がっており、多くは建設中であった。またその周辺に多数の商業ビル、アパートや一戸建てが建設中であり、多数の作業員が働いている。


 みずき達が住むミノリ町は中央市から、西に700㎞ほども移動した先であるが、そこまでは不定期に飛翔バスが飛んでいるので、僅か1時間半の行程である。その離陸の際には、定員20人のバスは建設中の中央市の周辺を周回してくれたので、みずきは夢中になって窓から外を覗いていた。


 バスが離陸したターミナルは500m四方のコンクリート床で、一方の市街地寄りに細長いターミナルビルが建っている。その位置は100㎞×200㎞の巨大な真珠湖から500mほど離れた位置で、市街地はそこに中心として概ね10㎞四方の範囲が開発されている。


 その範囲では道路が完成して街区のブロックに分かれており、湖の周辺3km四方程度はコンクリートブロックの3階建ての低層ではあるが、商業ビルや事務所ビルが立ち並ぶ市街地になっている。その外側はスーパーマーケットなどのような大規模な平屋の建物群とアパートのような建物群があり、そのまた外側は一戸建て住宅が立ち並んでいる。


 一戸建ては見た感じ1万戸ほども並んでおり相当な規模の街になるようだ。その周辺には多数のトラックや貨物飛翔艇に加えて様々な種類の重機が動いていて、作業員も数千人が働いているのが見える。その中央市周辺は灌木の生える草原であり、南側数十㎞先には巨大な山地が見えている。


 そこから幅が100mほどもある川が真珠湖に流れ込んでおり、西と東側も同じく森林や草原が広がっているが同様に数十㎞先に山地がかすんで見える。北側約300㎞で海になるが見通せず、その方向には規模の小さい山地となだらかな丘が連なっている。


 そして、開発している市域を外れた全周囲ではほこりをたてて重機が動いているので、農場を開発しているのだろう。、飛翔機から見下ろす日本の景色は、山と海と町と狭い中にごちゃごちゃ入り組んでいる。それに慣れているみずきにとっては、ここは全く様相が異なる大規模で大味な大地である。


 その意味で、湖の広大な湖面と緑に包まれた遥かにかすんで見える大地は、このような世界もあると言う意味で、みずきにとっては極めて新鮮であった。そして、遠くに見える山地には濃いマナによって魔獣化している多数の魔獣が住んでいる危険な場所であるのだ。


 中央市を離れて1時間半の、高度1千mのミノリ町までのフライトはそれほど見栄えのするものではなかった。今は正午前であり、途中に多くの山地が森に湖、川が眼下に見えたが、地形は全体になだらかであり、人の手が入っているのは2ヵ所建設途中の街が遠目に見えたのみである。また途中で、2回ほど雨が降っている地域を通過するなど移動距離の大きさが実感できる。


「みずき、ムラン大陸は特に日本に比べたら地形がなだらかだろう?」

 前部の座席で、母と並んで座って話していた父の良一が話かけてくる。

「ええ、そうねえ。緑に包まれてはいるけど、単調ではあるわね」


「でも、地形が単調ということは開発するのは楽だし、坂も少なくて暮らしやすいということだよ。ミノリ町はほとんど平らだから全域で自転車によって便利に移動できる。父さんもプライベートでは移動は自転車だ。

 それに、知っての通りハウリンガは地軸の傾きが小さいので、気象の変化は小さい。年間は632日で長いけど夏の気温は平均20度強、最高は30度弱で、冬は平均15度位で最低が5度程度だ。また雨は大体年間1800㎜位のようだけど、あまりばらつきがなく、年間を通じて満遍なく降るよ。


 だから、季節による植生の変化も小さいから、地球の熱帯で年間を通じて植生の変化が少ないのとよく似ている。だから、季節変化に慣れている日本人には、変化が無くてつまらないかも知れない。ただ、気候は穏やかで激しい気性もないので、暮らしやすいことはたしかだよ。

 天気の変化はそのように少ないので、予報はまだデータの蓄積は少ないにも関わらずよく当たるよ」


「ふーん。マイルドな世界なのね。でも魔法!魔法があるんでしょ?」

「ああ、ハウリンガはマナが濃いからね。意力増幅器は買ってあげるから、訓練を1ヶ月ほどすれば使えるよ。だけど、今回の滞在は2日だけだから、ちょっと習うのは時間的に無理だけどな」


「父さんは使えているの?」

「ああ。隊では義務だからな。身体強化は重宝しているけど、他の魔法は火付けと、風を起こすのと200gくらいの物を動かす程度だ。でも火付けは余り意味がないものの、風を起こすのは作業の時に汗を引かすのに便利だし、物を引き寄せるのは便利だぞ。それに、なにより手が届かないところのもの動かすのに便利だ」


「余りさえないわね。ファイアボールとか、ウオーターボール、エアカッターとかは使えないの?」

「うん、日本人ではっきりそのような魔法を使える者は滅多にいないぞ。ジャーラル帝国でも100人に1人くらいしか魔法使いはいないと言うよ。大体、魔獣との戦いとなれば、はっきり言って機関砲や小型ミサイルなんかの方が絶対に強いし確実だからな。任務でそんな魔法を使おうなんどとは誰も思わないよ。

 でも、ハウリンガの魔法使いには相当強力な魔獣を退治できる者がいると言うね、また、ムラン大陸に来た日本人の間で魔法を競う大会があちこちで開かれているよ。だから、子供は特に熱心に練習しているようだね。多分、ミノリ町でももうすぐ魔法の大会が開かれるだろうし、全ムラン大陸の大会も開かれるだろうね」


「ううん、楽しみよ。私も絶対に魔法を覚えるわ」

 みずきが言うのには母の恵子も同調する。

「私も覚えるわ、患者に風を送ったり、手の届かないところでなにかのケアをしたりというのに便利らしいわ。特に外科の先生なんかは手術で使っている人がいるわよ」


 そのような会話の内に彼らはミノリ町に到着した。ミノリ町の場合も5㎞四方程度の道路網が出来つつあるが、町の中心部に飛翔艇のターミナルがあって、中央市と同様に市街地の建物の建設、周辺の平屋の商業建屋、アパート群にその外側の一戸建てが広がっている。


 湖岸に建設されていた中央市と違って、ミノリ町の元は洞窟住居の街であったので大きな山地を背負って、大きな河岸に位置している。そして、大規模な平原が周囲に広がっていて、農場が開発されている点は同様であるが、20㎞の先に海がはっきり見える点は異なっている。


「ここが、ミノリ町だよ。もうすぐ市になることになっている。農業とニッケルの採掘の中心になる予定だけど、あっちに見える海辺に漁業基地が出来ているから、海産物は豊富に手に入るよ。

 見ての通り広々しているから、町の建物は原則として3階建て以下だし、一戸建ては基本平屋だよ。2年後には人口は7万人位になる予定だし、将来的には30万人を目指しているけど、それはどうかなと思っている」

 父が窓の外を指しながらみずきと母に説明して、さらに続ける。


「そしてね。買った家はあの辺だよ。町の中心部から2㎞位だから中学校も高校も近いし、スーパーも近くだし、自転車を使えば行き来は簡単で便利だよ」

 父が続けて説明するが、西野家はミノリ町に家を買ったのだ。とは言え、まだ建設中であるが、こっちに引っ越してくるときには出来上がっている予定だ。


 乗ってきた飛翔バスが、中央市と同様に町の周辺を飛び回った後にターミナルに下りる。一家は、すぐ横にあるホテルにチェックインして荷物を部屋に置く。ホテルは中庭を囲む簡素な3階建てのもので、シングルとツインの2部屋を予約している。みずきはシングルであるが、久しぶりに会った父母の部屋がツインであるのは当然だろう。そこはみずきも察している。


 その後一家は、レンタル自転車で建設中の市内を見て回り、最終的に建設中の自分たちの家を見に行った。町のなかの主要街路は、2車線道路に広めの路肩と自転車道に歩道と植樹帯をとった極めて広いもので、それに繋がる路地も両側に歩道をとった広いものである。

 途中に建設中の中学校、高校も見たが、広々とした敷地に大きなグランウンドと2階建ての長い校舎が配置されている。植樹が生えそろえば、緑に包まれた心地よい空間になるだろう。


 さらには、途中に大きなスーパーマーケットがあって人が群がっている。スーパーの構造は日本と同様な平屋で長方形の大きな建物であり、駐車場が付属している。だが、日本と違うのは車があまり止まっておらず、大量の自転車が駐輪していることだ。またその自転車も、荷台が大きく拡張されていたり、後部にリヤカーのような荷車を接続している物が多い。


 そして、髪の色が茶色で顔が浅黒く、彫りの深い明らかに日本人ではない人々が半分くらいいるようだ。

「お父さん、あの人たちって、ムラン人なの?」


「ああ、そうだよ。彼らは中々洞窟から出て来てくれなくてね。でも、我々の隊が周りにいた魔獣を退治して安全にしたのを若い人が率先して確認くれて、ようやくほとんどの人が外に出てくれるようになったんだ。かれらにスーパーでの買い物は人気だよ」


「でも、顔つきは髪を除けば少しアメリカインディアンみたいね。少し日本人より背が高いようだけど、体つきは変わらないようね。でも、女の人は皆、色鮮やかなブラウスとフレアースカートは着ていて、これはまあわかるけど、男の人はまた何でジャージなのよ。それも青、ピンク、白、赤、緑など原色ばかり!」これは母恵子の言葉だ。


「ああ、最初に贈った服を含めた資材などの中にああいう服が多かったんだ。どうも、ムラン人は色にこだわりがあるみたいだね。長く薄暗い洞窟に住んでいて、明るいところに出てきたのもあるのか、原色の鮮やかな服が好きみたいだよ。

 でもね、ムラン人は厳しい生活環境もあったのだと思うけど、知能は高いから、教えればいろんなことをすぐ覚える。半分くらいの人は、もう日本語を大体しゃべれるよ。また、少なくともこの地区に住んでいるムラン人は、水に恵まれていたこともあって、清潔好きで付き合いやすい人だよ」


 父が応じて言うのに母が再度聞く。

「だけど、スーパーで買い物をしているということは日本円を持っているわけね」


「ああ、大人の半分くらいはこっちの日本企業で働いているから、それなりに収入がある。それに、洞窟から出てきたムラン人には家が無償で供与されているし、時限だけど生活資金が与えられている。

 まあ、最新の調査ではムラン大陸のムラン人の人口は182万人で、そのうちの1/3については日本が開発している町に合流している。だから、ムラン大陸という資産に比べれば、全体としてはそれほど日本政府にとっては負担は大きくない。


 ムラン人の子供は今は仮設の校舎で学校に通っているし、大人も言葉と四則演算を学ぶ程度の学習をして貰っている。その後は作っている学校に合流するけれどね。その言語は無論日本語だよ。ムラン語もあるけど、日本の文明を持ち込む限りは日本語でないと都合が悪いからね。勿論、ムラン語もきちんと残しはするけど。

 ムラン人はまだ貨幣は使っておらず物々交換段階だったから、日本円を持ち込むのは却って楽だったようだね。彼らも洞窟に住んで、移動がほとんどできなくて、さらに常に食料が不足する生活から、明るい外に自由に出ることが出来るようになった。また、いろんな服を選べて、食べるのに不自由するどころか、好みのものを食べることが出来る生活を楽しんでいるよ」


 やがて一家は、自宅が建てられている場所に到着した。歩道のある広い一車線の路地に面して、20m×30mの宅地の左に寄った位置に、広さ200㎡の平屋の家がすでに建っている。父が手で家を示して言う。

「ここだよ。まだ、設備工事が終わっていないけど、皆が越してくるときには出来ているよ」


「わあー、広い!いいわねえ」

 自転車を置いて、宅地に駆け込んでいくみずきを見送って、恵子が夫に言う。

「広いわねえ、それはいいけど庭の手入れに頭が痛いわ」


「いや、あっちの広い方はマリンクルという果樹の木を植えるから下生えはないよ。他のエリアは電動の草刈り機で手入れが楽にできるように工夫すれば大丈夫さ」

「まあ、休日のあなたの活躍を期待しているわ」


よろしかったら並行して連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」も読んでください。

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2025年、12/20文章修正。

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