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俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
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アジラン帝国からの解放5

読んで頂いてありがとうございます。

  その日のアジラン帝国軍勢のアーカブ広場付近での全滅は、旧ミザイガ王国におけるターニングポイントになった。とは言っても、それより前からすでに夜の世界はアジラン帝国の支配するところではなく、昼間でもアジラン領の警察、帝国軍は少人数では出歩けなくなっていた。


 目端の利く商人や領に勤める役人は、すでに本国に家族を逃がしており、本人も機会をみつけて逃げ出していた。しかし、この時期に至っては、すでにドナー率いる王国復興部隊が港を抑えていて、アジラン人が財産を持って本国に帰るのを妨げていた。

 これは一見不当であるが、彼らが持ち帰ろうとしているのは、大抵の場合不当にミザイガの民から奪って築いた富であるので、ドナーなどの理屈では当然の措置である。


 新生ミザイガ王国の建国式は、その後約50日であり、その時点ではすでに国内のアジラン帝国の軍の武装解除は済ませており、アジラン人の民間人と共に監視下においていたが、彼らをどうするかは大きな問題であった。


 これは、ミザイガ王国にある船では、国内にいるアジランの官民約6万人を本国に帰すには到底足りない。さらに、新生ミザイガ王国としては、国内にある帝国の資産はすべて接収するつもりであったためだ。


 だから敵国になったアジラン帝国に、その国民を乗せて船を返すなどとんでもない話である。そもそも、アジラン帝国は旧王国の宝物は全て本国に持ち帰り、占領後も過酷な税という形で旧王国の資産と生産物を搾り取ってきた。


 だから、船を含めて国内に残っている文物程度の接収では全く足りないのだ。だから、アジラン人は当分の間、王国内に留め置かれることになった。それは、王国の独立が確定して落ち着き、ニホンの仲介でアジラン帝国と交渉文書を交わして賠償金と引き換えに帰すまでである。


 しかし、只閉じ込めておくのもばからしいので、自分の食い扶持は稼げということで王国はアジラン人を労働に駆り出している。地球だと問題があるかもしれないが、これはハウリンガ世界では極めてまっとうな措置である。

 ただ、新生王国政府に資産がないことは事実であり、その意味では、この状態から始める必要のある新生ミザイガ王国の今後は、経済的には明るいものではない。


 しかし、建国式に集まった人々の表情は、宰相を務めることが決まっているドナーが思ったより明るかった。それは、一つにはミザイガ王国の地が豊かであることがあるだろう、地形は平坦で雨に恵まれて豊かな実りの地である上に、人々は農作において十分な知識を持って賢く耕作している。


 その意味で、少なくとも食料に困ることはない。その上に、元々の生活レベルが中世であり、気候も穏やかで地軸の傾きが小さいために四季の変化も少ない。このために、食うことに困らなければ、服がぼろだろうが持っているものが貧しかろうが、気にしなければ余り困ることはないのだ。


 それに、アジラン帝国という悪辣な支配者の圧政から逃れることができたのだ。そして穏やかで自民族の王朝であるミザイガ王国の治世に戻れると考えれば明るい表情になるのも当然である。その点でドナーは、自分がこうなれば良いと楽観的に考えた通りであったことで胸をなでおろしている。


 建国祭において、当然ながらマーマリア王女は正式に女王として王座に就いた。そして、女王を支える宰相としてドナーが就任した他、王国復興のために働いてきた者達、さらには彼女を支えてきた者達の10名ほどが王国政府の幹部として就任した。長く彼女を守ってきた女騎士ソーサスは本人の希望もあるが、変わらず女王の護衛として働くことになるが当然地位は上がる。


 旧宮殿であり、その後ミザイガ領主の領主館として使われていた、20haほどもある宮殿の中の広大な広場に集まった5千人を超える人々の前に、まず新宰相のドナーが新生ミザイガ王国の建国を宣言する。


「新生ミザイガ王国臣民の諸君、私は新政府の宰相を務めさせて頂くイバン・マレ・ドナーだ。私はかつての王国において王国政府の財務官を務めさせて頂いていた者であり、父は内務卿であった。そして、私はこの度の王国復興部隊の責任者を務めていた。

 そして、皆も知っての通り我々はこの地におけるアジラン帝国の支配を打ち破ることに成功した。そのこともあって、新政府の政治を司ることを女王陛下に命じられたのだ。


 さて、王国再建に当たっては諸君に認識して頂きたいことがいくつかある。一つは今回の建国は我々も含めてミザイガの民の力のみでは決して達成できなかったことだ。勿論この地のアジラン帝国の勢力を打ち倒したのは武器を取って戦った勇敢な我々の同志であって、そのことは確かであり誇りに思ってよい。

 しかし、我々がアジラン帝国に敗れたのは、基本的には武器の性能の差であり、一方で我々が今回彼らに打ち勝てたのは、同じく手に入れることのできた武器が優秀であったからだ。つまり、ニホンという、我々にその武器を与えてくれた存在なしには今回の建国はなかったということだ。その日本の使者は今日の建国を祝ってきてくれているので、後で話をして頂くことになっている。


 2つ目は、残念ながら今の我々は貧しいということだ。王国時代には我々はそれ程貧しくはなかった。しかし、我々を征服したアジラン帝国は過酷な支配者であった。まずは王国政府の所有する宝物は無論、個人の持つ金目のものを全て取りあげた上に、毎年の税はかろうじて我々が食えるものしか残らないほどのものであった。

 だから、我々にはほとんど新しいものを買う余裕はなく、特に服に至っては殆どのものが襤褸しか纏えなかった。ただ幸いにわがミザイガの地は豊かな土地であり、普通にやれば食うには困らない。さらに、今年の実りは収穫されてまだアジラン帝国に持っていかれていないので、食料に不足することはないだろう。


 ただ、今現在貧しいことは事実であり、今後数年は物が不足する貧しい時代が続くことになる。しかし、諸君考えてほしい。我々は、我々を奴隷のごとく扱い過酷な圧政を敷いたアジラン帝国、これを自分たちの手で打ち負かしたのだ。

 今後、道を歩くのに暴力に怯える必要はなく、不当に家に押し込まれて人を連れ去られ、物を強奪されることに怯える必要はないのだ。そして、アジラン帝国はすでニホンまたはジャーラル帝国というより強い存在に向き合って、我々にかまっている余裕は到底ない。


 だから、彼らの脅威に向き合う必要はない。私は旧ミザイガ王国の国政を担う一人であった。しかし、私も一員であった当時の王国政府はアジラン帝国の脅威に対処することが出来なかった。そのことは、わが国のみならず隣国や周辺国であるシャーイ、ジルグスラ、カザフシンなども同様であり、いずれも同じような過酷な圧政に苦しんだ。


 とは言え、防衛に失敗してそのことで国民の皆には耐えがたい苦痛を味わせたことは、国の指導者として率直に謝罪したい。そして、ここ数年は苦しい状況であるとしても今後は皆が笑顔で暮らせる国にしていくことを誓う。

 その点は、今日新たに女王陛下に就かれたマーマリア・カインス・ミザイガ陛下も同じお考えであると伺っている。そして、そのように良い国にするためには、国民諸君の協力・働きが不可欠である。どうか、新生ミザイガ王国のために今後の協力を願いたい」


 その新宰相の言葉には、会場を埋めた大群衆の喝さいを浴びた。20年の圧政に苦しんだ民にとっては、これからの王政が良いものであることを信じたい気持ちが強いのだ。また、今日集まっている者達は、王政復興のための活動の一翼を担ったもの達が大半であるため、自分達で今日の日を迎えたという高揚感があった。


 その後、日本国の使者であるセイジ・カマタ氏が壇上に立った。ちなみに、このような大規模な会場でのスピーチには、拡声の魔法具を使うことになっていて、それを使うとその大きな会場の隅々まで声が届く。


「ご紹介にあずかりました、ニホン国のハウリンガ開発機構代表のセイジ・カマタと申します。

 マーマリア・カインス・ミザイガ女王陛下、またここにお集まりの皆さん、本日は新生ミザイガ王国の建国、誠におめでとうございます。

 お招きありがとうございます。私どもの国ニホンはチキュウという異世界の一つの国であります。人口は1億2千万人に達しますが、人口の割に面積は狭く、このミザイガ王国の2倍足らずです。


 私共は今現在、この世界の南半球のムラン大陸の開発を進めております。その中で調査するうちにアジラン帝国のことを知り、その脅威を放置できないという結論を下しました。このミザイガ王国もアジラン大国と同じシンバ大陸に位置していますが、アジラン帝国はすでに32の国と領を支配下に置いており、このミザイガ王国が経験したと同様な圧政を行っています。

 彼らは、占領した国や地方を支配下に置くと、その人々を奴隷化して生きて行くぎりぎりまでの税を取り上げます。彼らの支配する帝国の人口は1億2千万余りで、アジラン本国人は4千万人程度であり、残りの征服された国々の8千万人は奴隷扱いです。


 一方で、アジラン帝国本国の人々のすべてが、豊かな生活をしているかと言えばそうではなく、厳格な身分制度に縛られていて、半数は農奴として半ば奴隷の扱いです。

 つまり、アジラン帝国人の半数も、帝国に支配されていた皆さんと大差のない生活をしており、少数の上層貴族を除いてはその他の多くも不自由で息苦しい生活をしています。つまり、アジラン帝国という存在は極めて効率が悪く、人々の進歩を妨げて人を苦しめるシステムであると私共は判断し、これを解体する決定をしました。


 我々は、このミザイガ王国の対する武器の援助と同等のことを、すでに15ヵ国において行っています。そして、アジラン帝国そのものについては、すでにミザイガ王国など征服地へ向かう軍船及び武器を運搬する船は足止めをしていますので、ここと同様にアジラン帝国軍は補給が続かなくて征服地ではその統制に苦労しています。

 そうした活動の結果として、独立を回復した国はミザイガ王国が3番目でありまして、多分100日以内には5ヶ国程度が続くと考えています。そして先ほど言ったように、私共はあなた方ミザイガ王国を最初に援助した国5つの1つに選びましたが、それにはいくつかの条件がありました。


 まずは、比較的最近に帝国の支配下に入った国であって、それほど帝国の支配の傷が重くないことがあります。さらには、占領された国が、国民のことを考えた穏やかな治世の国であったことも条件でした。つまり、独立しても国民の多数がアジラン帝国の支配と大差がない場合は意味がありませんからね。

 さらに、独立した場合には、少なくとも食料の自給が出来ることも条件でした。我々とて際限なく援助できるわけではありませんから。


 そのように、あなた方の復興した国であるミザイガ王国は恵まれた条件の国です。しかし、さきほど宰相閣下の言われたように、今現在あなた方の国は比較的貧しいことは事実です。でも、実は早期に豊かになれる条件は整っているのですよ。

 人口の割に広大な国土、肥沃な大地と豊かな降水量と水資源に木材、鉄、石炭さらにその他の様々な鉱物資源も豊かです。でも、あなた方はアジラン帝国に支配される前も、その恵まれた資源を有効に利用していたとは言えませんでした。


 その点では、私共はそうした資源をより良く利用する知識を持っていますので、私共はあなた方をその知識を使う方法をお伝えすることで手助けしたいと思っています。でもお断りしておきますが、私どもはアジラン帝国と違って、あなた方の国を決して支配するようなことはしません。


 それは私どもの国の憲法という国の最も基本的な決まりで固く禁じられています。私共はあなた方と国交を結んで、互いに行き来をして仲良くする間柄になりたいのです。そして、あなた方も豊かになり様々なものを生みだして、私たちと交流すると共に物の売り買いをするような仲になりたいと思っています。

 そしてこの国の豊かな資源を使って、皆さんが豊かになるための手助けをします。また、アジラン帝国という国は残りますので、そのような国からミザイガ王国が再度侵略されないように、通商とともに防衛も引き受ける形の条約を結ぶつもりです」


 このカマタの話にも大きな拍手があったが、今一つ人々はよく彼の話が理解できていないようであった。最後に、皆が待ち望んでいた新女王の建国の辞である。


「国民の皆さん。私が新たに新生ミザイガ王国の女王の座に就いた、マーマリア・カインス・ミザイガです。この国がアジラン帝国に侵略された時には私は5歳でしたが、わずかな警護の者に守られて国を脱出して隠れ住んできました。私以外の直属の王族は、残念ながら全員がアジラン帝国の兵に殺されました。

 そして、私がこの国から逃げ出した後、国民の皆さんがアジランの過酷な支配の元で大変な苦労をされたこと、更に多くの方々が財産を奪われ、傷つけられ殺されたことも聞いております。そして、国を奪われ皆さんがそのような目にあったことは、王族の一人として私にも責任があることは自覚しております。


 でも、私たちはこうしてやり直す機会を与えられました。私たちは沢山の物をアジラン帝国に奪われましたし、沢山の人たちが殺されました。とは言え、ここにいる私たちは新しい国、誰もが幸福な国を目指して努力することが許されたのです。

 私は、逃げていた間に私なりに必死に様々なことを学んできました。そしてそれを生かして、さらに周りの臣民の助けを借りて、皆さんにとって良い国を目指して懸命の努力することを誓います。でも、そのような国を作るためには国民の皆さんの心からの協力が欠かせません。どうか皆さんと共に幸せな国をつくるために一緒に頑張っていきましょう。


 ここで、私達は嘗ての王国に比べて有利な点があります。皆さんはさきほどニホンの使者であるカマタ氏の話を聞いたでしょう?私は彼と昨夜ゆっくり話す機会がありました。彼らの国ニホンは、私共と比べものにならないほど多くの点で進んでおり、進んだ知恵を持っています。

 ただ、忘れてはならないのは、彼らが必ずしも私たちに比べて大幅に賢いわけではなく、より多くの進んだ知識を持って、それを使って進んだ社会を形成しているのです。だから私たちが、その進んだ知識を学び、それを使って実践していけば同じレベルに達することは可能です。


 そして、彼らはその知識を進んで与えてくれるというのです。だから私たちがその知識を使って、私たちの国の恵まれている資源を賢く使えば、私たちは今の自分達では想像がつかないほど豊かな生活を送れるようになります。

 私共の生まれたばかりの王国政府は、このようにニホンの助力を得て、国を豊かにして、国民の皆さんが豊かで幸せな生活ができるようにしたいと思っています。どうか、王国政府への支持と協力をお願いします」


 女王の演説の後の拍手と歓声は今までと比べ物にならないほどであり、国民の新体制への期待の大きさを表していた。実のところ女王は、昨夜宰相と共にカマタと懇談の場を持っている。王女であった彼女は、王都に出て来てからは、既にハウリンガ開発機構の接触を受けていて、集中的なレクチャーを受けていた。


 日本政府としては、アジラン帝国を解体する決意をした以上は、分離独立した国々を経済的、社会的にそれなりのレベルに持っていくというのは既定の路線であった。そうした国々の安全保障の面は、アジラン帝国のテクノロジーのレベルであれば当分問題はないし、特段の費用も要しないと判断している。


 そして、分離独立した国に関して一番留意すべきは、独立した国の覇権を争っての内乱であるが、その点は国ごとにそれなりに慎重に調査がなされ、武器を援助する国が決められたのだ。また、独立した後に食糧難などの理由で莫大な援助が必要になるのは困る訳で、そうした国は後回しになる。


 武器も援助については、旧式の武器を大量生産したのでそれほどの額にはなっていない。ミザイガ王国の場合では諸々を入れて200億円程度なので、国際的な援助としてはそれほどの負担ではなかった。

 そして独立後もある程度の援助は覚悟をしているが、無償援助としては基本的に資源探査に専門家派遣とその付帯する機材を考えている。プロジェクト機材などについては基本的に無利子の借款によるが、返済は資源によるバーターを考えている。


 ミザイガ王国は、農作物については近代農法を持ち込めば大幅な輸出が可能で、荒い調査によっても金・銀・銅、その他のレアメタルの埋蔵量が大きいので相当な借款が可能とみられている。だから、大量の機材の輸入が可能なので近代化は急速に進むと見られている。


よろしかったら並行して連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」も読んでください。

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2025年、12/20文章修正。

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